●「コロナ後のニューノーマルへの備え」と「社会の危機を変化の入口に」

フランスのマクロン大統領は、「新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)には資本主義を作り変える力がある。」、とフィナンシャル・タイムズのインタビューでコメントしています。

世界中が感染症対応と、その対応がもたらす社会インフラ破壊への手当てに追われています。このコロナ危機のさなか、しかしコロナが収束しても、もはや「元の世界」には戻れないのではないか、どういう世界がその先に待ち受けているのかについての思索が、世界では始まっているのです。感染爆発ならぬ企業倒産の多発で、モノとサービスの供給体制が瓦解する「倒産爆発」の後では、もう元の状態に戻れないと考えられるからです。

それは「ニューノーマル」、新常態についての思索。「コロナ前」と「コロナ後」では世界の政治体制や経済体制が全く別のものになるだろう、という思潮です。この思潮を眺めると、ふたつの傾向があります。ひとつは、社会インフラ破壊を一部受容したうえで「コロナ後のニューノーマルへの備え」を説くもの。もうひとつは、昨日まで求めても求めえなかった新しいノーマルを目指そうとする動き、「社会の危機を変化の入口に」です。

たしかに日本ではリモートワークスもオンライン学習も、なかなか進んでいません。「オンライン会議」「オンライン授業」が浸透しない中で他方、スカイプでの「バーチャル飲み会・お茶会」や、iPhoneの「facetime」や、LINE会議機能、Skypeを使った、友人や家族との談笑の体験、またTV番組制作も静かな広がりを見せています。
(関白宣言 替え歌 緊急事態宣言のうた - YouTube https://www.youtube.com/watch?v=pUDRlUhGOao&feature=youtu.be

「そうはいっても何も変わらない」「もとに戻すには」「元に戻せるよう、バランスを考えて」といった発想が為政者や大企業経営層に強く、制度面の変化はあまり起きていないのが日本の現状です。しかし制度面の変化はともかく、上の日常体験の積み重ねから私たち日本人の間でゆっくりと、「価値観の転換」が起きていると思いませんか。

世界では哲学者たちが静かに進む「価値観の転換」の事象を掬い上げ、「ニューノーマル」、コロナ後の世界について考察を深め、議論を重ね、テキスト化しています。


◎「ニューノーマル」を考える記事は他にも

だから、収束は終息を意味しない。残念ながら。いったんの収束で外出自粛や自主休業が解除されることはあっても、それで終わり(終息)ではない、ということを念頭におかなければならない。(略)数年にわたる長期戦だから「新しい生活様式」であり、「ニューノーマル」なのだ。
日本の第一波はピークを過ぎている 専門家会議の資料からは https://bit.ly/36pmKRN

ニューノーマルの時代、「ハイブリッド型の学習・研修が進むと思います。課題をチームで解決させるとか、目標をしっかりと握りチームビルディングを行うといったもの、実習を含むものなどアナログ的なものはオフラインになるのではないでしょうか。ロジカルシンキング、ライティングなどの座学に近いものはオンラインで行ってもよいと思います」。
コロナの大学へのインパクト 生まれるか教育の「ニューノーマル」 https://bit.ly/3bTDwcM

オフィスのニューノーマル:「超高層のガラスの箱」「完全空調の密閉空間」から、「東京近郊の緑が豊かなエリアに立つ3〜4階建ての建物」へ、といったトレンドがコロナ後主流になるかどうかは、価値観の転換が起きるかどうかにかかっている。
ひとつの試金石は「テレワーク」「在宅勤務」がどう評価されているかだろう。
日本的高密都市の行方 企業の「ニューノーマル」は生まれるか https://bit.ly/3e2cvp8


■関連URL

●コロナ後、もう「社畜」では生きていけない https://www.bcnretail.com/market/detail/20200419_168541.html
「少なくとも、事務所に長時間滞在することで評価を期待する「社畜」に甘んじていては生きていけない時代になった、と言えるだろう。日本でも、人と会社の新しい関係性構築が求められている。」

(新型コロナウイルス感染症予防のため「通勤・通学」を避けている人の比率(「新型コロナウイルス自主調査 第5回調査結果」:日本リサーチセンター・英YouGov調べ))

●コロナと世界 「利益至上」見直す契機に 日本電産会長兼CEO 永守重信氏  https://www.nikkei.com/article/DGKKZO58252910Q0A420C2MM8000/
コロナ終息後は全く違った景色になる。テレワークをどんどん取り入れる劇的な変化が起きる。東京都内の会社に勤める人が山梨県に仕事部屋のある広い家を建てるようなケースが増えるだろう。企業は通勤手当をなくす代わりに給与を上げるほか、サテライトオフィスを作るなど抜本的に環境を改善すべきだ」。

●ニューノーマル時代に求められるのは「スピード」と「柔軟性」 https://www.sbbit.jp/article/cont1/21697
「リーマンショックのような異常な事態が次々に起き続ける時代、"ニューノーマルな時代"がすでに始まっているのです」

