・紙と電子を合算した出版市場が4年ぶりのマイナス成長
(電子出版、1桁成長に鈍化 22年7.5%増 紙含めた市場、4年ぶり縮小)
■2022年、出版市場は再び軟化
出版市場は電子版を加えたベースで2018年を底に、前年比増加基調に転じたとされてきました。ところが、2022年再び前年比減少となりました。理由は電子版の軟化です。
21年まで2桁成長を続けていた電子版は「22年にブレーキがかかり、市場はいよいよ成熟期に入った感がある」(出版科学研究所)。ただその内訳をみると、電子コミックが8.9%増と伸びた一方で、電子書籍や電子雑誌は前年割れとなりました。
それで販売額で電子が雑誌を上回りました。雑誌の低落基調が再確認された格好です。同時に電子といってもその中心はコミックだった、ということでもありました。
・出版市場推移(2014~2022年)
・書籍/雑誌/電子(2014~2022年)
・電子市場内訳(2014~2022年)
■書籍に「不況」はなかった?
日本の出版市場の分析はむずかしい。データが入り組んでいるからです。林智彦(有斐閣Online編集部所属)氏はかつて、「雑誌扱いコミックス(注)」などを精査し、分析をした結果から、「出版不況」の言い方は「雑誌」に当てはまっても、「書籍」には当てはまらない、さらに「書籍」には「電子」という希望がありうる、としました。
「出版不況」再び--本・雑誌が売れないのは“活字離れ”のせい?
この記事が書かれたのが2014年、この当時(林氏の所属は朝日新聞社デジタル本部)、日本の出版市場(書籍+雑誌)で電子版が占める割合は1割に満たなかったのですが、その後、林氏の見立てをデフォルメするような勢いで、日本の電子化は進んできました。
注:コミック単行本(書籍)には雑誌コードが付与されている場合があります。買い手に全く関係ない話ですが、雑誌コードがついたコミック(雑誌扱いコミックス)は、一般の書籍とは異なる(雑誌なみの)扱いを受けます。具体的には、書店への入荷が、書籍は取次が割り振った部数でしか入荷しない、場合によっては入荷がそもそもないのに対し、雑誌なら取り扱い書店へ出版社が指定した発売日にほぼ正確に入荷されます。返本でも扱いが異なります。
たとえば新刊と同時に(数ヶ月の差は許容範囲)に電子版が出る(サイマル出版)ことが、だんだん当たり前になってきています。
サイマル出版率は出版年別で、2017年29.6%、2018年31. 2%、2019年33.2%
日本における電子書籍化の現状(2020年版) 国立国会図書館
そしてついに、新刊時の電子化のみならず、購買という観点でも「3割超え」を、2022年果たしました。日本の出版市場(書籍+雑誌)において、電子版の占める割合が31%となったのでした。欧米など海外の出版市場で同様の数値は2割程度で推移しているのですから、ある種、快挙ともいえます。
・書籍・雑誌・電子の比率推移
しかしこの過程で、今度は「雑誌 対 書籍」の弁別より、「コミック 対 非コミック」の区分が重要となってきていて、市場は次の局面へ移ったと言えそうです。
■「雑誌 対 書籍」の分析軸より、「コミック 対 非コミック」の分析軸
林氏が精緻な市場分析に依拠したのは、『出版指標年報』の「コミックス(書籍扱い+雑誌扱い)」などのデータでした。他方、同じ『出版指標年報』に、「コミック市場全体(紙版+電子)」というデータがあり、そこには「紙版(コミック)/紙版(コミック誌)/電子(電子コミック誌を含む)」の数値が、2014年以降記載されています。
・コミック市場内訳
この数値を使い、分析し直すと、
・電子版がコミックを浮上させ、それが出版全体を押し上げていた
・電子化は必ずしも「書籍(非コミック)」の浮揚に寄与してくれなかった
この二点がわかります。
「雑誌 対 書籍」の分析軸より、「コミック 対 非コミック」の分析軸のほうが、いまは重要です。順にみていきましょう。
■コミック(紙+電子)が非コミック書籍(紙+電子)を追い抜いていく
『出版指標年報』が「紙版(コミック)/紙版(コミック誌)/電子(電子コミック誌を含む)」の数値を開示していて、同時に別の箇所で「電子市場」の数値を公表していますがそこに、「書籍/雑誌/コミック(誌を含む)」の区分があります。つまり、『出版指標年報』の「電子書籍」では、はじめからコミック電子版がはずされています。
そこで「書籍(紙)」から「紙版(コミック)」を差し引き、「電子書籍」を足し上げる。するとその数値は(「電子書籍」では、はじめからコミック電子版がはずされているので)「非コミック(書籍)」となります。同様に、「雑誌(紙)」から「紙版(コミック誌)」を差し引き、「電子雑誌」を足し上げるとそれは、「非コミック(雑誌)」です。
これで、「コミック/非コミック書籍/非コミック雑誌」のジャンル区分、データができあがります(「紙+電子」ベース)。
これでみると、なんと2020年に、コミック(紙+電子)が「非コミック書籍」、「非コミック雑誌」を超えていて、その後も快進撃を続けています。(林氏が行った「雑誌扱いコミックス」の処理はしていません)
・(紙+電子)のジャンル別推移
・同上 棒グラフ
■「コミック」が日本の出版市場の4割超え
海外の出版事情に詳しい専門家に聞くと、欧米では、
・「紙+電子」ベースの市場規模はおおむね横ばい推移
・小説、児童書、専門書などのジャンル別構成比が電子版と紙版とであまり変わらない
のだそう。
ところが、日本は違います。
・90年後半以降、全体の市場規模は基本凋落傾向
・電子が気を吐いているが、電子出版市場は、ニヤリーイコールコミック市場
結果、「電子化は必ずしも「書籍(非コミック)」の浮揚に寄与してくれなかった」ことがわかります。
あらためて2022年を「雑誌 対 書籍」の分析軸でみた場合と、「コミック 対 非コミック」の分析軸でみた場合とを比較すると次のような円グラフとなります。
「紙+電子」ベースで、「コミック」が日本の出版市場の4割を超え伸びてきたのが2022年でした。
・2022年出版市場構成A:「雑誌対書籍」の分析軸
・2022年出版市場構成B:「コミック対非コミック」の分析軸