スカーレット・ヨハンソンとキャラクターAI


(出典: http://ghostshell.jp/

『ゴースト・イン・ザ・シェル』

スパイク・ジョーンズが脚本・監督した映画『her/世界でひとつの彼女』(2013)では魅力的な声で語りかけてくるAI型OS「サマンサ」に、代筆ライターのセオドアが恋をする。そのサマンサの声優を担当したのがスカーレット・ヨハンソンだったが、彼女、今度は『ゴースト・イン・ザ・シェル』の主人公を演じることになった。

サマンサは人工知能ロボット、しかし今度は機械の体に、脳の神経と電子脳が合体した頭脳の人間(サイボーグ? アンドロイド?)。派手なアクションも魅力だが、電脳やAIと対比させ、そもそも人間とは何かを考えさせるSF映画、それが『ゴースト・イン・ザ・シェル』だ。

『ゴースト・イン・ザ・シェル』は士郎正宗氏のコミックを押井守監督が映画化したSFアニメの傑作「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」を、ハリウッドが実写映画化したもの。オリジナル作品の草薙素子に相当する主人公の少佐を担当したのが、「アベンジャーズ」「LUCY ルーシー」などアクション映画でも活躍するスカーレット・ヨハンソン。

(あらすじ等は公式サイト http://ghostshell.jp/ あるいは http://eiga.com/movie/85891/ で)

スカーレット・ヨハンソン

スカーレット・ヨハンソン(スカーレットの名は、あの名画『風と共に去りぬ』の主人公から取られた)は2016年、映画興行情報サイトのBOX Office Mojoが発表した「史上最も興業収益を上げた俳優・女優ランキング」で、第10位(女優では第1位)を獲得している。しかしその名声とは裏腹に、幼少の頃は給食費が払えずに公的支援を受けるという家庭で育った経歴を持つ。

そういった背景から、2016年には米国の飢餓の現状とその解決を訴えるキャンペーン、「Feeding America」のPR映像にも参加している。

Feeding America Child Hunger PSA with Scarlett Johansson - YouTube https://www.youtube.com/watch?v=Zs2KGDwVr-o
「米国では1600万人の子どもたちが飢えに苦しんでいます。これは5人に1人の娘たちや息子たち、近隣の人々、クラスメートたちが、次の食事はいつ食べられるのかわからない状況にあるということです。それなのにこの国では莫大な量の食糧が毎年廃棄されています」

Feeding America Hunger in America 2014 - YouTube https://www.youtube.com/watch?v=zx2o2huVm2o

そういえば『風と共に去りぬ』の主人公、スカーレット・オハラは映画の最後に「After all, tomorrow is another day!」(「明日は明日の風が吹くわ!」)という後世に残る名言を口にするが、同時に「As God is my witness, I'll never be hungry again」(「神よ、ごらんください。二度と飢えはしません!」)も、彼女のセリフとして強烈な印象を人々の脳裏に残しており、「飢え」でもスカーレット・ヨハンソンとオハラとの間にはなにか不思議な繋がりがあることになる。

さてその彼女が映画『ゴースト・イン・ザ・シェル』の主役を演じたのだが、役柄作りに関して面白いコメントを残している。

知能は生物内部の時間を生きる

ヨハンソンが演じる、脳とわずかな記憶を残して肉体が機械化された主人公の捜査官・少佐(「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」のオリジナル作品の草薙素子に相当する主人公)は、人間離れした身体能力を持ち、脳と体が“別物”であることに苦悩し、自分の過去を探し求める複雑なキャラクター。

「脳の中に、信号を伝達する上でちょっとすき間があるんじゃないかと考えたの。思考として、頭から体に何か指示を送るときに脳神経が完全につながっていない。少佐は何か行動を起こすとき、つまり脳から指令を出すときには必ず目的や意図が明確にある人物。だから、彼女の脳はどこに行く・何をするというのを正確に伝えないといけない。でも、指示から行動に移すまでに少し空白がある。そういったことを模索しながら演じ始めて数週間がたって、自分として快感を得られ、それがなじんで彼女の個性になっていったわ」。(出典:「ゴースト・イン・ザ・シェル」は「原作への敬意を見てほしい」 : 映画ニュース - 映画.com  )

