●コロナ禍の中で「読書」、メディア、出版産業の危機は深まるか

 


(Rallying Around #BooksAreEssential https://www.publishersweekly.com/pw/by-topic/industry-news/publisher-news/article/83099-rallying-around-booksareessential.html

社会全般で言えることだが、コロナ前にあったトレンドをコロナ禍が加速させる、あるいはもともと問題視され課題であると認識されながら、解決に及び腰であった問題を、コロナ禍が顕在化させる、という現象が起きている。

読書、出版でも同様だ。

新型コロナが世界を席巻し、パンデミック宣言が出て以降日本でも、本の購入経路のデジタルシフトが進み、読書のデジタル化が浸透する形勢。他方、出版のデジタルトランスフォーメーションに及び腰であった、出版関連の企業・産業やメディアはいよいよ窮地に追い込まれている。

1.読書行動は増加する傾向 対象が紙版にしろ電子版にしろ

人によりコロナ禍からくる行動制約とそこから生じる「読書」への影響は異なる。

高齢者は、オンラインでの購入は苦手。都心の大型書店に行くのは体力的に敬遠される。そもそも電車やバスはマスクをしていても避けたい移動空間。そこで近隣の本屋さんや直接、版元に電話注文する方法が意外と多い。コロナ禍で、購入方法は一昔前の手段に戻りつつある。新しい傾向として書店で直販に打って出るところも。

10代の子供たちは休校で時間を持て余している。本来自宅で学習に時間を振り向けるべきだが、家庭学習が100%学校を代替できるわけもなく、スマホやPC、テレビに時間消費の舞台はシフトしている。ただ大学生には学校が準備している電子図書館システムがあり、その活用により電子書籍の読書が増える傾向にある。小中生でも電子図書館システムの利用は当たり前になってきている。

同様に高齢者と子供の間にいる親世代、あるいは独身社会人たちは、本の購入も読書行動も、コロナ前と違い積極的になっているようだ。

●新型コロナウイルスの感染拡大による家計への影響に関するアンケート調査https://www.meijiyasuda.co.jp/profile/news/release/2020/pdf/20200427_01.pdf
消費支出の変化:「巣ごもり」生活のプチ充実のために「書籍の購入」(9.6%)、「ゲーム等の購入」(7.0%)、「有料の動画配信サービスの利用」(5.3%)等娯楽への出費や、自宅での子供の教育や自己啓発のための「通信教育・教材の購入」(3.8%)、さらには運動不足解消のための「フィットネス器具の購入」(1.4%)等が、“思わぬ”出費に。

●新型コロナの影響で急増するECサイトの利用者、特に購入されている商品は? https://dime.jp/genre/899722/
本の購入が増加=書籍(電子書籍は含まず)は平均で14.1%増。特に30代は26.2%と、平均よりも高い。
電子書籍の読書が増加=平均で14.5%増。また定額配信サービスも。
・3ヶ月前と比較して、EC(インターネット)で購入することが増えたもの

・同上年代別

・3ヶ月前と比較して生活スタイルで変わったことをお答えください。(複数選択)

・同上年代別

●10代女性への新型コロナウイルスの影響を調査~テレビ離れ、活字離れに変化の兆し https://www.fnn.jp/articles/-/35194
多くの学校が休校となる中で、各家庭での「リモートスタディ」環境が追い付いていない現状がうかがえる。
他方書籍関連の購入品が目立ち、「マンガ」が21.9%、「小説」が17.1%、「勉強法本」が9.5%という結果に。前出の直近1か月で〈増えた〉時間の質問においても、21.3%が「読書」と回答。
・おうち時間の変化 増減

・購入が増加したもの

●TRCの電子図書館サービス 3月の貸出実績が前年比255%に増加 https://www.bunkanews.jp/article/216659/
電子図書館での電子書籍読書が増加。
TRCが提供する電子図書 館サービスを導入する公共図書館の 2020 年 3 月電子書籍貸出実績が前年対比 255%の大幅増に。「臨時休館・業務縮小する公共図書館が相次ぎ、また小中学校や高校も多くが休校となるなか、子どもから大人まで外出せず自宅から利用できる 【電子図書館サービス】に注目が集まり、数多く利用されるようになりました。」

