◎ステルス値上げや隠れインフレ、さらにシュリンクフレーションがわかり、「安い日本」の恐怖に気づくための、Web記事10選◎
◎日本人の賃金が停滞し続けているのは、日本の政治家が、宇沢の研究成果に、疎いからだ。1961年宇沢弘文は、労働分配率の長期的な安定性はマクロ経済の健全性の前提条件であると指摘していたのに◎
・Neutral Inventions and the Stability of Growth Equilibrium H. Uzawa https://www.jstor.org/stable/2295709
(The Review of Economic Studies Vol. 28, No. 2 (Feb., 1961), pp. 117-124 )
「資本主義は状況依存を本質とする。今日でもなお、その強さの秘訣は、適応と再転換の早さにある。」
(『歴史入門』 第二章市場経済と資本主義 フェルナン・ブローデル
※原著タイトル:La dynamique du capitalisme=資本主義を動かすもの)
■資本主義は状況依存的
企業にとってコスト面の圧力は安倍晋三が内閣総理大臣に再就任した 2012年の頃からだ。
2010年代からアベノミクスによる円安の影響で、輸入頼みの原材料が高騰。また、人手不足を背景に人件費や物流コストが上昇し、モノの値段は上がる一方。どの企業も値上げによる客単価の増加で売上の減少を補おう、せめて維持しようと懸命だったが、ことはうまくは運んでいない。
資本主義の運動はもともと状況依存的だ。そして、全体としての経済状況を方向付ける、のが時の政権の役割。
その役割を全うするのに政策担当者は、労働分配率と消費が先導する経済循環や、教育・学習による産業構造のシフトや生産性向上についての理解が求められる。社会保証制度が経済成長にあたえる貢献についても。北欧やフランスの政治家にあって日本の政治家にかけているのは、かかる知的資質なのかもしれない(特に下記9.と10.)。
■クリップ集・Web記事10選
●シュリンクフレーションあるいはステルス値上げ
シュリンクフレーション とは、shrink(縮む)とinflation(価格上昇)からの造語。一見、商品の価格は変わらないが、その内容量がシュリンク(収縮)しているため、容量単位あたりの価格は上昇している(インフレーション)経済現象。
日本で2014年4月、消費税が5%から8%へと引き上げられた時期に、食品メーカーなどで商品の容量を減らす動きが広がった。
「ステルス値上げ」とも表現される。 レーダー 等の センサー類から探知されにくく作られた「ステルス戦闘機」と同様の用語法。こっそり行なわれる、実質的値上げの意味。
なお政府が発表する経済統計では、こういった動きも反映されるようになっている。
「例えば、ジャムについて、価格は変えずに、重量だけを165gから150gと少なくしたような実質値上げの場合、重量の比(165/150)を新たに調査する150gの価格に乗じることで、実質値上げの影響を指数に反映させる処理を行っています。」
(統計局ホームページ/消費者物価指数に関するQ&A(回答) G-10)
ちなみにアイスキャンディの 「ガリガリ君」は年間4億1000万本(2015年)を販売する看板商品。1981年発売時50円したが、1990年に60円に価格を改定。その後は「子どもが買いやすい価格を」と頑張ってきたが、2016年4月からは10円値上げして税別70円に設定した。ただしこのときは、正直に苦渋を吐露したTVCMがかえって好評を博し、むしろ売上は増大した。こういう例もある。
2.実質値上げとは?行われる理由と検討すべき3つの対策
・理由:
円安が進み原材料費が高騰したため
値段より量で調整すると消費者離れを防げるため
世帯人員が減少しているため
値上げしなければ賃上げもできないため(人件費)
3.2021年の秋は値上げラッシュ! 価格が上がる食品と対処法は?
農林水産省は製粉業者に売り渡す輸入小麦の価格を2021年10月1日に19.0%引き上げる。 それにより、小麦粉製品には以下のような影響があると試算されている。
・小麦粉製品への影響額(試算)
食パン 174円/1斤→+ 2.3円/1斤(+1.3%)
うどん(外食) 694円/1杯→+ 1.4円/1杯(+0.2%)
中華そば(外食) 544円/1杯→+ 1.0円/1杯(+0.2%)
小麦粉(家庭用薄力粉)268円/1kg→+14.1円/1kg(+5.3%)
※参考:農林水産省「輸入小麦の政府売渡価格について」
4.あなたの周りに潜む「名目値下げ・実質値上げ」
「「価格はそのままに中身を減らしては販売する」実施値上げが増えている!
