「本と編集力」を起点に考えるこれからの出版社経営

■電子書籍の健闘と内訳の電子コミック

日本の出版市場は20世紀が終わろうとする1996年をピーク(2兆6564億円)に、凋落傾向にあります。21世紀になり、一旦電子書籍が健闘、市場全体を引き上げるかと思われましたが、2021年以降、再び「紙+電子」ベースでも縮小トレンドに戻ってしまいました。

そして遂に2023年の市場規模はピーク期比4割減の、1兆5963億円となってしまいました。紙+電子ベースで、です。電子書籍市場の押し上げ効果を無にするような紙版(書籍+雑誌)の凋落ぶりです。

・日本の出版市場推移(1996~2022年)|出版科学研究所

日本の出版販売額 | 出版科学研究所オンライン

電子書籍の中でも、電子コミックは力強い上昇基調にあります。
・日本の出版市場推移(1996~2022年)

■電子化の先にIPビジネスへの展開

コミックをラインナップに保有する出版社は、電子コミックの恩恵を受けながら、電子化の先にIPビジネスへの展開でさらに大きな売上を目指しています。

IPとは「Intellectual Property」の略称です。「知的財産」のこと。IPビジネスは、知的財産を活用して収益を得るビジネスモデルを展開します。

たとえば自社の漫画、アニメ、ゲームなどを制作・販売する「コンテンツ販売」、コンテンツを使用する権利を販売する「ライセンスビジネス」、自社開発のシステムなどを販売する「ノウハウ販売」の3つのパターンがあります。海外への展開も含め、集英社、講談社、小学館、kadokawaといった会社のお家芸になっています。
・グローバル企業へ

人気の出版業界のキーワードは電子コミックと海外事業就職サイト あさがくナビ

■コミック以外の版元で実は堅調な会社がある

それではコミックを作品ラインナナップのジャンルとして持たない一般の出版社、中堅零細の版元で業績を伸ばしている会社はないのでしょうか。

それがあるのです。

そうした特徴のある活動をしている事例や、事業検討のヒントを「知恵クリップ」に拾ってみました。

■知恵クリップ:「本と編集力」を起点に考えるこれからの出版社経営

1.ブックオフグループHD(上)ジリ貧かと思いきや…書籍以外の新ジャンルで成長軌道に乗る https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/334418

◎ブックオフからも見放された書籍流通業◎

「ブックオフの主力商品は、すでに中古本ではなくなっており、しかも今後、書籍が主役の座に戻ってくることはあり得ない。

そのため、最近は広告においても、冒頭の「本を売るなら」を意図的に封印。昨年末の紅白にも出場したあのちゃんを起用したテレビCMでは、メロディーはそのままに「寄り道してく? ブックオフ」と歌詞を変えている。つまり事実上の業態転換を果たしている。」

・「本」は「商材」から集客と商材拡張の「起点」へ

ブックオフグループホールディングス(9278)売上高・経常利益は前年を上回る推移、積極的な出店を継続

2.出版社の未来、10年後はどうなっている?  電子書籍主流、紙は趣味的な分野で残る? 識者の見解から考察 https://realsound.jp/book/2024/02/post-1575188.html
漫画はデジタルシフトで生き残りをはかる道筋が見えているが、他のジャンルは、むしろ「物化(紙の質や製本にもこだわった特別な本)」がポイント?

「(漫画を)紙で単行本を買う文化は衰退し、電子書籍が主流になっているでしょう。特に、10代の若者が電子書籍で漫画を読むことに慣れており、彼らが社会人になった10年後には電子のシェアは紙に大差をつけていると思います」

「書籍の“グッズ化”が進むと考えられます。(略)漫画や画集などの分野では、ネットで注文を受け付ける受注生産式の書籍は増えていくと思います」

3.お菓子やレトルトカレー、ドラマ化… 旅行ガイド「地球の歩き方」が書店を飛び出した理由 https://hint-pot.jp/archives/204163/2/
「物化(紙の質や製本にもこだわった特別な本)」ではない別の道を模索する版元も。それは「地球の歩き方」。本を起点にリアル世界の他産業への導線を深める作戦。たとえば、「地球の歩き方版カレー」。

「「単なる名義貸しで終わらせず、きちんと『地球の歩き方』ならではの形にしたいですね。たとえばレトルトカレーは、企画にあたって仮想敵を無印良品にしました。だって本場の味よりも、おいしいから(笑)。

現地を超えちゃっているものに対し、我々は“現実を見せよう!”という話で進めています。」

・地球の歩き方版カレー!

