プログラム的思考とAIが知識を共有する時代の教育

◎知恵クリップ|「楽しい」が学習の基盤 プログラミング教育にとっても◎

Quora 世界最大級の知識共有プラットフォーム

■子どもたちの職業観

専門知の生態系(生成と流通)がITで大きく変貌を遂げつつある現代。最近注目を集めているのは、AI技術をつかった、質の高い知識の集積に取り組んでいるQ&Aサイト、「Quora - 知識を共有し合い、世界を知ろう」です。国産でいうと、「Yahoo! 知恵袋」や「OKWave」が該当しますが、「Quora」は「実名制」が基本のサービス。発祥の米国では、サービス・ローンチ時点にバラク・オバマ氏やヒラリー・クリントン氏、Wikipedia創設者のジミー・ウェールズ氏など、米国の政府関係者や専門家が数多く参加し、注目を集めています。
・Obama

Quora Launches Verified Profiles, Starting With President Obama

その日本語版での回答者のひとり、株式会社idealShipの代表取締役である平野幸司氏が「21世紀の最初の20年間を最もよく表しているのはどの写真ですか?」の質問に答え、取り上げた写真がこの二枚。「良い悪いではなく、この20年の日本の変容を表していると思います。」とのコメントとともに、話題になっています。回答に対する反応は、第一位から三位くらいを見て、米国の中学生が手堅い人生設計を念頭に置いているように見え、日本の中学生にそれがないように見える点を意識する向きと、他方、日本にSNSとゲームの影響が色濃いと感じる向きとで議論が分かれるようです。あなたは、どう感じられるでしょうか。

・日米比較 男子中学生のなりたい職業

・日米比較 女子中学生のなりたい職業

日本・アメリカで比較 ! 中学生「なりたい職業ランキングベスト5 !」

これをどう見るかに関して注意すべきは元になった調査が2019年である点。

日本では2020年度から小学校でプログラミングが必修科目になったことから、2022年現在、小学校でプログラミング教育を受けた子どもが中学生になっています。中学校では2021年度からプログラミング教育が始まっていて、高校は2022年度から必修化。それを反映してか、たとえば「どの程度プログラミングができるか」との質問に対する結果は、次のようになっていて、必修化のロードマップと平仄が合ってます。

・どの程度プログラミングができるか

・学校教育におけるプログラミング教育の拡充

中1生の半数が「プログラミングができる」 中高生の8割以上がプログラミングは必要なスキルと認識

 

■プログラミング教育の意義について

プログラミング教育の意義について学校の教職員でそんなことはないでしょうが、保護者の間ではまだまだ誤解があるようです。「プログラミング」という独立した科目があるわけではありません。「算数」や「理科」、「総合的な学習」といった既存の授業の中でうまく取り入れたり、授業の中以外では「クラブ活動」といった形で取り組んだりといったことが推奨されています。むしろ使われている「プログラミング的思考」という用語の方が理解しやすいでしょうか。

「プログラミング的思考」とは、そしてログラミング教育の意義とは、コンピュータを問題解決に活用するために働かせる思考を身につけようといった文脈での用語あるいは施策ということになります。プログラマーにならなくとも、コンピュータの特性や原理を理解していることがウェルビーイングな社会の形成に役立つ、必要な素養だ。一昔前の「読み書きそろばん」にプラスするのが、「プログラミング的思考」のための素養ということでしょうか。当然、知識社会の到来が前提の認識となっています。

知識社会の到来に対する認識は、日本でまだまだこれから、ですね。その感度の差や、「プログラミング的思考」の浸透度合いの違いが、日米のQuoraの差につながっている気もします。象徴的なのが冒頭の質問と回答の例でないでしょうか。

なぜなら米国で、「人でなく『良質な問い』でつながる」新しいタイプのSNS、とも評されているのがQuoraだからです。情報と知識の質を追求することをそのミッションとしているQuora創業者の意図に、日本語圏の活動がキャッチアップするのにはもう少し、紆余曲折、時間が必要かもしれません。

さて今回は、子どもたちの職業観と「プログラミング的思考」に関連する知恵クリップを中心に集めてみました。

 

