OA(オープン・アクセス)出版モデルが単行本にも(学術出版物)

本というコンテンツは買って読むものだ。

買って読むのでないネット上のコンテンツとは、本が第三者による編集・査読を受けている分、コンテンツの内容の「質」の面で一線を画すとされている。そして本の購入者は買うことで「読者」の地位を得る。

読者はだから「買う」ことで、「質」の維持に貢献していることになる。

ところがここ数年、本の購入を「読者」以外にもとめ、質は担保したうえで、より広い読者を確保しようというアイデアが出て来た。

購入者と読者が別々となる、一種のアンバンドリング事象(かつて金融界で金融機能のアンバンドリングがスポットを浴びた)。

これはオープン・アクセス(OA)出版と呼ばれている。

本を制作するコストのうち、印刷物とするめたのコストを無くし、純粋に「コンテンツの質を担保」するためのコスト、すなわち、企画・編集・校正コストのみについて、その負担を個人以外に求めるモデル。それがオープン・アクセス(OA)出版である。

 

1.OA出版モデル

OA出版モデルとは、著者、あるいは学協会・研究機関、さらには国が、学術出版物のリスク負担(=コスト負担(企画・編集・校正のコスト)を担うモデルのこと。出版物はオープン、つまり無償で公開される、新しい「知のエコシステム」構築の試みである。前提としてボーンデジタル、印刷物ではなく、電子メディアとして著作物(=コンテンツ)は公開(=オープン・アクセス)される。

OA出版モデルは学術出版物のうち、論文(雑誌)についてすでに定着し、当たり前のこととなっている。いやむしろ英語の論文の世界では、主流派へと躍り出る予測があるほど(ただし、「一部オープン・アクセス論文を収載していますよ」、というハイブリッドも含めた(下図では「GOLD」の中に含まれる)ベース)。
・2015年の割合と、これまでと今後の推移

(出典: オープンアクセスのパラドックス 【セミナー備忘録】(5)   http://society-zero.com/chienotane/archives/2584

そしてもうひとつの学術出版物、単行本についてもOAの波がやってこようとしている。

2.2014年から実験がスタート

2013年10月から2014年2月にかけて行われた実験では、13の出版社から提供された28の学術書を対象として、各国の図書館からの支援をよびかけ、OA出版が行われた。事前のシミュレーションで想定した数値よりはたくさんの図書館が参加し、その分、ひとつの図書館が負担する金額は低減した(実験なので必ずしもボーンデジタルではない)

・参加学術書:28点(出版社 13社)
・参加図書館:24か国297の図書館
・負担金:1タイトルあたり平均43ドル
・オープンの態様:クリエイティブコモンズのライセンスでCC BY-NC-ND(表示 - 非営利 - 改変禁止)が24タイトルと84%を占め、CC BY-NC(表示 - 非営利)が3タイトル、CC BY-ND(表示 - 改変禁止)が1タイトル

(Knowledge Unlatched Pilot Progress Summary Report
http://collections.knowledgeunlatched.org/wp-content/uploads/2013/09/KU_Pilot_Progress_Summary_Report.pdf

・事前シミュレーション(個別図書館の負担金額)

・参加タイトルリスト

(Knowledge Unlatched Pilot Collection Title List
http://www.knowledgeunlatched.org/downloads/Knowledge-Unlatched-Pilot-Collection-Title-List.pdf

 

その後、第二期が企画され、2016年3月1日、26の出版社の78冊の書籍が公開された。
(Knowledge Unlatched enables a further 78 books to be Open Access
http://www.knowledgeunlatched.org/wp-content/uploads/2016/03/R2_Press_Release_1Mar2016.pdf
・参加タイトルリスト
(Collection Availability 2 | Knowledge Unlatched Collections
http://collections.knowledgeunlatched.org/collection-availability-2/

 

そして第一期28点の公開後2年間のパフォーマンス・データも公開された。

・総ダウンロード数:5万4,355件
・1冊あたりの平均ダウンロード数:1,941件
・ダウンロードした国の数:178か国

(Usage Statistics – Knowledge Unlatched
http://www.knowledgeunlatched.org/about/research/usage-statistics/   )

 

 

3.流通のデジタル化へ

このプロジェクトを主催したのは学術出版物の継続的なオープンアクセス出版を支援するKnowledge Unlatchedという団体だが、今般、上記パフォーマンスをさらに改善するため米国のミシガン大学図書館との間で、オープンアクセス(OA)プロジェクトを実施することになった。
(Knowledge Unlatched and University of Michigan Library Announce Collaboration to Advance Open Access
http://www.lib.umich.edu/announcements/knowledge-unlatched-and-university-michigan-library-announce-collaboration-advance
つまり、制作のデジタル化段階は結了して、次に流通のデジタル化をいかに効果的にすすめるかの調査活動が開始されるのだ。

ポイントは3つ。

・効果検証のために適切な指標の開発
・オープンウェブを活用するなど、OAコンテンツの発見可能性向上施策の検討※
・世界のOAポリシーやOAの枠組みに関する調査研究

そしてこれらを機に、第三期として、53の出版社から681点のコンテンツが対象として提供される計画が組まれた。学術出版物の主要ステクホルダーである、出版社と図書館のOA出版モデルに対する期待のほどがうかがえる。
(KU Select 2016 off to a strong start: 53 Publishers submit 681 titles
http://www.knowledgeunlatched.org/wp-content/uploads/2013/10/KUSelect2016_Press_Release_20Jun2016.pdf

 

[追記:2016年8月16日]
※ 原文は「Increasing the discoverability of open access content, through traditional information supply chains as well as the open web.」

「この本はどこにあるのだろう(=本のタイトルが既知)」から、「このことはどこに(どの本に)書いてあるのだろう(=本のタイトルが未知)へ、発見可能性のレベルを上げるのに、フェアユース条項を有する米国ではGoogleBooksの取り組みがすでにある。
・Google Book訴訟とフェアユース    http://society-zero.com/chienotane/archives/3155#4