●ポストモダン思想の限界が、大学を危機に陥れている

マルクス社会学は、自由経済と資本主義が諸悪の根元だと考えた。そこで私的所有と自由競争を禁止しさえすれば、よい社会になると夢想した。

しかしそれが大きな勘違いだったことは歴史が証明。つまり、経済的な「平等」を力づくで実現させようとすると、逆にむしろ強大な権力システムが必要となり、必然的に自由の抑圧される社会しか産まない。

一方、新自由主義の社会構想の軸は、「権力自体が「悪」」。だから、それを廃棄してしまえ(官から民へ)ば問題は解決するとした。そしてそこから、どんな権力や制度も絶対的な根拠はもっていない(規制緩和が金科玉条)という相対主義から、社会をいよいよ混迷、不安の淵へと追いやってしまった。

真のイッシューは、「どのような「よい」統治権力(法制度の束)を作り出すべきか」であるはずだったのに。

今起きている大学の危機は、社会構想にかかわるこのダッチロールの一現象ともいえる。そして、大学の危機のコインの裏側には、「哲学の危機(ポストモダン思想の限界)」が存在する。


●世界レベルで「大学が崩壊している」根本原因 東洋経済オンライン https://toyokeizai.net/articles/-/235823
「大学は新自由主義に侵され、ランキング付けされてカネになることだけやらされ、古典的教養といった学問が滅びつつある(ウェンディ・ブラウン 『Undoing the Demos』)」。

「「科学の発展」が「社会や国家の発展」に結び付くということが自明視されるためには、それを結び付ける「大きな物語」が必要であり、その物語を紡いだのが哲学である、/ところが、科学が発展し、科学的な合理主義が肥大化していくと、科学を支えてきた「大きな物語」は、根拠に欠けた単なる寓話でしかない、ということが暴かれるようになる。科学が、自身の足場を切り崩し、哲学的な知が弱体化していった。

●これからは哲学の時代——根拠なき時代、ほんとうの土台を築くには?(竹田 青嗣) 講談社 https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57192
20世紀の哲学は、哲学の墓場:「現代哲学は論理相対主義、思想的相対主義、批判的相対主義というように総じて相対主義に行き着いてしまい、人間にとって最も重要であるはずの、価値や倫理の普遍的な根拠を立てることができなくなってしまったのです」。

ポストモダン思想の限界:「価値論こそは哲学の本義であるというニーチェの考えの元をたどれば、そこにはプラトンがいます。
現代思想は、この最も重要な価値の問題、すなわち人間のエロスと倫理の問題を扱えなくなってしまいました。ウィトゲンシュタインが言ったように、言語と論理を哲学の軸にしてしまうと、価値と倫理については語れなくなってしまう」。

社会の構成原理を提示するのが本来の哲学:「マルクス主義も、そのあとのポストモダン思想も、近代社会の大きな矛盾に目を奪われて、近代哲学が提示した社会原理の持つ、この決定的な重要性を忘れている。」

●東大、東北大…国立大学で進む「雇用崩落」の大問題(田中 圭太郎) | 講談社 https://gendai.ismedia.jp/articles/-/52927
法制度の構築の失敗のひとつの事例。
「きっかけは2013年4月に施行された改正労働契約法。簡潔に言えば「5年以上同じ非正規労働者を同じ職場で雇う場合、本人が希望すれば無期労働契約にしなさい」とする条文が新たに加えられたことにある。」
これに対し、一般企業はしぶしぶながら「無期」へのシフトを始めているのだが、「国立大学の多くが、非常勤教職員の無期雇用への転換を拒んでいる/しかも大学の雄である東京大学と東北大学が、その先頭に立っている」。

(東大、若手研究者300人 「任期なし教員」に転換 日刊工業新聞 電子版 https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00439401

