イスラームの「長い16世紀」 オスマン|参考文献リスト

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◎これは『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」(加藤博)』の参考文献(書籍)を、章説明文の紹介とともに章別にリスト化したものです。

『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」』は全三巻で構成されていて、その第二巻目です。
 Vol.1 イスラーム経済社会の構造(理論編)
 Vol.2 市場経済における「イスラームの道」(歴史編)
 Vol.3 基本概念・基礎用語編

 

■章説明文の紹介 第四章:イスラーム経済の成熟

第4章 イスラーム経済の成熟

マムルーク朝が滅亡した16世紀以降、18世紀までの時代は、「近世」と呼ばれてきた。それは、対内的には、オスマン帝国、サファヴィー朝、ムガル朝の巨大なイスラーム王朝が並立する時代であり、対外的には、ヨーロッパとイスラーム世界とが本格的に邂逅した時代であった。

この時代については、対西欧関係から、オスマン帝国を始めとした近世イスラーム世界の経済を、ヨーロッパ経済に押され、衰退する過程として言及されることが多かった。

しかし、現在では、関心が対西欧関係からイスラーム世界の内在的発展へと移行するにともない、近世を衰退の時代としてではなく、イスラーム的な制度や理念が成熟した時代と捉えることが主流になっている* 。

このことを、サファヴィー朝の領土を除く、ほとんどすべての地域に支配権を及ぼしたオスマン帝国の経済についてみてみよう。

* 近年の研究では、従来の近世におけるオスマン帝国衰退史観が見直され、17世紀については、スペイン銀流入による価格変動や地方内乱の危機がのりこえられた再編・成熟の時代であり、また18世紀については、従来、オスマン帝国衰退の兆候とみなされてきた地方名望家出現による分権化が、必ずしもオスマン帝国の衰退を意味するものではないことがあきらかにされつつある。

 

第1節 世界経済史におけるオスマン帝国

オスマン帝国(1299~1922年)は、近世において、アジア、ヨーロッパ、アフリカの三大陸にまたがる世界帝国であった。ところが、そのオスマン帝国の世界経済史における位置づけについて、いまだ定説はない。

その理由は、ヨーロッパ中心史観という歴史観、そして生産重視という経済観からくるバイアスが関係していると思われる。

 

第2節 オスマン帝国の法体系

イスラーム経済を支えた制度の一つとして、法がある。そして、経済との関係から法を論じる際、イスラーム法(シャリーア)とイスラーム法体系とを区別しなければならない(第一巻『イスラーム経済の基本構造(理論編)』を参照)。

イスラーム法とは、イスラーム教徒のすべてが順守すべき規範としての聖法(シャリーア)を、イスラーム法体系とは、狭義のシャリーア(イスラーム法)のほか、国家の意思を示すカーヌーン(行政法)とウルフ(慣習法)からなる法体系を意味する。

イスラーム法体系を構成するカーヌーンとウルフは、シャリーアとは異なる法領域をもったが、独自の法体系をなすものではなく、聖法シャリーアの下位、あるいはそれを補足するものとして位置づけられていた。

そのため、聖法シャリーアは時空を超えて適用されるものとされたが、イスラーム法体系を構成する三つの下位法体系は時代と場所によって、その組みあわせを変えた。

オスマン帝国にあっても、この組み合わせは独自に展開した。

 

第3節 国家的土地所有観念の変遷

イスラーム世界では、農地と都市地(居住地)は異なる土地範疇とされた。

都市地(居住地)には私有権が付与され、自由な処分が許された。これに対して、農地は原則、国家の所有地とされ、自由な処分は禁じられた。

この農地の国家的土地所有制度は、シャリーア、カーヌーン、ウルフのイスラーム法体系を構成する三つの規範体系の組み合わせによる法の運用の典型的な事例である。

 

第4節 オスマン帝国の貨幣制度

イスラーム世界での市場経済の発展を支えた制度の一つとして、貨幣がある。

イスラーム世界において、貨幣は統治者にとって、特別な意味を持っていた。自らの名前を打刻した貨幣の発行が、金曜日の集団礼拝での説教で自分の名前を唱えさせることとならんで、統治の正統性(権威)を意味したからである。

しかし、貨幣は何よりも、交換経済の手段であった。イスラーム世界の統治者は経済における市場の重要性を理解しており、国家は市場への過度な介入は避けた。

しかし同時に、貨幣が統治手段の一つであるとも認識していた。

 

