Category Archives: 知のパラダイムシフト

教育のデジタル化:「発達」を考慮したルール整備が課題


「人間の脳は1万〜2万年の時間を経ても変わっていません。生物学的な視点で、私たちの体をいま一度捉え直すことが大切なのです。
(中略)
(デジタル時代の今日、強調したいのは)「テクノロジーそのものは素晴らしいが、適切に使用すべきだ」ということです。特に子どもたちには睡眠や運動、そしてリアルの場での社会的な交流が必要です。
アンデシュ・ハンセン「テクノロジーは“太古の脳”を持つ私たちに順応すべきです」)」


■デジタル教科書を本格導入

令和6年度(2024年度)は、小学校用教科書の改訂時期であり、それを契機にデジタル教科書を本格的に導入していく年度に当たります。小学校5年生から中学3年生の「英語」が、デジタル教科書の先行導入科目となり、順次拡大されていく流れです。QRコードの多用が話題になっていましたね(中学教科書、デジタル化進む QRコード急増)。

また、2024年4月1日より、特別な配慮を必要とする児童生徒等に対して、「合理的配慮の提供」が義務化されますが、教科書のデジタル化はこの点でも大きな役割が期待されています(たとえばデイジー教科書)。

 ※「デイジー教科書」とはデジタル録音図書の国際標準規格「デイジー」を採用した教材。パソコンやタブレット型端末などで利用する。音声を聞きながら文字や写真を見たり、文字の大きさや色を変えて読みやすくしたりできる。

これは、主にハード面を念頭に展開されたGIGAスクール構想でICT機器が身近になった教育現場に、教科書や教材などソフト面の充実が、教育ICT化の次の対象と目されているからなのです。
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「本と編集力」を起点に考えるこれからの出版社経営

■電子書籍の健闘と内訳の電子コミック

日本の出版市場は20世紀が終わろうとする1996年をピーク(2兆6564億円)に、凋落傾向にあります。21世紀になり、一旦電子書籍が健闘、市場全体を引き上げるかと思われましたが、2021年以降、再び「紙+電子」ベースでも縮小トレンドに戻ってしまいました。

そして遂に2023年の市場規模はピーク期比4割減の、1兆5963億円となってしまいました。紙+電子ベースで、です。電子書籍市場の押し上げ効果を無にするような紙版(書籍+雑誌)の凋落ぶりです。

・日本の出版市場推移(1996~2022年)|出版科学研究所

日本の出版販売額 | 出版科学研究所オンライン

電子書籍の中でも、電子コミックは力強い上昇基調にあります。
・日本の出版市場推移(1996~2022年)

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21歳の日本人の読書状況(文科省発表)

 

文部科学省が2023年10月13日に公表した、21回目となる令和4年(2022年)の「21世紀出生児縦断調査」には、読書に関する報告が含まれています。これは2001年(平成13年)生まれのこどもの2022年における、つまり21歳の日本人の読書状況を伝える報告となっています。

「第10回調査と比較すると、本、雑誌・マンガとも0冊と回答した者の割合が大幅に増加し、4冊以上と回答した者の割合が減少している。」
第21回 21世紀出生児縦断調査(平成13年出生児)の結果について公表します

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Chatgptに書かせた「Chatgptと教育の未来」

◎Chatgptと読む能力や思考する能力◎

■文章を読む能力や思考する能力、それらと文章の難易度

厚生労働省が発表した2020年の平均寿命で、川崎市麻生区が全国の市区町村で、男女とも最も長寿でした。経済格差が健康格差になっている(元横浜市職員の加藤彰彦沖縄大名誉教授(社会福祉))という分析がある一方、実際に住んでいる住民からは、「麻生区は丘陵地帯を開発して発展した街。どこにいっても坂道ばかり。駅にいくだけで足腰が鍛えられる(地域教育会議の地域教育コーディネーター)」といった意見もあるのだそう。

さてここで、坂道が多いというのは一般的には住宅地にとってデメリットにもなります。たとえば、買い物に行くのに歩きは無理、とか、自転車がそもそも使えないなどです。また不動産専門業者からは、広告をみるとき、「駅から徒歩○○分」はあくまで距離から割り出された数値で、坂道なら実際は朝の通勤時もっと時間がかかるので事前に要チェックとの声がかかります。出張にスーツケースを抱えて移動などというシーンも要注意。 Continue reading

 

ChatGPTがエルサレムのアイヒマンを大量生産しないために

◎子を持つ親、教員、出版人のためのChatGPT入門◎

まず次の「アミラーゼ問題」を考えてみてください。

●アミラーゼ問題

次の文を読みなさい。

アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。

この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから1つ選びなさい。

セルロースは(     )と形が違う。

(1)デンプン (2)アミラーゼ (3)グルコース (4)酵素

正解はこの記事の途中(2.問題文が読めないと問題は解けない)で紹介します。

 


