■感染症対策は危機管理上重大な局面に 新型コロナ

◎Covid-19 新型コロナの感染症対策は危機管理という観点から検討すべき事項です。社会という「集団」を単位にした問題だからです。この点で、ガンや高血圧など個人で終始する病気と異なります(ガンが国の危機管理問題になることはありません)。次に集団単位という観点で、「感染」と「運ぶ」とを区別しなければなりません。新型コロナはたとえばペスト(ネズミ(のみ)からヒトへ)などと異なり、「ヒト」が運び、「ヒトからヒトへ」感染する感染症だからです。

2週間程度のタイムラグ

新型コロナはとても厄介で怖い感染症です。

・潜伏期間にある感染者からも感染が起きる(発症前の人からの感染が約半分)
・しかも発症直前の感染力が最高(発症の2.3日前からウイルス排出が増え始め、0.7日前に一番高くなる)
・感染期間と感染力

(新型コロナの厄介さと怖さを知る:2つの致命割合CFRとIFRとは https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/web/19/050800015/051100003/

つまり、感染者が無自覚のママ、ウイルスを他人に移してしまう。それも移る力が無自覚の期間ほど高い、のです。

目の前でゴホンゴホンと咳をしている(=発症している)ヒトからももちろん、普通に平気な顔をしている人と会食をし、楽しくおしゃべりをしていても、その相手が感染者であれば飛沫感染する可能性があります。

また感染症対応策についても難しさが横たわっています。

個人の行動変容(手指衛生/social distancing/マスク)と「感染」と「運ぶ」についての国や自治体の政策の発動タイミングが遅れがちになる厄介さがあります。

ウイルスに感染して発症するまでの期間は4、5日、人によって長ければ2週間たってから、です。政府が陽性判明後の「隔離期間」を2週間とし、その後の検査で陰性判定となれば自宅に帰れる、としているのはこのせいです。

たいていの場合、検査は体温が高いなど発症してから行われます。だからウイルスが体内に入った日と検査結果で感染が判明する日の間にはどうしても4、5日から2週間のタイムラグが、生じてしまいます。

つまり、「新規感染者」が増え始めてから対応しても遅い(感染拡大から重篤化、死者増大を止められない)可能性が高いのです。感染拡大から重篤化、死者増大といった現象を止めようとするなら、早め早めに個人の行動変容と「感染」と「運ぶ」についての国や自治体の政策を発動しなければなりません。

たとえば8月6日の「新規感染者数」の増加現象は、その2週間前の7月23日から始まった四連休のころの行動変容、施策の結果です。

いまただちに、その数値から判断して対応策を打ったとして、その効果は8月6日から数えて2週間後、8月20日あたりに「新規感染者数」の減少として表れる可能性があるにすぎません。その途中の期間の感染拡大を止めることを、「今日の対応策」実施で成し遂げることはできないのです。

「2週間程度のタイムラグ」という厄介さが、新型コロナにはあります。

 

四連休のころの行動変容、施策を判定する発表会

8月6日の「新規感染者数」の増加現象は、その2週間前の7月23日から始まった四連休のころの行動変容、施策の結果です。

実はその7月23日から始まった四連休のころの行動変容、施策を判定する発表会が、8月6日ありました。

8月6日、新型コロナウイルス対策について厚生労働省に助言する専門家の会合が開かれ、地域ごとの「実効再生産数」が報告されました。

首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉、茨城、栃木)は1.1
関西圏(大阪、兵庫、京都、奈良)は1.5
中京圏(愛知、岐阜、三重)は2.0
九州北部(福岡、佐賀)は2.1
沖縄は3.2
(県内の実効再生産数3.2 全国で突出 感染拡大(琉球新報)https://topics.smt.docomo.ne.jp/article/ryukyu/region/ryukyu-20200807053000
新型コロナ 厚労省専門家会合 一部で感染急速拡大 憂慮と評価 NHKニュース https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200806/k10012555331000.html

「実効再生産数」は「通信簿」に相当する数値です。

 


基本再生産数は感染症からみた感染力、つまりある感染者が、その感染症の免疫をまったくもたない人の集団に入ったとき、「感染力を失うまでに平均で何人を直接感染させうるか」を表わす。

これに対し、実効再生産数は感染症に立ち向かうわれわれの努力の「通信簿」のような計数。手洗いやうがい、人々の接触削減(social distancing)といった対策が取られた結果、「1人の感染者が実際に直接感染させる人数」のこと。
(日本の第一波はピークを過ぎている 専門家会議の資料からは | ちえのたね|詩想舎 https://bit.ly/3a2OX2z


 

