●日本的高密都市の行方 企業の「ニューノーマル」は生まれるか

欧米は3月から、日本でも4月から外出禁止(日本では自粛)や対面中心の一部業種に対する営業休止(日本では自粛)が続いている。ここにきてようやく、これら制約の「解除」の動きも出てきた。しかし「新しい生活様式」「ニューノーマル」の起点である、感染予防の「 social distancing」。当面ここは変わらない。

だとすると、コロナはいわば強制的な「共通体験装置」として機能し続ける。いままでの「日常と非日常」区分の見直し、「もともと持っていた価値の転換」を実感する、そういう時間をわれわれは過ごしてきたし、これからもしばらく続けることになりそうだ。

さてそれでこのコロナ下での体験を機に、日本の「会社社会」は変わっていくのか企業の「ニューノーマル」へ向け「社会の危機を変化の入口に」することが、日本の「会社社会」はできるのだろうか。それとも危機が終われば元へ戻るだけの話しだろうか。

 

都市間競争の時代

20世紀後半、識者は21世紀が「都市の世紀」になると予言、あるいは「都市間競争の時代」が来ると喧伝した。実際世界の人口分布は都市へ都市へと集中していった。

・2030年には約49億人が都市で暮らす(世界各国の都市部人口の割合:色が濃いほど集中)

(急速な都市化の進行 | PwC Japanグループ https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/megatrends/accelerating-urbanization.html
・世界の都市/田舎人口の推移

(国連レポ―ト:World Urbanization Prospects から加工/https://blog.goo.ne.jp/mit_sloan/e/d1e33419a7c665f77c12eb3532edf111 )

歴史的な実証として、産業の高度化(農業漁業から工業へ、さらにサービス産業へ)の流れが都市への人口集中を促してきている。
・日本の都市/郊外人口の推移

・アメリカオの都市/郊外人口の推移

(都市化する世界-私が今年考えたいテーマ https://blog.goo.ne.jp/mit_sloan/e/d1e33419a7c665f77c12eb3532edf111

ただしアメリカは広大な面積を有する国。確かにマンハッタンのような高層ビルが並ぶ場所がある一方で、大手企業の本社は人口稠密地帯のむしろ周辺に、平屋せいぜい数階建てのオフィスを緑豊かな中に構えることが多い。この点で日本とはだいぶ様子が違う。関連してたとえば所在行政地域の教育費が低廉、無償といったことが珍しくなくある。
・IBMの本社(住所:1 New Orchard Road Armonk New York 10504)

・アップルの本社

これにくらべ日本の企業の本社は都市部のオフィス街に集中、都市部の地価、賃貸料は高止まり、従業員は郊外へ。結果、1時間を超える通勤が当たり前になっている。だからコロナ下での体験が契機となって、日本の企業社会が「危機を変化の入口に」できるかどうかはとて大きな問題設定だ。

企業社会と違って「学校」は、文科省による指導、トップダウン型で「ニューノーマル」が定着する方向にある。「social distancing」を起点にした発想と、その発想をもとにした学級運営や学校経営が「ニューノーマル」の内実だ。時差通学に加え分散登校(学年や学級に曜日を割り振り、登校日以外は家庭で)が前提になる。つれて授業・学習の基本はオフライン(登校日)とオンライン(休校日)両方のハイブリッド型が定常化する方向にある。
・大学のハイブリッド型の考え方

■コロナの大学へのインパクト 生まれるか教育の「ニューノーマル」

 

日本の都市の景観は変わるか

建築家の内藤廣氏は、これまでの「超高層を中心とした都市再開発」の建設業界の常識が転換する可能性について次のように述べている。
(●高密都市は終わるのか? 建築家・内藤廣氏に聞くアフターコロナの建築 | 日経クロステック(xTECH) https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01296/051200010/

・プロジェクトファンディングは複雑そうに見えてその実、初期投資と利回りという単純なもの。床貸しの値段が下がれば、簡単に崩壊する。
・これまでの都市再開発が一定程度うまく行っていたのは、超高層に対して「かっこいい」という憧れや、企業ブランドにつながる価値があったから。それが良いと思われている間は良いが、価値観がなければ値段は下がる

ポイントは「超高層に対して「かっこいい」という憧れや、企業ブランドにつながる価値」観の変容があるか、だ。

つまり、「なんで超高層のガラスの箱に入って仕事しなければならないのか」「なんで完全空調の密閉空間で過ごさなければならないのか」と人々が思い始めるかどうか。

「超高層のガラスの箱」「完全空調の密閉空間」から、「東京近郊の緑が豊かなエリアに立つ3〜4階建ての建物」へ、といったトレンドがコロナ後主流になるかどうかは、価値観の転換が起きるかどうかにかかっている。

ひとつの試金石は「テレワーク」「在宅勤務」がどう評価されているかだろう。

 

テレワーク、在宅勤務の通信簿 未来の勤務形態は「ハイブリッド型」?

