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Google Book訴訟とフェアユース

2015年10月16日、ニューヨーク連邦高裁(連邦第二巡回区控訴裁判所)は、Googleの書籍全文検索サービス「グーグル・ブックス」がフェアユース(権利制限の一般規定)にあたるとのGoogleの主張を認める判断を下した。

Googleは直ちに表明書を公開、「このプロジェクトはデジタル時代の新しい図書カードのようなもの」と述べた。これに対し、米国図書館協会(American Library Association: ALA),米国大学・研究図書館協会(Association of College & Research Libraries: ACRL),北米研究図書館協会(Association of Research Libraries: ARL),電子フロンティア財団(Electronic Frontier Foundation: EFF)などは、それぞれ控訴裁判所の決定を歓迎する声明を発表している。

 

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1.デジタル時代の新しい図書カード

プレ・デジタル時代、そしてプレ・インターネット社会、それも19世紀に調べものをする人は図書館に行き、司書に相談をしていた。

この状況に対し「司書のような専門家がいないと図書館が使えない」のでは「知識の民主化」に反する、とメルヴィル・デューイは十進分類法を考案した。「十進分類」は1876年に初版が出版され、2011年に発行された第23版が最新版。

そもそもいつでもアクセスできる「知」の蔵を準備しておいて、時々の必要に応じて参照したい、とするニーズは昔からあり、図書館の歴史は古い。王や教会、時代が下がってくると富裕層が収集をを始めた。が、収集がある規模を超えると、「整理」の問題が出てくる。

 

モノに序列を与える~情報整理の第一段階

情報整理の第一段階は「モノに序列を与える」だった。最初は本の大きさの順にならべるのが一般的であったが、ある時期から本をアルファベット順に並べた。これは読みたい本が決まっていて、タイトルがわかっているときは便利。しかしこれでは、読みたい本が決まっていない(=「こういうことはどの本に書いてあるんだろう」)時は不便。ここに司書の役割、機能へのニーズが生まれた。

 

意味に序列を与える~情報整理の第二段階

1876年デューイは「十進分類法」を発表。「モノの序列化」に対し、「意味の序列化」を着想。棚を「知識の地図」にするアイデアを得た(「知識の地図」に市民が自ら知の探索に出かける)。つまりまず本を意味の分類記号に合わせ、棚に配置する(図書館では配架という)。ある事柄、テーマを調べたいものにとって、棚は事柄、テーマに関連する本が集まった場所(「知識の地図」)となる。しかしこれでは逆に、タイトルがわかっているとき、不便になる。どこにそのタイトルの本があるのかがわからなくなるからだ(「この本はどこにあるのだろう」)。

そこで「本」に分類記号を付与、図書カード(本の代理変数)に書き留め、カードのほうをアルファベット順にすることで、本を探しやすくした(情報整理の第二段階)。

 

ランダムに、意味から本を探し出す~情報整理の第三段階

だがこのアイデアにも限界があった。本(モノ)と意味を一対一対応で決めなければならないからだ。

なぜならモノとしての本に対し、コンテンツとしての本内容は多義的。

読み手は自らの文脈で、あるいは自らの関心からその多義的な本を理解していく。ある場合には著者と異なる文脈から異なる意味をくみ取る、はては別の意味をその本に与えることすら起きてくる。

ここで図書館にパソコンが導入されるデジタルの時代がやってくる。

図書館で作られる図書カードには本のタイトル、分類コード、著者名などとともに件名、キーワードが付せられている。この図書カードに記入される事項を出発点にして「書誌データ」という概念が生まれる。もともと書誌データは、ある本を同定するためのデータ群をさしていたが、デジタル時代に及んでメタデータとして、同定のためのデータとともに、意味を探す人に便宜を与えるキーワードの類が充実していった。

つまり、まずコンテンツと意味を分離記述する手法の開発がなされ(=メタデータ)、デジタル化時代の到来に伴い、「本」のメタデータに、タグを付与することで無限に「意味」を付与することが可能になった。内容を主題分析した分類や件名がデジタル化で、パソコン検索のための標目(アクセスポイント)としての機能を十全に発揮するようになっていった。

