世界人口はなぜ減少するのか 爆発的膨張の終わりの意味

◎知恵クリップ|「世界人口大減少」に関連するWeb記事10選◎

1.2050年は世界人口の大分岐点

2021年8月23日の日本経済新聞朝刊第一面に「人類史 迫る初の減少」という記事が出ました。戦争や疾病を理由にした大規模な人口減少は、人類史上、各地で散発的に起きてきました。ところが世界全体の人口が、つまりホモ・サピエンスという生物種が、爆発的な膨張段階を終え、初めて下り坂に入ろうとしていることから特集が組まれたわけです。

・過去2000年の世界人口推移 18世紀から爆発的膨張へ

経済成長・高齢化・移民… チャートで見る人口減の世界: 日本経済新聞

ただ日本国内ではいまだ「世界人口大減少」や「種としての人類の減少局面」についの認識は薄いと言っていいでしょう。他方海外では2019年、2020年に世界の思潮が変わったと言われています。3つの事象があったからです。

ひとつは、2019年に『Empty Planet(邦題:『2050年 世界人口大減少』2020年刊)』が出版されたこと。人口問題は主に統計数値をもとに議論されてきました。これに対し著者たちは統計データに加え、世界各地をリサーチして回り、都市化や教育、そして情報環境の変化が、女性の「何人のこどもを持つか」という意思決定事情を大きく変えることを分析し、本にまとめたのでした。

著者らは都市化と女性の地位向上が発展途上国でも起きつつあることを突き止め、国連が人口推計の際「教育」の影響を考慮しなかった点を指摘しています。そのうえで2050年、人類史上はじめて人口が減少する。いったん減少に転じると、二度と増えることはない。不可逆的な構造変化が起きようとしているので、それまでに対策を、と訴えたのでした。

「二人目のこどもは、どうする?」
「(お金持ちにならないと)無理だよ」
EU本部のあるブリュッセルでの20~30代のカップルの会話だ。
同国の出生率は、人口置換水準を下回る1.8。EU全体の平均はさらに低く1.6だ。

デリーのスラム街でも、女性はスマートフォンを持っている。キャリアプランにも人々のネットワークにもアクセスできるということだ。(中略)私はデリ-滞在中に、現地の人口統計学者や政府関係者から小さな声で何度も聞かされた。「実は出生率はすでに2.1を切っているのではないかと疑っています。」

奇しくもこの2019年は国連が人口推計発表の際、はじめて「ピーク」に触れ、「減少」の含意をにじませた年でもありました。

そして2020年、アメリカのワシントン大学保健指標・評価研究所(IHME)が『Empty Planet』とほぼ同じ結論を論文で公開、「世界の人口は2064年の97億人をピークに減少する」と結論づけました。
・予測シナリオに異変 21世紀後半は人類史初の減少局面へ

世界の人口、なぜ減少に向かう?: 日本経済新聞

 

2.都市化と「産まない自由」の意思決定

急速な都市化に伴うライフスタイルの変化、女性の高学歴化・就業率の向上、子供の教育コストの上昇。これらの事象はもはや先進国のことだけでなく、アジア各国、さらにはアフリカの国々でも始まっています。情報環境の変化が、女性の価値観形成の世界レベルでの同質化をかなり後押ししているからです。

引き続きアフリカが世界人口増加の牽引役であることは間違いないのですが、上記の結果、そのアフリカですら出生率が下がっている、という事実は驚きです。

・世界の主要地域別合計出生率の推移

【平成29年度人口問題協議会・第2回明石研究会】 「国連世界人口推計2017年版」をどう読むか(後編) | レポート | 国際協力NGOジョイセフ(JOICFP) 

 

3.中国と米国

『Empty Planet』もIHMEも、中国がすでに生産年齢人口ベースで減少局面に入っており、全体の人口減段階への移行もまもなくとしています。すると米中のパワーバランスに対するイメージもだいぶ変わってきそうです。

日本と異なり中国は、人口増加の恩恵に浴する(人口ボーナス期)まえに、人口オーナス期を迎えそうで、国の運営は大変でしょう。人口という数値そのものも大事ですが、それより、その構成、つまり生産年齢人口と非生産年齢人口の塩梅、さらに非生産人口中の若年層と高齢者層の構成比率が、社会運営上、国家財政上重要です。
・豊かになる前に高齢化社会が

