◎これはクリップ集です◎
「資本主義という病理に侵された(社会という)身体のケアと回復」をめぐる物語」
(監督脚本 濱口竜介)
■繁栄の影に隠れた「先送り」
資本主義は、「いま、ここ」を輝かせる魔法だった。濱口竜介監督の映画『急に具合が悪くなる』は、その繁栄が負債を次世代へ先送りし、痛みを「外部」へ押しつけることで成り立つ、と描く。身体も、休むための時間さえも、市場に売り渡されてきた。経営哲学者チャールズ・ハンディは、資本主義が利己主義を「まっとうな美徳」にしてしまったと嘆いている(※1)。では、そのツケは誰が払うのだろうか。
※1 単なるメカニズムなのか、大義はないのか? 資本主義の正しい役割 https://forbesjapan.com/articles/detail/40728
■影響は脳に、そして共通の仲間へ
最初に請求書を受け取るのは、最も無防備な子どもたちだ。今年、科学誌『Science』に載った研究は、約1万2千人の子どもを調べ、脳の発達に最も強く響くのは遺伝やIQではなく、世帯収入や地域環境だと示した。貧しさは才能の差ではなく、睡眠とストレスの差として体に刻まれる。
痛みは体だけにとどまらない。豊かさは、体を傷つけたあと、言葉まで奪っていく。消費が細分化し、「あ、それ、あるある!」と笑い合える共通の話題は幻想になりつつある。選択の自由は、語り合う相手を減らす自由でもあった。
■帰結は社会へ、そして自然にさえも
その帰結は数字に表れた。国勢調査(2025年)で単身世帯は2368万9千、41.4%と、初めて4割を超えたのだ(2026年9月総務省)。若い男性と高齢女性という二つの山が同時に膨らみ、孤独死の発見まで平均18日という現実もある。マザー・テレサは言った。「世界で一番恐ろしい貧困は、孤独です」。モノが満ちるほど、人と人のつながりは痩せていく。これは豊かさの皮肉である。
・単身世帯、中心層は25〜34歳の男性238万人 女性は75〜84歳225万人

請求書は自然からも届く。猛暑と不作でコメは前年比6割超の値上がりとなり、火災保険料も大手4社が平均13%引き上げた。気候インフレである。遠い未来ではなく、いまの食卓の話だ。ガンジーは「道徳なき商業」を社会の大罪に数えたが、利益が道徳から切り離されたとき、そのしわ寄せは暮らしの隅々に及ぶ。アメリカでさえ、「自由」より「希望」を失いかけているのかもしれない。
■変わったのは「支え合い」の前提
請求書の束を前に、私たちは何をなすべきか。資本主義が変えたのは、モノの量ではない。人が人を支える前提そのものだ。しかし映画(※2)の中では、死を前にした演出家と、疲れ果てた施設長が、互いの知恵を贈り合って立ち直っていく。市場が断ち切ったつながりは、贈与によってこそ縫い直せる。富を競う時代から、何を分かち合うかを問う時代へ。次の一歩は、私たち自身の番である。
※2 映画『急に具合が悪くなる』:パリ郊外の介護施設で理想と人手不足の狭間に悩む施設長と、がん闘病中で死を見つめる日本人舞台演出家。偶然出会った二人の女性は、言葉や国籍を超えて対話を重ね、魂を通わせていく。病状の進行とともに深まる切なくも美しい交流を通じ、人の尊厳や生きる意味、他者との関係性を静かに問いかけるヒューマンドラマ。
・演出家と施設長(映画『急に具合が悪くなる』)

・監督脚本 濱口竜介

■知恵クリップ
●高嶋慈|濱口竜介『急に具合が悪くなる』 https://artscape.jp/article/79473/
「これは、終末期医療における「人間の尊厳とケア」だけを描いた物語ではない。「資本主義という病理に侵された(社会という)身体のケアと回復」をめぐる物語でもある。
その成立を支えるのが、資本主義の病理的構造についてのレクチャー・パフォーマンス、劇中劇の一人芝居、足裏をマッサージし合うワークショップといった随所に散りばめられた演劇的仕掛けであり、互いがもつ「知としての技術」を贈与的に交換する関係性である。」
●【医師解説】遺伝や教育より重要?子どもの脳発達を左右する社会環境 https://tokyonewsmedia.com/archives/28956
「分析の結果、子どもの脳と最も強い関連を示したのは、子どもの郵便番号(居住地)などでわかる社会経済的要因でした。(略)
つまり、子どもの脳が社会経済的要因によって最も大きく変動する原因の背景には、社会経済的環境に起因する睡眠不足やストレスが関係している可能性が示唆されたのです。」
・子どもは遺伝的に自律している

(学力「遺伝の影響が50%」、中学生以降は遺伝的エンジンで走り出す…努力や教育による底上げはムリ?親や先生ができること)
●「あるある」はもう幻想 消費の細分化で失われる社会の共通言語 https://newsdig.tbs.co.jp/articles/withbloomberg/2989380?display=1
「現代社会では、「常識がなくなった」というよりも、「何が常識なのかについての共通認識が失われつつある」と考えた方がよいだろう。」
●単身世帯が初の4割超、置き去りにされる一人暮らしの現実 https://research.nicoxz.com/articles/japan-single-person-household-crisis
「注目すべきは、単身世帯のうち65歳以上の高齢者が34%を占めている点です。一人暮らしは若者や中年だけの話ではなく、老後の一人暮らしが社会の「普通」になっていることを示しています。1世帯あたりの人員は2.10人と過去最少となり、家族単位での相互扶助が社会の前提として成立しにくくなっています。」
・単身世帯が初の4割超

(単独世帯 初の4割超 「家族の変化」への対応急げ )
●アメリカは自由を失ったのではない。「希望」を失いかけているのかもしれない https://news.yahoo.co.jp/articles/bfbb03b6eca5a84d33c3e799c5cdaa2c49e8b3a7
「私は、インフレが奪うものは購買力だけではないと思っています。
それは、「頑張って働けば、明日は今日より良くなる」という感覚です。」
●気候インフレ(クライメートフレーション)とは|食料・エネルギー・保険料に広がる物価上昇の実態 https://eleminist.com/article/4826
「シュナーベル氏は、現代のインフレを構成する3つの柱を示した。
・化石燃料への依存が生む価格変動リスク
・再生可能エネルギーへの移行に(伴う)コストを押し上げる現象
・第三こそが「クライメートフレーション(Climateflation)」であり、気候変動そのものが農作物の不作・災害被害・インフラ損傷を通じて物価を引き上げるという概念だ。」
・「気候危機」がインフレの火種

(食料インフレ、楽観は禁物 「気候危機」が新たな火種)









