◎資本主義はなぜ民主主義を捨てるのか――権威主義への静かな変異◎
民主主義のショーケースだったはずの米国で、異変が起きている。
かつてブランコ・ミラノヴィッチは『資本主義だけが残った』で、ふたつの資本主義のうち、最後に収斂していくのが権威的資本主義ではないかとしつつ、それは米国で、である可能性を示唆していた。
つまりトランプ現象とは、単なる一政治家のポピュリズムではない。
トランプ現象を、第1回で整理した「権威主義的資本主義」への5つの指標に照らしてみよう。トランプ氏はリベラルな資本主義の前提を内側から解体し始めている。
まず注目すべきは、「政治的決定の独占」と「法の支配の恣意性」の合致である。行政機構の忠誠心に基づく再編(スケジュールFの導入※)は、専門知に基づく官僚制を無効化し、大統領個人の意志を直通させる。これは法の普遍性を「敵か味方か」という私的な裁定へと変質させる試みである。
※連邦政府の専門官僚を「身分保障制度」対象から外し、大統領が容易に解雇・入れ替えできるようにし、大統領への従順さを求めた人事制度改革案。
・トランプ氏の「スケジュールF」はアメリカ政府をどう変え得るのか?-日米の公務員制度比較を踏まえた分析 https://www.murc.jp/library/report/seiken_240401/
また、「市民社会の抑圧」は、物理的な暴力ではなく、メディアを「国民の敵」と再定義するレトリックや、情報空間の分断を通じて達成される。トランプ支持層を突き動かすのは、グローバル資本主義が生み出した「格差」と、そこから生じる「共通の敵」への強い怨恨である。
さらに、「国有・縁故企業の支配」に類する動きとして、特定のIT巨人やエネルギー産業との密接な連携、保護主義的関税による市場の歪曲が見られる。これは自由競争よりも「忠誠」と「成果」を優先する権威主義の論理に他ならない。
最後にして最大の変容は、「正当性の根拠」の移行である。トランプ氏は、複雑な法的手続きを「エリートのまやかし」と断じ、大統領が体現する「民意」という名の独断を、あらゆる制度に優先させる。この「静かなる変異」は、自由主義の内部で育てられた資本主義が、自らの母体である民主主義を食い破るプロセスを、我々に突きつけている。
・ブランコ・ミラノヴィッチ「『資本主義だけ残った』

(ブランコ・ミラノヴィッチ「『資本主義だけ残った』:フランス語版出版に際して、マリアンヌ紙によるインタビュー」)
■目次構成
はじめに_資本主義はなぜ民主主義を捨てるのか
第1回 双子の離別:資本主義が自由を捨てるとき
第2回 星条旗の亀裂:トランプが仕掛ける政治革命
第3回 自由の衰退:フリーダムハウスが鳴らす警鐘
第4回 資本主義の脆弱性(=権威主義への転換しやすさ)」の正体
第5回 民主主義の死に方:合法的に殺されるシステム
第6回 2025年の悪夢:民主主義のハッキング
第7回 ベネズエラの激震:2026年1月、侵攻の真実
おわりに_資本主義はなぜ民主主義を捨てるのか