今回のコロナ禍をきっかけに、テレワークの導入・遂行がますます進み、日本企業における働き方が変わっていくかもしれない、とは最近よく指摘される点だ。

(従業員数1,000人以上の大企業対象「テレワーク実態調査」https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000031.000025071.html )

リクルートマネジメントソリューションズの調査によると、セキュリティなどの課題はあるにしても、意外と効用面の実感も大きいようだ。

・実感:テレワークの効用 生産性が向上
管理職、一般社員ともに、テレワーク経験者の半数以上が、「生産性が向上し、業績にプラスの効果があると思う」「仕事へのやる気が高まると思う」と回答。半数弱が「会社への愛着が増すと思う」と回答。

(テレワーク緊急実態調査 | 調査ライブラリ | 人材育成・研修のリクルートマネジメントソリューションズ https://www.recruit-ms.co.jp/research/inquiry/0000000852/

アドビ社の調査で、やってみての実感として生産性が最も上がると思うテレワークの頻度は、週3~4回(42.9%)だった。

(理想のテレワーク頻度は週3~4回 - アドビが調査 https://news.mynavi.jp/article/20200413-1016070/

そのためか、「コロナ禍が収束しても引き続きテレワーク中心に働きたい」、こう考えるビジネスパーソンが4割に達することが日経BizGateのアンケートで明らかになった。
(「収束後もテレワーク中心に働きたい」4割 現状はストレスも https://bizgate.nikkei.co.jp/article/DGXMZO5879473006052020000000/

楽天の調査では「働き方の理想」の詳細を調査している。

コロナを機に在宅勤務が始まったあるいは増えた人に対し「働き方の理想」を聴くと「ハイブリッド型」の回答が多い。すなわち、「新型コロナウイルス感染症拡大の影響に関わらず、働き方として理想だと思う頻度」を聞いたところ、「週に2日」(22.7%)、「週に3日」(22.3%)、「週に5日(勤務日すべて)」(19.4%)の順となった。つまり完全在宅シフトはむしろ少数派で、週に4~1日は使いたい(69.5%)「ハイブリッド型」が衆目の一致するところのようだ。ちなみにSNSの一翼を担うtwitter社は「在宅勤務を無期に」を早々と宣言している。
・コロナを機に始まった・増えた人に対し「働き方の理想」を聴くと「ハイブリッド」

在宅勤務を行って増えた時間は、当然ながら「家で食事をする時間」、「睡眠・休息の時間」、「家事をする時間」。そして在宅勤務を行ってよかったことでは、「通勤ラッシュ・満員電車を避けられる」が55.7%で最も高く、続いて「時間にゆとりができる」(37.2%)と続いている。

ちなみにこういった意識の変化、価値観の転換の契機となった在宅勤務、テレワークを体験しつつある人の分布を確認すると、やはり東京と大阪を中核とするメガ都市圏ということになる。

・東京大坂、それぞれの都市部通勤圏の導入が顕著

・全国平均では未導入が6割

・地域別/コロナを機に在宅勤務実践が始まった・増えた人

・職種別/コロナを機に在宅勤務実践が始まった・増えた人

想定以上に在宅勤務、テレワークが機能し、従業員が出社するオフィスという空間の必要性が見直され始めているのは確実。ただしそれは職場の再定義、つまり「作業スペースからコミュニケーションの場へ」、その価値と役割を見直す現象でもある。オフィスの新しいカタチ、新しい働き方の模索が始まっている。

日本的高密都市は変わるか。

足元不動産業者のもとへは賃貸料契約の解約やスペース縮小の打診がある、ともいう。(テレワーク導入で都心部のオフィス賃貸解約や面積縮小の動き https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200511/k10012425101000.html