第一波をしのいだ後、7月以降の局面における感染症対応は、地域によりタイミングの差があり、それが「実効再生産数」に現れたといえます。

 

東京と東京以外の自治体の比較 現在感染者数ベース

「2週間程度のタイムラグ」という厄介さを乗り越え、早め早めに手を打った地域とそれ以外の地域の差を「現在感染者数」で検証してみましょう。

医療体制の逼迫状況との関係を把握するには、フローデータである「新規」より、ストックデータである「現在感染者数」のほうが合理的です。

現在感染者数 = 累計感染者数 - 回復者(退院)数 - 死亡者数
(東京都民のための【新型コロナ|5つの指標】 | ちえのたね|詩想舎 https://society-zero.com/chienotane/archives/8773

7月中旬から2週間後

東京都の「7月9日以降の200人越え四日連続」を受け小池都知事は「現在の状況は『感染拡大警報』を発すべき状況」とし、「都外への不要不急の外出を避けて」と要望。

他方、周辺の神奈川、千葉や近畿の大阪、京都などはむしろ、経済と感染対応とのバランスの重要性を訴えていました。

その2週間後の結果が下記折れ線フラフです。

2週間後 東京 7月29日

2週間後 東京以外 7月29日

7月四連休から2週間後

7月22日、政府の「Go To トラベルキャンペーン」がスタートする際、東京は除外されました。かつ、都知事は四連休の「外出はできれば控えていただきたい」と呼びかけていました。

他方東京都以外は大きく、経済再開へ舵を切りました。

その2週間後の結果が下記折れ線フラフです。

2週間後 東京 8月6日

2週間後 東京以外 8月6日

どうでしょうか。感染拡大から重篤化、死者増大といった現象を止めようとするなら、早め早めに対策を講じなければなりませんが、そろそろそのタイミングではないでしょうか。

 

警鐘を鳴らす新聞各社

上記分析を裏付けるように、ここにきて新聞各紙が今後の「移動」について懐疑的にならざるを得ないデータを報道し始めました。

「Go To トラベル」が開始されて2週間。開始前の1週間と比べ、4日までの直近の1週間は42都道府県で新規感染者数が増加し、全国の合計は2.4倍となった。感染は大都市圏に限らず、地方にも広がっている。
・人口10万人あたり「新規感染者数」の増加推移

(1日平均1人→58人の県も GoTo2週間、感染拡大 [新型コロナウイルス] https://www.asahi.com/amp/articles/ASN857FM6N85UTIL00V.html

7月22日、Go To トラベルをスタートさせるにあたって、政府は東京を除外しました。その除外の理由となった当時の東京のデータを超える数値が、すでに沖縄県、大阪府、福岡県、愛知県で出ていることが報じられています。

「西村康稔経済再生担当相は7月16日の記者会見で、東京除外の理由を「都自身が(前日に)警戒を最高レベルに上げている。感染者数も10万人あたり1週間で8・7人だ。陽性者の割合も5%台と高い」と説明。」
・Go To トラベル開始前(東京除外判断)と現在の比較

この報道は、当時の東京の「10万人あたり習慣感染者数」と「陽性率」が上記4自治体で足元、大幅に超えているとしているわけですが、いまのところ政府にキャンペーンの方針を変える考えはないとも伝えています。

7月中の判断、四連休時の判断、それぞれの違いが東京とそれ以外の地域とでの、その後の感染拡大の結果をまったく別のものにしたことは明らかです。

新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は8月16日、「GoToトラベル」に関連して、「新幹線の中で感染は起きていない。旅行自体が感染を起こすことはない」としていたのでしたが。

 

「感染」と「運ぶ」を区別する理由

ウイルスは自らの力で移動できるわけではありません。動き回る生物、つまり動物にくっついて、あるいは感染させて、移動し集団に感染を広げます。

つまり新型コロナが蔓延するには、まずウイルスを持った人が人々の間を移動し(=「運ぶ」)、次に人の細胞に入り込む(=「感染」)する必要があります。

検疫制度はウイルスを持った人の移動(=ウイルスを「運ぶ」)を阻止する制度です。つまり国内にない感染症が外国から侵入するのを防ぐために,空港,海港,国境などで,診察,検査,隔離など,必要な措置をとるわけです。

ちなみに子供が「運び屋」だったことがあります。

予防接種の創始者ジェンナーは18世紀末、牛痘にかかった農婦は痘瘡 (天然痘) にはかからないという経験から、多くの感染症の予防接種の出発点となる種痘法を開発しました。その後、世界がこの研究に注目しましたが、痘苗を生かしたまま遠方まで運ぶことが、冷蔵などの技術がない当時、困難でした。そこで初期には、未感染の子どもを次々と牛痘に感染させながら運ぶ「人体リレー」の方法を取っていたことがわかっています。

