●ネット・ケータイが起こした風景の変化と本、あるいは読書

 

■出版市場の4割をコミックが占める日本

取次会社である、日本出版販売株式会社やトーハン株式会社は自社データをもとに、日本の出版市場に関する資料を月刊誌や年鑑として出しています。これに対して、中立的な立場から、より総合的な情報を提供する研究機関として、出版科学研究所があります。

今回、出版科学研究所が出している『出版指標年報』を使い分析したところ、2022年の「紙+電子」のベースで、出版ジャンルとしての「コミック」が日本出版市場の実に4割を超えてきていることがわかりました。

・「コミック対非コミック」の分析軸


コミックが書籍を超えた日


日本の出版市場は電子版を加えたベースで2018年を底に、前年比増加基調に転じたとされてきました。ところが、2022年再び前年比減少となりました。書籍も雑誌も、また電子書籍、電子雑誌ともに前年割れで、ひとりコミックのみが増加基調を堅持しているのです。

 

■日々の情報行動の中で、「本を買う」とは

ところで、では本を買うという行為が一般の人々の情報行動の中で、どういう位置づけになってきているのか、総務省の「家計調査」からみてみましょう。2000年から2021年までのデータです。

・二人世帯の支出動向:本とネット・ケータイ

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二人世帯の支出動向:本とネット・ケータイ

・月次消費支出と品目別支出額(「家計調査(二人以上の世帯)」より)

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月次消費支出と品目別支出額(「家計調査(二人以上の世帯)」より)

21世紀に入ってからの、情報に関する風景の変化が如実にあらわれていますね。

実は日本の出版産業・企業の中で、いちばんこういった変化への対応が進んでいたのがコミック・ジャンルだったのです。コミック市場の7割近くが電子コミックです(2022年)。

・コミック市場内訳

Webtoon(ウェブツーン)の追い風もありましたね。


WEBTOONが見せつける、出版のIT化とDXの違い


コミックは、ネット・ケータイによる生活環境の変化をうまく、自身ジャンルの成長へつなげられたわけですが、出版市場の他ジャンルにはそういった商機はないのでしょうか。

そこで今回の知恵クリップは、本とネット・ケータイとが重なる領域に関係しそうなクリップを集めてみました。お楽しみください。

 

■知恵クリップ

A:誰が、どう、本と出会って、読書している?

●マンガの読み方、6割超が「無料で電子版」 若い人ほど本屋で https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2211/24/news166.html
年代を問わず、無料電子版が一位で、本屋で買う紙版が二位(複数回答)なのが面白い。特に、「本屋で買う紙版」の割合が若い人ほど高い(ネットでの購入を凌駕)のも興味深い。
・年代別 どのようにしてマンガを読んでいるか

 

●「最近の若者は本を読まない」というのは本当か?調査からみえた「意外な実態」 https://gendai.media/articles/-/102357
全国学校図書館協議会による「学校読書調査」の2022年の結果や全国大学生協連による「学生生活実態調査」、文化庁の平成30年度(2018年度)「国語に関する世論調査」などの調査の分析。

・「若者の本離れ」は半分フェイク(雑誌離れは顕著だが、書籍は過去最高に読んでいる)
「小中学生の「書籍離れ」は2000年代以降、劇的に改善され、現在の小中学生は過去最高レベルで本を読んでいる。」
・読書量と販売市場との乖離の理由
「ではなぜ長期的に見て日本人の平均的な書籍の読書量がそれほど減っていないはずなのに出版市場は厳しいのか」、「可処分所得減少と少子高齢化(「老眼で目が疲れるから本を読みたくても読めない」といった中高年の割合が増える)によって、人々が実際に読む(読める)量以上の本を買わなく/買えなくなったということではないか、と個人的には推測している。」

 

●Z世代は熱心な読書家、スマホでさまざまなジャンルを読み漁る https://forbesjapan.com/articles/detail/52769/1/1/1
「ジョンソンは、新型コロナウイルスの大流行が若い読者の習慣を劇的に変化させたと述べた。調査対象となったZ世代では、35%が2年前よりも現在の方が読書量が多いと答え、33%は以前とほぼ同じ量の読書量であると答えている。その結果、Z世代の55%が毎週、40%が毎日読書をするようになった。古い紙の香りをいまだに味わう上の世代の51%に対し、Z世代の67%がスマホで読書している。」

 

●不況の出版市場で売り上げ3倍 Z世代に「紙の本」を売る仰天戦略 https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/casestudy/00012/01113/?i_cid=nbpnxr_toprec_B01
「きっかけは「TikTok売れ」だ。16年にスターツ出版文庫から出版した『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら』(汐見夏衛著)が期せずしてTikTokで拡散された」。

