■国や自治体が、新型コロナで「すべきこと」

◎コロナにどう対応すべきなのか。個人が「すべきこと」。国や自治体が「すべきこと」。

2020年1月以降の日本社会で、新型コロナについて我々が知りえた知見を整理しました。半年分の戦いから得られた教訓です。


 

マスクで「すべきこと」 個人はコロナにどう対応するのか

日本人が一般的に使っているサージカルマスクを海外では「医療用マスク」と呼んでいます。そのマスクで「すべきこと」について、WHO(世界保健機構)がまとめています。
・マスクの安全な使い方 「すべきこと」

(新型コロナウイルス感染症(COVID-19)一般向け特設ページ | WHO Kobe https://extranet.who.int/kobe_centre/ja/news/COVID19_specialpage_public

ここには、

・口、鼻、あごを覆う(アベノマスクでは、これができない)
・隙間ができないよう、フィットさせる(上部のワイヤーを調整など)
・マスクの表面を手で触らない

などが書かれています。

マスク着用は手指衛生、social distancing と並ぶ、個人ができる感染症対応策です。

個人防御: 手指衛生/social distancing
集団防御: マスク/social distancing

(出典:同上)

もっと、踏み込んで具体的に、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の感染拡大を防ぐには、どうしたらよいのか。

個人はコロナにどう対応すべきなのか。個人が「すべき」ことを、新型コロナウイルス感染症専門家分科会の尾身会長が、総括しています。この内容は2020年1月以降の日本社会で、新型コロナについて我々が知りえた知見を整理したものです。半年分の戦いから得られた教訓です。

1.間断なく「大声を上げる」ことが飛沫経由で実際の感染につながっている。

狭い空間において、という条件下で行う、

・「(会食で)大声をあげる」
・「(カラオケで)大声をあげる」
・「(接待を受け)大声をあげる」
・「(スポーツ観戦、エンタメ鑑賞で)大声をあげる」
・「(部活等集団内で)大声をあげる」

といった行為は忌避すべきです。

2.また職場や家庭での同様な行為に加え、こういった場所では接触感染も起こりやすい。医療施設での医療従事者たちの休憩スペースに「穴」があったケース、などがありましたね。

逆に言うと、

3.次のような行為で感染が起きる可能性は低い、(あるいは)限定的。

・野外を普通に歩いていたり、
・感染対策がとられている店での買い物や食事、
・十分に換気されている電車での通勤など
(以上:「Go To トラベル」の注意点、明かされたクラスターの発生場所… 新型コロナ分科会の会見で語られたこと(BuzzFeed Japan) - Yahoo!ニュース https://news.yahoo.co.jp/articles/f727796870a8c2097a26933bf2163fc233f15f5d

確かにたとえば、当初騒がれたパチンコ店ではついぞ感染例が出ていない(密だが、大声でなく黙々とパチンコを打っている?)。またスポーツジムでも、その後感染例が出てきていない(感染対策がとられている?)ようです。

さてそれで、国や自治体が行うべき、感染症対応の「すべきこと」とはなんでしょう。

 

国や自治体が、新型コロナで「すべきこと」

「危機管理、感染症対策として、何か大変なことが起きる予兆を先に見つけて、手を打つ。これは感染症対策、危機管理の要諦。」

「次の段階に移ったことがわかってから対策を打つのでは、遅すぎます」
(新型コロナ分科会の会見で語られたこと(BuzzFeed Japan) - Yahoo!ニュース https://news.yahoo.co.jp/articles/f727796870a8c2097a26933bf2163fc233f15f5d?page=2

これが尾身会長が国、自治体に対しての注意喚起の内容です。

そしてもう、これに忠実に、各自治体の首長は既に動き始めています。「大変なことが起きる前に、手を打つ」べく、果断に、行動を起こしています。

なにしろ7月22日、まさにGoToトラベルキャンペーンが始まった日に全国感染者数で795人を記録。この数値は第1波時のピークである新感染者数720人を超えていたのです。そればかりか、7月29、30、31日は三日連続千人越えの異常値。尾身氏のいう「何か大変なことが起きる予兆」を首長らが感じ取ったとしても不思議ではありません。
・新規感染者数 推移 全国

