出版業界と読書バリアフリー法

■読書バリアフリー法関連年表

2013年6月 マラケシュ条約の採択
2018年4月 日本の同条約締結に関わる手続き完了(発効2019年1月

2013年6月 障害者差別解消法制定(施行2016年4月)
2016年3月 JISX8341-3:2016が施行(ホームページ等を高齢者や障害者を含む誰もが利用できるものとするための規格)

2018年5月 著作権法の改正(施行2019年1月

2019年6月 読書バリアフリー法制定・施行
2019年11月 視覚障害者等の読書環境の整備の推進に係る関係者協議会の発足

2019年11月 国立国会図書館が「読書困難者」のための書籍データ(録音図書データ、点字データ、テキストデータなど)の国際交換サービスを開始

2020年7月 読書バリアフリー法基本計画策定

2021年1月 経済産業省が読書バリアフリー環境に向けた電子書籍市場の拡大等に関する調査を実施

2021年9月 アクセシブル・ブックス・サポートセンター(ABSC)準備会が発足


視覚障害者等=視覚障害、発達障害、肢体不自由等の障害により、書籍について、視覚による表現の認識が困難な者

アクセシブルな電子書籍=デイジー図書・音声読上げ対応の電子書籍・オーディオブック等
アクセシブルな書籍=点字図書・拡大図書等


 

■出版業界と読書バリアフリー法

マラケシュ条約

国連総会は、2006年12月13日に「障害のある人の権利に関する条約」を採択した。障害者は、法律上、健常者と同じ権利を持つとされるが、実際は、雇用、教育、保健・医療、法的権利行使等の面で差別を受けている。この条約は加盟国に対し、障害者保護への取り組みを求めた。

これを受け、情報と知識へのアクセスを保障する目的で採択されたのが「マラケシュ条約」で、人権に知的所有権を結びつけたと言われる。日本での発効は2019年1月だったが、これを見越して、障害者差別解消法(人権の側面)が2016年4月に施行され、また著作権(知的所有権の側面)の改正が2019年1月に発効している。

 

障害者差別解消法

まず障害者差別解消法では、行政機関等に障害者への合理的な配慮を義務づけ、合理的な配慮の的確な提供のための基礎的環境整備(事前的改善措置)に努めることとされた。公立図書館にも適用され、合理的な配慮の一環として、アクセシブルな書籍やアクセシブルな電子書籍を整備することも努力目標となった。

 

著作権法改正

次に2018年の第196回通常国会において、「マラケシュ条約」締結の承認とともに、著作権法(昭和45年法律第48号)の改正が行われ、2019年1月1日に施行された。これにより、視覚障害者等のために書籍の音訳等を権利者の許諾なく行うことができる団体等について、障害者施設、図書館等の公共施設の設置者や文化庁長官が個別に指定する者に加え、新たに、一定の要件を満たすボランティア団体等も対象とされることとなった。

しかしなかなか、出版活動を通じたアクセシブルな書籍やアクセシブルな電子書籍は増えてこなかった。また、図書館やボランティア団体が著作権処理から解放されても、アクセシブルな書籍・電子書籍を作成する上で必要な「テキストデータ」を作成する作業が、なお大きな壁として残っていた。

実は第196回通常国会での改正著作権法に係る国会での審議の際、「視覚障害者等の読書の機会の充実を図るためには、当該視覚障害者等のためのインターネット上も含めた図書館サービ ス等の提供体制の強化、アクセシブルな電子書籍の販売等の促進その他の環境 整備も重要である」との附帯決議がなされていた。

 

読書バリアフリー法

そこで、情報と知識へのアクセス、すなわちアクセシビリティを具体的に担保すべく成立したのが「読書バリアフリー法」で、アクセシブルな書籍やアクセシブルな電子書籍の刊行が増えるよう、具体的な計画策定を国と地方公共団体に命じている。さらに、アクセシブルな書籍等を制作する、登録された制作者に対し、出版者からのテキストデータの提供を促すよう、国と地方公共団体に求めている。

 

買う自由とJISX8341-3:2016

ちなみに「借りる権利」とともに「買う自由」をも目標に掲げた「読書バリアフリー法」だが、その実現には「データ形式」「販売サイト」「ビューア」のすべてがアクセシブルであることが求められる。サイトあるいはビューアに必要な機能として以下のようなものが想定される

「音声購入」=音声読み上げ機能を用いて、ストアに行き本を購入することができる
「音声書棚」=音声読み上げ機能を用いて、書棚を開き、書籍を選択できる
「音声読み順」=音声読み上げ機能を用いて、表示されている順序で読むことができる
「音声位置指定」=指定した箇所から、音声読み上げ機能を用いて読み進めることができる

この点では2016年4月の障害者差別解消法の施行を前に、2016年3月、JISX8341-3(ウェブ・アクセシビリティに関する日本工業規格)が改正され、61項目の達成基準が設けられている。

しかし、2020年にカレントアウェアネスが実行した調査では、EBSCO社やElsevier社が運営している販売サイト(Webサイト)のアクセシビリティと異なり、「国内の電子書籍サービスのアクセシビリティは、十全といえない」状況にある。

「EBSCO社の電子書籍サービスでは,本文を含むテキストが読み上げ可能なだけでなく、全盲・弱視・色覚障害・ディスレクシア・聴覚障害等のそれぞれの障害に応じたサービス使用方法が説明されていた。またElsevier社が運営するScience Directにおいても同様で,本文テキストの読み上げに加えて、様々な種類の障害への配慮がなされているようである。」
(E2280 - 電子書籍サービスのスクリーンリーダー対応状況について | カレントアウェアネス・ポータル https://current.ndl.go.jp/e2280

 

海外とのテキストデータの交換

「マラケシュ条約」成立の契機として、先進国のアクセシブルな読書データを途上国で使えるようにするというニーズもあり、締結国相互での国際交換サービス開始が求められていた。これに対して2019年11月19日、国立国会図書館(NDL)が録音図書データ、点字データ、テキストデータなどの海外からの取り寄せと、日本からの海外提供を開始した。

 

■関連URL

・JISX8341-3:2016(ウェブ・アクセシビリティに関する日本工業規格)
https://waic.jp/docs/jis2016/test-guidelines/201604/gcl_example.html

・読書バリアフリー環境に向けた電子書籍市場の拡大等に関する調査
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/contents/2021dokubarireport.html

・アクセシブル・ブックス・サポートセンターとは?

アクセシブル・ブックス・サポートセンター(ABSC)について

・JEPA| 読書バリアフリー法とは?
https://www.jepa.or.jp/ebookpedia/202205_5632/

・アクセシブルな出版物の制作 出版社のためのベストプラクティスガイドライン (Accessible Books Consortium)
https://code.kzakza.com/2014/12/accessible_best_practice_guidelines_for_publishers_ver4/