「10~30代の若者はデジタル機器を使った読書が常態化しているが、それは紙の本のすばらしさを知らないからにすぎない。紙の本は電子では得難い感動が得られ、人生を豊かにしてくれる。その価値に気付けば、間違いなく魅力にはまるはずだ。デジタルネーティブを狙えば、ブルーオーシャンを開拓できる」

・書籍コンテンツ事業部の人材を厚くし、新レーベル創刊を加速

 

●【日本の未来を考える】大人が学ばない社会… 東京大名誉教授 伊藤元重 https://www.sankei.com/article/20221226-GW3MWHZADBKTJAMA2N5CQ4EOGE/
自分の意思とお金で「学ぶ」、そういう社会へのシフトが重要。賃金問題への「学び」視点からの提言。

「大人がもっと学ぼうとしないのだから、日本人の所得が低迷するのも当然だ。日本人の賃金が非常に低いことが問題視され、雇用制度や企業の行動が批判されることが多い。そういった問題があることは否定しないが、そもそも学びを続けない人の生産性が上がるはずはないし、所得も増えるはずはない。」

「世界の主要国に比べて、日本は大学生の平均年齢が低いといわれる。大学で学ぶ学生の大半が、高校を卒業したらすぐに入学してくる人たちで、そのほとんどは卒業したら二度と大学に戻らない。

しかし、海外では、社会人を何年か経験した上で大学に入り直してくる人も多い。ビジネススクールのような職業経験をへて入る専門職の大学院も多くある。要するに、自分の意思と自分のお金で自分のために学ぼうという人が多いのだ。」

「自分の子供の教育にそれほど熱心であるなら、なぜもっと自分自身の教育に熱心にならないのだ」

 

●52.6%が読書すらしない…世界一学ばない国・日本の「1兆円リスキリング支援」が失敗すると言える3大理由 https://president.jp/articles/-/65406
「未来に必要なスキルを明確化し」 →「そのスキルを新たに身に付けて」 →「ジョブ(ポスト)とマッチングする」という線的なモデル、いわゆる工場モデルの学習概念では、「リスキリング」はうまくいかない。

「リスキリングには単なる研修訓練の提供を超えた、スキルを活かすための「変化創出の仕組み」、「学びのコミュニティ化の仕組み」、キャリアについての「意思の創発の仕組み」の三つが必要です。」
・学習しない日本の大人たち:社外学習・自己啓発「何も行っていない」人の割合

 

●221027 ラボ 読書の秋 https://www.ktv.jp/news/feature/221027-4/
書店の棚の力(人と本とのマッチング)に替わる、新しいマッチング手法の紹介、もりだくさん。
例えば、「タクナル」というアプリ。「登録した人同士がすれ違うだけで、その人がおすすめする本と出会えるサービス」。
他に、TikTokやインスタグラムで紹介する「おすすめ本」「Chapters bookstore(チャプターズブックストア)」、シェア型書店など。

 

●11年前に勤め人の父親が出版した“売れない小説” 娘がTikTokで宣伝してアマゾンベストセラーに https://mdpr.jp/news/detail/3613442
「マルゲリータは、父親がフルタイムの仕事と子育てをしながら14年かけて書き上げた『Stone Maidens』を紹介し、父親にいくらかの売り上げをあげたいと訴えました。

すると、「もう既に買った」や「どこで買えるのか」といった好意的なコメントが集まり、動画は現時点で4700万回以上再生される大反響を呼ぶことに」

 

●アメリカでバカ売れの作家、コリーン・フーヴァー人気を捜査する https://www.read365days.com/2022/10/why-is-Colleen-Hoover-so-popular.html
アメリカ出版界のベストセラー量産作家になった感のあるコリーン・フーヴァーの売れる「秘密」解読。キーはSNS。

「いろいろと弊害が指摘されるSNSが若年層の読書を推進している、それはもしかしてはSNSの数少ないポジティブな効果なんじゃないか」
たとえば、「当初は電子本ばかりが売れていたが、BookTokで話題になった途端、紙の本の売り上げが電子本を逆転するようになった。電子本だと若い子たちが貸し借りできないし、動画映えしないから」。

 

●老舗メディアWSJがTikTokチャンネル開設。「コンテンツをTikTokで配信しないとチャンスを逃すことになる」 https://www.businessinsider.jp/post-263520
「ウォールストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal:以下、WSJ)は、最近導入したTikTok(ティックトック)チャンネルで、ほかの多くのレガシーパブリッシャーに続き、Z世代や若いミレニアル世代のオーディエンスにアプローチしようとしている」

 

B:模索される新しい本のカタチ

●小学館世界J文学館 | 小学館 https://www.shogakukan.co.jp/pr/sekaij/
「紙の本で名作を選び、電子書籍で本文を読む」というしくみ。「本書は1冊の本を購入することで、125冊の本をPCやスマホ、タブレットなどで電子書籍として読むことができます。」

「編集委員は、次の5名の方々。
児童文学作家、角野栄子さん。小説家、浅田次郎さん。JBBY(日本国際児童図書評議会)会長、さくまゆみこさん。英語圏のエキスパート翻訳者、金原瑞人さん。ロシア・スラヴ圏の研究者にして翻訳者、沼野充義さん。
いずれも大の読書家である編集委員の皆さんのセレクションですから、一癖も二癖もあっておもしろい! これまで「児童文学全集」という枠組みの中には入らなかった作品が、いくつも選ばれました。」
たった1冊で125冊が読める!? 『小学館世界 J 文学館』で文学全集の革命起きる!