新規感染者数推移 全国

東京:8月3日から31日までの間、酒を提供する飲食店やカラオケ店に対して営業時間の短縮を要請。

沖縄:7月31日、緊急事態宣言を発令。8月15日まで、本島全域での不要不急の外出自粛を求め、イベントは中止や延期、規模縮小の検討を要請。

大阪:8月6~20日、地域を限定して休業や営業時間の短縮(午後8時まで)を要請。

愛知:8月5~24日、名古屋市の繁華街の飲食店などで休業や営業時間の短縮を要請。

宮崎:8月1~16日、県内全域の接待を伴う飲食店に休業要請

熊本:新型インフルエンザ等対策特別措置法第24条第9項に基づき、「不要不急の県外への外出は自粛すること他」の協力要請。

岐阜:7月31日、若者の感染が相次ぐ名古屋市内で飲酒を伴う会食をしないよう要請する「第2波非常事態」を宣言。

ところで、なぜこれらの都道府県なのでしょう。それを理解するには統計的素養が必要です。

「新規感染者数」の絶対値だけでは各地域の切迫度合いがわかってきません。「直近1週間」で、「人口当たり」で、という統計を処理をしてはじめて見えてくる実態があります。

この処理をしてみるとなんと、7月31日、沖縄が東京を抜いて、日本全国の中で、「直近1週間の人口10万人あたりの感染者数」でトップの位置に立っていました。7月22日から始まった、GoToトラベルも一役買っている可能性すらあります。

・上位20 都道府県別「直近1週間の人口10万人あたりの感染者数」

直近1週間の人口10万人あたり感染者数(特設サイト 新型コロナウイルス 都道府県別の感染者数・感染者マップ|NHK https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/data/

・沖縄の感染者急増

(7月4連休データ分析 県外から1日平均2800人 観光客の2割東京から https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1163683.html


(沖縄、44人感染の「衝撃」 2カ所でクラスター 3日連続で最多更新 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/6085777

では、国は?

感染症危機管理の要諦と国の判断

7月31日、東京都の感染者数は、はじめて400人を超え、463人。7月の合計は6249人で6000人を突破、感染拡大に歯止めがかからない状態がはっきりしてきました(ちなみに、8月1日速報値は472人でさらに記録更新)。

・新規感染者数 推移 東京

新規感染者数推移 東京

それでもなお、菅義偉官房長官は7月31日、「総合的に判断すると、現時点で緊急事態宣言を再び発出し、社会経済活動を全面的に縮小する状況にはない」との見解を表明、動こうとはしていません。

再度、尾身氏の感染症危機管理の要諦を引くとこうです。

「危機管理、感染症対策として、何か大変なことが起きる予兆を先に見つけて、手を打つ。これは感染症対策、危機管理の要諦。」

「次の段階に移ったことがわかってから対策を打つのでは、遅すぎます」

つまり、「新規感染者数」の推移をみてもそこに「予兆」がないとの、菅官房長官の判断で、氏はその根拠をこう説明しています。

A:大事なのは重症者の数。「東京都の重症者はピーク時には105人だったが、31日は(前日から)6人減って16人だ。」
B:緊急事態宣言を出した4月の状況とは異なっている。「新たな感染は20代など若い世代が多い一方で、60歳以上の感染者や重症者が少ない。」
(菅官房長官「大事なのは重症者数」 感染再拡大でも再宣言「状況にない」と強調 - 毎日新聞 https://mainichi.jp/articles/20200731/k00/00m/010/207000c

そのうえで、GoToトラベルキャンペーンについて、「感染対策をしっかり講じているホテル、旅館を対象に実施することとしている」として、事業を続けていく考えを示したのでした。
(政府、東京感染者過去最多も「4月と異なる」|TBS NEWS https://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye4041374.htm?1596274510621

