リョコウバトの悲劇って何?

ひとつの種が人口移動と技術革新で乱獲され、絶滅した事件

鳥類の中で個体数が最大と言われていたリョコウバトは、アメリカへの移民の増大、それに鉄道の普及と電報の発明のおかげで数十年のうちに絶滅してしまいました。もともとの個体数の多さから、事態の緊急性に気づくのが遅れ、また対策としての法制も実効性がうすかったせいか、数十年のうちに自然種は絶滅(制定された野生保護法のひとつレーシー法が成立した1900年、博物学者たちがオハイオ州で野生のリョコウバトを発見した。これが野生で確認された最後の1羽となった)。動物園で飼育されていた個体も1914年9月1日に死亡、種として絶滅しました。

(How the Railroad Wiped Out Passenger Pigeons (and Nearly Bison, Too) https://gizmodo.com/how-the-railroad-wiped-out-passenger-pigeons-and-nearl-1496717217

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リョコウバトの特徴

リョコウバトは18世紀には北アメリカ大陸で約50億羽が棲息したと推定されていて、生息地の北アメリカの全鳥類の4分の1を占め、当時の鳥類で最大の個体数を誇っていました。

群れて生活することで知られ、止まり木にした木が折れてしまったとか、渡りをする時期には空が曇った(「真昼の太陽は日食のように曇っていた」)という記録も残っています。もともと繁殖力は弱く、他の鳥類と比べて一年に一個しか卵を産みませんでした。それでも最大の個体数を誇ったのは集団行動のせいだったようです。

しかしその集団性が乱獲の効率をあげる要因ともなってしまったのです。
・空を覆うリョコウバト

(Why Did The Passenger Pigeon Go Extinct? The Answer Might Lie In Their Toes : The Two-Way : NPR https://www.npr.org/sections/thetwo-way/2017/11/16/564597936/why-did-the-passenger-pigeon-go-extinct-the-answer-might-lie-in-their-toes

技術が市場を生み出した

19世紀、アメリカでは移民が急増。他方、リョコウバトの肉は非常に美味で、都会で良い値段で売れました。また羽毛布団の素材ともなりました。1805年には1羽1セントで取り引きされていたものが、数年後には12羽1ドル(1羽80セント強)になりました。この価格上昇が大量虐殺の引き金となったのです。

当時全米には鉄道網が敷設されつつありました。そしてこれに加え電報が発明され、19世紀の第4四半期に大陸横断電信線が敷設され、「ハトはここにいる」と知らせることが可能になったのが、乱獲の条件整備をしてしまいました。そのため、銃や棒を使用して多くの人々が捕獲に走ったのです。
・山積みにされたリョコウバト

(How the Railroad Wiped Out Passenger Pigeons (and Nearly Bison, Too) https://gizmodo.com/how-the-railroad-wiped-out-passenger-pigeons-and-nearl-1496717217

エコロジカル経済学の視点

この「リョコウバトの悲劇」を生態系サービスのひとつの事例としてみた場合、エコロジカル経済学の視点からいくつかの教訓が引き出されます。

・そもそも生態系サービスは、人間の意思によって供給されているものではなく、その供給のメカニズムを人間がすべて把握しているわけでもない。

・市場での意思決定は、生態系サービスの持続可能性を保証できない

・生態系サービスの持続可能性に影響を及ぼす価格については、市場における需給調整のみで決定するのではなく、科学的知見を考慮し、熟議のプロセスを経て、市場外的な判断を働かせる必要がある

といった点があげられるでしょうか。

 


そもそも生態系サービスは、人間の意思によって供給されているものではなく、その供給のメカニズムを人間がすべて把握しているわけでもない。したがって、持続可能性を確保するための市場外の判断が必要な領域がある、ということがわかりました。「持続可能性を確保するための市場外の判断」に関する参考文献を紹介しましょう。

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■参考文献(書籍)リスト

(参考文献のもっと詳しい内容は、書籍タイトルをクリック。知識カード(書名の下)もクリックするとコンテキスト(文脈)がわかりとても便利。)

LCA概論
 ライフサイクル思考の確保
Natural Capital and Human Economic Survival
 生態系サービスの人工物による代替不可能性

アーバンストックの持続再生
 人工資本基盤の維持に関する判断
エコロジカルな経済学
 市場外的な意思決定を必要とする分野

ケアの倫理
 適正な手入れ水準の確保
コミュニティ
 市場による意思決定の限界

システムのレジリエンス
 攪乱対応—バックアップと区画化
ミティゲーション
 ノー・ネット・ロスの原則(2)

レジーム・シフト
 閾値把握
環境 持続可能な経済システム
 生態系サービスの人工物による代替不可能性

環境リスク管理と予防原則
 負荷管理—環境負荷の回避・最小化・代償措置の適正水準の確保
環境政策論 第三版
 予防原則
 源流対策の原則
 拡大生産者責任原則

危機にある介護労働
 資本基盤の存在量に応じた手入れ労働需要の確保
恐怖の法則
 予防原則

合意形成学
 合意形成
市民の政治学
 熟議の場のデザイン

持続不可能性
 資本基盤管理の方針
社会的合意形成のプロジェクト・マネジメント
 合意形成

人間活動の環境影響
 ライフサイクル思考の確保
人々の声が響き合うとき
 熟 議

政策・合意形成入門
 資本基盤の手入れレベル・環境負荷の抑制レベルの決定
 合意形成
 熟議の場のデザイン
生態リスク学入門
 状態監視—不確実性とフィードバック

生物多様性という名の革命
 生物多様性(biodiversity)
地上から消えた動物
 リョコウバトの悲劇

討議デモクラシーの挑戦
 熟議の場のデザイン
入門 維持管理工学
 適正な手入れ水準の確保

里山の環境学
 適正な手入れ水準の確保


 

◎これは『なぜ経済学は経済を救えないのか(倉阪秀史)上下巻』の「(下)第三章 持続可能性を確保するための市場外の判断」の参考文献(書籍)をリスト化したものです。

書籍のフルタイトルは『なぜ経済学は経済を救えないのか━資本基盤マネジメントの経済理論へ━(下) 政策展開の経済理論』です


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文章中の典拠明示

参考文献一覧 他

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