アブドゥルマリクの貨幣改革

イスラーム貨幣制度は、ウマイヤ朝第五代カリフ、アブドゥルマリク(在位685~705)の貨幣改革に始まる。* その時以来、アラビア文字の刻銘のみをもつディナール金貨、ディルハム銀貨、フアルス銅貨が発行され、市場で流通することになる。

金・銀・銅の三つの貨幣のうち、金貨と銀貨の貴金属貨幣が中央当局の直接管轄下に置かれた法貨であり、これに対して、銅貨はその多くが地方当局の管理に任された補助貨幣であった。法貨の金銀貨の間には、交換比率が設定された。

参考文献:
イスラム世界の経済史』 第二部第4章第2節:市場社会を支えた制度 貨幣  加藤博(NTT出版、2005年)
M Lombard, L’islam dans sa premiere grandeur, Flammarion,Paris, 1971

「中世エジプトの貨幣政策」 加藤博『一橋論叢』76巻 6号、1976年
「「贋金」からみた中世イスラム世界の貨幣事情」加藤博 『歴史学研究』711号、1998年

* アラブ・イスラーム軍の征服とともに、征服地には多くの異なったタイプの鋳貨が流通し、その結果、金銭取引を容易にするため、固定した計算単位を採用する必要が生じた。アブドゥルマリクの貨幣改革とは、この必要を満たすため、計算貨幣ディナ-ルの法定基準重量をもつ新しいタイプの金貨ディナ-ルを市場に供給する措置であった。つまり、アブドゥルマリクはこの貨幣改革によって、理念上の計算貨幣と現実の実在貨幣とを一致させ、経済活動の合理化を計った。

 

 

★この記事はiCardbook、『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」 Vol.2 市場経済における「イスラームの道」(歴史編)』を構成している「知識カード」の一枚です。


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