■こうすれば感染の拡大を防ぐことができる 新型コロナ感染症

2020年1月16日、厚生労働省が中国の湖北省武漢市に滞在し、日本に帰国した神奈川県在住の30代の男性から新型コロナウイルス、陽性反応があったことを発表しました。

あれから7か月以上が経過、この間、人々は感染を防ぐ方法に関心を持ってきました。わかってきた、感染を防ぐ方法には大きくふたつがあります。

感染を防ぐ:social distancing、マスク、手指衛生 

感染者が話したり、歌ったりしたとき出る飛沫を受けないことが大事。飛沫に含まれるウイルスが喉や鼻、また目などの粘膜から侵入してくる、それを阻止するのです。

伝搬を防ぐ:社会全体の移動の量をできるだけ少なくする

感染者がいる集団Aから、いない集団Bへ、感染者が移動することで、集団Bへのウイルスの移動が生じます。移動して初めて集団Bでの感染の可能性が生じます。移動の量を少なくすることで、新型コロナの伝搬を阻止することができます。

・マスクで飛沫感染を防ぐ

(新型コロナウイルス感染症対策「飛沫感染防止」編(30秒ver.) | 東京動画 https://tokyodouga.jp/hr2eysv5mxu.html

 

大 原 則

世界を見渡して、新型コロナの影響は単一ではありません。

「不衛生極まりない」と揶揄された武漢、この感染症の発祥地を抱える中国の現在の平穏。その一方で先進国の雄たるアメリカでの耳を疑う感染死傷者の数。遠い昔の出来事のように思える北イタリアの惨状。

これらの、自分の国の事態とは異なる現実は、いとも簡単に忘れ去られ、見えなくなってしまいます。

ただし、人類全体に共通する、忘れてならない、事実がひとつあります。

このウイルスは、人と人の接触によって増殖するのだ、ということです。

私たちが集まれば集まるほど、このウイルスは伝播しやすくなる。このことは、中国で最初に出現した時から今に至るまで、変わっていません。

この大原則こそ、世界中のあらゆる状況を説明するものです。そして世界の未来の姿も決定するポイントになります。

ここで感染と伝搬を区別することの重要性を再確認しましょう。

例えばモンゴル。パンデミックの発端となった中国と、長い国境を接している。ひどい事態になる展開もあり得ましたが、7月になるまで集中治療を必要とする重症患者は1人も出ませんでした。現時点(8月28日)までに確認された感染者はわずかに293人で、死者はいません。

モンゴルでは今も多くの人が移動式住居の「ゲル」に住んでいます。
・ゲル

(Vol.6 移動できる家、ゲル(モンゴル)|世界の環境共生住宅 https://www.daiwahouse.com/sustainable/eco/column/world/mongol.html

数万年前、狩猟採集時代の私たちの祖先も、15人程度の小さな集団を単位に生活をし、集団間の距離は狩猟採集の活動に支障が出ない程度に離れていたといいます。そして彼らは感染爆発を経験することがなかったと、研究者らは分析しています。

人間の集団の単位が小さく、集団同士の距離が遠い、「疎」な場所だとウイルスは伝搬、感染していく自らの生存戦略が潰えて、消滅していくことになるわけです。


・ 「感染」と「運ぶ」を区別する理由 https://society-zero.com/chienotane/archives/8877#5
・感染爆発とは無縁の生活史を狩猟採集時代の私たちの祖先は送っていました。 https://society-zero.com/chienotane/archives/8908#2-2


もちろん現代の都市世界で同じことを再現することはできません。ただし、「私たちが集まれば集まるほど、このウイルスは伝播しやすくなる」、その裏返し、できるだけ移動の量を抑制することで、感染爆発の抑止が可能になる事実。いかに「感染の拡大を防ぐ」かを検討する際に不可欠な、この大原則を今一度、思い起こすようにしましょう。

東京と大阪、GoToとお盆、このふたつの都市とふたつの期間の組み合わせで、現代の都市世界でも、この大原則が有効に機能する様子を確認することができます。

 

東京と大阪、GoToとお盆

新型コロナ感染症については、データを見る際、それは2週間前の状況を反映しているにすぎず、足元の現状を表わすものではないことが知られています。(2週間程度のタイムラグ https://society-zero.com/chienotane/archives/8877#1

つまり、「新規感染者」が増え始めてから対応しても遅い(感染拡大から重篤化、死者増大を止められない)可能性が高いのです。感染拡大から重篤化、死者増大といった現象を止めようとするなら、早め早めに個人の行動変容と「感染」と「伝搬」についての国や自治体の政策を発動しなければなりません。

