日本の教育情報化遅滞や情報機器死蔵率【セミナー備忘録】

GKB48主催の「これからの「教育」の話をしよう2・3出版記念会」で行われた講演。

(個人用のメモです。議事録ではありません。記事中の図画で、引用元を表記していないものはプレゼン公開資料を使用しています。今回特に豊福晋平さんにお願いをして、特別にプレゼン資料をアップロードしていただきました。先生、ありがとうございました。)

私の3歳の孫娘はテレビをスワイプしようとします。ハハ、おかしいですね。でもそれくらい、スマホ画面でのスワイプがこの娘にとって「日常」になっているのですね。

もうひとつ。21世紀は20世紀のメディアの雄、映画とテレビが「書籍化」した時代だということをご存知ですか。クラウドに映画とテレビの映像が格納され、「いつでも、どこでも」鑑賞できるようになりました。20世紀、映画もテレビも、決まった時間に決まった場所に行かなければ見ることはできませんでした。この点、本は「いつでも、どこでも」でした。21世紀、映画とテレビが「書籍化」した社会を私たちは生きています。

このふたつのエピソードを踏まえて、豊福晋平さんのご講演の内容をふりかえってみたいと思います。

■記念会概要

これからの「教育」の話をしよう2出版記念会』

これからの「教育」、未来の教育のあり方、ICT教育、教育改革、学校広報などに関心を持たれているたくさんの方の参加をお待ちしております。

【開催会場】
インプレスグループセミナールーム
(神保町三井ビルディング23F)

【開催内容・タイムスケジュール】
18:00〜受付開始
18:30〜第一部(セミナールーム)
◆開催及び出版のあいさつ
◆スペシャルトーク①「教育改革×アクティブ・ラーニングを本音で語る」 藤牧 朗さん
◆スペシャルトーク②「情報機器の学校死蔵率はどうすれば下がるのか」 豊福 晋平さん
◆三井さんによる「強み引き出しセッション」実践
◆第一部閉会あいさつ
20:00〜第二部(懇親会・ラウンジ)

■豊島 晋平・プロフィール

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター 准教授・主幹研究員。専門領域は学校教育心理学・教育工学・学校経営/近年のテーマは教育情報化。

http://i-learn.jp/school/profile

http://www.glocom.ac.jp/researchfellows/shimpei_toyofuku

・プレゼン資料:日本は教育情報化先進国? https://www.slideshare.net/ShimpeiToyofuku/ss-76320102

 

1.PISAとは

まず基礎知識の整理。PISA(Programme for International Student Assessment)とは、OECD(経済協力開発機構)が三年ごとに実施している、義務教育課程の15歳児が生活上の知識や技能を、どの程度身につけているかを調査・比較するもの。出題分野は読解力・数学的思考力・科学的思考力。学習到達度調査。

類似の調査として国際教育到達度評価学会(IEA:The International Association for the Evaluation of Educational Achievement)が実施するTIMSS(Trends in International Mathematics and Science Study、国際数学・理科教育動向調査)がある。ふたつの違いは「学習観/教育観」にある。

すなわち、TIMSSは「学校カリキュラムの習得度」を測定しようとしているのに対して、PISAは知識の修得度と同時にその知識を活用するスキルについても測ろうとしていて、PISAのほうが新しい学力観に基づいているといえる。

それでは、新しい「学習観/教育観」とはなにか、というとそれは視座の転換のことである。

「何を知っているか」から「何ができるか」へ

「知識注入型」教育から「参加学習型」教育へ、

「ICT教具論(教員主導型)から、ICT文具論(学習者中心型)へ、

3つ目のフレーズはまさに、講師の豊福晋平さんが長らく主唱してこられたもの。

 

2.2015年のPISAに対するコメント

この2015年のPISAの結果が昨年、2016年末に発表され、文科省は誇らしげに「改善」した点を強調していた。たとえば日本は、数学が5位、読解力が8位、科学が2位とよい成績、かつ前回(2012年)より順位があがっていたからだ。
(松野文部科学大臣コメント:文部科学省 http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakuryoku-chousa/sonota/detail/1380073.htm
一方で、読解力に関しては順位・平均得点ともに前回(2012)より下がっていてがその理由として、:「今回からコンピューター使用型調査となったために、日本の生徒が不慣れだった」という、エクスキューズがなされていた。
(理数系で学力改善続く 日本の15歳、読解力は低下 http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG30HH0_W6A201C1CR8000/

しかし、実はむしろこの点こそが日本の教育界が注目すべき点、単に試験形式の方式の違いを、順位下落のエクスキューズに使うのは不当。PISAには上述のごとく、「生活上の知識や技能を、どの程度身につけているか」が計測されていて、もっとこれに関して実施され公表されている他の項目結果に目を向けるべきだと、というのが、豊福晋平さんのこのご講演の一番の眼目だった。

すなわち、日本の教育情報化は、他国に比べて遅れている。もっとこの点を注視せよ、と。

 

