W3C Publishing Summit APL活動報告会から 【セミナー備忘録】

(個人用のメモです。議事録ではありません。とりわけ[ ]の部分はブログ記事筆者の挿入部分です。図画等は特に断りがなければ講演者のプレゼン資料を利用しています。)

◎本ブログ記事は、下記セミナーのうち前半を扱っています。つまり、human readable だけを考えていればよかった20世紀型出版から、machine readable にも目配りした、発想の転換を迫られる21世型出版への模索について。

■セミナー概要:Advanced Publishing Laboratory(APL)の活動報告会

●ご挨拶 吉井順一氏 APL運営委員会委員長(IDPF理事、講談社)
●TPAC出版サミット報告 フローリアン・リボアル氏(W3C CSSWG Invited Expert   Skype経由で発表)【⇒プレゼン資料
●EPUB WG報告 金井剛志リーダー(ソニー)【⇒プレゼン資料

●Accessibility WG報告 村田真リーダー(慶應大学特任教授、JEPA CTO) 【⇒プレゼン資料
●日本語組版の要件(JLreq) WG報告 村田真氏(小林龍生リーダー)【⇒プレゼン資料
●LCP WG報告 三瓶徹リーダー【⇒プレゼン資料

日時:2017年12月8日(金)15:00-17:30
会場:飯田橋 研究社英語センター B2F 大会議室
主催:日本電子出版協会(JEPA)、後援:Advanced Publishing Laboratory

 

1.W3Cの年次総会とPublishing Summit そしてAPL

Webと関係なく過ごせる日は一日たりともない現代社会。PCからネット検索を、といった事だけ想起する人は、「地方は、老人は」というかもしれない。だが1989年、ティム・バーナーズ=リーがWorld Wide Webを考案した時には想像できなかったような広がりを、Web技術はその後見せた。たとえばTVと放送、自動車、機器の相互接続、決裁、セキュリティといった領域にまで。私たちの生活の隅々はすでにWeb技術に覆われている

だとすれば出版がWeb技術と無縁でいられるわけもない。

電子出版の規格であるEPUBはHTML、CSSなどWeb技術で構成されている。それだけではない。いまや、紙の組版さえも、HTML、CSSで行える

(学術出版のHTML5標準化とCSS組版――Scholarly HTMLとVivliostyle https://www.slideshare.net/shinyumurakami/html5cssscholarly-htmlvivliostyle )

ただWeb技術のICT世界と、「読む」という営為、出版という事業との間にはまだまだ大きな溝があるのも事実。その溝を埋めるべく、2017年2月、EPUBの規格策定を主導してきたIDPF(国際デジタル出版フォーラム)と、Webの盟主であるW3C(ワールドワイドウェブコンソーシアム)とが組織統合した。

この組織統合後初のW3Cの年次総会(=TPAC ※1)の期間(2017年11月6日~10日)中に、新体制下における初回のカンファレンスとして、Publishing Summitが11月9日~10日の二日間行われ、今後のデジタル出版に関する技術的課題が議論された。

※1:Technical Plenary / Advisory Committee Meetings

カンファレンスのキャッチは

How Web Technologies are Shaping Publishing Today, Tomorrow, and Beyond

だった。

・W3C Publishing Summit 2017 https://www.w3.org/publishing/events/summit2017.html#program

さて実は慶應義塾大学SFC研究所は、W3Cの共同運営者(※2)のひとり。そこが核となって、Advanced Publishing Laboratory(APL)は設立された。これは日本の出版業界と世界標準の技術群との間に橋を渡す試みである。

※2:W3Cは、ティム・バーナーズ=リーによって創設された、HTMLやXMLをはじめとするWWW(World Wide Web)で利用される様々な技術の標準化を推進する非営利団体。その運営は、日本の慶應義塾大学SFC研究所のほか、アメリカのMITコンピュータ科学・人工知能研究所 (CSAIL)、フランスの欧州情報処理数学研究コンソーシアム(ERCIM)、北京航空航天大学 (Beihang)が担当している。

2017年4月設立。代表者:村井 純(政策・メディア研究科委員長 / 環境情報学部教授)

・外部協力組織
(株)KADOKAWA
(株)講談社
(株)小学館
(株)集英社
(株)出版デジタル機構

・狙い:「世界に誇る品質の高い日本の出版技術の伝統と電子出版の融合を実現するためには、多角的分野の研究者とウェブ標準化団体「W3C」を通してバランスの取れた調査と議論を結集し、グローバル標準に提言してゆ」く。

・目的:「電子出版とウェブが一体化する新しい時代が本格的に始動する今、インターネットとウェブを活用した日本の出版の存在と役割、海外市場への認知度を向上し、文化を世界から孤立させないことも含め、EPUB促進のための議論、開発、実証を伴ったウェブの標準化を目指しながらメンテナンスを行なう。

また各種教育プログラムを遂行して未来の出版そのものを支える人材を育成し、加えて世界でも存在感のある日本のエンタテイメント資産のさらなる育成も目指す。」

 

2.W3C Publishing Summit 2017

・「出版」の原義を再考する

カンファレンスでの発表者、また発表のテーマは多岐にわたったが、通底する問題意識は「「出版」の原義を再考する」、ということだったように思われる。

たとえばオライリーはICTの技術が出版世界に変化を求めているいま、為すべきことは「出版とは何か」を改めて考え直すことだと言い、彼はそれを「人と知をつなぐ営為」だとした。

(パブリッシング@TPAC 2017 https://florian.rivoal.net/talks/pub-tpac-2017/#/2/4

そしてそのやり方は、対象となる出版コンテンツにより違って当たり前だ、とも。つまりオライリーの会社が扱っている技術書に即して考えると、そこでは、「本の頭から最後まで読み通す」という「読む」ではなく、必要な箇所を見つけに行くという形態の「読む」という作業が行われている。