■知恵クリップ(Web記事)|「楽しい」が学習の基盤 プログラミング教育にとっても

●世界11ヵ国22,000名の子ども・保護者に学習調査を実施 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000013.000045711.html
対象:6歳~15歳 2020年調査。
「中国、インドでは、「技術者・エンジニア」などのテクノロジーを担っていく職業が注目されており、一方GAFAなどの企業の印象の強いアメリカでは「コンピュータープログラマー」が上位に」。
どちらの職業も、日本ではなりたい職業ベスト5に入っておらず、職業への憧れに対する差がある、2020年時点では。
・11カ国比較 子どものなりたい職業

 

●全国の小中学生900人を対象にした「将来就きたい仕事」に関する調査 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000653.000001264.html
アデコ調査。2020年調査だが、ここでも一位は「YouTuber」。
そして小中学生男子が選ぶ「将来就きたい仕事」のトップ10に、「YouTuber」、「ゲームクリエイター」、「エンジニア・プログラマー」という、デジタルテクノロジーと親和性の高い職業が、2年連続で3つ同時にランクイン。小学校でプログラミングが必修になることから、保護者を含め意識の変化を引き起こしたか。
・小中学生の「将来就きたい仕事」ランキング トップ3

 

●小学生がなりたい職業ランキング2021 https://benesse.jp/juken/202112/20211217-1.html
「進研ゼミ小学講座」の調査。2021年版
男女合計の総合ランキングの結果は、
1位 ユーチューバー
2位 漫画家・イラストレータ・アニメーター
3位 芸能人
4位 ゲームクリエーター
5位 パティシエ

・男子小学生がなりたい職業 2021

・女子小学生がなりたい職業 2021

 

●子どもになってほしい職業 https://encount.press/archives/267779/
イー・ラーニング研究所。親の側の期待。
対象:小学生・中学生
1位 経営者
2位 プログラマー・ゲームクリエーター
3位 公務員
4位 アーティスト
5位 学者・研究者
・将来子どもになってほしい職業

 

●小学校におけるプログラミング的思考で身につく5つの力 https://bit.ly/3rbkGsL
プログラミング的思考で身につくとされる能力は「抽象化」「分解」「順序立て」「分析」「一般化」の5つ。

論理的思考」は、因果関係を整理し順序立てて考えること。一方、「プログラミング的思考」は、論理的思考を前提としたうえで、効率的で最適な手段を考えることを言う。
・プログラミング的思考を学ぶためにオススメなロボット製作

小学校におけるプログラミング的思考で身につく5つの力 | kikimimi (キキミミ)ちょっと聞いてほしい教育サイト

 

●面白いほどわかる「プログラミング教育」のツボ https://toyokeizai.net/articles/-/372910
プログラミングコードは書かないのが小学校の「プログラミング教育」。
「現在、プログラミング学習の主流となっているのは、「ビジュアルプログラミング」というもの。これは、ビジュアル的なブロックを組み立ててコンピューターに指示するスタイルのツールで、プログラミング言語を知らなくても感覚的に使うことができます。その代表的なツールの1つが、「Scratch(スクラッチ)」です。」
小学校6年生までに必要なプログラミング的思考力が1冊でしっかり身につく本

 

保育園で幼児に「プログラミング教育」の深い訳 https://toyokeizai.net/articles/-/428030
「学習」の根っこに、「楽しい」という感覚を

「プログラミングで育成される課題解決力や論理的思考力の土台をつくりたいと考えました。日常の当たり前を不思議に思う純粋な探究心は、就学前の子どものほうが持っていると感じています。うまく保育と連動させながら、その探究心を追求するようなカリキュラムで、プログラミング思考のロジックを学ぶ環境を提供できればと考えています」

「何より、幼少期に大事なことは『プログラミングって楽しい』と感じる体験です。自分の絵を動かしたり、オリジナルゲームをつくったり、ロボットを動かしてみたり。プログラミングは、自分のアイデアをかたちにするツールです。子どもたちにとって、つくる体験はとても楽しいもので、興味を持って『楽しい』と思うことこそが学びの原動力になります。それは小学校以降の学びにもつながるでしょう」

 

●プログラミング教育の行き着く先が、仕事とか勉強とか社会貢献みたいな意識高いことだけでしか語られないことの物悲しさについて考えたい。 https://note.com/kiriem/n/n77ead02f5fc7
「楽しい」が育たないと生涯学習社会は実現しない。教育現場は「役に立つ」からの脱却を果たすべき。教養よりは役に立つ知識へ、それも知識を自分のものにするためにかかるコストは最低限にしたい、こういった「ファストナレッジ」だけがあふれる社会に、進化はない、という主張。