3.日本の15歳児のネット活用のリアル

「ネット利用時間:休日 • 学校のある日に、学校以外の場所でインター ネットをどのくらい利用しますか(携帯電話で の利用も含む)」と
「休みの日に、学校以外の場所でインターネット をどのくらい利用しますか(携帯電話での利用 も含む)」をクロス集計するとこんな感じ。

世界平均と比較すると 日本のネット利用時間は短い。

 

4.日本の学校教育現場のリアル

・日本の学校の情報環境は 世界的にみてもきわめて貧弱。

・貧弱なうえに、活用度も低い

・電子黒板

 

5.解決のヒント:機器普及率を1%上げると死蔵率は0.72%下がる



◎「貧弱なうえに、活用度も低い」ではなくて、「ないから使われない」のだ。「ないから使われない」を解消するには「全教室・1人1台整備へ」が重要。なぜなら、「機器普及率を1%上げると死蔵率は0.72%下がる」のだから。

しかしもうひとつ、重要な障壁がある。先生の心のデジタル・デバイド。

 

6.「あるけど使われていない」を解消するには

教室には「あるけど使われていない」現実があり、その現実にはそれなりの理由がある。

その理由を解消するには、つまり「心のデジタル・デバイド」を粉砕するには、先生方が生徒のリアルな生活、現実を直視するしかない。いや先生方日常生活だってスマホ、PC、ipad等が家庭にはあり、家族全員が普通に使いこなし、音楽や動画、ゲームなどもネット経由で楽しんでいる。先生方がそれを知らないはずはない。要は、心の中で、家庭と教室を分けて考えてしまっている。先生の心のデジタル・デバイドこそが問題の核心ポイントであり、逆に解決の糸口。

◎テレビをスワイプする児童、映画やテレビ番組が「書籍化」した、21世紀のリアルを、このリアルの生活感覚を教育現場に持ち込む必要がある。

 

7.質疑応答とその(ブログ執筆者からの)補足説明

①ICTの財政面に関連して~「全教室・1人1台整備へ」といっても財政面の課題が大きいのでは。

・米国では、Google Chromebooksの導入により、いわゆるコスパをあげている。また「標準化」で教育システム全体のコスト削減にも成果を上げているように見える。

●Google Chromebooksと教育の情報化 http://society-zero.com/chienotane/archives/2302

教育ICT:アメリカ最新動向 2016 【セミナー備忘録】 http://society-zero.com/chienotane/archives/4108
②韓国の立ち位置~韓国は進んでいると聞いていたが、案外、日本同様「情報教育後進国」なんですね。

たしかに教育現場の様子は日本に近似している部分があるのかもしれないが、電子教科書の「標準化」活動で韓国は引き続きイニシアティブを握っている。この点は見落としてはいけないと思われる。

韓国の電子教科書推進は後退したのか? 【セミナー備忘録】(上) http://society-zero.com/chienotane/archives/2509
教育のICT化 韓国は日本とどこが違う? 【セミナー備忘録】(下) http://society-zero.com/chienotane/archives/2524


◆関連URL

1.学習観/教育観に関連して
・「働く」を21世紀パラダイムにしっかり据え付けなおす http://society-zero.com/chienotane/archives/4342
・脱貧困に、「生きる力」「自立する力」など、いわゆる学力と異なる能力が注目 http://society-zero.com/chienotane/archives/5224

・日本は新奇探索性の高い人が相対的に少ない国 新しい教育は受け入れられるか http://society-zero.com/chienotane/archives/5253
・アクティブ・ラーナーを産むのが高等教育の究極のテーマ http://society-zero.com/chienotane/archives/4976
・主体的、能動的に学習する(アクティブ・ラーニング)ためのICT活用 http://society-zero.com/chienotane/archives/4807

・ICT教具論(教員主導型)から、ICT文具論(学習者中心型)へ進むべき http://society-zero.com/chienotane/archives/3859
・知識注入主義と「自ら学ぶ力」 http://society-zero.com/chienotane/archives/2340
・学習とは『意味を作りだしていくプロセス』 単なる『知識の移転』ではない http://society-zero.com/chienotane/archives/4031
2.OECD自身の発表 PISA
・PISA2015の概要(日本語)

http://www.oecd.org/tokyo/newsroom/singapore-tops-latest-oecd-pisa-global-education-survey-japanese-version.htm

・日本カントリーノート(日本語) http://www.oecd.org/pisa/PISA-2015-Japan-JPN.pdf
3.文科省の発表 PISA
・2015 年調査国際結果の要約文科省による発表

http://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/pdf/2015/01_point.pdf

http://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/pdf/2015/03_result.pdf

4.ICTの教育への応用という観点からの危惧を訴える論考
・「ゆとり教育はやはりダメだった」は本当か?国際学力調査で日本の順位が急復活した本当の理由 http://diamond.jp/articles/-/46988
・日本の子供は賢いがコンピューターが使えない http://ascii.jp/elem/000/001/407/1407179/
・PISAの結果をみると日本はもはや“オタク”ですらない http://ascii.jp/elem/000/001/410/1410256/