drei schüler mit laptop im klassenzimmer

公共図書館に電子書籍がふさわしい理由

LibrariE(ライブラリエ)JDLS日本電子図書館サービスが提供する電子図書館の新しいモデル【セミナー備忘録】(下)

4.公共図書館の電子書籍や電子図書館に対するニーズ

もう一度、JEPA電子図書館委員会の総括を振り返る。

・普及していない理由も様々あるが、ここ十年ほどの委員会での討議また見聞の結果は、まず「ニーズがない」から。
その図書館が地盤にしている地域から電子版へのニーズが聞かれないのに、「予算がない」なか、電子版閲覧のためにお金を投ずるわけにいかない。すると出版社からすると電子版を作っても「売れない」のに、わざわざ「電子化しない」。

・電子図書館の意義が発揮され、その機能に意味が出てくるのは結局、県立図書館や大規模な市立図書館ではないか、というのが当面の結論。

理由:一般の公共図書館に備えていないような、専門書、実用書、レファレンスの類もこういった図書館なら購入しているし、利用者も蔵書していることを期待している。ところが広域な地域を対象にしているがゆえに、地理的な課題を逆に抱えている。

a.いちいち遠くまで足を運ばずに貸出を受けられ、読むことができる。
b.返却の必要がなく、便利。

と言ったメリットが実際機能するのは、このような図書館の場合ではないか。

実際、2014年に実施された調査(『公共図書館における電子図書館・電子書籍サービス 調査報告2014』)でも

・電子書籍サービス実施予定なし 73%

・電子書籍サービスへの要望等について 
    住民から 18%
    現在のところ問い合わせはない 64%

という結果だった。

5.ランガナタンの「図書館の五原則」と「拘置所図書室化」

ここで思考の補助線を引いてみよう。

図書館の選書、蔵書は本来どうあるべきなのか。

「拘置所図書室化」

このテーマに関しては長い長い思考の積み重ねと、実践の積み上げがある。

要は価値論と要求論とのバランス

選書・蔵書の選択基準について、資料そのものの価値を重視した『資料重視型』(価値論)と、利用者の「情報要求」を重視した『利用者重視型』(要求論)がある。

後者については、さらに一定の質的基準があることを前提とする『制限的要求論』と、利用者の資料要求に対して図書館員が価値判断をしないという理念を基盤にする『絶対的要求論』がある

日本の公共図書館は戦後、保管・管理する図書館から、資料提供することこそをそのミッションとする図書館であるべきという考え方へ変遷してきた(『中小都市における公共図書館の運営』(1963年)~日本図書館協会が出版した中小公立図書館運営の指針)。

そこからさらに、70年代、利用者の要求にこたえるサービスを行うべきことに次第に重きを置くようになった(『市民の図書館』(1970年)~日本図書館協会が出版した市立図書館運営の指針)。

ただしその場合でも、利用者の要求が質の低いもので決してないことが、その大前提にあったのには留意する必要がある。

図書館員の選書意識が低く、「利用者が欲しがるから」「要望が大きいから」という理由だけで本を購入していくと、図書館は「拘置所図書室化」する恐れがある。

これは入矢 玲子・中央大学図書館事務部レファレンス・情報リテラシー担当副部長の指摘。

●検索時代の図書館-「隠れた情報」のさがし方:教育 http://www.yomiuri.co.jp/adv/chuo/education/20150309.html

拘置所図書室化」は元外務省職員で現在は著述家の佐藤 優氏の体験談による挿話。『危機を克服する教養 知の実戦講義「歴史とは何か」』 といった著作物で知られる佐藤氏だが、鈴木宗男事件に絡む背任容疑で逮捕された後、東京拘置所での生活を経験した。

そこで見た東京拘置所図書館の蔵書は、「利用者」の残した本が大半で、犯罪小説とエロ本で溢れかえっていた。「利用者が欲しがるから」「要望が大きいから」という理由だけで本を購入していくと、図書館は「拘置所図書室化」するという、一種のジョークだ。