人体を「運び屋」として有効活用した事例です。

 

知事らからの「移動」自粛の要請

いづれにせよ、7月中旬からの2週間後何が起きたか、四連休からの2週間何が起きたかをみてきました。感染はウイルスが運ばれることで面的拡散を加速させます。

拡散の結果、現時点、感染症対策は危機管理上重大な局面に入ったようにもとれます。現に、いくつかの知事が独自の「緊急事態宣言」やそれに類似したものを8月にはいって発出、「移動」に対する自粛を訴えるようになりました。

中国地方5県で構成する知事会:「ふるさとへの帰省について、もう一度家族と相談して」とする共同メッセージを発表

愛知:「緊急事態宣言」を発表。期間は8月6~24日で、お盆を念頭に、県境をまたぐ不要不急の移動自粛を求めた。

群馬:東京都や大阪府、沖縄県など9都府県への不要不急の移動を控えるよう要請。期限は未定。

秋田:県内の家族から県外に住む学生らに帰省の自粛を呼びかけるよう促した。

三重:独自の「緊急警戒宣言」を発表。帰省につて「体調が優れない場合は、三重県への移動を避けてほしい」と訴えた。

東京:お盆休みの帰省について、なるべく控えるよう都民に呼びかけた。

しかし、安倍首長は、(1)重症者数(2)死亡者数(3)検査体制(4)医療提供体制―の数値を列挙して、次のように述べています。

直ちに緊急事態宣言を出すような状況ではない」「現状は4月の緊急事態宣言時とは大きく異なっている。その点も説明させてほしい」。
(安倍首相の会見、1カ月半ぶり=コロナ説明もわずか16分(時事通信) https://news.goo.ne.jp/article/jiji/politics/jiji-200806X464.html

首都圏以外での実効再生産数の増大、1週間で区切った場合の新規感染者数の急増。どれをとっても感染症対策は危機管理上重大な局面にきているように見えますが、政府の無策は次の2週間後、どういう結果として現れるでしょうか。

 

 


なお、「重症者数」の推移を政策発動のメルクマールにしてはいけないことは別のところで書いています。

データとサイエンスで感染症を迎え撃つ https://society-zero.com/chienotane/archives/8852#4


 

新型コロナの7月の動き 振り返り

東京都で7月9日以降、200人越えが四日連続で続いた。

7月10日
全国の1日の感染者 400人超える 4月24日以来のこと。

7月11日
菅官房長官、「この問題は圧倒的に東京問題と言っても過言ではないほど東京中心の問題」と発言。

7月15日
東京都の「7月9日以降の200人越え四日連続」について、東京都の担当者は「年齢の幅が広がっていて、感染経路も多岐にわたっている。高齢者の感染もみられ、地域的にも少し広がりがみられる」と公表。

これを受け小池都知事は「現在の状況は『感染拡大警報』を発すべき状況」とし、PCR検査の拡充や地域や場所を絞ったピンポイント対策を講じることを表明。

(・東京都が「感染拡大警報」。不要不急の都外外出は避けて - Impress Watch 対策を行なうことを表明。
https://www.watch.impress.co.jp/docs/news/1265574.html

都民に対し、「都外への不要不急の外出を避けて」と要望。飲食店などは、感染防止ガイドラインを遵守し、「感染防止徹底宣伝ステッカー」の貼付した店舗を選ぶよう呼びかけた。
加えて、政府が21日から開始予定の「Go To トラベルキャンペーン」については、「国の施策なので国が決めることだが、実施時期や方法などをよーく考えてほしい」と言及。

7月16日
全国の1日の感染者 600人超える 4月10日以来のこと。

7月22日
政府の「Go To トラベルキャンペーン」スタート。

この日は全国で795人の感染が発表され、1日の感染者としては4月11日の720人を上回りこれまでで最も多くなった。

東京における7月22日までの感染者合計数が、最多だった4月の3748人を上回った。小池氏は会見で、「より一層、警戒する必要があると認識している」と語り、4連休の「外出はできれば控えていただきたい」と呼びかけた。

7月23日~26日
四連休

7月28日
東京都の小池知事が、夏休みの過ごし方について「感染しない、させないということを徹底していく時期だと思うので皆さんには協力をお願いしたい」と述べた。

7月29日
全国で一日の感染者が初めて1,000を超えた。また、岩手県で初めて2人の感染が発表され、全国47の都道府県すべてで感染が確認された。