第5節 オスマン都市における国家と市場

オスマン帝国は一つの「経済世界」であった。首都イスタンブルには世界から人が集まり、住み着いた。

それは人種と民族の坩堝であり、そこには、国内での安定した生活物資の供給を最優先する消費者保護の経済政策が大きく関係していた。

 

第6節 オスマン帝国社会のワクフ制度

オスマン帝国は広大であり、スルタンの権力は強大であった。そのため、首都イスタンブルを始めとして、オスマン帝国の都市の規模は大きかったが、景観と構造においては、ほかのイスラーム世界の都市と同じ特徴を持っていた。

都市の中心は、商業施設(スーク)と宗教施設の複合体からなっていたが、それはワクフ制度によって都市のインフラが整備・維持されたからである。

 

■イスラームの「長い16世紀」 オスマン|参考文献リスト

A Monetary History of the Ottoman Empire
貨幣制度の再編 https://society-zero.com/icard/616451

L'islam dans sa premiere grandeur
アブドゥルマリクの貨幣改革 https://society-zero.com/icard/105164

イスラームの国家・社会・法
オスマン帝国のギルド制度 https://society-zero.com/icard/125177
ウンマ(共同体)におけるマスラハ(公共の利益)の実現 https://society-zero.com/icard/262857

イスラーム財産法の成立と変容
所有権、徴税権、用益権 https://society-zero.com/icard/851695

イスラムの国家と社会
イスラーム的国家的所有理念 https://society-zero.com/icard/680460

イスラム経済論
シャーリア、カーヌーン、ウルフ https://society-zero.com/icard/285822
銅貨の氾濫と経済危機 https://society-zero.com/icard/129030

イスラム世界の経済史
アブドゥルマリクの貨幣改革 https://society-zero.com/icard/105164
消費者保護のための市場管理 https://society-zero.com/icard/704312

イスラム世界の成立と国際商業
ヨーロッパ中心史観からくるバイアス https://society-zero.com/icard/975154

オスマン朝の食糧危機と穀物供給
オスマン帝国の経済政策 https://society-zero.com/icard/196012

オスマン帝国
官僚国家オスマンにおけるカーヌーン https://society-zero.com/icard/865259
シャリーアの領域でも官僚化 https://society-zero.com/icard/968160

オスマン帝国の海運と海軍
ヨーロッパ中心史観からくる経済観におけるバイアス https://society-zero.com/icard/818065

オスマン帝国の時代
オスマン帝国における外国貿易 https://society-zero.com/icard/214661
市場経済と社会的福祉とのバランス https://society-zero.com/icard/782168

グローバル経済の誕生
ブローデルの「全体史」そしてポメランツの「大分岐」 https://society-zero.com/icard/716116

トルコ近現代史
ヨーロッパ中心史観からくる経済観におけるバイアス https://society-zero.com/icard/818065
市場経済と社会的福祉とのバランス https://society-zero.com/icard/782168

フェルナン・ブローデル
ブローデルの「全体史」そしてポメランツの「大分岐」 https://society-zero.com/icard/716116

ヨーロッパ世界の誕生
ヨーロッパ中心史観からくるバイアス https://society-zero.com/icard/975154

岩波講座 世界歴史(14
長期賃貸借契約の増加 https://society-zero.com/icard/910699
ワクフ物件の永代賃貸借 https://society-zero.com/icard/968174

興亡の世界史 オスマン帝国500年の平和
シャリーアの領域でも官僚化 https://society-zero.com/icard/968160

近代世界システム1
ヨーロッパ中心史観からくるバイアス https://society-zero.com/icard/975154

私的土地所有権とエジプト社会
所有権、徴税権、用益権 https://society-zero.com/icard/315465

社会経済史学の課題と展望
ヨーロッパ中心史観からくるバイアス https://society-zero.com/icard/975154
ブローデルの「全体史」そしてポメランツの「大分岐」 https://society-zero.com/icard/716116
ヨーロッパ中心史観からくる経済観におけるバイアス https://society-zero.com/icard/818065

初期イスラーム国家の研究
イスラーム的国家的所有理念 https://society-zero.com/icard/680460

大分岐
ブローデルの「全体史」そしてポメランツの「大分岐」 https://society-zero.com/icard/716116

中世イスラム国家とアラブ社会
征服地の所有権と用益権 https://society-zero.com/icard/925062

比較史のアジア 所有・契約・市場・公正
世界各地の経済発展の多径路とそれらの関連性 https://society-zero.com/icard/470205

 


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