●なぜ日本メディアは「コロナで大変そうな海外」ばかり報道するのかhttps://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200421-00072018-gendaibiz-int
ハーバード大学の研究者による研究によると、2022年までこの新型コロナによる自粛が繰り返されるだろうとされている。だから、コロナ終息後、元の生活に戻れると想定するのは非現実的なのかもしれない。
「ニューヨークではほとんどの場合、感染者がいるマンションは管理会社に知らされ、管理会社から住人に電話やメールで「新型コロナの感染者が出たので共有部分を消毒する」という連絡が入る。これもプライバシーが守られないニューノーマルと言える。」「ニューヨークはマスク着用の義務化が4月17日始まった。だが、これは自身の感染を予防するためではなく、感染を拡散させないためであるとニューヨークは発表した。だからマスクの義務化にはバンダナでもスカーフでも口と鼻を覆う物をしていれば罰せられることはない。ファッションでもニューノーマルが始まるということだ。」

●東大の前田恵理子先生、「収束まで何年?親の覚悟」 https://note.com/sangmin/n/nd8963c017fc9
「むしろ、10年の間に社会がすっかり変わると思います。
職場はリモートワークが当たり前になり、オフィスに通う生活をする人は激減、一方第一次、第二次産業とケアワークは、海外依存できなくなるために仕事が増えるはずです。産業構造は40年前の日本に近づくのではないでしょうか。
学校はホームスクーリングが基本になり、集団授業は過去のものになるでしょう。日本型の一斉入試は不可能になり、オンラインを通じたエッセイテストのような、欧米型AO入試をアレンジしたものが主流になると予想されます。」

●新型コロナウイルス長期化に向けて企業が考えるべき真の意味での事業継続戦略とは? https://home.kpmg/jp/ja/home/insights/2020/04/bcp-covid19-02.html#03
「ニューノーマル(新常態)」としては、「リモートワーク」が当たり前の状態となることが考えられます。「出勤=仕事であるという概念はなくなり、自宅やシェアオフィスなど「場所を選ばず」仕事をする環境が常識となることが想定されます。」

●ポスト・コロナ時代の逆都市化 https://coralcap.co/2020/03/predicting-life-after-covid-19/
何十年もなにも起こらないことがあるが、数週間のうちに数十年分が起きることもある。これから起きることは「逆都市化」かもしれない。
「距離によって発生するコストがテクノロジーの進化によって減少傾向にあります。リモートで働き、ネットで商品を注文し、ネットで医師の診察を受け、ネットでエンターテイメントを楽しむことができるなら、大都市に住むメリットは減ります。」

●フランスのマクロン大統領、新型コロナウイルスのパンデミックが資本主義を作り変えるだろうと語る https://www.businessinsider.jp/post-211515
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)には資本主義を作り変える力がある。

「人命を救うために世界中でこれほど大々的に経済活動をストップさせた前例はなく、(略)国際社会の資本主義の構造にも大きな影響を与えるだろう」「世界の国々が"利益"よりも"人"を優先し、社会経済的な不平等や環境問題にもっとオープンに取り組み始めることを願っている」

「全ての国は今こそ「何か新しいものを発明」しなければならない」

●MIT Tech Review: 「新型コロナ後」の世界はどう変化するか? https://www.technologyreview.jp/s/193333/were-not-going-back-to-normal/
「これまで世界は何度も変化してきた。そして今また、変化している。私たちは皆、新しい生き方、働き方、人間関係構築方法に適応する必要がある。しかし、他のすべての変化と同様に、すでに多くを失いすぎているのに、さらに多くを失うことになる人たちが存在する。望まれる最善の結果は、今回の危機の深刻さが引き金になり、最終的に国家が、多数の国民を極めて脆弱な状態に陥れる大きな社会的不平等の修正に向かうことだ。」

(広範囲の社会距離戦略を実施しない想定では、新型コロナウイルス感染者が急増して保健医療システムの崩壊をもたらす:インペリアル・カレッジCOVID-19対応チーム)

●コトラー教授緊急寄稿「新型コロナ、ニューノーマルつくる契機に」https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00030/041600098/
「振り返ってみれば多くの人々にとって、今までの生活はそれほど良いものではなかった。多くの人々は貧しかったし、おなかをすかせていたし、そして何よりも働きすぎていた」。

●『コロナの時代のぼくら』コロナ後の我々は、何を守り、何を捨て、どう生きていくべきなのか? https://honz.jp/articles/-/45607
どうしたらこの非人道的な資本主義をもう少し人間に優しいシステムにできるのかも、経済システムがどうすれば変化するのかも、人間が環境とのつきあい方をどう変えるべきなのかもわからない。実のところ、自分の行動を変える自信すらない。でも、これだけは断言できる。まずは進んで考えてみなければ、そうした物事はひとつとして実現できない。家にいよう。そうすることが必要な限り、ずっと、家にいよう。患者を助けよう。死者を悼み、弔おう。でも、今のうちから、あとのことを想像しておこう。「まさかの事態」に、もう二度と、不意を突かれないために。」

