ロシアによるウクライナ侵攻が終結しないうちに、米国が20世紀後半からの常識を覆す挙動に出てきました。イスラエルとともに断行したイラン戦争です。世界に大きな「地殻変動」が生まれています。
■米国の変容
かつて米国は「世界の警察官」を自任し、自由民主主義の旗手として世界をリードしてきました。しかし今、その足元が大きく揺らいでいます。国際的な調査によれば、米国は「自由民主主義」の定義から外れるほど報道の自由が低下し、民主主義ランキングも下落し続けています。
特にトランプ政権下の米国が直面しているのは、「経済」と「地政学」の二重の苦境です。ノーベル賞経済学者のポール・クルーグマン氏は、過激な関税政策を伴う貿易戦争が、結果として米国民を「目に見えて貧しくする」と警告しています。さらに歴史家のエマニュエル・トッド氏は、米国の工業力の衰退とドル覇権の揺らぎを背景に、現在の強硬な政策はいずれ失敗に終わると予測しています。巨額の軍事予算が、人々の医療や教育といった「未来への投資」を食いつぶしている現状は、覇権国家が抱える深い矛盾です。
■揺れる世界秩序
対する他国の動きも激しさを増しています。イランはホルムズ海峡というエネルギーの要所を盾に米国との長期戦を構え、中国は米国債の保有を抑制することで「脱ドル化」を加速させ、経済的な対抗軸を築こうとしています。また日本やドイツも決して安泰ではありません。各国のバランスシート(資産と負債の状況)を読み解くと、成長の裏側にある「膨大な負債」という危うい未来が共通の課題として浮かび上がります。
こうした荒波の中で日本はどう生き抜くべきか。つづく知恵クリップを参照しながら考えていきましょう。
■知恵クリップ
●米国が「自由民主主義」から外れる、報道の自由めぐる懸念増大 調査機関報告書 https://www.cnn.co.jp/usa/35245249.html
「報告書では米国の「民主主義逸脱」の主な理由として「メディアおよび反対意見に対する抑圧と脅迫」を挙げ、米国の表現の自由は現在「第2次世界大戦終結以来、最低の水準」にあると結論付けた。」
・2025年民主主義ランキング

・米国の民主主義度指数推移

●「世界の警察官」の座を降りたアメリカの「ギブアップ宣言」がもたらしたもの https://courrier.jp/news/archives/432734/
「冷戦終結後、「唯一の超大国」として世界に君臨したアメリカはなぜ、変わり果ててしまったのか。「世界の警察官」の座を降り、プーチンや習に「失地回復(レコンキスタ)」の反転攻勢を許した背景には何があるのか。
その理由を探っていくと、皮肉にも冷戦の勝利にたどり着く。冷戦後のグローバル化は米国に空前の繁栄をもたらす半面、衰退の種を内包していた。それは「覇者の驕り」を養分にして、超大国アメリカに芽吹いていく。」
・新書 世界現代史 なぜ「力こそ正義」はよみがえったのか (講談社現代新書 2798)

●中国政府による国内銀行への米国国債保有抑制の指導が市場に及ぼす影響 https://www.nomura.co.jp/wealthstyle/article/0611/
中国の「銀行が保有する外貨建債券(中国国外市場への投資が対象)の構成比」を見ると、「米ドル建て債が2021年末から2025年3月末まで92%前後と高水準で安定していましたが、2025年6月末に90%、2025年9月末に85%と顕著に低下しています。」
・銀行が保有する外貨建て債券の通貨別構成

・アセットクラス別に見た中国勢の米国債券保有状況

●トランプ大統領の貿易戦争でアメリカ人は「目に見えて貧しくなるだろう」…ノーベル賞経済学者が指摘 https://www.businessinsider.jp/article/2602-donald-trump-trade-us-economy-paul-krugman-economics-policy-tariffs/
「クルーグマンの考えでは、他の国がアメリカよりもEUとの取引に価値があると見ていることが、貿易データで示されているという。(略)他の国々はこの事実を認識しており、EUと良好な関係を維持するために、アメリカと距離を置こうとしているとクルーグマンは述べている。彼は、自身が提唱する「経済的離婚(economic divorce)」の潮流を強調するために、最近、インドがEUと結んだ貿易協定を例に挙げた。
「国際貿易をゼロサムゲームと考えているドナルド・トランプとは異なり、EUとインドの人々は、両者間の自由貿易協定が双方にとって非常に有益な取引であることを理解している」」
●「資源のない日本」が地経学的パワーを手に入れるための条件 https://www.fsight.jp/articles/-/51873
「トランプ政権はいわば「アメリカ市場でモノを売りたければ高い入場料を払え」と言っているに等しい。つまり、市場の不可欠性をテコにして関税交渉を行い、政治的にも優位に立つという手段を取っている。
なぜアメリカが他国に高い関税を要求できるかと言えば、その国にとってアメリカ市場が必要不可欠だからである。」
・地経学とは何か:経済が武器化する時代の戦略思考 (新潮選書)