 

●総売上1兆4474億円、児童書が大きな売上増…出版物の分類別売上推移 http://www.garbagenews.net/archives/2101334.html
「「児童書」の2021年における売上は推計で1013億円、総売上に占める構成比は7.0%。しかし唯一伸びを示している分類として、注目に値する。

元々一定量の需要は常に存在する「児童書」だが、ひそかに需要、そして供給ともに増加を示している。出版業界専門誌「新文化」のかつての記事「2年連続前年超え「児童書」好調の要因」にも「好況の背景には新人や個性派作家の活躍、子や孫へのプレゼント需要、教育的投資の増加、新規版元の参入などさまざまな要因があるとみられる」との説明」

・出版物分類別売上(2006年から2021年における変移)

 

●文庫本の最新事情 オーディオブックなど新しい楽しみ方も https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221207/k10013913781000.html
「かつてはワンコインで買えた文庫本。今では1000円を超える文庫本も珍しくなくなりました。

出版科学研究所の久保雅暖主任研究員は、「スマホが普及して、娯楽も多様化していますし、安くてひまつぶし感覚で読めていた紙媒体の文庫本の売り上げが落ちた分、部数も限られて価格が上昇せざるをえない。資材の高騰もあいまって来年も価格が上昇するのでは」と話しています。」
・文庫本の平均価格

 

●現代新書・編集長と副部長に聞く、多忙で不透明な時代の「教養」のかたち https://exp-d.com/interview/13331/
ラインナップにおけるある程度のバランスも意識している。具体的には、大きく分けてA/B/C/Dと4つの方向性の企画を、程よく織り交ぜて構成するようにしているという。

Aは、直近であれば林真理子『成熟スイッチ』のように、大物著者に時事性の高い内容を執筆してもらう大型企画ライン。
Bは、河合雅司(ジャーナリスト)の『未来の年表──人口減少日本でこれから起きること』、 坂本貴志(リクルートワークス研究所)の『ほんとうの定年後──「小さな仕事」が日本社会を救う』のようなエビデンスに基づいた日本社会の分析で、現代新書が伝統的に得意とするライン。
Cは鈴木大介『ネット右翼になった父』や漆原正貴『はじめての催眠術』のように、ユニークなコンセプトで勝負するチャレンジ枠ライン。
そしてDが、今回出版を始めた「現代新書100」シリーズのように、哲学や歴史をはじめとした、いわゆる教養書ラインだ。
・講談社現代新書4つの方向性

 

●リスキリングの手段、「書籍」を超えて最も多いのは? 正社員エンジニア300人へ調査 https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2302/07/news135.html
実用書需要はある、ということ。ただし、映像とのコラボの工夫も必要か。
・「書籍」が「無料オンライン教材」と同程度の活用ぶり

・リスキリングで社内貢献「できている」43.8%、「これから」43.8%

・リスキリングというワードを「知っている」のは少数派

 

●2023年は日本の“リテールメディア元年”になる!? なぜ注目されているのかを徹底解説! https://webtan.impress.co.jp/e/2023/02/02/44223
「サーチメディア、ソーシャルメディアに続く第3の波として「リテールメディア」が急速に立ち上がっている。リテールメディアとは、顧客の購買行動など小売業が独自に収集・所有するデータを活用して広告を配信する手法のこと」。

・米国の小売業者はリテールメディアをたちあげ成功している

マッキンゼーが解説する、「リテールメディア」課題と攻略方法とは!

 

C:その他

●休刊情報一覧ページ https://www.fujisan.co.jp/partner/PartnerSuspensionInfo.asp
●休刊・廃刊した雑誌一覧 https://memorva.jp/ranking/sales/paper_media.php
●出科研、来年4月から各発行物の刊行や頒価を変更 https://www.shinbunka.co.jp/news2022/12/221221-02.htm
『出版月報』の季刊化、「ニュースの索引」の休刊。
●「日販通信」の休刊および情報提供体制刷新のお知らせ|日販通信note|note https://note.com/nippan_tsushin/n/n89db7c281bcc
●相次ぐ雑誌の休刊とWebメディア終了から考える | 出版科学研究所 https://shuppankagaku.com/column/20220603/