フェアユース|EdTechPedia

フェアユースとは、公益の観点から一定の条件を満たしていれば、著作権所有者から許可を得なくても著作物を再利用できるとする、著作権の権利制限のための法原理。この法原理を具体化する方法はふたつある。ひとつは権利制限の「一般規定」として条文化する方法(例:米国や英国)と、限定列挙の個別規定とする方法(例:日本、ドイツ)である。

EdTechPedia

 

 

もっと教えて!

1.そもそも「著者」とは近代以降の概念

著作権制度は著者の権利を守るものと一般には認識されている。著者も著作権という制度も、文字が生まれ書物が誕生し、印刷技術で大量に本が出回るようになって以来、少なくとも活版印刷が始まったグーテンベルグの時代、15世紀くらいにはあったように思うかもしれない。が、それは間違っている。

たしかに「作者」概念はルネサンス時代から次第に育まれてきたものの、そのことと著者の権利(著者が生計維持できるよう、印刷用による複製等の利用できるかを、著者の許諾を条件にする)との結びつきは、それほど新しいことではない。

ギリシアの神々とコピーライト』の著者ソーントン不破直子氏は、『オックスフォード英語辞典』で調べても、「author」の語義の中に無から有を作る、いわゆる「創造」の概念はなく、すでに存在するものを、わかる形になるように

・行動し、
・増やし、
・組み合わせたり、
・成り立ちや伝統を理解し継承する

もののことを指す単語に過ぎないとしている。

そしてここに、「公益」概念が前提にあるとも指摘している。

「ここで忘れてならないことは、authorとしての作者の行為は、あくまでも、公の利に供するものであるということである」。

authorは、作者は、公益に仕える人のことであった。

 

2.著作権制度は近代の壮大な実験

実は21世紀の現代においても、著作権制度がなぜあるかについて「公益」を使った説明がある。まさに著作権法の第一条に明快に記されている。

著作権法
(目的)
第一条  この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。

文化の発展に寄与することが、「なぜあるか」の回答となっている。著者の権利を守るというのはあくまで制度の手段であり、そうやって著者にインセンティブを与えることが「文化の発展」に寄与する、と考えてのことなのだ。

だが「文化の発展」、創作物が次々と生まれる状態を作るのに、著者にインセンティブを与えるのが唯一の方法だというわけではない。

たとえば英国の16世紀に評判を博したシェイクピアの『ロミオとジュリエット』。文化の発展の成果のひとつに数えていい作品だが、『ロミオとジュリエット』には種本がある。著作権がなかったらこそ『ロミオとジュリエット』は生まれ得た、と言える。そして『ロミオとジュリエット』の剽窃本もまたあったのだ。

『ロミオとジュリエット』を文化の発展の花のひとつだと考えるとするなら、著作権法がない時代のほうが、数々の模倣作品の中から傑出した作品が生まれる可能性を高める、という意味で、「文化の発展に寄与」する方法論として優れているのかもしれない。

「作品から派生した金銭的利益が、作品に関係した他の人々ではなく、まず「作者」のものにならなければならない、すなわち作品は、「作者」の私有財産とみなすという考え方が世界的に認められたのは、わずか120年前のことなのである。『オイディプス』の「作者」ソホクレスも、『リア王』のシェイクスピアも、それらの戯曲が彼らの作った固有の財産だから誰も手を入れて変えてはいけない、などとは思わなかっただろう。また、『オイディプス』の話も『マクベス』の話も、それは以前に他の人が書いていて、彼らはそれを基にしつつ随所勝手に変えてこれらの作品を作ったのに、誰も文句を言わなかったようだ。(『ギリシアの神々とコピーライト』、太字強調はブログ筆者による)

それでは現代の小説家は食べていけない、という反論が当然想定される。

シェイクピアにはパトロンがいた。確かに時代の違いは考慮すべきだろう。

しかしたとえば日本で「小説」というジャンルを確立した人物、あるいは「小説」を通じて日本語の書き言葉の生態系を創造した人物として夏目漱石をあげることに誰も反対しないだろう。20世紀初頭のできごと。