 

2.産業としての出版/書店

読者の側で本の購入と読書、両方においてのデジタルシフトがコロナ前に比べ進む様相にある。これにに対し、出版業はコロナ禍でもともと不況産業と言われて久しく、デジタルトランスフォーメーション対応への遅れが、1.の好機を生かせぬまま、企業活動は隘路に。

日版によると自粛ムードが強まった3月後半、出版物販売は前年同期比87・6%まで下がった。緊急事態宣言をうけた4月7日以降、緊急事態宣言下にある大都市圏では、紙の本の売上は大きな打撃をうけている。書店は緊急事態宣言における「休業要請」の対象業種ではない。しかし人の「密」を避ける必要に迫られ自主休業が相次いでいるからだ。休業要請がなければ補償の対象にならない、にもかかわらず、だ。
・休業している三省堂書店 神保町本店 (4月8日撮影)

(【新型コロナ】緊急事態宣言で多くの書店が休業 時短での営業継続も https://www.bunkanews.jp/article/216101/

●緊急事態宣言で書店休業は800店以上に、書籍と雑誌の発売延期・中止も相次ぐ https://www.bunkanews.jp/article/216408/
「大型商業施設のテナントとして入居する多くの書店は休業を余儀なくされている。また、単独店でも感染拡大防止や従業員の安全確保の観点から休業を続ける大型書店もある。」
「出版社の刊行状況は、イベントや映画と関連した書籍や、観光関連の商品を中心に発売が先送り」。

●新文化 - 特集 - 緊急事態宣言による書店の休業に関するニュースまとめ https://www.shinbunka.co.jp/news2020/tokushu/tokushu-covid19shoten.htm
個別情報が集約、整理されている。「2020年4月7日の緊急事態宣言後、大手書店チェーンをはじめ休業せざるをえない状況がおきています。ここでは、書店の休業など関するニュースをまとめました。」

●大垣書店 政府には「早急の賃料特別措置を」、 業界には「本は生活必需品である周知を」 https://www.bunkanews.jp/article/216651/
日本は政府頼り。従業員への人件費支払いは臨時休業にともなう減給でしのげなくもない(雇用を維持すれば雇用調整助成金が出る)が、経営上次に重たいイッシューが賃料。

○Publishers Weekly Launches #BooksAreEssential https://www.publishersweekly.com/pw/corp/BooksAreEssentialPressRelease.html
世界ではむしろ市民に訴える。「業界が生き残るためのひとつの方法は、人々が本を必須のアイテムだと見なすことだ

アメリカの主要出版専門誌『パブリッシャーズ・ウィークリー(Publishers Weekly=PW)』の4月20日付発行号の表紙に、「本をみている読者」を掲載(日本人からは一見マスクを模したかとも見える)。キャンペーン「#BooksAreEssential」では著者や出版者、書店、取次など出版関係者が自ら本を持った写真を投稿するよう呼びかけ。PWでは国内に限らず世界の出版関係者にこのキャンペーンへの参加を促している。

●コロナ危機で「家賃不払い運動」急拡大、世界の不動産は総崩れに https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200421-00071917-gendaibiz-bus_all
日本ではむしろ大家の方から減免を申し出る「思いやり」があふれているが、家賃収入が減少するのは同じことであり、新型コロナ禍長期化の中で不動産賃貸ビジネスはかなり厳しい状況だ。

●新型コロナ:参考書の売り上げ30%増 休校による自主学習需要 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58516320W0A420C2CR8000/
自宅学習や"巣ごもり"需要が高まった。
「学年別の「ドリル」や、学習効果が見込める子ども向け読み物の売り上げが伸びた。雑誌では「月刊コロコロコミック」といった子ども向け漫画誌などが好調だった。」