富む前に迫る超高齢化 社会保障の崖、世界に火種: 日本経済新聞

他方米国は移民政策の強みで、21世紀中も人口増加国で居られるのが先進国の中で異色です。

・中国と米国の人口と国力の変化

人口減で国力の方程式一変 量から質、豊かさ競う: 日本経済新聞

これら「世界人口大減少」に関わるクリップ(Web記事)、厳選して集めてみました。ご参考になれば幸いです。

 

関連クリップ(厳選Web記事)

1.来る人類史上初の「人口減の時代」が意味すること: 『2050年 世界人口大減少』序章から | WIRED.jp
20世紀の常識:「ホモ・サピエンスはなんの制限もなく野放図な繁殖を続けており、毎年生まれる1億3000万人以上の新生児(ユニセフの推計)に衣食住を提供する能力は限界に近づいている。地球に人が満ちあふれるにつれ、森は消え、生物種は絶滅し、大気は温暖化している」。

これからの常識:「今から30年後、世界人口は減り始める
21世紀を特徴づける決定的な出来事、そして人類の歴史上でも決定的に重要と言える出来事が、今から30年ほど先に起きるだろう。世界の人口が減り始めるのである。そしてひとたび減少に転じると、二度と増加することなく減り続ける。」
『2050年 世界人口大減少』

 

2.日本だけじゃない「人口減少」が映す心配な未来
アメリカのワシントン大学保健指標・評価研究所(IHME)によると、「世界の人口の構成比は、今世紀末までに下記のような「大転換」が起こるとしている。

●5歳未満の人口……約6億8100万人(2017年)→4億100万人(2100年)
●80歳以上の人口……1億4100万人(2017年)→8億6600万人(2100年)

単に「減少」が問題なのではない。「生産年齢人口」と「非生産年齢人口」の割合が、そして割合のシフトにともない生じる「誕生と死」の人数の方程式の変動が問題なのだ。
・生産年齢人口の推移 中国すらすでに減少過程へ

Fertility, mortality, migration, and population scenarios for 195 countries and territories from 2017 to 2100: a forecasting analysis for the Global Burden of Disease Study - The Lancet

 

3.世界人口の増大が鈍化、2050年に97億人に達した後、 2100年頃に110億人で頭打ちか:国連報告書(プレスリリース日本語訳)
現在77億人の世界人口は2030年に85億人、50年に97億人、2100年ごろ110億人に達しピークを迎える、と国連が発表した。しかし注目点はむしろ最後のフレーズ。はじめて「ピーク」に触れ、「減少」を予期させた。20世紀の常識からの覚醒が始まったのだ。

原文:
The study concluded that the world’s population could reach its peak around the end of the current century, at a level of nearly 11 billion.
Growing at a slower pace, world population is expected to reach 9.7 billion in 2050 and could peak at nearly 11 billion around 2100: UN Report

 

4.政府もメディアも実は見通していた「人口減少社会」
人口問題研究所は戦前の1940年時点で、「1935年実績で6925万人だった日本の人口は65年後の2000年に1億2274万人でピークを打ったあと、5年後の2005年に減少に転じる。予測最終年の2025年の人口は1億1177万人と見込んでいた。」

この予測はその後の実際の数値に照らし、かなり精度が高かったと言える。ならば「人口減少→国力低下→国の消滅」を回避する策を早くから検討すべきだったのでは、といえる。

しかし戦前ももちろん、戦後の日本政府すらこの報告の存在を知りながら伏せてきた。なぜか。中長期の課題より、目先の問題(衣食住ニーズを膨らませないための人口抑制策)を解決することで政権の支持を取り付けたかったから。中国の「一人っ子政策」と通底する問題意識が日本政府にはあった。

 

5.世界的な人口減少時代がやって来る──『世界100年カレンダー』の衝撃
20世紀は大変な人口急増の時代であり、今日の環境問題や貧困撲滅キャンペーンなどが前提にしている世界認識は「野放図に人口爆発を続けるホモ・サピエンス」です。