主張しているのは、子どものためのプログラミング道場 CoderDojo Japan の理事にして、株式会社 Innovation Power の社長、宮島衣瑛。
・(Innovation Power

「学校(school)の語源はスコレー(scholē) = 余暇 という話は聞いたことがある方も多いのではないだろうか。余暇、つまり余白がないと学びは起こらない。それは時間的余白も経済的余白も精神的余白も含んでいる。

根本的に学問や学びは自分にとって役に立つものではない。ここでいう役に立つというのが自分の生活をしていくなかでの役に立つだとしたら、なおさら役に立たないだろう。しかし、私たちは学ぶ。それはなぜか。学びとは、根本的に知的好奇心を掻き立てる楽しいことだからだ。」

 

●経済力の学力格差を乗り越える「読書」の力とは 「経済格差」「遺伝」より「本のある環境」が影響 https://www.dailyshincho.jp/article/2022/01211056/
プログラミング教育だけでない。本を読むのが「楽しい」子どもかどうか。その差異は「本のある環境」で作られ、学力格差の原因ともなる。

「学力格差の大きな要因として読解力の問題があるといってよいだろう。であるなら、読解力を高めることができれば学力格差の問題を乗り越えられる可能性が見えてくる。そのカギを握るのが読書だ。」

語彙力と読解力の間には相互促進的な作用が働いている。

だから、「よく本を読む子は、語彙力や読解力が高まるため本を読むことが苦にならず、読書を楽しむことができる。(略)そのことが学力格差につながっていく。すなわち、読書によって語彙力や読解力が高まっていけば、各教科の教科書や先生の解説の内容を理解できるため、教科内容がよくわかり、勉強が楽しくなるし、成績が向上する。一方、語彙力や読解力が乏しければ、各教科の教科書や先生の解説の内容がなかなか理解できないため、教科内容がよくわからず、勉強が苦痛になり、成績は向上しにくい。」
・読み聞かせ

 

●デジタル庁、教育データ利活用ロードマップを策定 https://cio.go.jp/sites/default/files/uploads/documents/digital/20220107_news_education_01.pdf
2022年1月7日、デジタル庁、文部科学省、経済産業省、総務省は、教育データ利活用ロードマップを公表。データの利活用を技術的に促す「標準化」を目指す。
・現状の整理 教育データ利活用ロードマップの検討状況

データの利活用が、教育DX〜生涯にわたるWell-beingの実現を支える | xDX

 

●学習履歴データ分析基盤「Lentrance Analytics」、出版社向けサービスを開始 https://ict-enews.net/2022/01/20lentrance/
「デジタル教科書・教材が「どのような傾向」で「どの程度利用されているか」を定量的に把握できる。」
「蓄積された学習履歴データは、各種標準フォーマットへの対応を予定しており、校務システムや教育用SNSなど、他社ソリューションとの連携も可能に」。

 

●Word、Excel、PowerPointの画面内で辞書引きが可能に 辞書アプリDONGRI®のOfficeアドインを公開 https://www.east-education.jp/news/news_release/12516/
「Microsoft 365を導入している学校、特に日々の学習に辞書が不可欠な高等学校においては、本アドインの有効活用が期待されます。
・「旺文社全訳古語辞典 第五版」の例

 

●Quoraが目指すのは「より優れたWikipedia」 https://jp.techcrunch.com/2011/02/01/20110130quora-is-really-about-a-better-wikipedia-not-robert-scobles-hopes-dreams/
「知識の蓄積:
多くの人々がQuoraを利用して身の回りのさまざまな事柄を記録すれば、この知識データベースは成長を続け、誰かが知りたいと思うほとんどあらゆるテーマについて情報を提供できるようになるでしょう。ひとたび知識がQuoraに記録されれば、それはいつまでもそこにあって、興味を抱くすべての人々から利用可能になります。」

 

●Quora創設者に聞く、「ネット上の知識はまだ不完全」 https://ascii.jp/elem/000/001/857/1857094/
マネタイズの前に、情報と知識の質を追求する姿勢を崩さないのがQuoraの一貫した姿勢と言えます。信頼感は金銭的な価値では代えられないし、良質な情報を生み出すコミュニティもお金では買えないという考え」