●「好みの絵本、選びます」 年齢や興味に合わせてオーダー https://www.townnews.co.jp/0501/2020/04/24/525319.html
本屋が売りたい本ではなく、読者の読みたい本を提供するのが「選書サービス」
「子どもの年齢や性別、好きなものや興味を持っていること、今持っている本などを聞き取りながら、予算に合わせて提案する。」

●書店から自宅に届く「紙の本」、デリバリーサービスに活路 上海市 https://www.afpbb.com/articles/-/3280193
本屋が読者の読みたい本を宅配で提供。

ネット購入で休業書店を支援 ポプラ社が「e-hon」加盟店向けに施策開始 - https://www.bunkanews.jp/article/216852/
「ポプラ社は緊急事態宣言下で休業に追い込まれている書店への支援策として、4月22日からトーハンのECサービス「e-hon」の加盟書店を対象に、ネットで販売した同社商品の売り上げの20%を還元する取り組みをスタートした。他の出版社にも参加を呼びかけ、ECサイトを運営する書店にも同様の提案をしており、業界全体に広げることを目指している。」

●東野圭吾さん、初の電子書籍化 コロナ禍で書店休業受け [新型コロナウイルス] https://www.asahi.com/articles/ASN4J5RSHN4JUCVL00F.html
これまで電子化に否定的だった作家がコロナ禍に際し方針転換。
東野さんは「外に出たい若者たちよ、もうしばらくご辛抱を! たまには読書でもいかがですか。新しい世界が開けるかもしれません。保証はできませんが」とコメント。

 

3.デジタルシフトも広告収入依存型では立ち行かない

放送や新聞では広告収入の激減が続いている。各局の視聴率はニュース番組を中心に3~4%上昇しており、無料ニュースサイトのPVは倍増。しかし、それにみあうだけの広告が入らない。新聞社も地方紙、全国紙ともに、広告収入が激減している。パンデミック関連のニュースを求めている人が多くとも、そこに広告を出す業種自体が、大きな打撃をうけているからだ。

(新型コロナウイルスの影響で「うちで過ごそう」「StayHome」などの動画視聴が急増 | n https://media-innovation.jp/2020/04/06/video-consuming-in-covid-19/

●朝日電子版の英断?新聞はコロナ経営危機を乗り越えられるか http://agora-web.jp/archives/2045338.html
販売店を直撃するコロナ禍、さらに新聞社にとって「起死回生」とも「究極の延命策」とも目されていた東京オリンピック・パラリンピックの広告市場が、大会延期で吹っ飛んでしまった。
そんな中4月7日、朝日新聞社が会員向けにクローズしている記事の大部分を、無料公開することに踏み切って、メディア関係者の注目を集めている。

(朝日新聞デジタル、掲載記事を原則無料公開。新型コロナ対応で https://www.watch.impress.co.jp/docs/news/1245673.html

●パンデミックに喘ぐ欧米の新聞業界 https://rp.kddi-research.jp/blog/srf/2020/04/01/corona-3/
「米国で最大部数を誇るUSATodayはじめ多くの有力紙を抱える新聞チェーンGannettのケース。CEOが社員にメールを送り、<Collective Sacrifice>みんなが、犠牲になろう、と呼びかけ、社員は6月まで毎月5日間の無給休暇の取得(実質的な賃金カット)の実施とさらなる賃金カットを告げた」。

●YouTubeのトラフィックは増加しているのにYouTuberの収入は激減している
https://gigazine.net/news/20200414-youtube-traffic-youtubers-plummeting/
多くの人が自宅で過ごすようになってNetflixのトラフィックは16%増、YouTubeのトラフィックは15%増。
日本でも「うちで過ごそう」「StayHome」をテーマにした動画が盛んにつくられ、それが良く見られている。
YouTubeのトラフィックが増加しているのは、YouTuberにとって、新規の視聴者を獲得するチャンス。しかし広告料はより安くなる。広告出稿側の各種産業、企業がコロナ禍で疲弊し、市場が縮小するなかでコンテンツはどんどん作られるからだ。

