「本との出会い」をDXする

 


(Z世代はめっちゃ検索してる! 「若者は検索エンジンを使わない」は偏見だった!? https://webtan.impress.co.jp/e/2021/10/15/41754

 

■棚の力が果たした「本との出会い」

「復調」や「市場の底打ち」が報じられる出版市場ですが、子細に観るとコミック頼り。コミック以外の分野はなお危機の上にある、といってよいでしょう。「書き手→出版社→取次会社→書店→読み手」という仕組みが機能不全に陥りつつあるからです。

そこで解決方法として出版社から書店への直接取引が模索されています。20世紀までは、「棚の力」が本と読み手の仲立ちをしてきました。いまでもその力は目利きの書店員や力のある図書館員がいる場所では生きています。しかし事業体の書店や図書館に、そういった人材の育成に配慮できる余裕がどんどん減っています。直接取引で真の解決、とはならないのです。

 

■「本との出会い」のDX(デジタルトランスフォーメーション)

とりわけ、読み手の情報環境が激変したのが2010年代以降。ですから新聞紙や書籍といったメディアに関わる事業体にとって、知と読み手との出会いの、デジタルトランスフォーメーションが喫緊の課題です。

今回のクリップにはそういった志向、そして試行の色濃いものを集めてみました。動画、ポッドキャスト、VR、AIが出てきます。

ちなみに米国で、新聞紙と書籍の中間にあるメディアとして、「ニュースレター」が注目を集め、知の発信プラットフォームの、特に持続可能性ある仕組みとして勃興しているようです。

「もう一つ、コンテンツのDXの大きなムーブメントの1つとして書籍のDXがあげられますが、今後、紙に印刷された新刊を待って、購入して、という方法だけが個人の発信としてスタンダードであり続けるとは思えません。」

これは、日本で「ニュースレター」ツールを作ろうとしている、株式会社OutNow 濱本至社長の言葉です。出版社が書店と結ぶ直接取引ではなく、書き手が読み手と結ぶ直接取引である「ニュースレター」ツールに、書籍の未来があるとでも言いたそうです。

 

■常識を疑え

これまで「日本のネットは無料がデフォルトの市場」と一般的に受け止められてきました。しかし「お金を払うべき質のコンテンツにはお金は払う」土壌があることが確認されてきたと、濱本氏はいうのです。publisherにとって楽しみな兆候です。

他方デジタルネイティブのZ世代(25歳前後よりも若い層)が実は「本は書店で買う」という、日経クロストレンドのリサーチ結果は、むしろ「本との出会い」のDXがほとんど進んでいないがゆえ、なのかもしれません。

また「若者」はもうブラウザ検索をしない、といった常識もどうやら変化してきている、あるいは間違いであったことが博報堂の調査で判明しています。

興味や関心にそって行われる検索活動、この知的探索の周辺に「本との出会い」を配置できるようなら、それが新しい「棚の力」になっていくのかもしれません。
・24時間のスマホ利用行動を2分間に縮めてみた

まずは博報堂のクリップから、どうぞ。

 

クリップ集

●「検索離れ」は本当? データから浮かび上がる若者の意外な検索行動 https://www.hakuhodo.co.jp/magazine/93455/
都市伝説(「若者」はもうブラウザ検索をしない)をデータが打破。
「SNSを中心に多種多様なアプリをホッピングしつつも、関心の赴くまま、多くのワードをブラウザ検索しています。
ふと見かけた情報から新しいことへの興味を刺激され、SNSの「外」に出て行っている」。

つまり、SNSの利用頻度の増加が検索エンジンの利用頻度の増加にもつながっている。
・SNSで出会った言葉を即座に検索で調べている

この結果、1970年代後半から1980年代にかけて日本で流行したポピュラー音楽のカテゴリ、シティポップを一番検索しているのが20代という現象も。

 

●アマゾン頼みにはリスクはあるが 最大手の講談社がついに方針転換した「深刻な事情」 日本独自の出版流通システムの限界 https://president.jp/articles/-/51118
取り次ぎ会社を中抜きし、新しい流通ルートを構築する動き、の第三弾。まずKADOKAWAが先鞭をつけた。2015年アマゾンへの直接納品をスートさせ、次に自社施設で印刷・製本し書店への直接配送する仕組みを導入、書店との直接取引で2日以内に届ける体制を構築、拡充中。第二弾は2021年、講談社、集英社、小学館の大手出版3社が、総合商社の丸紅と連携して流通事業に乗り出す方針を発表した。

講談社は第二弾と同時に、KADOKAWAと似た動きに転じた。それが本件。講談社から取り次ぎを通さず、アマゾンへ直接納品することを決めた。
直接取引の当面の対象は人気の3シリーズ「講談社現代新書」「ブルーバックス」「講談社学術文庫」の既刊本。効果を見極めた上で他の書籍や新刊本への拡大を検討する。

 