 

●雑学とサイエンスのはざまで – KEK|高エネルギー加速器研究機構 https://www.kek.jp/ja/essay/20210128/
「Quoraは質問者と回答者が原則実名となっているうえに、様々な方法で回答の質を担保しようとしています。このため「世界最大級の知識共有プラットフォーム」と評価する人もいて、「人でなく『良質な問い』でつながる」新しいタイプのSNSとも。今回はQuoraにはまってしまった一人の大学教員のお話です」。
・President Obama

Quora in Brief

 

■その他:読書や図書館に関わるWeb記事

●大学図書館とWikipediaの連携がもたらすものは?<文献紹介> https://current.ndl.go.jp/e2465
「情報発信者としての訓練をするツール」としてWikipediaを使う発想。
新規記事を書くことや、既存記事に追記していく編集作業をすることで、情報リテラシー、ライティング技術、批判的思考などのスキルが獲得できるのではないか。

 

図書館とSTEAM教育 | STEAM JAPAN https://steam-japan.com/education/6764/
「図書館は、STEAM教育が現状抱えているいくつかの問題を改善する可能性を秘めており、学校の教室とは異なるアプローチでSTEAMの学習体験を提供することが期待されているのです。」

 

持続可能な開発目標 (SDGs)と図書館
https://www.unic.or.jp/files/SDGs-and-Libraries.pdf
SDGsの「ゴール16の「平和と公正をすべての人に」の中に「情報への公共アクセスを確保し、基本的自由を保障する」がある。これは、まさに図書館にかかわること。また、図書館は学校教育や生涯教育でも大切な存在で、ゴール4「質の高い教育をみんなに」への役割も大きい。

・西南大学図書館でのSDGs関連図書の開架

 

●【SDGs読書プロジェクトを提唱】オトバンクが京セラコミュニケーションシステムと連携 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000178.000034798.html
読書環境における音声の観点から、「すべての人々に包括的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯教育の機会を促進する(ゴール4)」「人や国の不平等をなくそう」「平和と公正をすべての人に(ゴール16)」の実現を目指している。これらを踏まえ、読むのと並んで「聴く」も選べる時代へと、オーディオブックを当たり前のように使っていただける社会にしていきたいという。

 

●司書体験アドベンチャーゲーム『市立カクレザ図書館』 https://news.denfaminicogamer.jp/news/220125m
『市立カクレザ図書館』は、図書館の新人職員となりカウンターで貸出業務を行う司書体験アドベンチャーゲーム。

「ゲームは利用者が希望する本やCD、DVDなどを全260冊から選ぶことでストーリーが分岐していく。この「全260冊の本」はすべて選択肢となっていることが本作の特徴で、検索機を用いて利用者が希望する本を正しく提供できるかが攻略の鍵となる。」
・図書館司書見習いになって本の貸し出しをやっていく『市立カクレザ図書館』

利用者の貸し出し本だけでその人物の嗜好や性格や今置かれてる状況が見えてくるのが凄く面白い。 )

 

●子どもの読書活動における電子書籍活用の現状 https://current.ndl.go.jp/e2421
2020年から2021年にかけて文部科学省が行った「子供の読書活動の推進等に関する調査研究」の主な結果の紹介。
・多くの公立図書館では電子書籍コンテンツの整備・充実にまず取り組もうと考えている
学校図書館はこれから。現に、文科省の方針に電子もデジタルも登場しない。
第6次「学校図書館図書整備等5か年計画」:文部科学省 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/dokusho/link/mext_01751.html

 

●「学校デジタル図書館」 https://society-zero.com/chienotane/archives/9683#2
「義務教育課程の子供たちの中に情報格差を広げないためには、日本にひとつ、文科省主催の「学校デジタル図書館」があれば良い。これならリアルの学校図書館にあったような予算の制約から多少自由になれそうです」。

 


僕が哲学に興味を持ったのは、祖父の本棚にたくさん本が並んでいて、それがすごく面白そうに見えたから。でも、本の内容だけが自分の端末の中にある今は、そういう経験はなかなかできません。だからこそ本をデザインするなら、背がどういうふうに見えるかとか、その形態はもちろん、「本」というものの物語性まで考えていかないと意味がないと思うんです。
哲学が、クリエイターに教えてくれること | ブレーンデジタル版