ケヴィン・ケリーが語る「本と読書と出版」 その3

■本は固定化されていたからこそ流動化のための工夫を発達させた、先駆的存在

マッシュアップの手法は実際のところ、文章のリテラシーからきている。
(中略)
ジョージ・ルーカスの作品『スターウォーズ』は、それまでの映画撮影術というより、本や絵画に近い手法を取り込んでいる。(『<インターネットの次>に来るもの』 第8章 Remixing )

1.リミクッス

インターネットは世界最大のコピーマシンだ。(ケヴィン・ケリーが語る「本と読書と出版」 その2 http://society-zero.com/chienotane/archives/7781

だからネットっていうやつはけしからんさの、という声が出版業界から聞こえてきそうだ。

それに対して、でもね、とケヴィン・ケリーはたしなめる。「マッシュアップの手法は実際のところ、文章のリテラシーからきている」んだよ。

マッシュアップはDJの分野、もともとは2つ以上の曲をリミックスして1つに合成するという意味の音楽用語。転じて、Webサービスを別のサービスと組み合わせて新しいサービスを生み出す手法のことを指すようになっている。

とりわけAPIを公開されることが一般化されようになったことで、ネット世界の「マッシュアップ」は加速している。たとえばGoogleマップのAPIが公開されたことによって、それを利用したマッシュアップ・サービスが次々に登場して話題を集めている。

作品やコンテンツがデジタル化される意味は、このマッシュアップ、もっと広い意味でRemix(リミックス)の可能性を大きく広げるところにある。リミックスこそ文化をより豊饒なものに、創作活動の「カンブリア爆発」を誘発するための、重要なキーポイントだ。

 

2.文章のリテラシーと「ハイパーリンクとタグ」

出版業界がけしからんとまゆを顰めるマッシュアップが、よりによって文章のリテラシーからきている、とはどういうことだろう。

著作権の旗を大きくふりかざす出版人も、まさか「ことば」にまで著作権を主張はしない。作品は「クローズ(著作権対象故コピーを許さない)」でも、「ことば」は「オープン(著作権「非」対象故コピー大いに結構)」だ。

(作家は)辞書というすでに確立された言葉の有限のデータベースに入り込んで、見つかった言葉を再構築し、だれも知らなったような記事や小説や詩に組み替えていく。(『<インターネットの次>に来るもの』 第8章 Remixing )

つまり小説家とは優れたマッシュアッパーに与えられる称号だ、といえる。

その妙味は、言葉の新しい組み合わせにある。新しい言葉を発明しなくてはならない場合はほとんどない。どんな偉大な作家でも、以前に使われて一般に共有された表現をリミックスすることで魔法をかけるのだ。(強調は筆者)(『<インターネットの次>に来るもの』 第8章 Remixing )

ここで経済学者に登場願おう。経済成長はリミックスから生まれる。リミックスは文化をより豊饒なものにするだけでない。「経済成長」の重要なエンジンでもあるのだ。

ポール・マーローは経済成長理論が専門のニューヨーク大学の経済学者だが、本当の持続的な経済成長は新しい資源から生まれるのではなく、すでに存在する資源を再構成することでその価値はあがり、それで達成されるのだと言う。(『<インターネットの次>に来るもの』 第8章 Remixing )

ブライアン・アーサーはサンタフェ研究所デクノロジーの成長力学を専門にする経済学者だが、すべての新しいテクノロジーは、既存のテクノロジーの組み合わせから生まれると言っている。

文章にもどろう。

「以前に使われて一般に共有された表現をリミックスする」過程が、「文章のリテラシー」。

具体的には、

・専門家のことばの引用
・素敵な言い回しを言い換える
・他で見つけた詳細な説明を文に重ねる
・ある作品の構成をそのまま拝借する
・いろいろな枠組みをまるで慣用句のように使いこなす

これって、広い意味で「ページの上で言葉をカット&ペーストする」ことだよね、と、ニヤリと笑ってケリーはいいたそうだ。そしてさらに意表をつく。

Web上で行われているデジタル化の波に、「クローズとオープンのバランス」の見直しという観点から、本もかかわっていくべきだが、実は、「クローズとオープンのバランス」を見直すためのツールの工夫に余念がなかったのも、本なのだ、という斬新な指摘をしてくれる。