だから、ひとつひとつの作品を閉じた単品として売る、というより、すべての作品が「必要な箇所を見つけに行く」先のアーカイブを構成しておればよく、ビジネスモデルとして「サブスクリプション・モデル」が適切だと考え、その方向へ舵を切っている、とした。

また技術書では「新しさ」の優先順位が高いことから、これまでのような「紙面のレイアウト(=読みやすさ)」の工夫に時間を割くのではなく、いかに早期に新しい情報を読者に届けるかを優先させた、編集・制作フローとルールを社内に構築することにした。

[大学教科書市場では追随者がいるようだ。
・米センゲージ、電子教科書読み放題サービス開始 https://www.facebook.com/shisousha/posts/392043231231837

[他のコンテンツ、たとえばポップアップ(飛びだす)絵本や画像を中心にした図鑑であると、むしろEPUBにすらこだわらず、ICT技術のもうひとつの領域、VR/AR技術を出版に取り込もうとする動きもあるようだ。(Digital Publishers Find Shared Purpose at W3C Publishing Summit https://www.publishersweekly.com/pw/by-topic/industry-news/trade-shows-events/article/75372-digital-publishers-find-shared-purpose-at-w3c-publishing-summit.html

これなどは「やり方は、出版コンテンツにより違って当たり前」の最たるものだろう。]

(Anna Paschenko | popup | Pinterest https://www.pinterest.jp/pin/611785930600088786/
【追記】
“飛び出し、音が出る表紙&論文”でAR(拡張現実)をご体感ください! DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー http://www.dhbr.net/articles/-/5123
Harvard Business Review AR Experience from Bully Entertainment on Vimeo.

・ツールには一貫性が欲しい

ただし、ただ多様性ばかりを追求すると制作の現場の負荷が増すばかりだ。制作ツールの技術的な一貫性が求められ、Web技術の規格化、標準化の重要性があらためて確認された。

ここでWeb技術が持つメリットを整理すると下記のようになる。

アクセシビリティ
メタデータ
国際化
どこでも、どんな端末も
マルティメディア
長期間コンパティビリティ
(ウェブの力、パブリッシングに適用 https://florian.rivoal.net/talks/pub-tpac-2017/#/2/8

・現場の技術者の思考の変化が求められる

紙、PDF、EPUB、VR/AR、そこを一貫する技術としてWeb技術に期待が寄せられる時代が到来している以上、制作現場の技術者たちの発想の転換も求められる。ワードやインデザインをベースにした技術発想から、Web技術に依拠した発想への転換がそれだ。[なにしろ、上述したように紙の組版も、HTMLとCSSで可能になってきているのだから。]

(シークレット・オブ・CSSシークレット改訂版 https://www.slideshare.net/JEPAslide/css-66741863

「段組み」だってHTMLとCSSとでやれてしまえる事例としては下記URLを参照のこと(デモ用にフローリアン・リボアル氏が作成/ブラウザの横幅を変えると段組みも変わる)。
https://florian.rivoal.net/talks/pub-tpac-2017/Hopper.html

・従来の<本>概念にとらわれないコンテンツ

Web技術に依拠した発想への転換の結果、「ワークフローの速度とコストが変わると、作成するコンテンツも変わるべきか」という課題もでてくるだろう。

・SVG

既に全てのブラウザーが対応しているSVG技術。近時標準化作業の手が止まっていたが、今回のTPACで再起動された。

[残念ながら和製電子書籍販売サイトのリーダーで対応しているのは今のところ、1社のみの状態だが。
・正字って、何? 外字って、何?  http://society-zero.com/chienotane/archives/598
・日本語対応したEPUB3で、正字・正假名をSVG表示  http://society-zero.com/chienotane/archives/746

・TT(タイムド・テキスト)-WG

主に字幕用の技術であるTTMLをCSSの中に取り込む動きもある。日本で使えるようにするには、日本語に必要な機能(縦書き、縦中横、ルビ、傍点、斜体)が優先的に議論されるよう努力すべきだろう。

 

3.Advanced Publishing Laboratory(APL)でのEPUB・WGの活動報告

・出版世界とICT世界の相互乗り入れが喫緊の課題

なぜなら、

W3Cが出版に関する技術情報のハブになりつつある
Publishing@W3Cは大きなコミュニティである
コンテンツが電子で「ある/ない」は[もはや]関係ない。

皆で意見/異見を出し合い、それぞれの立場で考えることでもたらされ る「気づき」が重要

だ、からだ。

・集約情報を日本語で公開

W3Cで議論されている内容を、日本の技術者(出版/ICT両方)が把握し、さらにオープンな議論が展開され、誰もが閲覧できる情報を成果物として公開している。

公開にはGithubを利用 。
https://github.com/Advanced-Publishing-Laboratory/apl-epub
APL EPUB

・今後の活動対象/テーマ




 

ちなみに、詩想舎による「アイカードブック(iCardbook)」は、「従来の<本>概念にとらわれないコンテンツ」として、また「なぜ、うちの作品はGoogleの検索で引っかからないのか?」へのソリューションの一つとして、創造された新レーベルである。「アイカードブック(iCardbook)」については下記URLを参照のこと。

第七章(下)共感社会と家族の過去、現在、未来  – iCardbook|知の旅人に http://society-zero.com/icard/archives/2982

アイカードブック創刊の狙い | ちえのたね|詩想舎 http://society-zero.com/chienotane/archives/5063

本のネットワーク化 – iCardbook|知の旅人に http://society-zero.com/icard/network

日本人の情報行動の変化と<本>の未来 | ちえのたね|詩想舎 http://society-zero.com/chienotane/archives/7396/#4