知のパラダイム転換|知活人(chiikibito)

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■[私のお気に入り知識カード]=042 知のパラダイム転換

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042 知のパラダイム転換

◎非民主国家が増大する時代にパラダイム転換(脱西洋中心主義)の視点を◎

どの国も西欧がたどった道筋を必ず追いかけるものだと漠然と前提にしていませんか。西欧化が完成していない国は遅れていると思っていませんか。ひょっとするといまやそれは、「日本の常識は世界の非常識/世界の常識が日本では非常識に」かもしれません。

政治の領域で、もはや自由と民主主義と経済成長の、西洋近代由来の「セット」が当たり前でないことを、世界の人は肌感覚で知っています。脱西洋中心主義、または脱西洋史観。しかし日本でこの認識はまだまだ浸透していない、のではないでしょうか。

スウェーデンにV-Dem研究所という機関があり、毎年、世界の民主体制をウォッチしています。すなわち民主主義を選挙、自由、参加、熟議、平等の5つの項目から分析、計測する活動を行い、定量的民主主義データーの最も重要なプロバイダーとなっています(V-Demの名称は民主主義の多様性(Varies of Democracy)に由来)。

その『V-Dem 2021年報告書|独裁化はウイルスのように(Autocratization Turns Viral)』は、2020年に民主国家に暮らす人が世界の32%、逆に非民主国家のそれは68%、となったことを報告しています。国家体制の民主化は戦後一貫して増加傾向にあったものの、人口構成で非民主国家を上回ったのはベルリンの壁崩壊後、旧ソ連解体を経た1999年でした。ところが2019年再逆転を許し2020年、非民主国家が世界の多数派となりました。

・人口構成比でみた非民主国家の推移(2010→2020年)

(独裁化はウイルスのように|V-Dem 2021年報告書 https://www.v-dem.net/files/25/DR%202021.pdf

・非民主国家の人口が民主国家を上回るのは1999年以来

(「民主主義、少数派に 豊かさ描けず危機増幅 #パクスなき世界 https://twitter.com/nikkei/status/1320578011566133248

この間、選挙制度をめぐって20世紀にはなかった現象が起きています。独裁性が民衆により選択、支持されているかのようなのです。

V-Dem研究所は国家体制を民主制との関連で4分類しています。

A:選挙を基盤にした完全な民主制国(細字破線)
B:三権分立に問題を抱える民主制国(太字破線)
C:選挙の衣をまとった独裁制国(細字実線)
D:選挙なき完全な独裁制国(太字実線)

Aを採用する国が2010年代に減少しているのが下記のグラフ(細字破線)からわかります。他方選挙制度そのものの採用(=A+B+C)は拡大しています。最終、「C:選挙の衣をまとった独裁制国」が国の数でも人口構成比でも最大グループとなっています。

「現代の権威主義(独裁制)はあたかも民主主義のように振る舞う(イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ)」(Munk Dialogue  https://www.youtube.com/watch?v=mh1mSGEISyc

・4つの政治体制 国数の推移(1972→2020年)
Democracy report 2021
(中間層の「没落の恐怖」背景 民主主義の危機: 日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD082ER0Y1A400C2000000/?unlock=1

この趨勢は「民主化すれば豊かになれる」が夢でしかなかった事態あるいは実感を背景にしています。西洋近代由来の民主主義や自由と言う価値観への信頼を揺るがせているのは、低成長の常態化と富の集中(格差拡大)です。

民主制を通じて決定された政策が、そのことだけで、非民主制を通じてもたらされた政策と比べて優れているとは言えない、との感覚を世界は共有しています。脱西欧中心主義が日本の外では当たり前になっていて、世界ではすでにその先の議論が深められています。

イデオロギー論争はさておいて、民主制のもとで成立すると想定されていた「自由で平等で包摂的な経済社会」をいかに獲得するかについて、日本の現状を、時代と空間の両方から相対化して捉え直す知的作業こそが肝要です。

「042 知のパラダイム転換」は、農村や国家という閉鎖系から、都市や「共同体」という解放系への発想の転換を主張しています。そうした発想転換のためには「加藤博のiCardbook」の下巻(VOL3.)の「第3章 多系的経済発展経路の模索」が整理した、経済人類学者カール・ポランニー、歴史家フェルナン・ブローデル、そして経済学者ジョン・ヒックスの専門知が、思考の補助線として役に立つのかもしれません。

ちなみにデモクラシーの語は古代ギリシャのデーモクラティッア(demokratia)に由来し、民衆(demos)と支配(kratos)の合成語です。中世や近世のような君主・王の世界でなら、領民の幸せは支配・統治者である君主・王の才覚と思慮ぶりに左右されたでしょう。そのため名君たらんと帝王学の指南書『君主論』『貞観政要』が読まれたのでした。しかし近代は支配・統治の任を民衆に委ねました。「政治の長い歴史に鑑みるとき、これは民衆の「大抜擢」と言ってよい(『デモクラシーの整理法』(空井護))」のです。

現代の民衆が専門知を思考の補助線として活用すべき理由が、まさしくここにあります。

・加藤博のiCardbook

※続編があります
・大坂なおみにパラダイム転換の夢を見るか https://society-zero.com/chienotane/archives/9487

『イスラーム世界の社会秩序 Vol.3 基本概念・基礎用語編(加藤博)』

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