●<2050年のメディア>第8回 アフター・コロナにメディアはどうなるのか? すでに淘汰は始まっている https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200421-00000002-sundaym-soci
①紙からデジタルへの動きは加速する
②無料広告モデルから有料のサブスクモデルへの転換は必須

 

4.図書館

公共図書館は全国一律での「休業」「施設閉鎖」の要請といった動きになっていないにもかかわらず、ここでも「密」をさけるべく、またソーシャルディスタンシング確保が難しいことから自主休館が圧倒的に多い。

他方「密」の回避ならということで様々な独自の動きが見られる。宅配とデジタルがキーワード。

●COVID-19の影響による図書館の動向調査(2020/04/23)について - saveMLAK https://savemlak.jp/wiki/saveMLAK:%E3%83%97%E3%83%AC%E3%82%B9/20200424
図書館に対する「休業要請」は都道府県で決して一律ではない。しかし自主判断も含め、都道府県立図書館は47館中43館、91%が休館/市町村立図書館(図書室)は1579館中1387館、88%が休館の状況。

●全国初の図書館の無料郵送サービス、初日から殺到し受け付け終了 連休向けコロナ対策で京都府立図書館 https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200424-00328657-kyt-l26
「図書館のカードがなくても利用でき、図書を無料郵送する取り組みは「全国初ではないか」としている。返却は再開後にカウンターか、休館中でも返却ポストや郵送(送料は自己負担)で受け付ける。」

●休館中「自宅で図書館楽しんで」 電子書籍を紹介 https://www.asahi.com/articles/ASN3F56VMN36PTIL027.html
独自に既存のデジタル資料を加工し、利用者に機会を提供する図書館:横浜市立図書館は、ウェブサイトに「おうちで楽しめるコンテンツ」と題した親子向けのページを開設/熊本市立図書館は小中高校生向けに「特集 今、君たちに読んでほしい100冊」を公開。

●Libry、コンテンツの無償提供期間延長、教科書会社3社の一部教材が利用可能に) https://edtechzine.jp/article/detail/3695
「「リブリー」は、既存の教科書や問題集をデジタル化し、各生徒の学習履歴に基づいた個別最適化学習ができる教材。現在、500以上の中学校・高等学校に提供されている。先生用管理ツールも備えており、リブリーで生徒たちが学習した履歴のすべてを閲覧することが可能で、宿題の配信・回収・集計も簡単に行える」。

●紀伊國屋書店、電子図書館LibrariE 大学・学校向け導入が100館を突破 https://www.kinokuniya.co.jp/c/company/pressrelease/20200428120016.html
GIGAスクール構想の発表により学校のICTへの注目が高まったことに加え、2月以降、新型コロナウイルスの影響により、大学、学校の多くが臨時休校・図書館閉館となる中、自宅から利用できる電子図書館サービスへの注目が高まり、導入が加速した。

●人文社会学系出版6社による教育・研究活動への支援 Maruzen eBook Libraryのお知らせ https://kw.maruzen.co.jp/ln/ebl/ebl_doc/mel_notice_jinsha6access_expantion.pdf
もともと大学図書館向けに販売されている電子書籍の多くは、同時アクセス数が1~3人に限定され、授業の教材など大人数での活用を想定していない。コロナ禍で学外にて、遠隔学習・リモートスタディが当たり前になっている現在、授業での活用に対応すべく同時アクセスを50にまで増やした。スタートは6社の作品が対象だったが4月27日には128社にまで拡大中。

(機関向け電子書籍提供サービス「Maruzen eBook Library」で人文社会学系出版6社の指定タイトルが同時アクセス数を臨時拡大 https://hon.jp/news/1.0/0/29304

 


◎出版のデジタルトランスフォーメーションを検討する際、目を通しておきたい記事

■ケヴィン・ケリーが語る「本と読書と出版」 | https://society-zero.com/chienotane/archives/7769

■「読み放題モデルってどうなのよhttps://society-zero.com/chienotane/archives/7720