●講談社に聞く! メディアビジネスのDXの1つのあり方 https://mekanken.com/contents/1838/
コミックを自社ラインナップに有する出版大手はDXにも熱心だ。たとえば講談社のDXの三本の矢:既存顧客への営業強化/運用型のデジタル広告/C-station。


C-stationが展開するのは「出版社メディア×SNSマーケティング」で、特に力を入れているのがマンガIPを用いた「マンガキャラクターの活用支援」。

(リーチと効果を最大化! 「出版社メディア×SNSマーケティング」の特設サイトがオープン! https://www.excite.co.jp/news/article/Prtimes_2021-09-15-1719-3579/

 

●「億を稼げる」松岡圭祐が職業としての小説家を勧めるワケ https://blogos.com/article/530630/
楽しむ読書の領域で、著者が出版社を通さず、自力で出版する方法:
・日本ではまださかんではないものの、出版エージェントによる売り込み代行というルートがある。
・出版社を介さず、電子書籍ストアのプラットフォームで、直接自分の作品を販売するのが、Amazonのサービス、KDP(Kindleダイレクト・パブリッシング)。七割の売上取り分が受け取れる。

 

●Amazon、KDPで紙書籍出版を開始 個人著者も紙の本を出版可能に https://ecnomikata.com/ecnews/32330/
個人が出版社を通さずに紙の本を刊行できるサービスを「KDP:Kindle ダイレクト・パブリッシング」で2021年10月19日から開始。これまで自己出版は電子書籍のみが対象だった。

価格は著者自身が決め、売り上げの6割が著者に支払われる。

 

●出版社もKindle読み放題に続々参入!気づいてしまった紙の本や電子書籍売るより読み放題が儲かる https://blogos.com/article/565736/
コミックに限らず、本も電子でサブスクで読むのがあたりまえの時代にそろそろ現実味。しかも紙の本が欲しい読者に対しても、アマゾンが手段を提供してくるようになった。プリントオンデマンド(POD)で、電子版へ紙代・製本代のコストを上乗せした価格設定をすれば、電子で売れようが紙で売れようが、同程度の収益をあげられる。

 

●有隣堂がYouTubeチャンネル開設 「デジタルビジネスへの第1弾」  https://www.bunkanews.jp/article/220316/
目的:「有隣堂のファンづくり」と「店舗以外での客とのコミュニケーション量を増やすこと」だ。

「書籍は全国どこで買っても内容は同じでかつ価格も変わらない。どうせ買うなら有隣堂で買おうと思ってくれるファンを大事にしていきたい」

商品知識にあふれたマニアックな人材や多才な人が社内に多数いる、その中に眠る豆知識を会話問答形式で軽妙に紹介する動画を作成。

 

●本が壁を埋め尽くす「本棚劇場」を全国の書店でVR体験 https://news.yahoo.co.jp/articles/de9198491a075d6da5301a98e8c4582355f6d354
「店頭に設置されたVRゴーグルを装着して「本棚劇場」のVR空間内に入り、360度を見渡す限り本の表紙が画面いっぱいに広がる。イベント限定のおよそ2000点のラインアップのなかからカーソルで選べば本の書誌情報とレビューをワンクリックで簡単に閲覧でき、そのまま購入することも可能(購入した本はすべて送料無料で発送)」

(「本棚劇場」がVRで全国に!全国の書店でVRによる本棚劇場の体験イベントを実施! https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000009373.000007006.html

大量製造と返品が生じている出版ビジネスを、DXによる廃棄物の削減などを通して「持続可能」なものへと変化させる取り組み。

 

●角川武蔵野ミュージアム 本棚劇場 - YouTube https://www.youtube.com/watch?v=GM81VaG1yoc
本棚劇場とは「ところざわサクラタウン」内に誕生した「角川武蔵野ミュージアム」のメインスポット。高さ約8メートルの巨大本棚に囲まれた図書空間。

本と遊び、本と交わる」をコンセプトにプロジェクションマッピングを上映する。約3万冊の本が配架されている。

 

●思わぬ本と出会える電子書籍の「連想検索システム 知の泉」を開発 https://www.jiji.com/jc/article?k=000000007.000086907&g=prt
「連想検索システム 知の泉」は、小説やビジネス書などの電子書籍を主な対象とし、本と本のつながりを広げるシステム。
ロングテール効果を期待=書籍の販促活動が新刊後に集中し、その後はアピールする機会がなく、休眠作品となるといった課題があった。
・電子書店「どこでも読書」の実証実験画面

 

●最初の数行を入力すると小説の続きを書いてくれるAI登場 設定次第で俳句やニュースも https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2110/21/news160.html
小説の他に、俳句やニュースのような文章も生成できる他、文章の要約もできる。AIのパラメータは68.7億個を設定。学習には約500GBの文章データを活用した。無料

