■「作品」であり「商品」でもある本を、どう扱うか?

問いの提示:「書店員による手書きPOP」のジレンマ

書店員による手書きPOP」の有効性が語られ、「物語」となり、全国にこの手法が普及していった、当の初発店BOOKS昭和堂ではしかし、ブームのきっかけを作った木下氏が「このブームを否定していたこと、やがてPOPを書かなくなり、書店の現場から離れていったことは、あまり知られていない。」

https://twitter.com/asahipress_com/status/301693863813324800

全国の書店員の投票で決める「本屋大賞」は2004年から。木下氏はその十数年後退職した(2016年1月)。

木下氏は、もともとこういったランキング主義、ベストセラー指向に違和感を覚えていたのだ。彼は書籍を「商品」としでだけでなく「作品」として扱いたかった。

〈読者が自分ひとりかもしれないという本にこそPOPを書く〉

〈新しさや部数の大きさでしかものを測れない人を軽蔑してください〉

〈「手書きPOPからベストセラー」は矛盾です〉
(津田沼駅前「BOOKS昭和堂」、閉店までの舞台裏 | メディア業界 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準 https://toyokeizai.net/articles/-/239253

ただ新しさや部数なしで、書店経営、販売ルートの維持は可能だろうか。

「作品」であり「商品」でもある本は、一体どうあつかうべきなのだろうか。

 

問いに対するAI時代の解:憎まれっ子アマゾンがやったこと

人間の手作業と、アルゴリズムによる作業。「収益を確保できなくなれば、書店は営業を終え」ざるを得ないとすると、到底人力はAIに勝てない。

アマゾンは、空間の制約のないネット上ではアンチ・ベストセラー指向である「ロングテール」機能を実装、具体化し、中小零細版元の救世主となっている。専門書の零細企業ではアマゾンのオンライン経由の売り上げが過半を占めるところもあるほど。アマゾンはつまり、「作品」である本に行きながらえる道を切り開いたのだ。「取次/書店」ルートではできないやりかたで。

究極の零細版元はいわゆる「自己出版」だが、自費出版した本が文学賞候補にまでなった事例を観ていると、アマゾンの流儀こそ「作品」を大事にできる方法論だと言いいたくもなってくる。

「既存の出版会社を通さず、Amazonのオンデマンド出版サービス「CreateSpace」で自己出版した書籍がフランスの文学賞「ルノードー賞」の候補に選ばれ」た。

「(候補となった)コスカス氏が過去に発表した作品はいずれも既存の出版会社から出版され、従来通りの販路を経由して書店に並んできたのですが、こと「Bande deFrançais(「ルノード賞」対象作品)」に関してはどの出版会社からも出版したいという意向が得られませんでした。そこでコスカス氏は仕方なく、CreateSpaceを通じて作品を発表することを強いられたといいます。」

もしCreateSpaceの仕組みがなければこの作品が世に出ることはなく、コスカス氏も作家としての活動を続けられなかったかもしれないほどの窮地に追いやられていました。
(Amazonで自費出版した本が文学賞候補に選ばれたことにフランスの書店団体が抗議の声を上げる - GIGAZINE https://gigazine.net/news/20180920-french-bookshop-revolt/)

その傍らでいま、空間の制約のあるリアル書店でアマゾンは、同じくデータを駆使したアルゴリズムによる作業で、ベストセラー指向を徹底させている。「レビュー★4つ以上の商品だけを販売する実店舗」をオープンし、リアル店舗の生き残る道(「作品」としての評価を元に、「商品」に仕上げるやりかたを開発)を指し示しているのだ。

(ニューヨークに「アマゾン 4スター」開店 書籍や家電の人気アイテムを集積│WWD JAPAN https://www.wwdjapan.com/708081
※ちなみに、「アマゾン 4スター」において書籍は豊富なラインナップのひとつに過ぎない。