 

データとサイエンスで感染症を迎え撃つ

感染症対策の専門家である神戸大学の岩田健太郎教授は次のように言っています。

「本来であれば科学的なデータの解析があり、専門家会議の決定があり、それについて政治的な発信が検討されるべき。順番としてはサイエンスがあって、ポリティクスとなる。
(アベノマスク、“問題の本質”を専門家が指摘「状況に応じて出すべきメッセージを難しくさせた」 https://news.yahoo.co.jp/articles/f7428929832638e216d36f69ae397741b90f27bb

データとサイエンスで感染症を迎え撃つことの重要性を訴えています。

データとサイエンスの観点から菅官房長官の発言を見直すと、2つの点で間違っていることがわかります。

1.総合的判断のメルクマールに「重症者数」を使ってはいけない。

なぜなら、新規患者数と重症者数のピークには約2週間のタイムラグがあるからです。これは第1波から得られた知見です。重症者数をメルクマールにしていると、手遅れになります。

・重症者は遅れて増加してくる

(新型コロナ 重症者数は鋭敏な指標ではない理由(忽那賢志) https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20200719-00188613/

2.医療体制の状況判断と関連して、感染状況を判断するには「現在感染者数」を見るべきです。

この新型コロナ感染症は、

A:感染者の8割は無症状~軽度の上気道炎症状で終始し、1週間程度で治癒する感染症であるが、
B:2割において重症化が起こり、うち5%の人が死亡する

ということが知られているからです。
(風邪が三番目の対応法になるかも 新型コロナに対して | ちえのたね|詩想舎 https://society-zero.com/chienotane/archives/8728

・新型コロナ感染症の特徴

(東京都の新型コロナ 「若者中心であり重症者が少ないから大丈夫」は本当か?(忽那賢志) https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/

たとえばペスト。

ペストは致死率が30%~60%。潜伏期間は通常2〜7日。感染後アッという間に重症化し死へ至る。こういう感染症の場合は、フローベースの「新規」を追いかける方法で、感染状況把握にあまり不都合はないでしょう。

しかし、新型コロナ感染症はペストとは異なるのです。

つまり、感染しても直っていく人がたくさんいる。「新規」の数値だけ追いかけていても「一喜一憂」するばかりで、感染の現状把握ができません。感染の現状把握には「新規」の累計数値から退院した人の累計数値を除いた数値を追いかけねば、状況把握が困難なのです。

現在感染者数 = 累計感染者数 - 回復者(退院)数 - 死亡者数

この「現在感染者数」でこれまでの推移と現状を見るとこうなります。

まず東京。

現在感染者数 推移 東京

現在感染者数推移 東京

ついで全国。

現在感染者数 推移 全国

現在感染者数推移 全国

どうでしょう。「何か大変なことが起きる予兆」がすでに見えていると言えないでしょうか。このように、医療体制の逼迫の有無と感染状況を関連付けて把握したければ、重症者数ではなく、現在感染者数を追うべきです。

最後が医療体制の逼迫状況そのもの、の点検です。

この「現在感染者数」を使って、

対策病床使用率 = 現在患者数  ÷  新型コロナ対策病床数

を都道府県別に表示しているのが「COVID-19 Japan 新型コロナウイルス対策ダッシュボード」です。

これで全国を俯瞰すると、東京/静岡/福岡/大阪/愛知/京都の地域の医療体制は逼迫一歩手前です。
・対策病床使用率 7月31日

対策病床使用率 7月31日

 

菅官房長官はじめ政策決定に関与する方々の、サイエンスとデータの理解を深めてほしいことと、そのうえで、感染予防か経済優先かといったゼロか100か、の発想ではなく、両者のバランスをとる対応策に知恵を出すことに汗を流してほしいものです。

ただし、「大変なことが起きる予兆を先に見つけて、手を打つ。」

「次の段階に移ったことがわかってから対策を打つのでは、遅すぎ」るのですから。

 

 


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