例えば、「吾輩は猫である。名前はまだない。そんな吾輩は今」のように書き出しを入力すると「とある場所にいる。そこはどこかというと、我が家のリビングだ。ソファに腰掛けてテレビを見ているのは、俺の妹である美夏だ」のように続きを出力する。
AIのべりすと

 

●AIのべりすと https://ai-novel.com/
「「AIのべりすと」はGoogle TRCの協力のもと、日本語最大級の68.7億パラメータ&約500GBのコーパスからフルスクラッチで訓練した小説AI

(最低でも5~6行程度の文章を入力した方が思ったようなジャンルの文章が生成されます)。」

 

●「朝日新聞ポッドキャスト」 累計1000万ダウンロードを突破 https://www.bunkanews.jp/article/241352/
朝日新聞ポッドキャストは、従来の文字ニュースの枠を超え、音声でファクトに迫るサービス。

「記者本人が取材の実際を語りつくすという、既存のラジオ・テレビとは異なる、新たな報道の姿が支持を広げたという。

番組を進行するのは、チーフ・パーソナリティを務める神田大介氏のほかに、現時点で男女5人ずつ、20代から50代までの計10人のパーソナリティ。このパーソナリティが番組制作のディレクターや構成作家、プロデューサーとしての役割を兼ねており、「お坊さんに聞け」「ディープ日本史」など、パーソナリティの興味対象や取材分野に基づいた個性豊かな番組が次々と生まれている。」

 

●あなたがあなたの聴衆を増やすのを助けるであろう6つの最高の電子メールニュースレターツール https://bit.ly/3E7yt7s
紹介されているツール:
サブスタック(Substack)/ゴースト(Ghost)/ボタンダウン(Buttondown)/MailerLite/レビュー(Revue)/EmailOctopus

 

●ニュースレターサービス「Substack」とパーソナルメディア帝国 https://jp.techcrunch.com/2020/06/22/substack/
ライターやジャーナリストが個人の資格で、収益化事業を興せるプラットフォームが、現代の「ニュースレター」サービス。ダイレクトに読者やファンと繋がるツールとして、どこまで活用できるかが、成功のポイントのよう。

 

★ Why we pay writers The thinking behind Substack Pro https://on.substack.com/p/why-we-pay-writers
ニューズレターサービスの米Substack、無料で利用でき、購読課金収入が発生すれば、そこから10%の利用料が徴収される。書き手を集めるため、これまで前金制度を運用してきたが、今回、年間収入を担保する「Substack Pro」を、試行運用を経て公表。今後はこのモデルを加速する。

(Printer working an early Gutenberg letterpress from the 15th century. (1877))

 

●購読型ニュースレタープラットフォーム「Substack」の台頭とライティングメディアのこれから https://creatorzine.jp/article/detail/2128
ニュースレターの近代の歴史は1930年のロンドンにまで遡るが、創始者が考えていたのも、自分自身のブランド化、そのことで手に入れられる経済的自立=報道の自由の獲得。

21世紀も事情は似通っているといえる。
「SNSのタイムラインを流れていく断片的なコンテンツや、アルゴリズムによって選ばれ、表示されるそれとは一線を画すため、「自分が選んで購読している書き手の言葉である」という一種の自律性」を拠り所に、ミニ経済圏を構築する。ただプラットフォームというネットの世紀ならではの新概念・技術基盤が深く関与している。

「サブスクのツールを民主化し、インディペンデントクリエイターがビジネスとして成功する機会を提供することで、ニュース経済を一新させるという大きなビジョンを描いています。」

 

●メルマガと何が違う?米国で「ニュースレター」がブームになっている理由 https://dime.jp/genre/1160973/
「クリエイターエコノミー」の持続可能性に道を拓く新メディア、それが、日本でもブームの鳥羽口にある「ニュースレター」。メルマガは日本独自に発達した、Emailによって配信されるマーケティング手法のひとつ。私的(企業を含む)なマスメディア・ツールで、多数の読者を前提とした最大公約数的なコンテンツが主流だった。

「ニュースレターは、『気になるあの人が、このニュースや話題、論点についてどう発言するのか知りたい』というユーザーのニーズに、より的確に応えられるもの」。つまり「ニュースレター」には、尖った記事、専門性を感じさせる記事と、それを好むニッチな読者の捕捉手法の開拓、ふたつが味噌。

 

●メルマガとはどう違う? 海外で人気を博す“ニュースレター”サービスの正体 https://signal.diamond.jp/articles/-/905
「ニュースレターは月額制の“サービス業”だと考えており、課金しなければ読めないコンテンツは、あくまでもサービスのうちの1つの要素だと捉えています。」

「例えば、有料購読者になれば、限定のコミュニティに参加できたり、毎月開催されるミートアップに参加できる。ベンチャーキャピタル(VC)が配信するニュースレターを購読すれば、ファンドが集めているデータにアクセスできる。

このように別のサービスと併用して展開するのがニュースレターであり、ニュースレター自体はあくまでも顧客リストを集めるためのツール。」