ラス・カサスとヘーゲルの「自由の相互承認」原理

この記事は「知活人(chiikibito)のための「仮想図書館|iCardbookLibrary」に参加しているコミュニティへ提供した、[私のお気に入り知識カード]をブログ公開するものです。
・iCardbookLibrary
https://society-zero.com/icard/library

■[私のお気に入り知識カード]=066 戦争の歴史を終わらせるための原理

戦争の歴史を終わらせるための原理

◎カトリック教会の普遍主義に対峙したラス・カサスの自由の相互承認◎

「苫野一徳のiCardbook」ではヘーゲルが掲げた「自由の相互承認」原理のかみ砕いた解説が聞けます。「自由」を旗印にいまいちど社会を組み立て直せ、そうしてはじめて社会は「希望」に紡ぎ直せるのだと主張しています。

・苫野一徳のiCardbook https://wp.me/p5Gp5K-2oL

自由の相互承認とラス・カサス

大航海時代の16世紀に、自由の相互承認に類似した論陣をはり、西欧中心主義の発想に異議申し立てをした人物がいます。『インディアスの破壊についての簡潔な報告』を著したバルトロメ・デ・ラス・カサスです。

15世紀末、大西洋やインド洋を航海し、キリスト教の布教や東方の物産を入手しようとするヨーロッパの商人や冒険家が多くいました。その中でコロンブスはスペイン王の命のもと、大西洋を渡り西回りでインドをめざし、1492年にまだヨーロッパ人が知らない新大陸を見つけました。これがアメリカ大陸で、16世紀前半にはスペイン人が特にカリブ海諸国や中南米に侵攻し、そこを植民地としました。ポルトガルなどが交易と布教でまずは新世界に取り入ろうとしたのに比べ、スペインは宣教の大義を押し立てて原住民(インディオ)への強制労働を正当化し、結果、インディオの人口は大幅に減少しました。

カトリック教会の教義の普遍性(「カトリック」の語がそもそも「普遍」を意味します)を盾に、原住民を強制労働につかせ、原住民社会を破壊する蛮行について、スペイン王とローマ教会に対し、次のようにラス・カサスは訴えました。

「(インディオが)バルバロイだからという理由で、彼らを力づくで従わせることはできない。彼らも王制を備えており、自由な人たちだからである。(『インディアス文明誌』「付論 バルバロイについて」より)

インディオは、言葉や身振りなどがスペイン人と異なる(バルバロイ)かもしれないが、王制を構築し運営するだけの理性を兼ね備えている。そうだとすると彼らの自由を奪う(強制労働を課す)権利が、スペイン人にあるはずはない、という主張です。お互いの自由はお互いが尊重しなければならない、とするヘーゲルに同期する内容です。

 

バルバロイ(野蛮人)は誰だ

古代ギリシャ人がペルシア帝国治下の東方の民に対して用いた蔑称が「バルバロイ(野蛮人)」です。もともとは「わけのわからない言葉を話す人」という意味でしたが、その後この単語はキリスト教徒にとって非キリスト教徒を意味する内容に拡張、使用されていきました。そして16世紀のスペインで、その「野蛮人」にキリスト教の教義を教える目的に沿うのであれば、インディオを奴隷として使役することは完全に正当であるとする主張が行われたのです。

これに対しラス・カサスは、

「彼らが私たちにとってバルバロイであると同じように、彼らにとっても、私たちはバルバロイなのです。」

と『インディアス文明誌』のエピローグで述べたうえで同書の第47~58章には

「世界のどの民族も個人も理性的存在であり、万人は神に似せて作られたものだ。」

と主張します。


(『インディアス文明誌』(『インディオは人間か (アンソロジー新世界の挑戦 (8))』に収載))

人としてスペイン人もインディオも変わらない。インディオには実に素晴らしい繊細な才知と有能きわまりない悟性があり、アリストレスが定める「終身の賢慮」「家政の賢慮」「国政の賢慮」を生まれながらに持っていることを、いまでいう比較民族学のような研究成果をもとに実証し、インディオもヨーロッパ人も同じ人間である、「人類はひとつ」という論陣を張ったのがラス・カサスでした。

そしてこの「ひとつ」という人同士の共通性の中に、身体性ゆえの欲望を持つ存在というポイントがあり、欲望故の自由への希求も共通に保有することになります。さらに人同士の自由への希求は、他者にとっての自由への障害となって立ち現れ、普遍的価値を言いつのりながら他者を屈服させようとする行動、暴力あるいは戦争へとつながっていくのは歴史で証明された、人類の大いなる宿痾です。

この宿痾を取り除くには「自由の相互承認」しかなく、わたしたちの社会をいかに「自由の相互承認」原理のもとに構築していくか、その理路と「人間的自由の条件」具体化の実践理論が語られるのが、「苫野一徳のiCardbook」になります。

・自由の相互承認 人間社会を「希望」に紡ぐ(熊本大学準教授  苫野一徳)

https://wp.me/p5Gp5K-2oL

ちなみにアメリカの社会学者イマニュエル・ウォーラーステインは『ヨーロッパ的普遍主義』で、普遍的価値を奉じていると信じている者が、野蛮に対して干渉する権利があると声高に唱えるとき、その妥当性を判断する物差しをラス・カサスが提示したと評価しています。

 


(上)現状変革の哲学原理

Kindle本(電子書籍)はコチラから(Kindleにはハイライト(線が引ける)/メモ(書き込み)/辞書/ハイライト集めて表示する、といった機能があります)

 

(下)未来構築の実践理論

Kindle本からかっこよくSNSに引用するKindlequotesがお勧め
(マーカーしてタップ。共有ボタンで「画像の引用」か「テキストの引用」を選ぶ)