その漱石は自筆小説作品のほぼ9割を、朝日新聞記者、つまりサラリーマンとして月々の給与所得が保障された環境で執筆した事実にもっと注意をむけていいだろう。

さらに専門書の世界は、大学の職員が著作者であり、同時に読者(無論他に、学生や一般社会人もいるが)でもある領域。大学の職員は漱石同様、給与所得を得ながら著述活動を行っている。シェイクピアや漱石とは違う、現代のオイコノミア(家政、経済の語源となった古代ギリシア語)について、様々なパターンがあってもいい。

執筆で口を糊する著作権者を守るのは、あくまで著作権制度の中で手段に位置づけられることであって、最終の目的はあくまで「文化の発展」という「公益」であることを忘れないようにしよう。既往の作品を利用して、次の作品が生まれる。創造活動を活発にすることが「文化の発展」。その「利用」と著作者の「保護」。両者のバランスを、時代や社会の諸相の中でどう取るかが大切な課題。

どこまで著者へのインセンティブを大事にするか。どこでその囲い込みを解き、自由な活用を認めるか。要はバランスの問題だが、現在の著作権がバランスの観点で真に合理的な制度かどうか、それはある種、「壮大な社会実験」だとしたうえで、弁護士福井健策氏は、

「正統な権利が尊重されること。ただし、権利を守るために、他人の創造的な活動を抑えつけすぎたり、人々が芸術文化を楽しむ自由を抑圧しすぎないこと。私たちの社会は、ここでも難しいバランスと、絶えざる自問を求められている」

と、著書『著作権とは何か』で述べている。

 

3.著作権を制限する(著作権者の許諾を不要とする)二通りのやりかた

だから著作権も万能ではない。著作権という権利に対しその、「権利制限」がどの国の法律でも明文化されている。

ただその明文化の方法、どういう場合が「権利制限」、具体的には「著者にいちいちお伺いをたてなくても著作物の利用ができる」かについて、

・限定列挙する方法(日本やドイツ)と
・権利制限の一般規定(狭義のフェアユース)として明文化する方法(米国や英国)

の2種類が存在する。

限定列挙の場合であると、何が合法で何が違法なのがはっきりするというメリットがある。しかし世の中の変化が激しいときには、法律が世の中の現状に合わなくなってしまうというリスクがある。もちろん法律を世の中の現状に合わせて変えていけばよいのだが、どうしてもスピード的に追いつけないケースが出てくる。

また限定列挙は政府のセンスによって、創作活動が活発な国になるかいなかが決まってくる。イノベーションを起こしやすい国かどうかにも政府の判断が影響を与えることになる。

一方、一般規定であると、融通は利くし、世の中の変化にも追随しやすくなるというメリットがある。しかしグレーゾーンが常に存在。「ひょっとすると違法じゃないか」といった不安定な状況になるし、利害の衝突が合ったときには裁判で決着を付けることになる。行き過ぎた訴訟社会となって、得するのは弁護士だけということにもなりかねない。

一般規定は個人のセンスによって、創作活動が活発な国になるかいなかが決まってくる。そしてまずやってみて不都合があれば後から裁判で是正していく、どちらかというとイノベーションの素地ができやすい方法とも言える。

 

4.米国の一般規定(フェアユース)の詳細

米国著作権法第107条として、1976年改正で盛り込まれた規定。著作権者の権利を定めた106条と106A条に続き、その権利にかかわらず「フェア・ユース(公正な使用)は、著作権の侵害とならない」と定められる。

利用者がフェア・ユースと判断して行なった行為の適法性の判断は、事後的に裁判所の判断に委ねられる。

107条にはフェア・ユースの判断要件として以下の4つの項目が記載されている。

(1) 使用の目的および性質(使用が商業性を有するかまたは非営利的教育目的かを含む)
(2) 著作物の性質
(3) 著作物全体との関連における使用された部分の量および実質性
(4) 著作権のある著作物の潜在的市場または価値に対する使用の影響