本は固定化され、クローズであったからこそ、流動化のための工夫を発達させた、実は先駆的存在だったのだ。

まず、テキストがよりリミックスされやすいよう、より使いやすいようなされたイノベーションとそのテクニック、本の世界の先人たちの工夫とはつぎのようなものだ。

・目次
・ページ番号
・引用符
・索引
・脚注
・出典一覧

ことばは引用されたがっている(ちえのたね|詩想舎 | http://society-zero.com/chienotane/ )」。それを実現するためのこれらの工夫の念頭にあったもの発想こそは、デジタル世界の「ハイパーリンクとタグ」、そのものだと言えないか。

そのうえで映画の分野で、本の世界の先人たちの工夫をデジタル世界に応用した作品こそ、『スターウォーズ』だとケリーはいう。

 

3.レイヤー構造採用で作られた『スターウォーズ』

クローズなものをオープンにして、リミックスし文化の豊饒を獲得するために、デジタル化以前の時代にあって先人たちは様々な工夫をしてきた。このアイデアはデジタル世界にも持ち込まれるべきだ。映画にも、そして無論、本にも。そうすると映画と本の融合すら夢ではない。

まず、『スターウォーズ』の製作手法、レイヤーの採用について。ジョージ・ルーカスは複数のレイヤーを準備して、デジタル素材を部品としてリミックスし、重ね塗りしていった。まるで常に書き直していく作家のように

ペースやタイミングを正確なものにするために、ルーカスは最初に粗いモックアップを使って撮影し、それに詳細な部分付けをしたり解像度を上げたりして仕上げていった。ライトセーバーや他の映像効果は、デジタル映像でレイヤーごとに重ねられていった。

実際に現在のハリウッドで予算をかけて作られたアクション映画は、非常にたくさんのレイヤーで細かな部分を補っているのでそれは動く写真というより動く絵画に近いものになっている。(『<インターネットの次>に来るもの』 第8章 Remixing )

しかしケヴィン・ケリーが描く未来はここに留まらない。

文章のリテラシーとして行われていることについては、それに対応して機能やツールが準備されているのが現代だ。そのおかげで、

アイデアを切り貼りし、それらに自分の考えを注釈として付け、似たアイデアにリンクを張り、集められた多くの文章を検索し、主題をサッと閲覧し、文章の流れを変え、内容を磨き、アイデアをリミックスし、専門家の意見を引用し、好きなアーティストのデータを見本にする、(『<インターネットの次>に来るもの』 第8章 Remixing )

といったことが作家でなくても、一般の人でもできるようになっている。

映像にこれとパラレルなことができるはずだ。文章を構造解析して操作するように、映画作りも動画を簡単に構文解釈して操作できる未来はすぐそこにやってくるだろう。つまり、

映画に出てくるどんな対象やコマやシーンにも、他のもの(映像の中の小道具など(筆者註))やコマや映像クリップを注として付けられるようになるはずだ。映画のビジュアル索引を使って検索したり、ビジュアル目次を活用したり、全体の映像のビジュアルあらすじを抽出したりできるようにならなくてはいけない。(『<インターネットの次>に来るもの』 第8章 Remixing )

この実現にはAIの活用が鍵にきっとなるだろう。(AIに関しては、「第2章 Cognifying 」に詳しい記述がある)

そしてその暁には(出版社側がそのころまでに、リミックスに理解を示してくれていることが前提だが)こういう時代がやってくるに違いない。

(そのとき私は)映画『カサブランカ』の中で誰かが被っているトルコ帽について参照したくなるかもしれない。そして文章上でトルコ帽の参考文献にリンクを張るのと同じくらい簡単に、動画の中の帽子にリンクを張れ、しかもその帽子のイメージはリンクされたままコマを横断して動いてくだろう。さらにはトルコ帽に関するさまざまな映像を、その映画のトルコ帽のシーンに注釈として付けることもできる。(『<インターネットの次>に来るもの』 第8章 Remixing )


(フェズ (帽子) - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A7%E3%82%BA_(%E5%B8%BD%E5%AD%90))


(このシリーズは『<インターネットの次>に来るもの(翻訳:服部 桂)』の中でケヴィン・ケリーが「本・読書・出版」について語っている部分をハイライトしている)