7月23日から始まった四連休のころの行動変容や政府・自治体の施策の結果は、その2週間後に現れるわけです。お盆の時期についても同様です。

7月22日 GoToスタート
→ 2週間経過後 8月5日~

お盆期間 8月8日~16日
→ 2週間後 8月22~30日

7月の四連休のころといえば、「GoToトラベル」キャンペーンによる行動変容がありました。ただしこのとき、東京はキャンペーンの対象から外れ、かつ都知事も「自粛」要請を都民に出していました。かたや大阪府知事は、行動の「自粛」要請はしないと言明していました。

その結果は、2週間後の8月5日以降に出てきました。現在感染者数の数値を追っています。


現在感染者数(の推移) https://society-zero.com/chienotane/archives/8773#2


・行動変容と感染 GoTo:東京と大阪

行動変容と感染 GoTo:東京と大阪

東京は一旦「現在感染者数」が増加した後は傾向として減少していきました。他方、大阪は横這い、この間、重症者数が増え、府民の間に「お盆」の時期どうするか、よく考えねば、という雰囲気が醸成されました。

その結果、お盆の時期は大阪でも東京同様、前年比、行動を抑制する傾向が出てきました。

下の図はソフトバンクの子会社Agoopのデータです。

東京駅と新大阪駅、東京ディズニーランドとユニバーサルジャパン、それぞれの人出の、前年の「お盆」の時期とを比較、その増減を視覚化したデータです。

実に見事な行動変容が見られます。

・東京駅

前年対比 お盆の東京駅

・新大阪駅

全年対比 お盆 新大阪駅

 

・東京ディズニーランド

前年対比 お盆 東京ディズニーランド

・ユニバーサルジャパン

前年対比 お盆 ユニーサルスタディオジャパン

 

この結果が反映されたのが、現在感染者数ベースでの8月22日~30日の折れ線グラフです。大阪もトレンドとして減少へ転じました。今後、重症者数が同様に減少に転じることが期待されています。

・行動変容と感染 お盆:東京と大阪

行動変容と感染 お盆:東京と大阪

この行動変容、大阪だけにとどまらないようです。東京と東京以外とのヒトの移動に大きな変動が生じています。

 

東京の人口がついに減り始めた

国民の危機感はどうやら、政権担当者の想像を超えているようです。5月に続き、7月も東京の「月中人口移動」が減少しているからです。日本全体が人口減少時代に突入してもなお、東京には人が集まり続け、人口トレンドが右肩上がりだったのに、です。

・東京の人口(2020年 千人未満切り捨て)
4月1日 13,982千人
5月1日 14,002千人(5月中の人口移動 ▲3,405人)
6月1日 13.999千人
7月1日 13,999千人(7月中の人口移動 ▲5,903人)
8月1日  13,993千人

5月は大学進学や就職、転勤などに伴う東京への引っ越しを見送ったことが要因で、一時的な現象かと考えられていました。ところが7月は新型コロナウイルスの新規陽性者が再び増えて転入者が減った、と想定され、総務省は「今後も新規陽性者数の多い地域への移動を抑制する動きが起こる可能性がある」とみています。

もともと東京都の人口は、少子化による自然減を、他県からの転入によって補う構造になっていました。この構図が、新型コロナに伴う人々の行動変容により、崩れてしまったということなのです。
・5月 ひと月の中の人口の動き

(東京都の人口が減少。到達したばかりの「1,400万人」を切る - シニアガイド https://seniorguide.jp/article/1263446.html

・東京「圏」でも 減少へ

(コロナが影響? 東京圏、集計開始以降初の人口流出 https://news.livedoor.com/article/detail/18805858/

さて8月28日夕方の記者会見で、安倍晋三首相が退陣を表明しました。安倍後継政権は、今秋以降のインフルエンザと同時進行するコロナという、一段と難しい局面を処理するコロナ対策政権とならざるを得ません。

新型コロナへの「大原則」を踏まえた、感染症対応が強く求められます。感染症対応がうまくいっているとなれば、買い物や飲食、旅行へといった経済領域へも意識が移り、活動が活発化しうるでしょう。つまり感染抑制か経済活性かの二択問題ではなく、経済活動活性化の前提条件として、感染抑制がある、という位置づけの理解が重要なのではないでしょうか。
・コロナ対策政権