4.スターツ出版、Z世代を中心に読書文化の需要を創造 売上高・営業利益は当初計画を大きく上回 https://finance.logmi.jp/articles/379197

「弊社は書籍コンテンツとして、小説投稿サイトを起点とした、書籍・電子書籍・コミックビジネスを扱っています。

スライドのグラフは、各レーベル別の売上推移を四半期別で示したものです。売上高合計で見ると、2017年度から約4倍に拡大しています。」

・右肩下がりの出版市場で、『読書文化』の需要創造へ

・スターツのビジネスモデル

「弊社がターゲットにしているのは、みなさまが「まさか読者になるとは思っていなかった」であろうZ世代です。投資家の方にも、昔読者だった一般のみなさまにもあまり認識はされていませんが、我々はZ世代に向けて、出版ビジネスを展開しています。

具体的には、「編集×営業×サイトチーム」で徹底したマーケティングを行い、「読者」と等身大の若い20代の編集者が、「作家×編集者」の二人三脚で作品を制作しています。この部分が当社の特徴で、他の出版社では営業と編集が1つのチームとしてマーケティングから一緒に行うことはあまりないそうです。」

5.「激動の教育業界の先導役にアスピレーションを感じずにいられるか」──学研の革命児Gakken LEAPに訊く、レガシーな産業&組織をDXする際の勘所 https://www.fastgrow.jp/articles/gakken-leap-hosoya-02
「学研グループにはもともと出版社がベースという強みがあります。現在も教育出版物だけで年間1000点以上の新刊本を出しています。このなかには、いかにして何を学び直すのかといった内容のコンテンツが数多くあります。こうしたコンテンツを広く提供できる、学研グループならではのメリットを生かすためにも、リカレント・リスキリング領域にフォーカスしました。」

「Shikaku Passはまさに大人向けのリカレント・リスキリング事業を具現化したサービスです。動画によるプロ講師の丁寧なレクチャーと頻出問題が厳選された過去問演習を、スマートフォンを使ってオンラインで学べる新しい学習サービスとして登場しました。(略)

今後は「デジタル(IT)」「金融」「英語(語学)」「専門知識」の4つをカバーするコンテンツを拡充していきます。」
・「Gakken LEAP」を設立!

学研グループがデジタル新社「Gakken LEAP」を設立! 教育の次世代ビジネス創出を目的にエンジニア集団を組織

6.一家に一冊あった「家庭の医学」 令和にスマホアプリへ進化 https://mainichi.jp/articles/20240106/k00/00m/020/021000c
「書籍を単に電子化したのではなく、オンラインのメリットを生かしたサービスが売りだ。

体調に不安を感じた際に検索欄に症状などを打ち込むと、可能性がある病気や受診の目安が確認できる。また、病院を検索することができるほか、会員限定でオンラインで専門家に相談できるサービスもある。」
・「みんなの家庭の医学」アプリ版

「みんなの家庭の医学」アプリ版リリースのお知らせ | 株式会社保健同人フロンティア

7.2023年コミック市場は6937億円 前年比2.5増と6年連続成長で過去最大を更新 ~ 出版科学研究所調べ https://hon.jp/news/1.0/0/46520

日本のコミック市場は2023年、電子書籍の割合を7割弱として、「紙+電子」合計で、6年連続の成長を見せました。
・日本のコミック市場推移(紙+電子)

8.縦読み漫画賞、賞金総額1億円が登場 高騰の背景は、クリエイター争奪戦とIPビジネスの競争激化 https://realsound.jp/book/2024/01/post-1556762.html
「昨今のいわゆるIP戦略とコンテンツビジネスは一発当たるとリターンが大きいのは事実である。

一本の漫画から、ドラマ、アニメ、ミュージカル、音楽などあらゆる分野に派生できるため、出版社以外の企業の参入も目立つ。各社、ヒット作を生み出せる新人を喉から手が出るほど欲しているようだ。企業が今後も新人発掘に力を入れていくことは間違いないし、より高額な賞金を出す新人賞が登場する可能性もあり得るだろう。」
・縦読み漫画賞、賞金総額1億円

(1) XユーザーのAmazon JP KDPさん: / X

9.TikTokフォトモードで漫画の売上3.5倍に!“漫画好き”を増やす、出版社の新たな試みとは? https://note.com/tiktok/n/n4f4c0d2b6a68
TikTokのフォトモードとは画像を手軽に投稿できる機能で、2枚以上、最大35枚までの画像とテキストを投稿できる。「フォトモード」を活用した「試し読み投稿」で、漫画の売り上げを伸ばした会社がある。

「ヒットの手応え、売上3.5倍に!
2023年7月、投稿を始めると、さっそく驚くべき現象が起こります。

『アンサングシンデレラ 病院薬剤師 葵みどり』の7月28日に行った投稿が、再生数570万回を超える人気となったのです。」
・『アンサングシンデレラ』のTikTok化

10.“ブラック・ジャック”の新作 生成AIで制作 報道関係者に公開 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231120/k10014263531000.html
「今回のプロジェクトは、生成AIを使ってブラック・ジャックの新作に挑むだけではなく「AIが人間の『創造性のサポート』にどれだけ貢献できるのか、その可能性と課題を探る」という「研究」も主なねらいです。

制作にあたっては、大きく2つの生成AIを使って人間と「協働」で作業を進めました。

大まかなストーリー作りには、テキストを生成するAIを、新たに登場するキャラクターの顔の造形のアイデアは画像生成AIを使用しました。」
・漫画制作の流れ

・生成AIによる出力結果

生成AIで「ブラック・ジャック」新作を AIの創造性 どこまで?