第5回 民主主義の死に方:合法的に殺されるシステム

◎資本主義はなぜ民主主義を捨てるのか――権威主義への静かな変異◎

第4回で考察した「資本主義の脆弱性」ゆえに、人々が議論を捨て、即断即決の「権威」を渇望し始めたとき、政治制度は具体的にどのような末路を辿るのか。ここからは、制度が内側から壊されていく「技術的プロセス」を検証する。

現代における民主主義の崩壊は、もはや戦車が街を埋め尽くすクーデターによってではなく、投票箱を通じた「合法的」なプロセスによって引き起こされる。

ハーバード大学教授のスティーブン・レビツキーとダニエル・ジブラットは、その著書『民主主義の死に方』(2018年刊)において、かつての独裁者のように憲法を即座に破棄するのではなく、制度を内側から腐敗させる「静かなる死」のメカニズムを解明した。

彼らが提示する「独裁者の4つの警告サイン(指標)」は、かつてのフアン・リンスによる古典的理論を現代へとアップデートしたものである。

第一に「民主主義のルールを言葉や行動で拒絶する」、
第二に「対立相手の正当性を否定する」、
第三に「暴力を許容または促進する」、
そして第四に「メディアを含む相手の市民的自由を奪う意思を示す」という点である。

レビツキーらは、トランプ氏が2016年の当選以前からこれら全ての項目に合致していた極めて稀な政治家であったと断じている。

本書の核心的な論理展開は、民主主義を支えるのは成文化された憲法(ハード・ガードレール)だけではなく、「相互的寛容(相手を正当な競争相手と認めること)」と「制度的自制(法的権限を行使できる場合でも、その精神に則りあえて控えること)」という二つの「ソフト・ガードレール(不文律)」であるという点にある。これら二つの規範が、政治競争が「殺し合い」に発展するのを防いできた。

しかし、ひとたび扇動者が権力を握ると、彼らは「審判を抱き込む(司法や法の執行機関の武器化)」、「対立候補をサイドラインに追いやる」、「選挙ルールそのものを書き換える」という3段階のステップを踏み、合法的な顔を保ったまま実質的な独裁体制へと移行する。

彼らは、2018年1月の『ガーディアン』紙への寄稿でこう述べている。「民主主義の暗殺者は、民主主義そのものの制度を——徐々に、巧妙に、そして合法的に——それ(民主主義)を殺すために使用する」。

『民主主義の死に方』

『民主主義の死に方―二極化する政治が招く独裁への道―』 スティーブン・レビツキー、ダニエル・ジブラット

■目次構成

はじめに_資本主義はなぜ民主主義を捨てるのか
第1回 双子の離別:資本主義が自由を捨てるとき
第2回 星条旗の亀裂:トランプが仕掛ける政治革命
第3回 自由の衰退:フリーダムハウスが鳴らす警鐘
第4回 資本主義の脆弱性(=権威主義への転換しやすさ)」の正体
第5回 民主主義の死に方:合法的に殺されるシステム
第6回 2025年の悪夢:民主主義のハッキング
第7回 ベネズエラの激震:2026年1月、侵攻の真実
おわりに_資本主義はなぜ民主主義を捨てるのか