市場経済における「イスラームの道」(歴史編)

『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」』Vol.2

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ジブリ ゲド戦記 賢人(ゲド戦記 |STUDIO GHIBLI http://www.ghibli.jp/works/ged/#frame

この世界の神羅万象はすべて「均衡」の上に成り立っている。

しかし、人間には人間でさえ支配する力がある。だからこそわしらはどうしたら「均衡」が保たれるか、よくよく学ばなければいけない。

(賢人ハイタカ(ゲド)の言葉|映画『ゲド戦記』より)

 

何かが行き過ぎだ

『ゲド戦記』は均衡を失いつつある世界を舞台にしたファンタジー映画でした。ただファンタジーとは言いながら、現実の世界にも同様の「均衡」の破れ、「何かが行き過ぎつつあるのでは」、といった感覚をわたしたちは共有していないでしょうか。

21世紀に入り、近代資本主義が大きな限界に直面しており、地球規模での環境破壊、拡大する貧富の格差、世代間の溝など、崩れてしまった均衡を感じさせる事象に事欠きません。

わたしたちはどこへ向かえばよいのでしょう。

 

もしも「西欧近代」が普遍的モデルでないとしたら

イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」』にはその「解」へ向けたヒントがあふれています。たとえば第二巻の「第3章 イスラーム社会のキーワード:情報・差異・契約」は、イスラーム世界が極めて豊かな市場経済を軸にした社会であったことを明らかにします。ただし、西欧近代が「経済に埋め込まれた社会」へと変貌していったのに対し、あくまでそれは「社会に埋め込まれた経済」であってなお、高度な市場経済を発展させえた事実が重要だと指摘しているのです。

いやそもそも、「西欧近代」は普遍的モデルであったのでしょうか。

実は脱西洋史観、これがいまのアカデミズの新常識です。西欧こそが人類史の先端を走ってきたと考える「西洋の先進性」、他の地域、諸国は西欧がたどった道筋を必ず追うとする「西洋史の普遍性」、どちらにも疑問符がつけられているのです。むしろ西欧型公共圏の成立になぜ法の支配や普遍的人権概念、議会制民主主義がなければならなかったのか、が研究課題となってすらいます。

資本主義なき市場社会、国家なき自由市民社会、議会制なき民主主義が徳治主義(中国では儒教、中東諸国ではイスラーム)の後ろ盾をもとに、「社会統治と公共福祉」のモデル、その別バージョンをすでに形成していたではないか。中国では遅くとも17世紀には、中東にいたっては7世紀に、というわけです。

ジブリ ゲド戦記 港湾街(ゲド戦記 |STUDIO GHIBLI http://www.ghibli.jp/works/ged/#frame

「市場と公正」のためのもうひとつのパラダイム

イスラームの教えは個人の欲望に肯定的です。この価値観に「森羅万象は唯一神アッラーの被造物」という思想を組み合わせることで、共同体での社会的公正への配慮を実現した社会。それがイスラーム世界です。

どうしてそのようなことが可能になっていたのか。それを知るのに『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」』にあたられることをお勧めします。

著者の加藤博氏は一橋大学名誉教授(経済学博士)で、専攻はエジプトを中心とした中東社会経済史、イスラム文明論です。本作品『イスラーム世界の社会秩序』には関連領域を行き来した広範で奥深い思索、研究の成果がコンパクトにまとめられています。

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Vol.2 市場経済における「イスラームの道」(歴史編)

「このことは、イスラーム経済がなぜ今日まで影響を持ち続けているかの理由を知ることになるとともに、道徳・倫理から遊離し、暴走気味の現代資本主義を反省する契機ともなろう。

しかし、あらかじめ断っておくべきは、だからといって、イスラームという宗教の教義のなかに具体的な経済のプログラムがあると主張するものではない、ということである。ここでの目的は、宗教と経済との間の結びつきに関するイスラームの言説の背後にあり、当時の人びとが共有していた社会経済に関するビジョンと、それを具体化した制度の展開をあきらかにすることである。

人間の物質生活は、それがいかに包括的なものであったとしても、宗教やイデオロギーによって覆い尽くされるものではない、というのが筆者の基本的な立場である。そのため、ここでの宗教とは、われわれが考える通常の宗教ではなく、いわゆる宗教を含む、倫理や道徳という言葉で言い換えることもできる人間の精神の営みである。」(『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」 Vol.2 市場経済における「イスラームの道」(歴史編)』)より

 

作品構成(『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」』)

Vol.1 イスラーム経済社会の構造(理論編)
Vol.2 市場経済における「イスラームの道」(歴史編)
Vol.3 基本概念・基礎用語編

 

Vol.2 歴史編 詳細目次

第1章 イスラーム経済は市場経済
 第1節 イスラーム世界の成立と展開
 第2節 なぜ市場経済としてイスラーム経済を取り上げるのか
第2章 イスラーム世界の社会経済秩序
 第1節 イスラームの秩序観
 第2節 イスラーム経済における公正と市場
 第3節 公正価格と「神の価格」
第3章 イスラーム社会のキーワード:情報・差異・契約
 第1節 イスラーム世界と情報
 第2節 イスラーム世界と差異
 第3節 イスラーム世界と契約
第4章 イスラーム経済の成熟
 第1節 世界経済史におけるオスマン帝国
 第2節 オスマン帝国の法体系
 第3節 国家的土地所有観念の変遷
 第4節 オスマン帝国の貨幣制度
 第5節 オスマン都市における国家と市場
 第6節 オスマン帝国社会のワクフ制度
第5章 イスラーム経済と近代資本主義
 第1節 「近代」への序曲 大航海時代のイスラーム世界
 第2節 近世イスラーム経済の特徴
 第3節 重商主義 vs イスラーム経済
第6章 近代におけるイスラーム経済の後退
 第1節 国民国家と近代資本主義
 第2節 中東諸国体制の形成
 第3節 世界経済史のなかのイスラーム経済
第7章 現代におけるイスラーム経済の復活
 第1節 なぜイスラーム経済は後退したのか
 第2節 なぜイスラーム経済は再び注目を集めるようになったのか


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総目次

Vol.1 イスラーム経済社会の構造(理論編)

第1章 なぜ、イスラーム経済を問題にするのか?
第2章 ほかの宗教や文明と異なるイスラームの経済観
第3章 時間と空間を超えるイスラームの経済ビジョン
第4章 イスラーム法体系
第5章 イスラームの弁証手続き
第6章 イスラーム経済と近代経済学
第7章 ワクフ制度にみるビジョンの制度化
第8章 イブン・ハルドゥーンとアダム・スミス

Vol.2 市場経済における「イスラームの道」(歴史編)

第1章 イスラーム経済は市場経済
第2章 イスラーム世界の社会経済秩序
第3章 イスラーム社会のキーワード:情報・差異・契約
第4章 イスラーム経済の成熟
第5章 イスラーム経済と近代資本主義
第6章 近代におけるイスラーム経済の後退
第7章 現代におけるイスラーム経済の復活

Vol.3 基本概念・基礎用語編
【基本概念編】

第1章 市場経済と外部経済
第2章 イスラーム経済の外部経済
第3章 多系的経済発展径路の模索

【基礎用語編】

[イスラーム関連用語]
[社会科学関連用語]


 

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