「国立大学の法人化は、大学経営の自由度を増すためではなく、予算の使用方法や人事などについて法人化前よりもさらに厳しい統制を国から受ける、独立行政法人制度がベースになっています。要するに、行財政改革の一環で行われた」ため、法人化で大学はおしなべて財政難に陥った。経費構成比率の高い(東京大学で43%)「人件費」であってみれば、無期雇用への転換は大学にとって、できたら避けたい選択肢となる。

(平均給与などから見る国立大学職員の現状と変遷(その3〜東京大学を例に) - 大学職員の書き散らかしBLOG http://kakichirashi.hatenadiary.jp/entry/2018/01/28/231210)

さらに雇用の調整弁としての「非正規職員」。東京大学でこのうちパート教職員の数は、法人化以前は1000人程度だった。それが2017年1月時点では5300人まで増えている。
そして「非常勤教職員」。東京大学には1200人以上の非常勤講師が勤務しているとみられる。しかし、彼らに対しては「業務委託」という雇用形態を採っていて、労働契約すら結ばれていない。

●将来構想部会が中間まとめを検討―国立のアンブレラ方式など提言へ Between情報サイト http://between.shinken-ad.co.jp/univ/2018/06/syoraikosobukai.html
「2040年の社会変化の方向を「SDGs(国連が提唱する持続可能な開発のための目標)」「Society5.0第4次産業革命」「人生100年時代」「グローバリゼーション」「地方創生」などのキーワードで説明。急速な社会変化の中、教員ではなく学習者を中心に置いた主体的な学びのシステムの構築を念頭に、2040年に向けた高等教育の課題を整理した
また、
・「公共財」という視点での政策への転換を提起
・「世界をけん引」「高度な教養と専門性を備えた先導的」「高い実務能力」など機能別分化の「3つの観点」を例示

(大学「生き残り」へ中教審が提言 連携・統合進める3案:朝日新聞デジタル https://www.asahi.com/articles/ASL6T6TZ4L6TUTIL054.html

●「検証」なく社会と大学の将来構想を描く文科省 18歳人口の減少で大学の統廃合は進むのか? | JBpress(日本ビジネスプレス) http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53915
2005年の答申が描いた「我が国の高等教育の将来像」、2018年の「今後の高等教育の将来像の提示に向けた中間まとめ。
いずれも「乱暴な言い方をしてしまえば、その方針転換は、新自由主義的な政策原理に基づき、今後の高等教育のあり方は、将来像の提示や政策的誘導くらいは試みるとしても、基本的には「市場原理」(社会状況の変化と大学間の競争の結果)に委ねると言っているようにも読み取れてしまう。」

 

┃Others あるいは雑事・雑学
●今後のわが国の大学改革のあり方に関する提言
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2018/07/12/1407030_2_1.pdf

●科学技術指標2018 ~日本の研究開発費、研究者数は共に主要国(日米独仏英中韓)中第3位、注目度の高い論文数では世界第9位.
http://www.nistep.go.jp/wp/wp-content/uploads/NISTEP-RM274-SummaryJ.pdf

●昭和28年度 学生生活調査
https://www.jasso.go.jp/about/statistics/gakusei_chosa/__icsFiles/afieldfile/2018/08/30/houkoku16_all.pdf

●日本の大学教育の現状 | ちえのたね|詩想舎 https://society-zero.com/chienotane/archives/4799
(大学の)「ランキングの指標となるデータベースは、米国のトムソン・ロイターが提供する『ウェブ・オブ・サイエンス』と、オランダのエルゼビアが提供する『スコーパス』といったものが有力だ。どちらも欧米を中心とする学術論文雑誌が対象となっており、書籍の価値についてはほとんど考慮されていない」。

●危機にある日本の大学 | ちえのたね|詩想舎 https://society-zero.com/chienotane/archives/4584
危機的状況にある、日本の大学生と大学経営。
「(こんにちの日本の)大学の主な問題は、学生が大学教育を受けられる状態で入ってきていないことにある。大学教育は学生が自分で教科書を読んで勉強できることが前提だが、そうなっていない。初年次教育と称して、小学校でやるようなことをまた教えたりするのはあまりに効率が悪すぎる」。