IMS グローバル・ラーニング・コンソーシアム(IMS Global)標準の最新動向 【セミナー備忘録】

(個人用のメモです。議事録ではありません。記事中の図画で、引用元を表記していないものはプレゼン公開資料を使用しています)

JEPAセミナー:2016年3月30日 IMS グローバル・ラーニング・コンソーシアム(IMS Global)標準の最新動向
http://www.jepa.or.jp/sem/20160330/

概 要

・2216年2月22~25日、米国メリーランド大学で開催された「IMS February Quarterly Meeting and ePub Accessibility and EDUPUB Alliance Summit」の参加報告会。

■日時:3月30日(水) 15:00-17:30

■内容:
1.IMS Global Learning Consortium および2月大会の概要 (20分)   山田 恒夫(放送大学教授、AXIES、JMOOC)
2.Caliper Analytics WG報告(20分)  小林 建太郎(デジタル・ナレッジ、ICON21)
3.EDUPUB Alliance Summit 報告(20分)   安原 弘(内田洋行)
4.ePub Accessibility(20分)   田村 恭久(上智大学教授、JEPA、ICON21)
5.aQTI WG報告 ドリル、テスト交換形式であるQTI最新動向(20分)   松田 孝(インフォザイン)
6.Caliperと標準化の意義(20分)   岸田 徹(ネットラーニング・ホールディングスCEO、eIJ)
7.日本IMS協会(仮称)創設の準備状況 (20分)   山田 恒夫(放送大学教授、AXIES、JMOOC)

■共催:
・「教育におけるビッグデータ・学習資源共有流通基盤」研究会
AXIES 大学ICT推進協議会 オープンソース技術部会/学術・教育コンテンツ共有流通部会/教育技術開発部会/国際連携室
JMOOC 日本オープンオンライン教育推進協議会 学習ログ・ポートフォリオWG
情報処理学会 CLE研究会
・ICT CONNECT 21 みらいのまなび共創会議
・社団法人 eLearning Initiative Japan(eIJ)

 

1.IMS Global Learning Consortiumとは

・北米に拠点をおくe-Learning / ICT 活用教育分野における国際標準化団体。
・現在米国では、義務教育課程から企業、政府の研修教育までもがその規格を採用するなど、広い範囲に影響力がある。

・IMS Global Learning Consortiumでは2013年から電子教科書の仕様を議論している(ICEプロジェクト)。
・テスト、ドリル、演習問題のデジタル化、そして学習結果の評価、進捗度管理などで長く、そのアーキテクチャ構築の分野で知見、ノウハウを築いてきている。
・そのため、EPUBの規格を制定しているIDPFが始めたEDUPUB(註)活動へも参加、その蓄積をEPUBへ移植するための議論が続いている。

註:主要プレイヤーは米国の電子書籍の標準化団体の1つである国際電子出版フォーラム (International Digital Publishing Forum, IDPF) 。WWW(Web、ウェブ)で利用される技術の標準化をすすめる国際的な団体、W3C。そして米国のデジタル教育関係の標準化団体であるIMS Global Learning Consortium。これにデジタル教科書での実績を積んできた米国大手学術出版社、ピアソンなども深くコミットしている。
さらに詳しいEDUPUB情報については下記URLご参照。
EPUB for Education http://society-zero.com/chienotane/edupub

・四半期に一度のペースで会合が開かれるが春の大会が最も大きい大会となる。
今回は3つのイベントが同時開催された。すなわちIMS February Quarterly Meeting(2016年2月22日~24日) に、 ePub Accessibility(2016年2月24日~26日) 、それに EDUPUB Alliance Summit (2016年2月24日~26日)である。

・本JEPAセミナーは、これに参加された方々からのレポートとなった。

・大会スケジュールURL
https://www.imsglobal.org/event/ims-february-quarterly-meeting-and-edupub-alliance-summit#QM
https://www.imsglobal.org/event/ims-february-quarterly-meeting-and-edupub-alliance-summit#boot
https://www.imsglobal.org/event/ims-february-quarterly-meeting-and-edupub-alliance-summit#epub

 

 

2.登壇者からの情報で重要な点は3つ。

イ.IMS LTI がドラフトの一部として公開

・2016年2月19日、国際電子出版フォーラム(IDPF)が、デジタル教科書の国際標準EDUPUBのEditor’s Draft 第2版を公開。 そこでIMS LTI 規格の内容が、独立の項目、第六章として追記された。

・IDPFのマーカス・ギリング氏も「最新ドラフトでの 大きな進歩は、IMSのLTI規格を統合したこと。 今後は分析への取り組みに速やかに動き出すことが重要」と強調した。

・LTIは、「Learning Tools Interoperability」の略で、外部コンテンツ、外部アプリとの連携のためのインターフェース、通信に関する仕組み、仕様。

・春季大会で、上記「 6. IMS Learning Tools Interoperability (LTI) and Outcomes 」のドラフトを書いたジョン・ティベット氏は、EPUBへIMSのLTIが取り込まれることを「デジタル教科書はLMSそれ自体になりつつある」と表現した。具体的には次のようなイメージだ。

