読み放題ってそもそも何なのだろう|「読み放題モデルってどうなのよ」 手元メモ その3

1.「所有」から「利用」へ

読み放題ってそもそも何なのだろう。

他の「放題」と横並びにして気付くこと。それは「所有」から「利用」へ、という変化。

つまり「〇〇放題」は、

・まず読者の「所有」の中から「利用」だけを切り離して、サービスにしたもので、
・しかもそのサービス提供主体すらも、「所有」していない。

ネットフリックスは世界最大の映像提供会社だが、映画を所有することなく観客にそれを見せている。スポティファイは最大の音楽ストリーミング会社だが、音楽はなにも所有していないのに、どんな曲でも聴かせてくれる。アマゾンのキンドル・アンリミテッドは80万冊の本が読み放題だが、本は所有していないし、プレイステーション・ナウはゲームを購入しなくても遊べる。(『<インターネット>の次に来るもの』 第五章 Accessing )

「第五章 Accessing」 は続けて、このように分析する。

所有することは昔ほど重要ではなくなっている。その一方でアクセスすることは、かつてないほど重要になっていきている。
(中略)
キンドルを1台購入することで、現在刊行されているほとんどの本へのアクセスを買うことになるのだ。(現在、「アプリ」ダウンロードにより、キンドル端末を買う必要すらない(筆者註))

プロダクトは所有を促すものだが、サービスは所有する気をくじくーというのも所有という特権に伴う排他性、コントール、責任といった足かせがサービスにはないからだ。

(その結果起きる変化としての(筆者註))「所有権の購入」から「アクセス権の定額利用(サブスクリプション)」への転換は、これまでのやり方をひっくり返す。

「ひっくり返す」とは、提供者とユーザーとの「関係、しばり」にコペルニクス的転換が引き起こされることを指す。

ユーザーは「所有権の購入」の場合、買い換えることができる。つまり「購入」は一度限りの行為。これに対し「アクセス権の定額利用(サブスクリプション)」の場合、「それは一回限りの出来事ではなく、継続的な関係になる」。

あるサービスにアクセスすることは、その顧客にとって物を買った時以上に深く関わりを持つことになる。乗り換えをするのが難しく(携帯電話のキャリアやケーブルサービスを考えてみよう)、往々にしてそのサービスからそのまま離れられなくなる。

「所有」世界に比べ、「利用」世界ではエンゲージメントのエッジが効いてくる、ということだ。

 

2.紙媒体からデジタル・データ表示媒体(デジタルメディア)へ

メディア産業において「「所有」から「利用」へ」を加速させているのは、メディア総接触時間内のシフト、つまり紙媒体から、デジタル・データ表示媒体(デジタルメディア)への移動現象だ。

・デジタルメディア、全体に占めるシェアが初めて過半数へ

・習慣になっている

・役立つ情報が多い

(以上3点の画像:メディア接触時間が過去最高に/博報堂DYメディアパートナーズ「メディア定点調査2018」発表 https://markezine.jp/article/detail/28506 )

『<インターネット>の次に来るもの』の著者、ケヴィン・ケリー氏はこの変化を「Screening(第四章)」と呼ぶ。

読書(reading)というよりは「画面で読む(screening)」と呼ぶ方が正しいだろう。

そして、いま人類は、話し言葉の民から本の民になった(約500百年前のグーテンベルクの印刷革命)後、本の民からスクリーンの民になろうとしている、と指摘する。

「潜在読者の掘り起こし」と「本と読者のマッチング」を、「「所有」から「利用」へ」あるいは「readingからscreeningへ」のパラダイム転換に対応して展開するのが、「読み放題」というビジネスモデルなのだ。

 


■関連URL
・印刷という革命 | ちえのたね|詩想舎 http://society-zero.com/chienotane/archives/2297
「印刷術の発明というと、我々はとかく、文字の大量複製が可能になったという事実にばかり目を向けがちであるが、実は文字よりも、複雑で精巧な図版が印刷術によって大量にコピーできるようになった点のほうが、文化史的なインパクトは大きかったといえる」。

・電子書籍と図書館 | 詩想舎の情報note https://societyzero.wordpress.com/2015/07/02/%e9%9b%bb%e5%ad%90%e6%9b%b8%e7%b1%8d%e3%81%a8%e5%9b%b3%e6%9b%b8%e9%a4%a8/


◎「読み放題モデルってどうなのよ」手元メモ

その1:注意したいこと http://society-zero.com/chienotane/archives/7720

その2:Baasあるいは「出版」からの解放 http://society-zero.com/chienotane/archives/7732

その3:読み放題ってそもそも何なのだろう http://society-zero.com/chienotane/archives/7742

その4 :電子図書館と「読み放題」 http://society-zero.com/chienotane/archives/7757