新しい技術が引き起こした変化には、その新しい技術を使った対応が必須だ。

あのケヴィン・ケリーの指摘が思い出される。

アマゾンの最大の資産は、プライム配送サービスではなく、この20年にわたって集めた何百もの読者レビューだ。アマゾンの読者は、たとえ無料で読めるサービスが他にあったとしても、「キンドル読み放題」のような何でも読めるサービスにお金を払う。なぜならアマゾンにあるレビューのおかげで、自分の読みたい本が見つかるからだ。(『<インターネットの次>に来るもの』 第3章 Flowing )
(ケヴィン・ケリーが語る「本と読書と出版」 その2 | ちえのたね|詩想舎 http://society-zero.com/chienotane/archives/7781)

 


●ミッチェル・レズニック | インタビュー | Computer Science for ALL http://csforall.jp/interview/3130/
これは教育界での議論だが、出版界でも事態は一緒。
「技術は2つの役割を担っています。まず、技術は変化のペースを促進します。同時に、技術は適切に使われれば、変化の激しい社会を生き抜く創造的思考を育むツールであるとも言えます。」

●「我々はもはや出版社ではない」外資系デジタル・パブリッシャー、ハースト婦人画報社の今 :MarkeZine(マーケジン) https://markezine.jp/article/detail/29230
技術を適切に使い、「変化の激しい社会を生き抜く創造的思考を育」んだ会社の事例。
「ある時から「自分たちはもはや出版社ではない」と、自社の定義を変えました。「Webサイトも運営する雑誌出版社」でもなく、「雑誌も発行するデジタル・パブリッシャー」として、自身を捉えています。」

「360°戦略は、雑誌やWebサイト、SNS、イベント、ECなど、あらゆるチャネルや手段を用いて、コンテンツを発信していくものです。このメディアプラットフォーム上における読者・広告主・生活者とのタッチポイントをデータとして収集することで、360°戦略の大きな目的である「収益の多様化」に向けて、マネタイズを実現しています。」

 

●インスタグラムで『不思議の国のアリス』が読める!? NY公共図書館が「読書離れ」に独自の対抗策:MarkeZine(マーケジン) https://markezine.jp/article/detail/28935
産業としての「出版」は、「読書」習慣に裏付けられている。その「読書」習慣をめぐる社会環境も技術の力で変化のペースを加速させている。
ならば、その変化の対応も技術の適切な使用(仕様?)で見えてくる。米国の図書館業界はやっているよ、という事例。

「誰でも無料で小説を楽しめるこのInsta Novelsは、画像や動画をスライドショーのように見せることができるストーリー機能を活用したもの。物語を1ページずつ画像にして、画面をタップして読み進めていけるようにしたのです。」

 

●スマホの画面で記事をよりよく読んでもらうために - SmartNews Engineering Blog https://developer.smartnews.com/blog/2018/09/deep-insights/
「読む」はいまや紙面ではなかく、情報端末のスクリーン(スマホの画面)の上で行われる。スクリーンの民の時代にはそれにふさわしい対応は、スクリーンを産み出したIT技術を駆使して行うに如くはなし。SmartNewsの事例。記事の閲読体験のデータ分析が日夜行われている。

「スマートフォンでの記事閲読には、「紙面」にはない「ユーザーが記事を読みたくなるきっかけ」そして「記事を読むのを途中でやめてしまうタイミング」が存在します。」
「最初の 5 秒でユーザーが重要視しているのはサムネイルと記事の導入部分の文章」。

 

┃Others あるいは雑事・雑学
●出版物関係輸送懇談会 岐路に立つ出版物輸送|物流ニュース|物流ウィークリー|物流・運送・ロジスティクス業界の総合専門紙 https://weekly-net.co.jp/news/40259/

●Twitterで紹介された絶版本がバズって中古価格が高騰→気づいた出版社が緊急復刊「この流れ定着してほしい」 - Togetter https://togetter.com/li/1272168

●「広告事業しない」米Netflix、急ぐスマホシフト  :日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO35767410W8A920C1000000/

●「佐野の民話を後世に」 NPO法人理事長が電子書籍化 - 産経ニュース https://www.sankei.com/region/news/180926/rgn1809260012-n1.html