LibrariE(ライブラリエ) 電子図書館の新しいモデル

LibrariE(ライブラリエ)JDLS日本電子図書館サービスが提供する電子図書館の新しいモデル【セミナー備忘録】(上)

3月18日の本セミナーは「日本独立作家同盟」代表の鷹野凌氏が翌日まとめ公開しているので、詳しい内容はそちらに任せ、ここでは感じたこと、ディテールで気になったこと、そもそも論、について書いてみよう。

まずは対象の絞り込みと言葉の統一を最初に断っておこう。

「電子図書館」は、日本電子出版協会(JEPA)の数ある委員会の中のひとつ、電子図書館委員会で「自宅(館外貸出)で、雑誌・書籍を電子版で読む」機能があることとしているので、それに従う。

統計などでは、「公共図書館」が一般的なようなので、原則「公立図書館」は使わない。

1.電子図書館委員会とJDLSのビジネスモデル。

株式会社 日本電子図書館サービス・JDLSは、KADOKAWA、紀伊國屋書店、講談社の3社が2013年10月15日、学校・公立図書館向け電子書籍貸し出しサービス提供の準備を始めるために設立した合弁会社。電子図書館サービス「日本版」の構築を目指し準備を重ね、その成果を山中湖情報創造館稲城市立図書館での実証実験などで調整し、いよいよ2015年4月から、新しいビジネスモデルを引っ提げて日本市場の開拓に乗り出す。

JEPAセミナーはその新ビジネスモデルの披露の場だった。

ところでJDLSの経営目標は、

「図書館に求められる「"知"の集積」という基本機能と、著作者および出版社が必要とする「"知"の再生産」に必要な還元の仕組みを、ともに成立させるべく図書館・著作者・出版社の新たな関係を提案」する、

というものだ。

この「ともに成立させる」という観点でよく練られたビジネスモデルだというのが、セミナー会場で話を聞いた電子書籍関係者が異口同音にもらした感想だった。

そしてそれは、過去何年にも亘って日本電子出版協会(JEPA)・電子図書館委員会が議論して詰めてきた内容とも見事に合致する。

電子図書館委員会の委員長は、このセミナーで司会役を担当された金原 俊氏(医学書院副社長)だが、氏は昨年、JEPAのセミナーで講師役を務め、委員会のこれまでの討議成果の一端を披露している。

●「電子図書館を考える」~セミナー備忘録 https://societyzero.wordpress.com/2014/11/05/00-118/

その中で、たとえばJDLSが言及した「52回」モデルにも触れていた。

・JEPA電子図書館委員会で、「52回貸出モデル」を構想したことがある。貸出回数に上限を設けることで両業界が納得できる価格設定の議論が進むのではないかと期待してのこと。「52」の数字に確たる根拠はないが、要は米国(公共図書館の9割が電子図書館を導入済み、人口の7割が電子図書館の利用経験あり)に少しでも近づけるよう、お互い努力していきたい、その時の議論のたたき台との位置づけだ。

さらにこの委員会は、2012年、当時の長尾構想に対峙するコンセプトとして、「公共図書館における電子図書館推進のための留意点」 を一般公開している。

その中にはこういう記述があり、JDLSの新ビジネスモデルと符合する。(矢印「→」で、該当するJDLSのシステムや、モデルの要素を指摘する。そして「」内は、鷹野氏のレポート該当部分)

・同時閲覧者数:同時閲覧者数の制限とはひとつのコンテンツを同時に何人が閲覧できるかの制限である。貸出処理動作と返却処理動作は必須であり、一旦貸し出すと、返却処理が行われない限り他には貸し出せない仕組みが必要である。これにより通常の冊子体に近い管理が行える。

→「ワンコピー/ワンユーザ型:1ユーザーのみに貸し出し可能。」

・図書館によるデータ保存:通常の電子出版物については配信業者などを通じて入手されるべきだと思われる。

→そこで、JDLSの登場!

・図書館によるデータ保存:各図書館内にデータを蓄積・保存するのは郷土史など個々の図書館独自のコンテンツに限定されるべきである。

→そういう、売り物でないコンテンツの搭載機能をも持ったシステムとしてJDLSは構築されている。「電子化された郷土資料や自治体資料の受け入れ」

・図書館向け価格は個人向け価格とは異なる設定になるべきである。従来、図書館向けと市販本の間に価格差はなかったが、電子図書館システムではこの慣習は見直されるべきだと考える。

→ワンコピー/ワンユーザー型の価格は「出版社には底本の1.5倍から2.0倍を推奨」。一方都度課金型の価格は「ワンコピー/ワンユーザ型の26分の1」

・(図書館向けの)販売価格は従来と同じような固定価格とする場合と利用に応じて料金が発生する従量制とする場合とがある。従量料金制とする場合でも初期販売価格は設定されるべきである。

→従量制コンセプトの導入(「都度課金型」)。ただし最初は「ワンコピー/ワンユーザ型」、という組み合わせ価格体系。

もちろん独自の工夫部分もあり、「52回」か「2年間」かの早い方、またその後は都度加金に移行(も可能)といったアイデアは斬新。

一方、本(紙、電子両方)の購入への導線を張る(将来設計の課題)ことや、選書オーダリングシステム、ブラウザでの閲覧としているなどは、米国オーバードライブ社のコンセプトに良く似ている。

LibrariE(ライブラリエ)は、JEPA・電子図書館委員会の知見とオーバードライブのノウハウを併せ持つ、新しいビジネスモデルの創生、ということになろうか。

さてじゃあ、このLibrariE(ライブラリエ)は日本の公共図書館に普及していくのだろうか。JDLSの事業計画では、5年間で400館から500館規模での導入が目標となっていた。

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◇関連クリップ
●KADOKAWA、講談社、紀伊國屋書店が設立した日本電子図書館サービスのビジネスモデル ─JEPAセミナーレポートhttp://www.wildhawkfield.com/2015/03/JEPA-seminar-JDLS-LibrariE.html
●日本電子図書館サービス・JDLS http://www.jdls.co.jp/
●実証実験 - JDLS 株式会社 日本電子図書館サービス http://www.jdls.co.jp/test.html
●電子図書館サービス of 山中湖情報創造館 http://www.lib-yamanakako.jp/library/d-library.html
●山中湖情報創造館 公式サイト http://www.lib-yamanakako.jp/
●電子図書館サービス 期間限定 実証実験 : 稲城市立図書館 http://www.library.inagi.tokyo.jp/blogtop/blog/1295
●稲城市立図書館トップページ : 稲城市立図書館 http://www.library.inagi.tokyo.jp/
●「電子図書館を考える」~セミナー備忘録 https://societyzero.wordpress.com/2014/11/05/00-118/
JEPAのセミナーのメモ。
●「公共図書館における電子図書館推進のための留意点」 http://www.jepa.or.jp/pressrelease/20121018/
JEPAの提言文書。
●図書館向け電子書籍貸出サービス普及への課題 http://www.dotbook.jp/magazine-k/2014/11/13/library_fair_2014_report/
「第16回図書館総合展」での、フォーラム「公共図書館における電子書籍貸出サービスについて」のレポート
(公共図書館における電子書籍貸出サービスについて | 第16回 図書館総合展 http://2014.libraryfair.jp/node/2124
●日本電子図書館サービス関係者が語る、図書館、出版社、著作者、利用者の全てが喜ぶ仕組みづくり http://www.wildhawkfield.com/2014/10/library-fair-2013-JDLS.html
「第15回図書館総合展」での、フォーラム「本格化する図書館への電子書籍配信サービス」のリポート。ちょうどJDSLが設立された直後。