目次:
1.ChatGPTは習わぬ経を読む門前の小僧
2.問題文が読めないと問題は解けない
3.書き言葉は学習によってしか習得できない
4.エルサレムのアイヒマンとChatGPTのリスク


 

さて、この記事のポイントは、次の内容となります。


ChatGPT(チャットジーピーティー)は「それらしいことを言うけれど実は何も考えていない人」です。もちろんこの表現はたとえであって、ChatGPTに人格はありません。つまり意思も知性も持ち合わせません。あくまで生成系AIのひとつで、文章生成ツールです。学習・教育のシーンで文章生成ツール・ChatGPTをどう活用するか。その検討の際、成長過程での脳の段階的発達との関係に十分配慮をすべきです。読み書きを通して脳は新しい神経回路を形成し、さまざまな認知機能を発達させます。なかでも書き言葉に励起される「思考」機能は、個人の人生と現代経済社会に不可欠な要素です。


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●ネット・ケータイが起こした風景の変化と本、あるいは読書

 

■出版市場の4割をコミックが占める日本

取次会社である、日本出版販売株式会社やトーハン株式会社は自社データをもとに、日本の出版市場に関する資料を月刊誌や年鑑として出しています。これに対して、中立的な立場から、より総合的な情報を提供する研究機関として、出版科学研究所があります。

今回、出版科学研究所が出している『出版指標年報』を使い分析したところ、2022年の「紙+電子」のベースで、出版ジャンルとしての「コミック」が日本出版市場の実に4割を超えてきていることがわかりました。 Continue reading

 

コミックが書籍を超えた日

・紙と電子を合算した出版市場が4年ぶりのマイナス成長

電子出版、1桁成長に鈍化 22年7.5%増 紙含めた市場、4年ぶり縮小

 

■2022年、出版市場は再び軟化

出版市場は電子版を加えたベースで2018年を底に、前年比増加基調に転じたとされてきました。ところが、2022年再び前年比減少となりました。理由は電子版の軟化です。 Continue reading

 

●書店の未来と新しい社会システムの行方

■アルゴリズムで創られていく社会システムとの具合のいい塩梅

解剖学者の養老孟司氏が、ある本の解説文の中で、現代社会は、自然発生的な社会システムとアルゴリズムで創られていく社会システムとの拮抗、具合のいい塩梅を探っている段階にある、と書いていました。

アルゴリズムで創られていく社会システムとは、スマホに代表される情報技術が変えつつある日常生活、そしてそのイメージの裏側にある、計算や手続きで成立し、合理的なことをよしとする、社会システムのことです。経済や流通、通信分野はどんどん「新しい社会システム」へシフトして行っています。

しかし分野により、また国や民族、宗教により、アルゴリズムで創られていく、「新しい社会」へのシフト状況は様々で、かつ受け入れ、飲み込める程度は異なっています。

出版分野、また書店や本好き人種はどうなのでしょう。 Continue reading

 

アクセシブル・ブックス・サポートセンター(ABSC)について

 

■アクセシブル・ブックス・サポートセンターとは

「読書バリアフリー法」の制定を受け、「アクセシブル・ブックス」の推進に必要な情報の業界内流通・業界外発信と、個々の出版社からの要望を吸い上げるために設立された機関。特にTTSの推進とBooks( 日本出版インフラセンターが管理運営する書誌データベース)のアクセシブル対応には当面力をいれていく方針。略称はABSC(Accessible Books Support Center)。現在(2022年5月)は、準備会が発足し(2021年9月)、出版各社の中に、ABSC連絡窓口、担当セクションを設けるよう依頼している段階。

・読書バリアフリー法に対応する<ABSC連絡窓口>設置のお願い https://jpo.or.jp/topics/2021/10/211029.html


アクセシブル・ブックス=アクセシブルな電子書籍+アクセシブルな書籍
アクセシブルな電子書籍=デイジー図書・音声読上げ対応の電子書籍・オーディオブック等
アクセシブルな書籍=点字図書・拡大図書等


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出版業界と読書バリアフリー法

■読書バリアフリー法関連年表

2013年6月 マラケシュ条約の採択
2018年4月 日本の同条約締結に関わる手続き完了(発効2019年1月

2013年6月 障害者差別解消法制定(施行2016年4月)
2016年3月 JISX8341-3:2016が施行(ホームページ等を高齢者や障害者を含む誰もが利用できるものとするための規格)

2018年5月 著作権法の改正(施行2019年1月

2019年6月 読書バリアフリー法制定・施行
2019年11月 視覚障害者等の読書環境の整備の推進に係る関係者協議会の発足 Continue reading