このタグ付与(アクセスポイントとしての意味付与)には、図書カードのような記述上の物理的空間的制約が本来はない(「本来は」というのは、メタデータのためのデータベースを設計・構築する際、実際は項目数に上限を決めることのほうが普通だから)。この結果本が、著者の知的活動の成果を公開する場である段階から、読者が自分に必要な意味を探しに行く場となる段階へ、大きく一歩を踏み出すこととなる。

まとめると「知識の地図」には、ひとつの本を多義的にあちこちに配架はできない欠点があった。ある分類へ配架した瞬間に、他の意味からは探し出せなくなる欠陥があったのだ。

あるテーマ、関心のもとで知識を求めながら、具体的な本の存在を知らずランダムに探索活動する人にとって、意味から本を探し出せる情報整理の第三段階にはいったのが、図書館における書誌データを含む、本のメタデータのデジタル化である。

 

ネットから本の意味にたどり着く、情報整理の第四段階

そしてとうとうGoogleが、デジタル時代の新しい図書カードを作った。

情報整理の第三段階、これは索引や書誌データをつくる著者や出版社、そして件名、キーワードを考案する図書館、これらあくまで本を作る側の視点からの、「意味」に対するタグ付け行為。そのためタグは固定的でなお限定的だ。

これに対し「デジタル時代の新しい図書カード」は、本のコンテンツ全体を対象に、読者の視点からの「意味」にタグ付けをしてくれるシステム、という点が新しい。つまりここでのタグは、デジタルデータに対するインデックスとGoogle検索窓へ入力されるキーワードが出会う瞬間、その検索行動のたびにタグになるという、柔軟で制約のない、つまりユーザー視点の、情報整理の最終形と言える。

 

2.Googleの書籍全文検索サービス「グーグル・ブックス」とは

「Google Books」プロジェクトは当初、「図書館プロジェクト」と、「パートナープログラム」のふたつで構成されていた。

図書館プロジェクト」は、国内外の大規模な図書館(国立・公立・大学図書館など)の蔵書をデジタル化するプロジェクト。

イ.まずこのプロジェクトに賛同する図書館がGoogleと提携契約を結ぶ。
・Library Partners – Google Books(提携先一覧 https://books.google.com/googlebooks/library/partners.html

・契約はすべて非独占的。つまり提携図書館はすべて、Google と連携して書籍をデジタル化しながら、独自のスキャンプロジェクトを続けたり他社と提携したりできる。

ロ.Googleは自社の費用で提携先から提供された書籍のデジタルデータを作成し、書籍は当該図書館に返却する。
・デジタル化作業は書誌情報(書籍名、著者など)とテキスト全体が対象。

・デジタルデータは「Google Books」プロジェクトのサーバーに格納されるとともに、図書館へも提供、図書館はそれを自館で保管、著作権法で認められている場合には、図書館の利用者がデジタルデータを利用できるようにする。

ハ.書籍がパブリック ドメインのものであると判断された場合、その全文を検索結果で閲覧できるようにする。つまりその書籍は初めから終わりまで読めるようになる。
一方パブリック ドメインではない場合、書籍の本文は検索できるが、検索結果としては、検索キーワードが出現するページと前後の数行を含む抜粋(スニペット)のみが表示される。さらに印刷版、紙の本への導線(例:販売サイトへのURL)が貼られる。

ニ.著作権者から通知を受けた場合に、スニペットを削除したり、スキャン対象から除外することができる。

パートナープログラム」では、著作者や出版社が、書籍のPRを目的としてGoogleブックスに書籍の情報を自分で登録・公開することができた。

これを著作権法の観点から見ると、「パートナープログラム」は、Googleが書籍の著作権を管理している出版社の許諾を得た上で、その書籍の全文をスキャンし、Googleのデータベースに保存することとしているため、基本的には著作権法上の問題が生じない。

一方で、「図書館プロジェクト」については、著作権が存続している書籍に対して著者許諾をとらずに、

・デジタル化し
・デジタルデータを公開する

ことから、各種団体や著者個人から著作権法違反の訴訟が提起されたのだ。2008年10月の出来事。

この訴訟提起に対しGoogleは一貫して、このプロジェクトが米国著作権法上一般規定となっている「フェアユース」に該当すると主張、争った。一度、和解もしたが和解に不満な団体があり、また和解案を棄却する判断が下され、訴訟はなお続いていたがついに2013年、ようやく判決が示され、著者・団体側の言い分を全面的に却下、本をスキャンしてデジタル化するのはフェアユースの範囲内なので、グーグルは無罪と裁判所は判断した。