ある本の中から本棚を起動する。
ある本の中から別の本を起動する。
ある本の中からその出版社の別のコンテンツを起動する。
ある本の中から別の出版社の別のコンテンツを起動する。

LTIについての詳しい内容は下記を参照のこと。
4-6:LTI/外部アプリ連携
デジタル教科書の国際標準「EDUPUB」 第5回 【セミナー備忘録】(下) http://society-zero.com/chienotane/archives/474

ロ.QTIはバージョン2.2が完成し、次のaQTIへ

・IMS QTI は「ドリル」「テスト」「演習問題」の類の技術的相互運用を可能にするための仕様で、「Question and Test Interoperability」の略。



QTIについての詳しい内容は下記を参照のこと。
3-1.QTI2.1の構成
セミナー備忘録:電子教科書のドリルをどうする!? https://societyzero.wordpress.com/2014/07/28/00-40/

・現在さらに拡張性を高めるための努力、議論が行われている。それがaQTI

・ポイントは守備範囲を広げようとしている点。

各種規格(LTI/Caliper/OneRoster)との連携
アクセシビリティ対応:問題制作、配信、レポーティングの場面で
コンテンツ変換工程を最小限にする(できたらなくしたい):「エキスポート/変換/インポート」ではなくすることを目指す

・守備範囲拡大のために、QTIにAPIP(Accessible Portable Item Protocol)を反映させようとしている。

プラットホーム毎のレンダリングの差をなくす:プレゼンテーション情報を組込む
相互互換性をさらに改善しIMS(Caliper/LTI2.0/OneRoster)やIMS以外の 各種規格と連携
各製品の適合度テスト用ツール提供


ハ.アクセシビリティ対応の強化

・EPUBは2014年epub3.01の段階で、まずDAISY AI(AI: Authoring and Interchange:製作・交換用フォーマット。ANSI/NISO Z39.98-2012 として標準化)の成果を取り込んでいる。

・今度はそこへW3Cの議論の成果物であるWAI-ARIA(Web Accessibility Initiative – Accessible Rich Internet Applications)を取り込むべく作業途上。

・メタデータにSchema.org.を活用。どういう種類の障害に対応しているのかを記述することも構想されている。
・また点字(braille)実装の機器にも対応。
・もちろん音声はTTSだけでなく、Media Overlays、 audiobooksも射程に入れた議論が続いている。

アクセシビリティについての詳しい内容は下記を参照のこと。
「合理的配慮」と電子書籍サービス http://society-zero.com/chienotane/archives/2369

 

3.司会をされた山田先生から、上記3点以外でフォローしたほうが良いと3点が指摘された。(中身の説明は時間の都合で省略)

ニ.OneRoster Standards(Rosterは名簿)

ホ.CBE / OB ecosystem and eT (Extended Transcript, 成績証明書)

ヘ.Community App Sharing Architecture (CASA)


・ちなみにそもそも、EDUPUB活動において、どの団体が何を担当しているかを整理したのが以下の表。

(出典・EDUPUB全体像と担当機関 http://society-zero.com/chienotane/archives/532

 

 

4.世界の情勢に取り残される危機感と日本団体の設立へ

もうひとつの本セミナーの眼目は日本でIMS Global Learning Consortiumと連携する組織を作ることのアナウンスだった。

・IMS Global Learning Consortiumは米国を中心に会員が急増中。

・それを反映してIMSの規格を採用したプラットフォーム作りが世界では当たり前になっている。

・また毎年コンペをやっているが各国が参加、最近ではアジア勢の優勝、入賞が目立つが日本からの参加、入賞はほとんどないのが実態。

・理由は会費が高いことにありそう。

・そこで日本にリエゾン的な組織を作り、新規格の開発途上段階でも情報入手ができるような状況をつくることにした

目的と事業(仮)
目的:IMS-GLCの諸事業の日本国内での普及
事業:
(1) IMS-GLCの諸技術標準の広報・普及
(2) IMS-GLCの諸技術標準に関連する研究コミュニティ の形成・育成
(3) IMS-GLCの諸技術標準の導入支援のためのワーク ショップ、セミナー、交流会など の開催
(4) 日本及び国外の関連諸団体との交流・連携
(5) 日本及びアジアにおけるeラーニング人材の育成
(6) その他、当法人の目的を達成するために必要な事業

・設立メンバー

・あくまで独立した組織。日本支部ではない。

・会員の種別

正会員:IMS Global Learning ConsortiumのContributing Member(正会員)は、参加意 思を表明することで、日本IMS 協会の正会員になることができる。
地域会員:日本国内限定の法人会員
個人会員:日本国内に在住する個人が対象

・会員の権利

日本IMS 協会の主催する講演会、ワーク ショップ、研究会等に無料あるいは会員価格で参加できる。

日本IMS 協会の部会活動(多くは、IMS Global のワーキンググループに対応)に参加 し、IMS Global で開発中の文書(ただしその 一部、別途誓約書が必要)を閲覧することが可能 になる。

