●新型コロナが炙り出す適者生存 日本社会のゆくへ

新型コロナという環境変化

『種の起源』でダーウィンは後に「進化論」と命名される考え方を明らかにしました。ただ、私たちは個体の生物学的な視点からのみで進化論をとらえようとしがちです。しかし彼は『人間の由来と性淘汰』で個体と環境とのかかわりだけではなく、個体どうしの「社会」も、繁殖競争などを通じて進化の舞台となることを予言していました(ダーウィンが開いた動物社会学の道 | iCardbook|知の旅人に https://society-zero.com/icard/520444 )。

生物個体でなく社会に引きなおし、「進化論」の「適者生存」の要諦をまとめると、

・すべての社会に変化は起きる

・環境の変化に対し生存に有利な変化をなしとげた社会が生残る

といった具合になるでしょうか。
ちなみに20世紀が終わろうとしていたころ、「情報化」という大きな環境変化のうねりがグローバル世界を覆いました。その変化はとりわけ、2007年のiPhoneの登場で極まり、わたしたちの暮らしや経済、世界のありかたは大きく変わりました。

このたびの新型コロナの感染は面白いことに、情報化社会の到来という環境変化にこの30年間、適応し変化する努力をしてきた社会とそうでない社会との差異を浮き彫りにしようとしています。

日本社会は適者生存できるか

たとえば学校を閉鎖しなければいけない事態にオンライン学習で対応したいのですが、それを実現しようにも日本の教育体制はまったく準備が整っていません。

紙の書類とハンコの文化を変えてこなかった企業社会は、リモートワークスへのシフトという課題の前に、「働き方改革」の不全を露呈しています。

また情報化は産業論的に知識集約型へのシフトを意味しますが、知識という経営資源は従業員の頭の中にあります。つまり情報化社会の到来で起きることは経営者と従業員との力関係の転換です。ドラッカーが『ネクスト・ソサエティ ― 歴史が見たことのない未来がはじまる』で、そう分析していました。

かつて家族主義経営を唱えていたはずの日本企業がコロナ禍に際し解雇を検討しているのに対し、GAFAたちは従業員を厚遇、たとえばマイクロソフトは全従業員に有給休暇12週間追加付与しようと動いています。なんという皮肉でしょう。


■関連URL

●マイクロソフト、新型コロナで全従業員に有給休暇12週間追加付与。GAFAも従業員厚遇 | Sustainable Japan https://sustainablejapan.jp/2020/04/13/gafam-employee-covid-19/48284
「IT大手は、新型コロナウイルス・パンデミック前から、従業員を重要な長期的経営資源と位置づけ、処遇を厚くする姿勢を打ち出していた。」

●コロナ対応のテレワークに「格差」が生じている https://toyokeizai.net/articles/amp/342092?display=b&_event=read-body
「東京商工会議所が都内23区の中小企業を対象に行った調査によると、テレワークを「実施している」と答えた企業はわずか26%程度。
因果関係とまではいわないが、地域の感染者数とテレワーク実施率に一定の相関がありそう。「テレワークの実施率と患者数の相関係数は約0.45。1に近いほど正の相関があるといわれているので、一定の関係性があると見てよいだろう。」

●在宅勤務を阻む日本の「ハンコ文化」 そもそも印鑑に法的効力はあるのか https://urbanlife.tokyo/post/33287/
日本においても、契約書には印鑑を押していなくても、「署名があれば、印鑑の有無にかかわらず有効」。「原則として印鑑自体には何か特別な法的効力があるわけではない」「さらにいえば、契約書などなくとも、口頭や、メール・LINEでのやり取りであっても、そこで合意がなされれば契約は有効に成立する」。(関口法律事務所 2020年2月4日)
「ルールはやろうと思えば変えられるはず。大切なのは「どうにかしようとする意志」」

●在宅勤務なのにハンコを押すために出社 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200411/amp/k10012381401000.html
「電子契約の運用に関わる日本情報経済社会推進協会によりますと、日本国内の企業で、電子契約を一部でも導入している企業は、ことし1月時点で43.3%にとどまっている」

●政府の遅いコロナ対応に「IT化」が不可欠な理由 | コロナショックの大波紋 https://toyokeizai.net/articles/amp/343688
「コロナ危機でIT化を加速させる必要がある。金融機関の窓口、ハローワークの窓口で申請をするときに時間がかかるのは、申請書類を紙で提出し、添付書類もすべて紙で取得して添付しなければならないからである。」

●予算書作成に2~3週間 印刷にも2、3日…経済対策にこれだけ時間がかかる理由 - 毎日新聞 https://mainichi.jp/articles/20200415/k00/00m/020/301000c
「収入が減った対象者からは「手元にお金が届くのが遅い」と不満が噴き出している。米国では既に届き始めたのに、なぜ日本は遅いのか。」

●全米で進むオンライン授業、セントラルフロリダ大学 原忠之 氏が日米格差について語る https://techwave.jp/archives/dr-tadayuki-hara-unveils-online-course-in-usa.html
「日本の大学の教育インフラのレベルは米国の15-20年遅れ。しかも米国では義務教育小中高学校もオンラインインフラは大学並みに整備されています。」

●新型コロナで露呈する学生の「格差」問題 - 田中駿介https://webronza.asahi.com/national/articles/2020041100003.html
「オンライン授業にうまく移行できるかというと、ここでも「経済格差」がそのまま「教育格差」となって学生たちを追い詰める。」
「ツイッターでは「自粛と補償はセットだろ」という市民の書き込みがあふれた。あえてその表現を拝借すれば、「オンライン授業とネット環境整備はセットだろ」と主張したい。」

●国と東京都が「宣言」でもめた 今後どうなるのか 新型コロナ https://society-zero.com/chienotane/archives/8485
「ウイルスは忖度してくれない。
むしろ忖度でできた欺瞞空間を利用して、したたかに増殖するのがウイルスだ。忖度ワールドを嘲笑いながら。
9年前の原子炉メルトダウン時、首相は理系人材で、少なくとも事態のマグニチュードを理解していた。
こたびの首都圏のメルトダウンについてはしかし、首相が事態のマグニチュードを体感的に理解できていないのが、21世紀第一四半期の日本国の悲劇だ。」

●ヒト社会の解明に立ちはだかる壁 | iCardbook|知の旅人に https://society-zero.com/icard/173957