●書店の未来と新しい社会システムの行方

■アルゴリズムで創られていく社会システムとの具合のいい塩梅

解剖学者の養老孟司氏が、ある本の解説文の中で、現代社会は、自然発生的な社会システムとアルゴリズムで創られていく社会システムとの拮抗、具合のいい塩梅を探っている段階にある、と書いていました。

アルゴリズムで創られていく社会システムとは、スマホに代表される情報技術が変えつつある日常生活、そしてそのイメージの裏側にある、計算や手続きで成立し、合理的なことをよしとする、社会システムのことです。経済や流通、通信分野はどんどん「新しい社会システム」へシフトして行っています。

しかし分野により、また国や民族、宗教により、アルゴリズムで創られていく、「新しい社会」へのシフト状況は様々で、かつ受け入れ、飲み込める程度は異なっています。

出版分野、また書店や本好き人種はどうなのでしょう。

「読書」という営為そのものや書店のあり方はなお、混迷のただ中だといっていいでしょうか。

ところでmorioka(盛岡市)がニューヨーク・タイムズの「2023年に行くべき52カ所」で、ロンドンに続く2番目に選ばれたのをご存じですか。しかも市内のある書店がこの栄誉に寄与していたことを。


●NYタイムズ「行くべき52カ所」にあの東北都市 ロバート・キャンベル「目の付け所は心憎い」 https://www.j-cast.com/tv/2023/01/17454265.html?p=all


その書店とは「BookNerd」。

大型書店のように豊富な種類の新刊本を陳列するのではなく、店主が厳選した本を置くスタイル、いわゆる独立系書店のひとつです。

「新刊本だけでなく古書も置いていますし、和書だけでなく洋書も取り揃えています。また、一般的に流通していないようなリトルプレスも取り扱っています。」

ブックナード(booknerd)のオーナー、脱サラで起業した早坂大輔さんへのインタビュー記事をまとめた、未来定番研究所・小林さんは、

「資本主義社会」化された街から逃げて、風情のある街へ

身の丈にあったお金があればいい、自分が感じる幸せの基準が変わっていく

といったフレーズを記事に盛り込んでいます。

また早坂大輔さんが起業するに際し参考にした、「一箱本棚オーナー制度」は現在全国30箇所近くまで広がりはじめてもいて、小さな公共圏の広がりとも呼ばれていたりします。

「BookNerd」や「一箱本棚オーナー制度」の活動は、「自然発生的な社会システムと、アルゴリズムで創られていく社会システムとの拮抗、具合のいい塩梅」を探るひとつの事例としても読めるのではないでしょうか。なぜそういえるのか。今回の書店を考える、「知恵クリップ」をどうぞご確認ください。

#公共圏 #書店 #BookNerd #ブックナード #アルゴリズム #社会システム #養老孟司 #一箱本棚オーナー

 

■知恵クリップ

●〈BOOKNERD〉早坂大輔さんに聞く、逃げるが恥ではないこれからの生き方について。 https://fin.miraiteiban.jp/booknerd/
「本のセレクトや置き方で大型書店では気づかなかった驚きや発見」を求めて開業した本屋さん。

「興味が広がっていき、思いがけない出会いが生まれたらいいな、と思って本を揃えています。

例えば、村上 春樹さんの小説が原作の映画『ドライブ・マイ・カー』が話題になっていますよね。その小説の隣に、映画監督の濱口 竜介さんが書いた本を置いています。そういう関連性がどんどんつながって、グルーヴ(註:高揚感)になっていく。」


岩手〈BOOKNERD〉アメリカの息吹が感じられる本のラインナップ | ブルータス| BRUTUS.jp

 

●図書館に「自分だけの本棚」を持てる。静岡発の一箱本棚オーナー制度とは https://forbesjapan.com/articles/detail/49568
「現在の「公共」は消費者民主主義的であり、市民がお客さま化している。自治体が縮小し、これまで当たり前のように享受できていた公共サービスを維持できなくなっていく時代はすぐそこまできている。土肥氏は「お客さま的な意識から抜け出せなかった街は、未来がなくなってしまう」と危機感を持つ。」