Google Book訴訟とフェアユース
https://society-zero.com/chienotane/archives/3155


 

5.日本の限定列挙の状況

日本の著作権法は著作者の権利(著作物の再利用には著作者の許諾がいる)に対する、権利制限(許諾がいらない)として以下のような項目を限定列挙している。

赤字表示されたものと、そうでないものを見ると、教育関係は昔から、教育という「公益」に照らし制定当初から手厚い処置が施されていたのがわかる。

引用(著作権法第32条)
教科書への掲載(著作権法第33条)
拡大教科書の作成のための複製(著作権法第33条の2)
学校教育番組の放送など(著作権法第34条)
学校における複製など(著作権法第35条)
試験問題としての複製など(著作権法第36条)

一方たとえば、インターネットがもたらした「オープン」の概念や、デジタル化技術の浸透から、図書館関係やネット関連の分野で、最近になって新しい項目が追加されている。

たとえば仕事のためにホームページを閲覧するとき、ハードディスクやプロキシー・サーバーでキャッシュされる。このようなインターネットの通常の利用もかつては、著作権法の規定では著作権侵害になりかねない状況だった。これはさらに、検索エンジンがWebコンテンツのキャッシュを作成することにも適用されていた。つまりかつては日本の検索エンジンサービス提供企業は米国にサーバを置いて、著作権の網をかいくぐる、ということが当たり前に行われる状況でもあったのだ。平成21年、24年の著作権法改正でこういった状況はようやく回避された。

インターネット・オークション等の商品紹介用画像の掲載のための複製(著作権法第47条の2) 平成 21 年改正
プログラムの所有者による複製など(著作権法第47条の3)
保守・修理のための一時的複製(著作権法第47条の4)
送信障害の防止等のための複製(著作権法第47条の5) 平成 21 年改正
インターネット情報検索サービスにおける複製(著作権法第47条の6) 平成 21 年改正
情報解析のための複製(著作権法第47条の7) 平成 21 年改正
コンピュータにおける著作物利用に伴う複製(著作権法第47条の8) 平成 21 年改正
インターネットサービスの準備に伴う記録媒体への記録・翻案(著作権法第47条の9) 平成 21 年改正 平成 24 年改正
複製権の制限により作成された複製物の譲渡(著作権法第47条の10) 平成 24 年改正
権利制限規定の見直しに伴う関係規定の整備(第48条) 平成 21 年改正
目的外使用(第 49 条) 平成 21 年改正 平成 24 年改正
インターネット等を活用した著作物利用の円滑化を図るための措置(裁定制度関係)(第 67 条,第 67 条の2,第 70 条等) 平成 21 年改正

以下は日本の著作権法における、限定列挙の全体像。一応条文の順番を基本にしている。ただ平成21年と24年の改正時追加されたもので、グルーピングしたほうがよさそうなものは同じ場所に並べる、といった手を加えた後の、一覧表としてある。

■著作権の権利制限・限定列挙の変遷~平成21年、平成24年の改正の状況

私的使用のための複製(著作権法第30条) 平成 21 年改正 平成 24 年改正
著作権等の技術的保護手段に係る規定の整備(第2条第1項第 20 号,第 30 条第1項第2号及び第120 条の2第1号関係) 平成 24 年改正
付随対象著作物の利用(著作権法第30条の2) 平成 24 年改正
検討の過程における利用(著作権法第30条の3) 平成 24 年改正
技術の開発又は実用化のための試験に用いるための利用(著作権法第30条の4) 平成 24 年改正

