AI・動画時代 「思考のOS」を育てることこそ

◎これはクリップ集です◎

これまで「読書離れ」は大人の問題とされ、日本の義務教育課程は読書習慣をよく育ててきました。しかし、その状況に変化が訪れています。動画とAIが日本の子どもたちの学習環境を揺るがしています。

1.「読書が好き」の低下が示す基盤の揺らぎ

全国学校図書館協議会の「学校読書調査2025」は、日本の読書環境が明確な転換点にあることを示しています。不読率は小中高すべてで上昇し、とりわけ高校生では半数超が月に一冊も本を読まない状況。もっと注目すべきは、単なる冊数の減少ではなく、「全国学⼒・学習状況調査」の調査での「読書が好き」という意識や読書時間そのものが低下している点(下記知恵クリップ)です。言語を通じて世界を理解する力の基盤が、揺らごうとしています。

●読書は好きですか

小学生の「当てはまる」の回答率
令和7年  36.6%
令和4年  42.1%
平成31年 44.4%
平成29年 49.1%
平成28年 49.5%
平成27年 49.0%
中学生の「当てはまる」の回答率
令和7年  30.4%
令和4年  38.0%
平成31年 39.1%
平成29年 46.2%
平成28年 46.6%
平成27年 45.0%
全国学力・学習状況調査 「結果読書は好きですか」

・毎年5月一ヶ月の読書冊数を調べてきた

・不読者(月に一冊も読まない)の割合の推移

「学校読書調査」の結果|全国学校図書館協議会

2.動画とAIの時代に「思考」を育てる

現代の子どもたちは、SNSや学習端末を通じて膨大な動画環境の中にいます。動画経由の理解は、あらかじめ設計されたルートを追体験する「受動的」な側面を持ちます。対して読書は、立ち止まり、戻り、問い直しながら自ら意味を構築する「能動的」な営みです。Forbes JAPANが指摘するように、読書は認知的主体性を育てます。生成AIは効率を高める一方、即答の環境ゆえに「分かったつもり(メタ認知的怠惰)」を生みやすく、思考の過程を省略させます。さらに生成AI活用故の提出物の完成度だけで、学習者の理解度を測ることが困難になっており、深い読書とメタ認知のつながりを追い求める必要性が増しています。

3.「夢中」をどう育てるか

ここで示唆的なのが、元陸上選手・為末大氏の「努力は夢中に勝てない」という視点です。外的な「努力」は持続しにくいですが、内発的に「夢中」になった状態では、人は自ら問いを深め、試行錯誤を楽しみます。読書習慣の衰退を「努力不足」と断じるのではなく、読書そのものが探究の入り口となるような経験設計が求められます。読書が評価のための義務ではなく、世界を理解する「喜び」へと結びつくとき、習慣は持続可能なものとなることでしょう。

4.AI時代のリテラシーと教育の再設計

さてAI時代にはまた、効率化と主体性の両立が課題です。東京都教育委員会がリテラシー教材を整備しているのは、思考の基盤を保ちつつ、AIを道具として活用する力を育てるためです。そしてエストニアでは、チャットボット導入と同時に「評価制度の再設計」を進めています。これは、答えの正確さだけでなく、「問いを立て、構造化し、試行錯誤するプロセス」を評価の対象に据えようとする試みで、一段高い視点からの教育の再設計チャレンジです。

5.読書と「思考のOS」

もうひとつ、母語で深く考える力は、第二言語の運用や国際的な発信力の土台(OS)となるでしょう。いま求められているのは、単に読書を守ることではありません。「夢中になれる読書体験」を学校教育の中にどう再実装するかという視点です。AIと動画が前提となる環境だからこそ、読書を通じて問いを立て、意味を編み直し、他者と対話する力を育てることが、教育の核心的課題となっているのかもしれません。

 

 

■知恵クリップ


●「活字離れしていない」は大人の願望か 子どもと読書 https://bookplus.nikkei.com/atcl/column/121900626/121900001/
1995~2001年の頃に比べ、2004~2019年ころまでは、不読率は低下したものの、足下までの2021~2024年までの期間には悪化傾向が如実。
「特に最新の2025年調査の不読率は衝撃的で、小学生の不読率9.6%は2002年以降の24年間で最高値であり、4年連続の増加です。中学生の不読率24.2%も2006年以降の20年間で最高値です。
驚いたのは高校生で、2024年調査の48.3%から7.4ポイントも増加し、55.7%となっています。」
・小中高校生の「不読率」の推移(1995~2025年)

●子どもこそ「本を読む時間」がない? 皮肉な現実 https://bookplus.nikkei.com/atcl/column/121900626/121900002/
「しかしこのデータが示しているのは、その「読書が好き」という根本部分から瓦解しているかもしれない、ということです。これがより進行すれば、もう読書文化そのものが立ち直れないのではないか、と危ぶむ気持ちが湧いてきます。」
・「読書が好き」は減っている(1995~2025年)