●新型コロナは「敵」ではない。哲学者が説くウイルスとの「共生」 https://forbesjapan.com/articles/detail/33797/1/1/1
コロナ禍でベネチアの海はきれいに、北京やNYの空は澄み渡ってきた。またインド北部からは数十年ぶりにヒマラヤが見えるようになった。それはつまり地球にとって、人間がウイルスで、コロナがワクチン(?)ということなのだろうか。

「生」にとっては「alive」と「survival」の両義性こそが重要であり、ただひたすらに「生き抜く」ことだけを目指す硬直性は、むしろ私たちの「生」を破壊しかねない。」
「生物学では、異種の生物が相互的に関係を及ぼしながら生活することを「共生」と呼ぶ。モートンは“The Ecologocal Thought”(2010)において、種子と花粉がそれらを循環させる鳥や蜂と共生している例や、人間の胃がバクテリアやアメーバと共生する例など、世界を構成しているさまざまな共生関係を例示しつつ、あらゆる存在が「網の目」状に関係しあい、共生することによって成り立つ世界像を提示していたのであった。」
「モートンの哲学は、経済的損失を懸念するがあまり新型コロナウイルスの危険性を軽視し「活発に生きる」ことを求める主張にも、感染拡大を恐れて警察権力などを動員して人々を隔離することを強いる主張にも、そのどちらにも与しない。」

●コロナ危機 精神の毒にワクチンを https://shinsho-plus.shueisha.co.jp/news/8624
ガブリエルも唱える。「この地球の生態システムが一つの巨大生物だとしたら? コロナウイルスは、利潤欲求によって数えきれないほどの生き物を殺してきた人間の奢りに対する、この惑星の免疫反応なのだろうか?
道徳的進歩なしには、真の進歩はない。人種差別的偏見があらゆるところで明らかになることで、パンデミーはこのことを私たちに教えてくれる。(なぜなら)ウイルスの前では、あらゆる人間は、人間なるものとしてみな同じなのであり、ある種の動物にすぎない(のだから)。」
「21世紀とは、グローバル化という現象の感染が拡大した世紀だ。コロナウイルスが明らかにしたのは、すでに長らく生じていた事態にすぎない。つまり、私たちには、まったくもって新しいグローバルな啓蒙の理念が必要なのだ。
ここで、ペーター・スローターダイクの表現を用いて、そのことを新たに解釈しよう。私たちに必要なのは、共産主義Kommunismusではなく、共免疫主義Ko-Immunismusである。そのためには、競争的な国民文化、人種、年齢集団、階級に私たちを分断する精神の毒に抗するワクチンを打たねばならない。

●『サピエンス全史』のユヴァル・ノア・ハラリ氏、 “新型コロナウィルス”についてTIME誌に緊急寄稿! http://web.kawade.co.jp/bungei/3455/
「今回の危機の現段階では、決定的な戦いは人類そのものの中で起こる。もしこの感染症の大流行が人間の間の不和と不信を募らせるなら、それはこのウイルスにとって最大の勝利となるだろう。人間どうしが争えば、ウイルスは倍増する。対照的に、もしこの大流行からより緊密な国際協力が生じれば、それは新型コロナウイルスに対する勝利だけではなく、将来現れるあらゆる病原体に対しての勝利ともなることだろう。」

●全文公開第二弾! ユヴァル・ノア・ハラリ氏(『サピエンス全史』ほか)が予見する「新型コロナウイルス後の世界」とは? FINANCIAL TIMES紙記事、全文翻訳を公開。 http://web.kawade.co.jp/bungei/3473/
「新型コロナウイルス感染症の大流行は、公民権の一大試金石なのだ。これからの日々に、私たちの一人ひとりが、根も葉もない陰謀論や利己的な政治家ではなく、科学的データや医療の専門家を信じるという選択をするべきだ。」

「生体情報の監視を、非常事態の間に取る一時的措置だとして擁護することもむろんできる。感染症の流行が終息したら、解除すればいい、と。だが、一時的な措置には、非常事態の後まで続くという悪しき傾向がある。常に何かしら新たな非常事態が近い将来に待ち受けているから、なおさらだ。」

「この危機に臨んで、私たちは2つのとりわけ重要な選択を迫られている。第1の選択は、全体主義的監視か、それとも国民の権利拡大か、というもの。第2の選択は、ナショナリズムに基づく孤立か、それともグローバルな団結か、というものだ。」「感染症の大流行自体も、そこから生じる経済危機も、ともにグローバルな問題だ。そしてそれは、グローバルな協力によってしか、効果的に解決しえない。