だから、価値論と要求論とのバランスが重要なのだ。

「図書館の五原則」とスマホの世紀

これに関連して、図書館関係者には有名な、ランガナタンの「図書館の五原則」というものがある。ランガナタン氏は1892年生まれのインドの数学者・図書館学者。「図書館の五原則」と「コロン分類法」を制定した事で知られ、インド図書館学の父と呼ばれている。

ランガナタンが提唱した図書館学五原則は以下のとおり。

1.本は利用されるためにある
2.すべての読者に、その人のための本を
3.すべての本に、その本のための読者を
4.読者の時間を節約せよ
5.図書館は成長する有機体である

1932年に策定されたこの五原則を、OCLC Researchが2014年再解釈する報告書を出した。

E1611 - 時代は変わり順序も変わる:『図書館学の五法則』再解釈の試み http://current.ndl.go.jp/e1611

その中で、「情報が豊富になり時間の不足が課題となっている現代では,第四法則であった「利用者の時間を節約せよ」が最優先であるとした。

さてこれは、既述の電子図書館委員会の

a.いちいち遠くまで足を運ばずに貸出を受けられ、読むことができる。
b.返却の必要がなく、便利。

に該当はしないだろうか。

スマホの時代になった。隙間時間にネットに接続する社会になった。Googleで必要な情報を手に入れ、生活の、仕事の意思決定をするのが当たり前になってきている。読者が本を選び、本を購入するのにもネットが欠かせない。

20世紀前半の「読者の時間を節約せよ」は、21世紀の今日、クラウドとモバイルの時代にふさわしい内容に変わらなければなならない。

読者が本を選び、本を購入、そして隙間時間に本を読む、ところまで。

「公共図書館における電子図書館推進のための留意点」 、これが書かれたのは2012年、長尾構想に対峙するもの、としてであった。確かにあれからたった3年しか過ぎていない。

だがこの間、外資系電子書籍サイトが次々とオープン、電子書籍フォーマットは世界標準のEPUBが共通認識になり、大学図書館に電子図書館サービスは、普及すべき先にほぼ行き渡るところまで来ている。そして何よりクラウドとモバイルの普及だ。

・電子図書館の意義が発揮され、その機能に意味が出てくるのは結局、県立図書館や大規模な市立図書館ではないか、というのが当面の結論。

JEPA電子図書館委員会も、そろそろこの見解を変更する時節に近づいているのかもしれない。

移行期を生きる

同時に公共図書館の側も、そろそろ収書、蔵書方針を変更する時節に近づいているのかもしれない。価値論と要求論とのバランスをもう少し、価値論のほうへ。

社会が移行期にある。そのことが誰に目にも明らかになりつつある時代を、私たちは生きているのだから。

最近奇妙な事件が多くないか。20世紀にあまり目にしなかったようなニュースが出てきていないか。政治も、科学も、惑い、混乱していないか。そして先行きに何かしら漠然とした、不安がないか

20世紀に当たり前だった生活風景、考え方の標準がもはや当たり前ではない、と誰もがなんとなく感じている。それは西欧が打ち立てた価値観の崩壊に原因がある。20世紀半ばあたりから、識者の間で議論されていた「ポスト・モダン」の論点が次々と現実化する中に、私たちはいる。

秩序がないことは人間を、不安におとしいれる。

「社会」が再発見されなければならない。ちょうど、500年前、ルネサンスの時期、「人間」が再発見されたように。

中世の価値観の崩壊に出会った時人々は、それに代わる新しい価値観、新しい生活の規範を求め、そこに知の爆発が起きた。人間を再発見するルネサンスは、ドイツで考案された活版印刷技術がアルプスを越え、イタリア、ヴェネツィアの地で写本から印刷本への「知のコンテナ」の変革を起こし、やがて知の大衆化のうねりがヨーロッパ中を変えていく形で、「近代」を準備していったのだった。

