感染症が発生した場合、国や都道府県はどう行動したらよいのか

感染症対応は社会的隔離政策発動の、「スピードと果断さ」が重要だ、というのが世界の一致した認識です。これまでのところ(2021年4月6日)、初動が早く、徹底した施策を展開し成功していると言われているのが、ドイツ、台湾、シンガポールです。他の国は「あと○○日早く動けていれば」と臍を噛みながら、しかし果敢に新型コロナへの対応を実施しています。

(NYとカリフォルニアの差はなぜ、米 新型コロナ拡大 - YouTube https://www.youtube.com/watch?v=1OfPEypYsyc

なぜ「スピード」と「果断さ」なのか。感染が指数関数的に増大するからです。

他方、なぜ世界で「スピードと果断さ」が重要だ、という認識が共有されているのか。それは百年前の感染症の世界的流行の経験、その疫学的分析がすでにあったからです。

スペイン風邪の経験

およそ百年前、インフルエンザが世界的に大流行、いわゆるパンデミックが発生、世界に死者があふれました。「スペイン風邪」と呼ばれる、この感染症の大流行はしかし、そもそもの病気の発症地はスペインではなくアメリカでした。

当時第一次世界大戦のさなか、遅れてこれに参戦した米国軍が欧州に遠征した際、米国軍内にインフルエンザ感染者がいたため、欧州大陸にウイルスが大量に運ばれてしまったのです。

戦時、疫病による死者増大は自国の士気にかかわり、また相手国への利敵情報ともなることから、どの国も疫病の流行を公表しようとしませんでした。この行動が無用な感染拡大を招いたわけですが、そのことに憤慨したスペインがこれを率先公表、ために「スペイン風邪」と呼ばれるようになりました。

ちなみに今回のコロナ禍において、「東京脱出」、「コロナ疎開」が起きていますが、それは第一次世界大戦の際の米国軍の欧州遠征と同じことになってしまいます。ウイルスを地方に運びそこで広げてしまえば、新たなクラスター(感染者集団)を生んでしまうおそれを否定できないのですから。

さて発症の地、アメリカの諸都市では死者の数(ここでは単位人口=十万人当たりの数値)と感染症対応の巧拙との間に、ある相関があったことがその後の研究でわかっています。感染症対応の巧拙のポイントは「スピードと果断さ」でした。

スピードと果断さ

21世紀の現在、社会的隔離政策としては、外出禁止令や都市封鎖(交通の一次的遮断)が各国で実行されていますが、その発動の速さ(スピード)、どの程度強権的に実施できるかとその期間(果断さ)が課題。これに対し百年前のスペイン風邪のときは、集会禁止令と学校閉鎖令が政策の中心でした。

百年前にセントルイス市長がとった行動は成功事例によく挙げられると同時に、その難しさの事例としても知られています。

セントルイスでは社会的隔離(集会禁止令と学校閉鎖令の発動)の初動が素早く、結果死者数のピーク、そしてトータルの死者数を押さえることができました。しかしこの市長の決断は当時評判が悪くバッシングを受け、ピークアウトが見え始めた時点で撤回。ところがそれがまた引き金となり死者は増加してしまい、二度目の社会的隔離策を発令し感染症の終息をなんとか実現しました。

他方フィラデルフィアは、初動が遅くその期間も短く、結果トータルの死者数(ここでは人口当たりの数値)がセントルイスの倍以上となりました。

(「早さ」と「徹底」がやはり対策の鍵、スペインかぜの教訓 | ナショナルジオグラフィック日本版サイト https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/20/033100207/

・米国の中で成功した諸都市

・米国の中で失敗した諸都市

日本の対応 特措法から感染症法へ

新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)に基づき、首相が緊急事態宣言をするのかどうかが注目を浴びています。この「宣言」、日本の場合、疫学を踏まえた判断として「もう今だ」とする報道が盛んになされています。スピードではすでに「遅い」のかもしれません。(追記:4月7日緊急事態宣言を安倍総理が発出 安倍首相が緊急事態宣言 7都府県対象 効力5月6日まで | NHKニュース https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200407/k10012373011000.html

ただ、そもそも遅いのかどうかを判断できるデータが、消極的検査体制のせいで手に入っていない、という事情があります。

次に果断さの点においても、外出自粛に罰則を設けることなど海外で行われている「ロックダウン」(都市封鎖)と、日本における緊急事態宣言とは、同じでありません。特措法には、強制的に外出を禁じる規定はなく、鉄道やバスなどの公共交通機関の運行をとめて封鎖するような規定はありません。

(改正特措法「緊急事態宣言」発令が何を引き起こすか(坂東太郎) - 個人 - Yahoo!ニュース https://news.yahoo.co.jp/byline/tarobando/20200327-00169975/

他方、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)第33条なら、たとえば都道府県知事の権限で72時間の交通規制ができます。果断さの観点からは、感染症法第33条という選択肢もあることになります。小池知事が「ロックダウン」とか「首都封鎖」とか言い出したタイミングと前後して3月26日、この条例は改正され、新型コロナでもこの法律が使えるように準備がなされました(3月27日から改正条例は施行)。

日本の政治経済の心臓部である東京都については、感染症法第33条の適用が必要になるのではないでしょうか。

 

 


感染症法33条とは  https://society-zero.com/chienotane/archives/9005


◎新型コロナに関する記事は他にこんなものがあります。

・ヒカキンのコロナ医療支援募金と『愛の不時着』のミラー理論 https://society-zero.com/chienotane/archives/8678
・日本の第一波はピークを過ぎている 専門家会議の資料からは https://society-zero.com/chienotane/archives/8609
・コロナの大学へのインパクト 生まれるか教育の「ニューノーマル」 https://society-zero.com/chienotane/archives/8642