図書館での複製・自動公衆送信(著作権法第31条) 平成 21 年改正
国立国会図書館による図書館資料の自動公衆送信等に係る規定の整備(第 31 条第3項関係) 平成 24 年改正
国立国会図書館法によるインターネット資料の複製(著作権法第42条の4)
引用(著作権法第32条)
教科書への掲載(著作権法第33条)
拡大教科書の作成のための複製(著作権法第33条の2)
学校教育番組の放送など(著作権法第34条)
学校における複製など(著作権法第35条)
試験問題としての複製など(著作権法第36条)

視覚障害者等のための複製(著作権法第37条) 平成 21 年改正
聴覚障害者等のための複製(著作権法第37条の2) 平成 21 年改正 平成 24 年改正

非営利目的の演奏など(著作権法第38条)

時事問題の論説の転載など(著作権法第39条)
政治上の演説などの利用(著作権法第40条)
時事事件の報道のための利用(著作権法第41条)
裁判手続などにおける複製(著作権法第42条)
情報公開法による開示のための利用(著作権法第42条の2)
公文書管理法による保存のための利用(著作権法第42条の3) 平成 24 年改正
公文書管理法等に基づく利用に係る規定の整備(第 18 条第3項及び第4項,第 19 条第4項第3号) 平成 24 年改正
氏名表示権の適用除外(第 19 条第4項第3号及び第 90 条の2第4項第3号) 平成 24 年改正
登録原簿の電子化(第 78 条等) 平成 21 年改正

翻訳、翻案等による利用(著作権法第43条) 平成 24 年改正

放送などのための一時的固定(著作権法第44条)

美術の著作物などの所有者による展示(著作権法第45条)
公開の美術の著作物などの利用(著作権法第46条)
展覧会の小冊子などへの掲載(47条)

インターネット・オークション等の商品紹介用画像の掲載のための複製(著作権法第47条の2) 平成 21 年改正
プログラムの所有者による複製など(著作権法第47条の3)
保守・修理のための一時的複製(著作権法第47条の4)
送信障害の防止等のための複製(著作権法第47条の5) 平成 21 年改正
インターネット情報検索サービスにおける複製(著作権法第47条の6) 平成 21 年改正
情報解析のための複製(著作権法第47条の7) 平成 21 年改正
コンピュータにおける著作物利用に伴う複製(著作権法第47条の8) 平成 21 年改正
インターネットサービスの準備に伴う記録媒体への記録・翻案(著作権法第47条の9) 平成 21 年改正 平成 24 年改正
複製権の制限により作成された複製物の譲渡(著作権法第47条の10) 平成 24 年改正
権利制限規定の見直しに伴う関係規定の整備(第48条) 平成 21 年改正
目的外使用(第 49 条) 平成 21 年改正 平成 24 年改正
インターネット等を活用した著作物利用の円滑化を図るための措置(裁定制度関係)(第 67 条,第 67 条の2,第 70 条等) 平成 21 年改正

出版権の準用(第 86 条) 平成 24 年改正
著作隣接権の準用(第 102 条) 平成 24 年改正
違法ダウンロードの刑事罰化に係る規定の整備(第 119 条第3項関係)  平成 24 年改正

著作権等侵害品の頒布の申出の侵害みなし(第 113 条) 平成 21 年改正


◇関連URL
『ギリシアの神々とコピーライト』 
『著作権とは何か』

●著作物が自由に使える場合は? http://www.cric.or.jp/qa/hajime/hajime7.html
現行の日本の著作権法(平成24年が一番新しい改正)で、著作権者の許諾なしに著作物を再利用できる場合を列挙している。

●第1章 フェア・ユースの法理 http://www.itlaw.jp/fu1.pdf

●米著作権制度とパブリックアクセス─市民メディアを育てるフェアユース http://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/ss/sansharonshu/451pdf/03-09.pdf

●著作権法の一部を改正する法律(平成 21 年改正)について(解説) http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/h21_hokaisei/pdf/21_houkaisei_kokuji_kaisetsu.pdf

●著作権法の一部を改正する法律(平成 24 年改正)について(解説) http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/h24_hokaisei/pdf/24_houkaisei_horitsu_kaisetsu.pdf