だがそれがさて、一年過ぎ、二年経過し、コロナの世界的終息が見えたころ、トレンドとして定着しているか。それは、

通勤時間0分の快適さに気づいてその後、元にもどらないのかどうか
判子や書面が撤廃・省略化になりその後、元の執務習慣にもどらないのかどうか
「出勤する必要性」についての意識、不要不急の判断基準が、元にもどらないのかどうか
デジタルリテラシーの低いマネジメントに世代交代を迫る、ことになるのかどうか
役職定年後のいわゆる「働かないおじさん」あるある問題が解消する、ことになるのかどうか

こういった点にもかかわってくるだろう。


 

■関連URL

●米ツイッター、在宅勤務を無期に オフィス不要論に拍車 https://r.nikkei.com/article/DGXMZO59023560T10C20A5000000
米ツイッターは12日、世界で働く約5100人の全社員を対象に、期限を設けずに在宅勤務を認める方針を明らかにした。

●テレワーク導入で都心部のオフィス賃貸解約や面積縮小の動き https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200511/k10012425101000.html
「解約するのは、エンジニアが使っていた部屋や、全社員がいちどに集まれる集会スペースで、今後は半数の従業員の分の席しか設けず、新型コロナウイルスの感染が収束したあとも、従業員には週に2日から5日はテレワークをしてもらう。」

●新型コロナウイルス感染症拡大により、約6割がキャリア観に「変化あり」
https://monoist.atmarkit.co.jp/mn/spv/2005/14/news011.html
「場所や時間を選ばない働き方に魅力を感じたか」は、「そう思う」45%、「どちらかといえばそう思う」39%。
「以前から転職を検討していたが、ますます転職への意欲が高まった」と46%が回答。「以前は転職を検討していなかったが、今は転職を検討するようになった」の11%を合わせて、57%が「転職活動に前向き」。
こうした情勢下で採用活動を継続している企業には将来性があると思う」、とも。

●“地方に転職したい” 都市部の若者に意識広がる コロナ影響か | NHKニュース https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200517/k10012433391000.html
「「地方への転職を希望する」と答えた人は36%と、ことし2月の調査と比べるとおよそ14ポイント多くな」った。
理由:「テレワークで場所を選ばずに仕事ができることがわかった」「都市部で働くことにリスクを感じた」。

●在宅勤務に関する調査|楽天インサイト https://insight.rakuten.co.jp/report/20200430/
・コロナ以前から制度としての在宅勤務導入は思いのほか進んでいた
東京都(52.2%)、神奈川県(50.6%)では半数以上が「導入されている」と回答。次いで、千葉県(46.5%)、兵庫県(42.2%)、埼玉県(39.8%)。
・コロナを機に在宅勤務実践が始まった・増えた人は約2割
職種別では、「企画・マーケティング系」、「ITエンジニア」で過半数が該当、都道府県別では東京都、神奈川県、千葉県が他県と比べて高い。
・コロナを機に在宅勤務実践が始まった・増えた人の活用形態
勤務日は全部=43.0%/週に4~1日は使いたい=47.2%
・コロナ禍の現在の活用状況 年齢性別通して「週のどこかには活用」が過半

・在宅勤務の導入・普及が「進んでほしいと思う」と回答した人は46.9%

●従業員数1,000人以上の大企業対象「テレワーク実態調査」https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000031.000025071.htm
テレワークで不便・困ったことがあったとの回答が9割 紙・ハンコ業務が足かせに。

“直接対話”の減少でコミュニケーションや意識共有の不足を問題視する声も。

テレワークが生産性向上に結び付くには、整備すべき条件がありそう。業務構造をそのまま、テレワークでシフトする発想はご法度。

●「収束後もテレワーク中心に働きたい」4割 現状はストレスも https://bizgate.nikkei.co.jp/article/DGXMZO5879473006052020000000/
新型コロナ禍が日本の働き方を名実ともに大きく変えるきっかけになるのは間違いなさそうだ。

・「出社が前提の部署のペーパーレス化、印鑑レス化、社内決裁フローの見直しなど多くの課題が期せずしてあぶり出されたことで各部門における最適な人員の配置、業務の進め方など今後社内業務改革を行う上での重要なヒントがたくさん見つかった。業務の進め方を変えていくきっかけになった」(50代男性、大企業)
・「今後の技術向上で、よりアクティブでインタラクティブなテレワークができることに期待」(40代男性、大企業)