ところが、人口そのものを見るのでなく、出生率の推移をよく見ると、1970年代前半には構造的な人口動態のシフトが発生していて、21世紀にいたり、人口減少からの復活がかなり難しい国がすでに出ててきているのが実態。
・「2.1」は人口維持のメルクマール/「1.5」は消滅へのアラーム
・出生率は1.5が新たな壁に

少子化克服は「百年の計」 出生率1.5の落とし穴: 日本経済新聞

『世界100年カレンダー』

 

6.2100年の世界人口は112億人、国連予測
国連は2017年版統計ですでに中国の人口減少を推定している。つまり、「昇り竜の中国/覇権をなくしていく米国」の図式が、2050年までに壊れることを指摘していた。

インドが自国民の出生増で人口拡大を維持するのに比べ、米国は移民政策で国勢の拡大基調を維持するからだ。
・2050年までの世界人口増分への寄与国

 

7.「戦争中と同じ人数が毎年死んでいく」これからの日本を襲う"少産多死社会"の現実 子どもが死なない社会のはずなのに

戦争や黒死病のような一時期にたくさんの人が亡くなる事象、人口減少もある。けれど、それらは一過性だ。出産と死亡の方程式からくる人口減少は、引き返すことが難しい。方程式の、ある段階を超えると、もはや後戻りはできず、不可逆的となる。日本は、これまで使われてきた四分類の最終、不可逆的なステージへと至り、移民でしか事態の解決ができないのでは、と心配されている。

 

8.世界規模で直面する「人口減少」の静かなる脅威
人口動態というトロイの木馬のメカニズム:
都市化と女性の高学歴化が世界人口の減少をもたらす。最初に変化が表れるのは少子化。続いて平均寿命が延びていく。すると必然的に勤労世代の割合が減る。これは社会の構造変化を惹起するが、それもたらす危機を認識するのは難しい。やがて多くの人が意識するときが来る、しかしその回復は相当困難な段階へシフトしてしまっている。

「中でも厄介なのは平均寿命の延びであろう。出生数の減少を覆い隠し「見せかけの人口増加」をもたらすためだ。人口減少がヒタヒタと迫りきていても多くの人は気づかず、状況が放置される。現在の世界人口は、ちょうどこの段階にある。

 

9.折り紙を半分に折る作業を続ける人口減少社会
合計特殊出生率はが1.44しかない(2016年|日本)社会とは、折り紙を半分に折る作業を続けている社会のこと。
・合計特殊出生率の推移

9@1 出生数、合計特殊出生率の推移 | 長周新聞
人口問題の難しさ:「人口問題というのは、中長期的に考えなければいけない問題と短期的に考えなければいけない問題が混在していて、しかも地域偏在がある。1つ1つの点や面を取り上げていくと問題がどこにあるのかわからなくなってしまう。問題を整理してトータルで見ていかないと理解が深まらない。」

そしてもうひとつの難しさ=「静かなる有事」:世代を超えて伏在し進行する危機がゆえに、危機意識・問題意識を持ち続ける「意思」が、課題解決に必須。「大事な問題ではあるけれど、どの時代の政治家も官僚も目の前の大きな問題を優先せざるをえないところがあるので、長期の課題は後回しにされていく」。「老いゆく惑星」の未来は、過去からの延長線上にはない点がやっかいだ。

 

10.日本が「消えてなくなってしまう」少子化対策は最優先課題と指摘 -
「今、かなり思い切った少子化対策をしないと、極端な話、日本は消えてなくなってしまうかも知れません。実はこれは、どんな経済対策、どんな安全保障対策と比べても喫緊の課題だと思うのです。」

「例えばフランスなどでは、結婚しないカップルが産む子ども、いわゆる婚外子が出生数全体の半数以上になっていて、これが出生数を押し上げる効果を発揮しています。フランスの場合、カップルが入籍という手続きを取らずに共同生活しながら子どもを育てる、というスタイルが公式な制度としても確立しています。」

他方日本では「子どもを持たない理由の中で圧倒的に多いのは、「費用」の問題=「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」子どもを持たない。
ならば金銭的な支援やインセンティブしかないのでは。
「「なぜそんなに子どものいる家庭を優先するんだ」と不満が噴出するかもしれませんが、このまま効果的な手を打たなかったら、日本という社会がなくなってしまうかもしれないのです。われわれは、もうそれくらいの危機感を持たなければならない時期に差し掛かっているのです。」