大学図書館の電子書籍の状況(2020年度)

■電子図書館の普及

大学図書館への電子図書館の導入は悉皆ではないものの、ほぼ導入すべきところへは行き渡ったと言えるような段階に入りつつあります。その中でどういうものが選書され(買われ)ているのか。厳密な統計は手元にないものの、ヒヤリングで聴かれる、ざっくりした印象を書き出してみます。


・2.大学図書館市場への普及状況 https://society-zero.com/chienotane/archives/9084/#2


 

■選書(どういう電子書籍がどんな風に買われているか)

これまでは、紙の本が毎月選書されていたのに対し、電子書籍は年度予算の消化動向をみながら(※)12月~翌年3月にまとめて買われるものでした。これに対し、ここ2,3年は通常予算で買われる、つまり毎月選書する対象になりつつあるのも、大学に電子書籍が当たり前のものになる傾向を表現しています。

※他に為替も影響する。大学図書館にとって電子ジャーナル購入規模が非常に大きい。ただ海外版元のものが多くを占めることから、為替動向に円ベースの購入金額が左右される。ために、電子書籍に割かれる金額規模は為替にも影響を受けることになっている。

さてそれでは売れ筋というとどんなものになるのでしょう。

すべての大学でよく売れるジャンルは、語学系、資格系、就活周りの作品になります。四年生の就職率が大学の評価、入学試験応募率に影響を与える構図があるので、どの大学も必須で購入します。

それ以外のジャンルになると現状は供給状況次第なのが実情です。

各大学は学部編成に特徴があり、また大学が力を入れている研究領域があり、図書館の選書方針もそれらをベースに確立され、紙の本ですと膨大な新刊リストから選書方針に照らしながら購買活動が行われます。しかし、電子書籍は10年前に比べだいぶ点数が増えてきたもののまだまだ圧倒的に数が少ないです。その結果、供給されたものの傾向が、売れ筋を決めるようなところがあります。

しいて言えば、人文社会領域では読み物系、医学領域ではプラクティカルな、現場での実践に役立つ作品群。理工学領域には特段の傾向はなく、時々の話題性からそれに関連した学問分野の作品が選ばれています。例えばコロナ禍。「くしゃみでウイルスが拡散する」こととの関連で流体力学の本が良く売れる、といった具合です。

 

■ディスカバリーサービス

ちなみに電子図書館のプラットフォームは複数の企業が提供しています。B2Cでたくさんのプラットフォームが並び立っているのと似た状況です。ただし、大学向け電子図書館にはディスカバリーサービスというものがあり、学生や職員は電子書籍を探す段階で個別のプラットフォームを意識することはあまりありません。

マンガなどのB2Cですと、あるプラットフォームで購入したものはそこでしか読めませんから、ユーザーはあのマンガはどこで買ったっけ? あるいは読み放題サービスでも、これはどのプラットフォームで読めるかをチェックする必要があります。

ところが、大学の電子図書館(学生や教職員からすると一種の「読み放題」ですが)では、プラットフォームを横断して検索できる仕組み(ディスカバリーサービス)があるのです。ディスカバリーサービスには高度な検索スキルがなくとも求める情報を容易に入手できるようなインターフェイスや、適合度によるソート、絞込み、入力補助などのユーザ支援機能が備わっています。

・ディスカバリーサービス
(用語解説:文部科学省 https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/toushin/attach/1301655.htm
「図書館が提供する様々なリソースを同一のインターフェイスで検索できるサービスのこと。情報の「Discovery(発見)」を支援するサービスという意味がある。通常は、OPAC(オンライン蔵書目録)、電子ジャーナル、データベース、機関リポジトリ等、収録対象や検索方法が異なるリソースを使い分ける必要があるが、ディスカバリーサービスにおいては、これらを一括検索することができる。」

ここまでは和書の話でした。紙にしろ電子にしろ。

しかし大学の電子図書館には洋書の電子書籍があります。

 

■大学電子図書館で実は洋書のプレゼンス大

下記は文科省が公表している「学術情報基盤実態調査」からのデータです。大学図書館の蔵書数とその増減が示されています。しかも一大学あたりの平均値です。蔵書数の増減は新規購入(資料の収集)と廃棄(除籍=図書館資料を除去)により決せられます。

紙の本の蔵書残高(ストックベース)では和書と洋書が「7対3」なのがわかります。日本の大学ですから当たり前ですね。他方電子書籍の和書洋書対比は「1対9」です。洋書が圧倒しています。フローでも「2対8」。

・1大学あたり平均蔵書数の変化

1大学あたり平均蔵書数の変化

これには次のような理由があると言われています。

国内版元電子書籍(和書電子書籍)の過半はPDFであり、EPUBは少数派。加えて古い作品、既刊書からの例がまだまだ多い。他方、シュプリンガー、ワイリーといった海外勢(の版元)が提供する電子図書館サービスは「EPUB(HTML)+PDF」が基本で、新刊と同時に電子化されています。

しかもこの結果、物理的空間的制約に苦慮している日本の大学図書館は近年、和書では紙と電子との購入を選別しつつ、洋書では新刊から電子へのシフトを急いでいるようです(上記表の矢印)。