日本IMS 協会の正会員・地域会員がIMS Global Learning ConsortiumのContributing Memberになる場合、その年会費の割引(予 定)。

◯内田洋行さん、放送大学さんに当面窓口が置かれるので、是非参加してほしい、とのことだった。

 

◎今回の日本法人設立の一番の眼目、そしてそれは日本のICT関連企業、とりわけ教育サービス提供者や大学、小中高校等の教育機関にとっての最大のメリットということだが、それは「低コストで仕様、規格に関する情報にアクセス」できる点。

なぜなら、まず設立メンバー達が年間100万円を優に超える年会費を払う(IMS GlobalのContributing Member(正会員)になる)。その対価として、開発途上の標準(特にCaliper)のDraftにアクセスできるのだが、それを今度は(ある制約があるものの)日本法人の会員に還元する、という仕組みだからだ。

つまり日本法人の会員になることで、教育サービス提供者や大学等教育機関の教員は、たとえばexperienceAPIとの比較をしながら、自社のサービスや、自作の教育コンテンツを開発・制作することで、流通や再利用を活発にすることができる(世界標準の規格を使用する最大のメリット)。異なるプラットフォーム間であっても

しかも、正式に本家のIMS Globalの会員になるコストの何十分の一のコストでそれが可能になるのだ。
(ここは山田先生とはじめとする、関係者の方々のご交渉の成果)

この斬新なアイデアに対しては、IMS Global(特にABEL会長)が高い評価を与え、日本での講習会の開催や日本IMS協会会員のIMS Global加盟時の会費の大幅な割引が認めてもらえるという「おまけ」もついてきた(上記会員の権利の三番目)。

IMS Globalへの「知のアクセス」のための、このたびの日本法人設立(そしてたくさんの関係者の参加)は、日本の教育界の「知のエコシステム」のグレードが一段あがることを意味する。

◎参加するかどうか、参加することでどういうメリットがあるのかの判断材料として、IMSの規格に準拠することの利便性を3つの事例で説明していた。



 

◇関連URL
●2013/9/13 Caliper Analytics Whitepaper 公表されているドキュメンツの日本語訳
アナリティクス用学習測定に関するホワイトペーパー https://github.com/lostandfound/LMA_WP_JA/blob/master/README.md

●IMS Caliper Analyticsの最新動向 (2015年12月) http://www.elc.or.jp/files/user/seminar/eLC_Conference_NL_20151217.pdf

●IMS/GLC Caliper http://www.slideshare.net/lost_and_found/ims-36537994
少し古いが、Caliperのポイントが比較的簡単にわかる資料。

●セミナー備忘録:電子教科書のドリルをどうする!? https://societyzero.wordpress.com/2014/07/28/00-40/
※IMS Content Packaging
IMS QTI とは
IMS LTI とは
用語集

●セミナー備忘録:電子教科書のドリルをどうする!?(2)~「教育の再設計」とEDUPUB https://societyzero.wordpress.com/2014/08/04/00-48/

●電子教科書の規格標準化の意義~【セミナー備忘録】EDUPUB TOKYO 2014 公開セミナー https://societyzero.wordpress.com/2014/09/20/00-90/
※教育のデジタル化、教育の情報化の具体的イメージ
教育のデジタル化における、電子教科書規格標準化の意義

●「Learning Analytics(LA)の概況と最新動向の紹介」【セミナー備忘録】 http://society-zero.com/chienotane/archives/1988
※学習ビッグデータの解析研究の様子

●ビッグデータによる学習解析研究の意義 【セミナー備忘録】 http://society-zero.com/chienotane/archives/1959
※明治二十年問題とe-ラーニング・システム
眠っていた学習理論の復権

●デジタル教科書の国際標準「EDUPUB」 第5回 【セミナー備忘録】(上) http://society-zero.com/chienotane/archives/431
※ICT CONNECT21の紹介

●デジタル教科書の国際標準「EDUPUB」 第5回 【セミナー備忘録】(中) http://society-zero.com/chienotane/archives/435
※EDUPUB活動の全体像
EDUPUB Profiie/EPUBの教育用プロファイル
Open Anotation in EPUB/註釈
WidgetあるいはScriptable Components/ウィジェットあるいは対話的コンテンツ
Distributable Objects/流通する(分解/再統合/変換される)素材

●デジタル教科書の国際標準「EDUPUB」 第5回 【セミナー備忘録】(下) http://society-zero.com/chienotane/archives/474
※LTI/外部アプリ連携
Caliper/学習分析データの収集
QTI:テスト実施と採点

●デジタル教科書の国際標準「EDUPUB」 第5回 【セミナー備忘録】(番外編) http://society-zero.com/chienotane/archives/527
※EDUPUBに対する3組織の思惑と、組織行動の特徴 

[2016年4月1日加筆]