(安倍後継は「石破」つぶしの「菅」コロナ対策政権 | nippon.com https://www.nippon.com/ja/in-depth/d00617/

 


◎新型コロナ感染症対策の「大原則」

感染を防ぐ:social distancing、マスク、手指衛生 

感染者が話したり、歌ったりしたとき出る飛沫を受けないことが大事。飛沫に含まれるウイルスが喉や鼻、また目などの粘膜から侵入してくる、それを阻止するのです。

伝搬を防ぐ:社会全体の移動の量をできるだけ少なくする

感染者がいる集団Aから、いない集団Bへ、感染者が移動することで、集団Bへのウイルスの移動が生じます。移動して初めて集団Bでの感染の可能性が生じます。移動の量を少なくすることで、新型コロナの伝搬を阻止することができます。


 


◎新型コロナ関連でよく読まれている記事

・ヒトが病原体を「感染症」の犯人にした | ちえのたね|詩想舎 https://society-zero.com/chienotane/archives/8908

・国や自治体が、新型コロナで「すべきこと」 | ちえのたね|詩想舎 https://society-zero.com/chienotane/archives/8852

・感染症が発生した場合、国や都道府県はどう行動したらよいのか | ちえのたね|詩想舎 https://society-zero.com/chienotane/archives/8467


■関連URL

●新型コロナ:東京都の人口、7月は再び転出超  https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63189650Y0A820C2EA3000/
「テレワークの拡大などで若年層を中心に意識の変化も起きている。内閣府が5月下旬から6月上旬に実施した調査では、東京圏に暮らす20代の約3割が地方移住への希望が「高くなった」か「やや高くなった」と回答した。」

●「ファクターXは実在しない」岩田健太郎|Web医事新報|日本医事新報社 https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php
「「第二波」で分かったことがある。基本的な感染対策を怠ると、感染はどんどん広がるということだ。当たり前だ。「第二波」が本稿執筆時点(8月26日)で収束しつつあるのは、「Go To」のような政府のお気軽なキャンペーンに危機感を抱いた自治体や国民が自発的に活動制限を行ったからだ。」

●「たびたびイケイケキャンペーン」ではダメな理由:日経ビジネス電子版 https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00116/00082/
「聞けば、このたびのGo Toキャンペーンでは、高級旅館から先に予約がいっぱいになる傾向がはっきりしているのだそうだ。… 旅行に出かける側も、その旅客を受け入れる宿の側も、もっぱら資金的に余裕のある人々に向けて補助金が支給される。コロナが一段落した後に、生き残っているのは一部の高級旅館と、優雅な富裕層のトラベラーだけということになるのかもしれない。われら一般ピープルは、西行法師、芭蕉翁ならびに種田山頭火先生の足跡をたどることになるだろう。それもまた良し、だ。」

●旅行は近場、庭でキャンプ… コロナが変えた夏の常識
https://r.nikkei.com/article/DGXMZO63224360Q0A830C2CZ8000
「JR東日本とJR西日本によると、お盆期間(8月7~17日)の新幹線や在来線特急の利用者数はいずれも前年同期比77%減だった。東京出入国在留管理局成田空港支局によると、お盆期間(7~16日)の成田空港の出入国者数は同97.9%減。」

●新型コロナウイルスとの闘い 世界は勝てているのか https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-53719199.amp
「人類全体に共通する事実がひとつある。アマゾンの熱帯雨林に住んでいようが、シンガポールの高層住宅に住んでいようが。あるいは、夏の終わりが近づくイギリスの街に住んでいようが。このウイルスは、人と人の接触によって増殖するのだ。」
・複数の国で感染者が再び増加

●ソフトバンクの子会社で位置情報を活用したビッグデータ事業を手掛けるAgoopは、主要な駅や観光地などでの人の流れを解析した「新型コロナウイルス拡散における人流変化」を公開している。(新型コロナウイルス特設サイト | 株式会社Agoop https://www.agoop.co.jp/coronavirus/

●混乱のGoTo影響は限定的 4連休、京阪神に近い観光地は人出増加も - 毎日新聞 https://mainichi.jp/articles/20200727/k00/00m/040/227000c

●四連休のころの行動変容、施策を判定する https://society-zero.com/chienotane/archives/8877#2
「8月6日、新型コロナウイルス対策について厚生労働省に助言する専門家の会合が開かれ、地域ごとの「実効再生産数」が報告されました。

首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉、茨城、栃木)は1.1、
関西圏(大阪、兵庫、京都、奈良)は1.5」
・7月四連休から2週間後 東京とそれ以外