●日本・中国・ドイツ「負債」が分かつ国家の命運 各国のバランスシートから読み解く「成長の代償」と「危うい未来」 https://toyokeizai.net/articles/-/931613
「現代の経済システムにおいて、GDPの成長は新たなマネーの創出に依存し、そのマネーは新たな負債によってのみ生み出される。つまり、私たちは「借金による成長」という、終わりのない負債の階梯を上り続ける宿命にあるのだ。
各国のモデルが異なるのは、誰がその負債の重荷を背負い、誰がその果実を手にするかという「配分」の違いに過ぎない。政府、企業、家計、あるいは海外。どこかの部門が借金を積み上げなければ、経済は回り続けないのである。」
・世界は負債で回っている

●ホルムズ海峡を人質に、米国に長期戦を挑み始めたイラン https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/93703
「原油価格が乱高下し、世界市場が不安定化すれば、国際世論は「停戦」を求め始める。イランは軍事力ではなく、世界経済と国際世論を武器に戦い始めたと言えよう。」
「イスラエルの軍事思想は一貫している。「敵が力を蓄える前に叩く」。 これがベギン・ドクトリン*1であり、イスラエルの安全保障文化の核心だ。
*1=敵対国の核兵器保有を先制攻撃で阻止するというイスラエルの安全保障原則。1981年にメナヘム・ベギン首相(当時)がイラクの核施設を空爆した際に確立され、以降イスラエルの安全保障政策の核となっている。」
「トリプル安は初期症状にすぎない。原油高騰の長期化、円安の加速、エネルギーコストの上昇は、日本の産業構造そのものを揺るがす。」
●なぜトランプ大統領はイランへの攻撃に踏み切ったのか?インテリジェンス軽視の楽観論が招く「取り返しのつかない失敗」 https://toyokeizai.net/articles/-/938198
「今は、イラン戦争の早期収束を願うばかりだが、この機会を、日本が中国とどう向き合うべきかを考える契機としたい。政府の判断は私たちの生活に直結し、戦争となればその影響は計り知れない。しかも、冷静なインテリジェンスを軽視した政治判断は世界中で繰り返されている。
では、私たちにできることは何か。まず、世界で何か起こっているのか、その大きな構図のなかで日本がどの位置にあるのか、といったことにもっと関心を持つことだ。」
・海外経験ゼロの私に、世界と経済をイチから教えてください!

●トランプ、イラン戦争の代償──「狂気の巨額予算」によって失った医療、教育、未来 https://rollingstonejapan.com/articles/detail/44484
「トランプは「反戦」「非介入主義」「アメリカ・ファースト」を掲げて大統領選を戦っただけに、この戦争に対し、すでに多くの共和党支持者が裏切られたと感じている。 彼やその政権が、連邦政府の「無駄な支出」の削減や肥大化の抑制を説いてきたことを考えれば、数十億ドルを費やす終わりの見えない泥沼状態は、彼が標榜してきたブランドと真っ向から矛盾するものだ。
(略)
昨年可決された通称「大きく美しい法案(Big Beautiful Bill)」により、議会はトランプの後押しを受け、第1期からの富裕層向け減税を恒久化した。そのしわ寄せは社会保障制度の激変として現れている。」
●「トランプ大統領は失敗するだろう」 エマニュエル・トッドが示す「経済問題」「ドル覇権」二つの根拠 https://dot.asahi.com/articles/-/278445?page=1
「まず、一つ目に経済問題があります。ドイツの経済学者、フリードリッヒ・リストは、保護主義がうまく機能するために最も必要なことは熟練労働者の存在だと言っています。ところが、今のアメリカはその熟練労働者がいないのです。」
「二つ目の問題は、ドル覇権です。ドル覇権こそが米国内の産業の発展を妨げているのです。つまり、高学歴の人々の多くが、こういったドルの源泉に近い仕事にどんどん就いていくわけです。エンジニアよりも、金融といったセクターの仕事に就くという流れがあることによって、アメリカのエンジニア不足という問題は決して解決されずに」続くのです。