しかしこれに原告は納得せず、上訴。2年が経過した2015年10月16日、ニューヨーク連邦高裁(連邦第二巡回区控訴裁判所)は再び、Googleの書籍全文検索サービス「グーグル・ブックス」がフェアユース(権利制限の一般規定)にあたるとのGoogleの主張を認める判断を下したのだった。

 

3.読者の勝利と「デジタル時代の新しい図書カード」

ネットから本の意味にたどり着く、情報整理の第四段階としての「デジタル時代の新しい図書館カード」システム。「グーグル・ブックス」に米国著作権法上のフェアユース一般規定が適用されたのは、その規定上の4つの要件を充足していたからだ。

4つの要件とは

・利用の目的や本質
・原作品の本質
・抜粋の量や実質性
・原作品の価値への影響

で、それぞれの観点からの解説は、大原ケイ氏の解説に詳しい(グーグル勝訴で浮き彫りになる「フェア・ユース」と著作権(とたぶんTPP)の問題 https://note.mu/lingualina/n/n8e6589a8262b )。

要は、商業的な動機から生じたものであるにもかかわらずブック検索プロジェクトは、

・ページを小さな部分(スニペット)に分けて検索の結果に表示するだけで、著者の著作権益を脅かすほど多量には見せていない
・その一方で検索者の関心の範疇にあるかどうかを判断するのには十分な(ただしその分量は「かろうじて足りる」程度の文章)を、検索語の周囲に示すようデザインされている

(1) Google’s unauthorized digitizing of copyright-protected works, creation of a search functionality, and display of snippets from those works are non-infringing fair uses. The purpose of the copying is highly transformative, the public display of text is limited, and the revelations do not provide a significant market substitute for the protected aspects of the originals. Google’s commercial nature and profit motivation do not justify denial of fair use.
(2) Google’s provision of digitized copies to the libraries that supplied the books, on the understanding that the libraries will use the copies in a manner consistent with the copyright law, also does not constitute infringement. Nor, on this record, is Google a contributory infringer. (U.S. Appeals Court Rules Google Book Scanning Is Fair Use   http://lj.libraryjournal.com/2015/10/copyright/u-s-appeals-court-rules-google-book-scanning-is-fair-use/#_  )

として、「フェアユース」に該当するとした。

これを受け、Google側は声明を出し、「このプロジェクトはデジタル時代に向けた(新しい)図書カード(英文では card catalog for the digital age. )のようなものであり、本日の判決はGoogle Booksが、

・人々が読みたい、購入したいと望む書籍を発見できるよう、簡単で役に立つ方法を提供すると同時に、
・著作権保有者にも利益をもたらすものである(本を発見した読者が本を購入する可能性)ことを

明らかにした」とした。

読者、消費者、ユーザー、すなわち著者以外の人の興味、関心から出発する、「意味」探索のためのツール(=「こういうことはどの本に書いてあるんだろう」を、我々はついに手にすることとなった。だからこのたびのGoogleの勝利は、読者の勝利でもあるのだ。

 


◇関連URL
●Google ブックス図書館プロジェクト  https://books.google.co.jp/intl/ja/googlebooks/library.html

★Google book-scanning project legal, says U.S. appeals court | Reuters  http://www.reuters.com/article/us-google-books-idUSKCN0SA1S020151016

★13-4829-cv Authors Guild v. Google, Inc.  http://www.ca2.uscourts.gov/decisions/isysquery/b3f81bc4-3798-476e-81c0-23db25f3b301/1/doc/13-4829_opn.pdf

●電子書籍と図書館 120619Ver.3  http://www.slideshare.net/sasazamani/ver3-13621924

★U.S. Appeals Court Rules Google Book Scanning Is Fair Use  http://lj.libraryjournal.com/2015/10/copyright/u-s-appeals-court-rules-google-book-scanning-is-fair-use/#_ 

 

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