・箱ごとにテーマに基づいた選書と思い思いのディスプレイがなされている

・一箱本棚オーナー制度導入の民間図書館

変わる図書館:一棚ごとにオーナーがいるシェア図書館が盛況 北條一浩 | 週刊エコノミスト Online

・一箱本棚オーナー | みんなの図書館さんかく https://www.sancacu.com/blank-1

・みんとしょネットワーク | まちが育て、まちを育てる。 https://sancacu.org/
「以下の3つの条件を満たしていれば、ネットワークに参加することができます。

本の貸し出しを行っていること
一箱本棚オーナー制度を導入していること
政治活動、宗教活動、投資、マルチ商法等の勧誘行為を目的としていないこと」

 

●本を貸す人がお金を払う?「誰でも司書」の私設図書館が全国に拡大 https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00616/00008/
「自分の好きなものや世界観を人に伝えられるなら、多少、身銭を切っても構わないと考える人は少なくない。「お金を払うことでオーナー自身に、『この図書館は自分の居場所。定期的に通い、主体的に運営に携わろう』との当事者意識が芽生えると考えた。そこであえて月額2000円という、多少、負担感がある金額を設定しました」

 

 

●本が読み放題なのに、月1,000万円の売上がある「本屋」さんのヒミツ https://topics.tbs.co.jp/article/detail/?id=17323
「本屋の多角化」発想の一つのモデル。つまり、売上の構成として本の販売は2割。6割が飲食の売上やイベント代、そして選書サービス。ただし、カフェと本屋の併設はよくある風景、また作家や専門家によるイベントも普通の本屋でよく見かける。ここの特徴は棚作りと読書耽溺の場作りでもって、入場料をとるところ。

しかし逆に言うと、入場料を払ってでも来るくらい読書好き、本好きを集客しても、本の売り上げは2割にとどまっている、とも言える。

 

●出版業界事情 :本に触れる機会の地域差拡大に次善の策を https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20230110/se1/00m/020/015000c
「全国の26.2%の市町村には新刊書店がない」。そのうえ地域格差、偏重も著しい。たとえば、「岩波書店や筑摩書房、みすず書房など多くの出版社の創業者を輩出し、「日本の出版王国」とも呼ばれる長野県で51.9%の自治体に書店がない」。

・書店ゼロの市町村

「書店ゼロ」全市町村の26%に 書店数は10年で3割減 | 毎日新聞

 

●文前大統領、まちの本屋開く…「本屋さん」として住民とコミュニケーション http://japan.hani.co.kr/arti/culture/45662.html
「文前大統領が構想している本屋は、単に本を売る機能的空間を越えて、良い本を勧め、本を媒介に対話が続く交流と省察の場だ。文前大統領は「本屋独自のコンセプトを作り、このコンセプトに共感する方々が本屋に来て本を購入していく、そのような本屋にするのが良いのではないかと思う」としたうえで、「著者と読者と会って対話する本屋、本を読む友人たちが訪問し討論する本屋にしたい」と話した。

 

●「書店超える」夢見て45年 子どもの本専門店「クレヨンハウス」 https://www.tokyo-np.co.jp/article/72832
「「利幅の薄い書店を都心に店を借りてやるのは無謀。長続きはしない」と言われた状況を好転させたのが、仕入れルートの改革だった。取次と呼ばれる問屋に高額の保証金を払い、売れ筋の本を見計らって配送してもらい、売れ残ったら返品するという既存の方法を見直し、出版社などと直接交渉し、自ら選書し買い取るという流通組織「子どもの文化普及協会」を立ち上げて三十六年。」

 

●Z世代が選ぶ「一度はやってみたいバイト」 3位「書店」、2位「ペットショップ」、1位は? https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2301/17/news069.html
「回答者からは「本を読むことが好きだから、新しい本との出会いがあればうれしい」「本が好きだから本を扱う仕事を経験してみたい」といった声のほか、「新作マンガが読めそう」「本屋さんにいれば新刊がわかる」といった声もあった。」