オープンアクセスのパラドックス 【セミナー備忘録】(5)

(5)「棄却」が支える、電子ジャーナルの「権威」創出メカニズム

オープンアクセス運動の皮肉な転換点

こともあろうに、あの商業主義、金まみれのゾンビと化したElsevier社が、「自分たちは世界最大のオープンアクセス出版者である」と主張しだした。これはOA運動のある意味皮肉な転換点となるだろう、というのが土屋氏の見立てだ。

Elsevier, as the world’s third largest open access publisher, is fully committed to open access publishing. We currently publish 300+ fully open access journals, plus 1600+ hybrid open access journals. All of our around 2,500 journals provide open access options.
(●Addressing the resignation of the Lingua editorial board https://www.elsevier.com/connect/story/elsevier/corporate-relations/addressing-the-resignation-of-the-lingua-editorial-board

なぜそうなるか。

彼らは、「Lingua誌が言語学分野の権威ある雑誌となるまでには相当の時間と費用がかかった」と反論している。

この「権威」はどこからくるか。棄却率の高さからくる。

 

権威あるジャーナルを支える査読コスト

厳選された論文だけが載っているから権威があり、そこに掲載されることは学者、研究者の名誉となる。名誉ばかりではなく、引用される可能性に道を大きく拓く。最近では研究の成果を被引用回数で表現することがアカデミック世界での常識。政府も研究そのもの、研究者その人、さらには大学を評価するうえで、この指標を使う。

権威あるジャーナルは棄却率が高い。つまり100のうち、99の棄却された論文があり、残りの1を掲載する権威あるジャーナルを支える査読コストは100だ。「1」の裏側には「100」の査読コストが隠れている。権威ある電子ジャーナルの価格が高いのはそのせいだ。Elsevier社の電子ジャーナルが高いのはかかる「権威」を有しているから。

この査読で発生する「棄却」が支える、電子ジャーナルの「権威」創出メカニズム、その成果たるLingua誌のブランド力に、果たして元編集者らの創刊するフル・オープンアクセスのジャーナルGlossaは対抗できるだろうか。

そして「わが社は同時に、オープンアクセス運動にも敬意を表し、貢献し、いまや世界最大のオープンアクセス出版者」と言い放ったElsevier社。

本来商業出版社が全権を握るエコシステムからの脱却を目指した、学術コミュニティからの反旗の狼煙であったはずのOAジャーナルが、運動のまるごを商業出版社のプラットフォームに絡めとられてしまう、事件。

それが「編集委員会の反乱」、Lingua誌で起きた事件を契機にこれから始まることではないか。「世界最大のオープンアクセス出版者」宣言は今後の帰趨を決めてしまったのではないか(=元編集委員会のメンバーは負ける)、というのが土屋氏の講演の結論であった。


◇関連URL
●学術情報の電子化は何をもたらしたか http://user.keio.ac.jp/~ueda/papers/a2015.pdf

●電子ジャーナルの価格高騰とオープン化が大学図書館に与える影響 http://www.nira.or.jp/pdf/1502report_04.pdf

●オープンアクセスはいかに実現されてきたのか http://www.nii.ac.jp/sparc/publications/newsletter/pdfper/14/sj-NewsLetter-14-3.pdf

●オープンアクセスと学術:学術を再構成するキードライバー https://www.jstage.jst.go.jp/article/tits/19/11/19_11_28/_pdf

●PLoS ONE と OA メガジャーナルの興隆 http://www.nii.ac.jp/sparc/event/2011/pdf/5/doc3_binfield.pdf

●学術情報のオープン化の推進について(中間まとめ)  概要 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/036/houkoku/__icsFiles/afieldfile/2015/10/06/1362564_1.pdf
(本文 http://bit.ly/1MXH7ZL

●学術情報のオープン化に関する資料 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/036/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2015/09/15/1362085_02_1.pdf 

 

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