この指摘は面白い。脳神経学が切り開いてきた研究成果と同様のことを言っているからだ。

人間の(自然)脳は数百億個の神経細胞 (ニューロン)からできている。ニューロンとニューロンを橋渡しするのがシナプスだが、その伝達速度には違いがあり、例えばそのことで同じものを見ても、ヒトによって違うモノを見てしまう、といった現象が起きるのだ。この遅延に由来する、生物が内側に抱え込む「内的時間」というものが個体ごとに、あるいは種ごとにある(『<人工知能>と<人工知性>知識カード63)、というのだ。

「人間にも反射があります。しかしそれは「インプット即アウトプット」ではありません。そこには時間的遅延を伴う構造があります。だから作用・反作用のような瞬時の反応にはならないのです。(略)

内部時間を持つことは、知能の極めて重要な性質であり、時間というものを内部運動によって持つのが人間の特徴です。」(『<人工知能>と<人工知性>知識カード64

脳神経学的に言って、確かに「信号を伝達する上でちょっとすき間がある」のだ。

体験・経験の基底にある身体

また主人公の捜査官・少佐にはわずかな記憶が残されている設定となっているが、そもそも「記憶」には、意識下の記憶(主に「エピソード記憶」)と、もうひとつ無意識下の記憶があり、その中でも情動的記憶が実は重要な働きをしていることが近年わかってきた。

好き嫌いに始まる情動的記憶が実は意識下の意思決定に大きく作用している。その意思決定を出発点にした行動に伴う「経験」「体験」がやがてフィードバックされ、この「私」を形成していく。あるいはアイデンティティを獲得することにつながっていくことがわかっている。

『脳には妙なクセがある』

この点も下記の発言と符合する。

「物語が進んでいくと、少佐は“自分は体験・経験の産物である”と理解するようになり、自分はこういうものだと受け入れていく。こういった考え方が役作りの面ですごく役立ったわ」(出典:「ゴースト・イン・ザ・シェル」は「原作への敬意を見てほしい」 : 映画ニュース - 映画.com  )

このブログ記事の冒頭、ヨハンソンが米国の飢餓撲滅運動がに関与していることに触れた。飢餓に象徴されるように、人間と機械、あるいは人工知能との違いに、身体性がある。人間は、食べ、排泄するなど身体性を有する。かつてデカルトが宣言したとは別の在り様を持っている。

つまり、「我思うゆえに、我在り」とデカルトは言い、思惟と身体を分けた。

だが、人間には身体性があり、身体が発する情動があり、無意識下の意思決定が体験、経験を左右し、私が何者であるかといった意識をを規定しているのだ(『<人工知能>と<人工知性>知識カード919698)。

実はゲームキャラクターのキャラクターAI(人工知能)開発は、キャラクターが3D技術により身体を獲得しており、近年そのことで急速に脳神経学との距離が縮まっている。

人間の(自然)脳は数百億個の神経細胞 (ニューロン)からできている。ニューロンとニューロンを橋渡しするのがシナプスだが、そのシナプスを介した情報のやり取りを監視しているフィードバック多層構造があることが脳神経学で推定されている(『<人工知能>と<人工知性>』知識カード22)。

そしてキャラクターAI(人工知能)開発においても、「可変フレーム(『<人工知能>と<人工知性>知識カード67))や、「エージェント・アーキテクチャ(『<人工知能>と<人工知性>知識カード55))などのアイデア、機構でフィードバック多層構造を構築し、少しでも自然脳に近づこうとしている。

ちなみにヨハンソンはこの映画の魅力について「生きることの意義など哲学的なテーマを取りあげて」いることをあげた。そして「好きなゲームは?」の質問に、「マリオカート」と答えている。

(【IGN独占】スカーレット・ヨハンソンに10の質問 (Video GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊) http://jp.ign.com/kokaku-movie/9146/video/ign10 )