当時、いまでならベンチャーの範疇に入る出版業を、これもいまでいうなら富裕層専属教師で著作家のアルド・マヌーツィオは、雇用主のいたフィレンツェからヴェネツィアへ移住し起業。小さな版面でも読みやすく、文字数を詰め込めるイタリック体を改善、特許もとり、それで文庫を考案。携帯性と価格革命(当時の印刷本価格の八分の一に 『イタリア遺聞』塩野七生)、そしてページ番号(ページネーション)の導入による読書スタイル革命により新しい読者層を開拓することで、「ヴェネツィアの出版界の基礎を築いた人」となっていった。

LibrariE(ライブラリエ)にはすでに1万点のラインナップがあるという。それも非コミックコンテンツ、非写真集コンテンツで、1万点。そして価格体系の都度課金型では、「ワンコピー/ワンユーザ型の26分の1を、貸し出し回数都度課金する」という、デジタル時代にふさわしい価格革命モデルを装備している(「LibrariE」のビジネスモデルは? http://bit.ly/18ROijr )。

読書でただちに不安が解消されるわけでない。読書で新しい秩序がただちに産まれるわけでもない。しかし20世紀の標準がもはや通用しない今日、新しい価値観、新しい生活の規範を求めた、知へのニーズは、あるのではないか。

移行期を生きる私たちには、公共図書館に電子書籍がふさわしい、十分な理由がある。そしてLibrariE(ライブラリエ)は、それを実現する新しいビジネスモデルとなるのかもしれない。

←前のページ


◇関連クリップ
●選書・蔵書のお悩み解決「都度課金型」モデル 公共図書館 http://society-zero.com/chienotane/archives/630

●結婚、出産、仕事…不安に振り回される人生でいいの? 女性のための、”未来を選ぶチカラ"の育てかた http://logmi.jp/37524

●出版・流通と図書館の蔵書構成(選書方針、ツールなど) http://www.slis.tsukuba.ac.jp/grad/assets/files/syllabus/syuppan2014vol.2.pdf

●もう一つの「図書館戦争」 http://www.alterna.co.jp/10947
全国の図書館で、統廃合や予算削減の話が引きも切らない。もっと
深刻なのは、質劣化の懸念:館数が増加しているにもかかわらず、
資料費も司書の人数も減少している。

●検索時代の図書館-「隠れた情報」のさがし方:教育 http://www.yomiuri.co.jp/adv/chuo/education/20150309.html


知と情報の集約場所である「図書館力」の高低は大学力の象徴。いまその象徴の場がデジタルコンテンツの世界へ移行しようとしている。だが棚が消えた世界では、「偶然(本を発見する)という幸福」がない。「ここに「情報リテラシー力」アップの必要性がある。情報リテラシー力をつけるには、まず学術情報の基本的なありかを知り、そこへアクセスする技術を学ぶ必要がある」。キーは「メタデータ」。それにもまして重要なのは、やっぱり、司書、また収書係の「目利き」。「「利用者が欲しがるから」「要望が大きいから」という理由だけで本を購入していくと、図書館は「拘置所図書室化」する恐れがある」から。「『図書館戦争』は、検閲に対抗し「知る権利を守る図書館」をモチーフにした恋愛小説である。だが、現代の「知る権利を守る」はむしろ、情報の海で溺れかけた利用者をヘルプすることが主眼になっていく」。

●E1611 - 時代は変わり順序も変わる:『図書館学の五法則』再解釈の試み http://current.ndl.go.jp/e1611

●電子書籍サービスの課題と展望 紀伊國屋書店の事例から http://lib.kobe-u.ac.jp/AULH/katsudo/25/kenkyu/ushiguchi.pdf


◆関連書籍

●図書館情報学用語辞典
●電子図書館・電子書籍貸出サービス
●獄中記: 佐藤 優
●イタリア遺聞

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>