いつの間にか家計に負の影響を与える「シュリンクフレーション」には注意が必要
経済指標には「名目」と「実質」がある。実質を確認することが重要」
・実質値上げに関する意識調査結果
5.人をすり減らす経営「新しい資本主義」だけでは改善しない
「物価研究の第一人者である東京大学大学院経済学研究科の渡辺努教授は「先進国唯一の異常事態 『安値思考』から抜け出せない日本」のインタビューの中で、80年代の日本の物価は他国に比べて高かったものの、バブル崩壊と平成の長い不況により、国民の物価に対する目は厳しくなり、日本経済の回復を見せても物価が上がらなかった、と指摘する。
100円ショップをはじめとする安価な日用品や、ユニクロなどのファストファッション、牛丼やハンバーガーといった「ワンコイン」での食事を嗜好する国民の傾向は、金融緩和で数字的には好景気になっても変わっていない。「本来は物価も賃金も上がることが普通であるのに、賃金が上がらないという固定観念を持っている状態では物価上昇の話も拒んでしまう」と渡辺氏は説く。」
●安い日本
現在1ドル110円ほどで為替レートは推移している。しかし1990年4月のドル円は160円35銭。つまり1990年代前半、海外から見て日本はとても「高い国」だった。結果海外からはよほど裕福な人たちしか遊びに来れなかった。逆に私たちが海外旅行に行けば、日本でならファミレスで食事するくらいの値段で、そこそこの高級レストランに行け、ブランドものがどんどん買えた。
いまはどうだろう。日本の物価・賃金・為替、このすべてが「安い日本」を演出している。
6.ビジネス特集 ステルス値上げ!? ~“安いニッポン”の現実~
「この30年間、アメリカやイギリスなど先進各国の賃金は大幅に上昇。
しかし、日本の賃金は、ほぼ横ばいで推移していることがわかります。
“安いニッポン”とも呼ばれるこの状況。
賃金が上がらず購買力が伸び悩んでいる実態が背景にあるのです。」
・企業物価指数上げの中の消費者物価指数横ばい
・平均賃金推移 各国比較
7.「安さ」に喜んでいる場合ではない 中藤玲著『安いニッポン 「価格」が示す停滞』
たとえば「安もの天国日本」の象徴の「百均」。すでに300円・500円といった多価格帯戦略をとっているがあくまで主力は100円商品。しかしいつまでワンコインにこだわり続けられるものか。 「安さ至上主義ビジネスモデル」は、そろそろ金属疲労を露呈。特にコロナ禍で。
コロナで物流が止まったことで、低価格のために安い労働力を海外に求めることの限界が見えた。世界的な供給不足で、商品確保のためには相応の金を積まないと他国に競り負けてしまうこともわかってきた。
・安いニッポン 「価格」が示す停滞 (日経プレミアシリーズ)
8.「安いニッポン」が日本復活の起動力 | 武者リサーチ
『安いニッポン 「価格」が示す停滞』をひっくり返す議論。
「「安いニッポン」はいいこと、変える必要はない、ここから好循環が始まる、と考えるべきではないか。なぜなら「高いニッポン」が悪循環の出発点だったからである。この「高いニッポン」が円高でさらに高くなり、日本の価格競争力は劇的に低下した。日本凋落の根本原因は明確に、価格競争力の低下であり、「高いニッポン」と円高がそれを引き起こしたのである。」
●社会保障あるいは積極的労働市場政策
9.「トリクルダウンは幻想」立正大・吉川学長が語る“中流層復活”の条件
「経済成長は数字よりも中身。そして成長の中身が分配にも関わってくると思います。同じ成長するといっても、ビル・ゲイツのような金持ちの所得を2倍にする成長と、ふつうの人たちが安定した雇用のもとで賃金が2倍になるという成長では、GDPが同じ2倍になっても全く違います。」
10.日本人の賃金が停滞し続ける「日本特有」の理由
「賃金における政治家の影響力を示す一例として、いわゆる「積極的労働市場政策」によって、所得に占める労働分配率をGDPの数%引き上げることができるという事実がある。」
・物価、賃金ともに日本は低い水準にある
(【解読】なんでも「安い」日本が危ない 「労働慣行」の呪縛、企業は断てるか https://www.sankei.com/article/20210918-Z7MZJCTFSJJFHAQ4YTX55GVRYU/ )
「今、私たちは日替わりのニュースについて意見を交わすのに忙しく、本当に見るべきものが見えなくなっている。
私たちが真剣に考えなくてはいけないのは、資本主義についてだ。」
(エレファントカーブと『父が娘に語る経済の話』 | ちえのたね|詩想舎 )