・「読書時間」も減っている(1995~2025年)

 

●読書格差と能力格差 子どもと読書を考える https://bookplus.nikkei.com/atcl/column/121900626/121900003/
大学生の読書傾向は二極分化傾向に。
2011年から2024年への変化で見ると、
「0分(不読):36.7% → 45.6%(8.9ポイントの増加)
30分未満(0除く):15.1% → 7.8%(7.3ポイントの減少)
30~60分未満:19.6% → 10.3%(9.3ポイントの減少)
60~120分未満:14.9% → 16.2%(1.3ポイントの増加)
120分以上:5.6% → 7.4%(1.8ポイントの増加)」
・大学生の読書傾向

●TikTok世代の子どもたちに読書習慣を取り戻す方法 https://forbesjapan.com/articles/detail/90688
「しかし、読書には異なる筋肉が必要だ。TikTok学習が直線的である一方、読書は動的だ。優れた読者はテキストをスキャンし、先に進み、数段落または数ページ戻り、関連するセクションを巧みに選び出す。読書は思考の道筋を構築することで認知的主体性を育むが、動画は独自の道筋を指示する。」

●科学研究に英語の壁、日本やスペインは論文却下2倍超 AIで克服へ https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF0668R0W6A100C2000000/
「研究者の母語が英語でないと、論文の出版数が最大で7割も減る「共通語」の利点を享受しつつ、科学の発展を阻む恐れもある言葉の障壁を下げる工夫が求められます。」
・英語の能力が科学研究に影響する

・科学における共通語の変遷

●立ちすくむ日本を動かす教育とは何か―AI時代に求められる「問い」と言語の力 https://wedge.ismedia.jp/articles/-/40220?page=3
「幼少期から母国語で「考え、問い、構造化し、他者を動かす」訓練を積んでいるからこそ、第二言語は“道具”として機能する。思考のOSが未成熟なままでは、どれほど語学を積み上げても、表層的な運用にとどまる。その延長が、国際社会の中で立ちすくむ日本を裏で演出している危機感さえある。」

●提出物の見栄えが良くなるほど学習不足が見えにくくなる:教育とICT Online https://project.nikkeibp.co.jp/pc/atcl/19/06/21/00003/021300697/
「生成AIが疑問に即答してくれる環境では、学習者が自分の理解度を点検して誤りに気付き、学び方を調整する力(メタ認知)が働きにくくなる。分かったつもりで学びを先に進めても、後になって理解していないことが分かるといったことを、報告書は「メタ認知的怠惰(metacognitive laziness)」と表現する。生成AIを使うことが悪いのではなく、解法の筋道を自分のものにしないまま課題を片付けてしまうことで、短期的な効率が長期的な学力を奪ってしまうことが問題だとした。」

●努力は夢中に勝てないのはなぜか|Dai Tamesue(為末大) https://note.com/daitamesue/n/n52f1062959f0
「努力では集中が弱い。夢中は本当に深く集中に入るので、得られるものも、出せる効果も大きいわけです。
(略)
夢中とは意識無意識も含めた身体の総動員体制です。人間は無意識の世界の方が大きい。そこも含めてある対象に対し入り込んでいき、対象そのものと一体混然となる。それが夢中です。」

●エストニアが全国高校で教育用チャットボット導入へ https://biz.chosun.com/jp/jp-international/2026/01/02/T4NHE73B3BFJTEL5AOZ2HD47QI/
「単にAI学習ツールを学校に配布することを超え、授業方式と評価構造、教員の役割まで再設計することを目標とする。近年、学生は学習過程でAI基盤アプリケーションを広く活用しており、無分別な活用が思考力と学習能力を損なう恐れがあるという問題意識が存在した。」

●都内学校生成AI|情報教育ポータルサイト https://infoedu.metro.tokyo.lg.jp/GenAI/materials_top.html
東京都教育委員会が、都内公立学校において、生成AIの特性や利用上の注意点、効果的な活用方法を学ぶための「生成AIリテラシー教材」を作成。

●教育AI活用協会、小学生向け「生成AIリテラシー」動画教材を公開 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000030.000161501.html
「特に小学校段階では、発達段階を踏まえた丁寧な導入と体験を通した理解の形成が重要です。本教材は、文部科学省が示す生成AI利活用の考え方を踏まえ、
・生成AIそのものを学ぶこと
・正しい使い方・向き合い方を学ぶこと
の2点に重点を置き、「生成AIに振り回される」のではなく、“道具として適切に扱う姿勢”を身につけることを目指して設計しています。」