賃金と企業の生産性|マルチリレーション社会の創造を

◎「個人のリレーションシップと社会生活」の有り様を今までものからマルチへ変えていく必要がある。社会に出てからの新しい人間関係が多様で豊かなものになるには?◎

格差」が世界的な問題となっています。が、日本社会のそれはより深刻な課題が根底にあるようです。賃金がここ30年ほど横ばいで推移しているのです。

第一次安倍政権発足の2006年(平成18年)9月26日から、第四次安倍政権が終了した2020年(令和2年)9月16日までの間に様々なことが起きましたが、私たちの暮らし、という観点からは、賃金の上昇がほとんどなかった点が筆頭にあげられるでしょう。他方この期間、企業は内部留保を溜め続けました。

・人件費と利益剰余金(内部留保)の乖離

(低賃金に寛容な日本社会―雇用と賃金を約束した日本的雇用の副作用― https://www.works-i.com/column/hataraku-ronten/detail002.html

この結果、OECDのレポートによりますと日本の平均賃金(年間)は2020年、OECDの中で最下位グループに転落、米国の半分以下、韓国の9割程度となってしまいました。

この事態に対して野口悠紀雄 (一橋大学名誉教授)は、これこそアベノミクスが日本社会にもたらした現象だとし、日本経済の先行きに警鐘を鳴らしています。また韓国にすら負けた理由を「雇用の流動性」の差にあるとするのは、竹田孝洋(ダイヤモンド誌)です。

しかしどうもこのことは、それだけでは済まないようなのです。この現象を俯瞰し、他の国々の「個人のリレーションシップと社会生活」といった視点から見渡すと、違った模様が見えてきます。リクルートワークス研究所が日本/米国/フランス/デンマーク/中国を比較調査しています。

和を重んじる日本、契約社会のアメリカ。連帯を重んじていて雇用保証が強く、平均勤続年数が日本と同じくらい長いフランス。幸福度ランキングで何度も1位を取っているが、実は企業の解雇権も認めているデンマーク。そしてグワンシ(血縁や人脈などの関係)が公私共々に影響する中国の「五カ国リレーション調査」。

この調査で、日本人は他の国の人々と比べ、社会に出てからの新しい人間関係の形成に課題があり、そのせいで孤立化のリスクや、転職などの労働流動性の低下や企業の創造性の低さにつながっている可能性があることがわかります。

・つながりの多様化と孤立化

(もはや家族・職場とのつながりは当たり前ではない https://logmi.jp/business/articles/322716

人々が幸福と感じる割合は人とのつながりがない人とある人では3倍近い差があります。また「突然に仕事を辞めることになっても、希望の仕事に就けると思う」と感じる割合も、人とのつながりがない人とある人では、ほぼ倍の差があります。そうだとすると「個人のリレーションシップと社会生活」といった根っこの領域からの発想の転換が、個人にも企業の側にも必要なのかもしれません。
・「つながり」が幸福や次のキャリアをもたらす

以下、関連するクリップを紹介します。

 


●エレファントカーブと『父が娘に語る経済の話』 https://society-zero.com/chienotane/archives/9606
エレファント・カーブの考案者は21世紀の現象として「格差」を読み解く。グローバリゼーションが背景にあるから。これに対しギリシャ元財務大臣ヤニス・バルファキスの『父が娘に語る経済』は、この世の中になぜ格差があるのか、という問いに答えるのに、人類の数万年の足取りから始める。
・エレファントカーブ

 

●日本人は国際的に低い給料の本質をわかってない 野口悠紀雄 https://toyokeizai.net/articles/-/458676
アベノミクス以前、日本の賃金は世界第5位だった。ところが2020年OECDの中で最下位グループに。2020年において日本より賃金が低い国は、旧社会主義国と、ギリシャ、イタリア、スペイン、メキシコ、チリぐらいしかない。
・OECD統計 OECD加盟国の平均賃金 ※(2020年)

これは市場メカニズムを正常に回させない力が働いたから。市場メカニズムが正常に機能していれば、「日本製品の価格が安いのだから、日本の輸出が増え、円高になるはず/それを嫌って企業は円高を支えるために、企業が技術革新を行い、生産性を引き上げねばならない」。しかし企業はそれが大変なので、円安を求めた。つまりアベノミクスに呼応した。

日本の企業が目覚ましい技術革新もなしに利益を上げられ、株価が上がったのは、日本の労働者を貧しくしたからだ。これこそが、アベノミクスの本質だ。」

 

●日本人は韓国人より給料が38万円も安い!低賃金から抜け出せない残念な理由 竹田孝洋 https://diamond.jp/articles/-/278127
1.日本企業は労使が協調して雇用維持を優先し、賃金を抑制してきた
2.「賃金引き下げは労働者にとって不利益変更であるとして、経営側が敗訴する判決が相次いだ」ため、業績悪化時に備えベースアップはせず定期昇給のみに
3.賃金と個人消費の停滞の悪循環

他の主要国では、日本より雇用が流動化している分、日本のような賃金の抑制は起きず、人材の移動は生産性向上につながった。特に韓国に負けた理由は「雇用の流動性」の差にある。

・G7と韓国の平均賃金の推移(2000~2020年)

※物価の変動を除去した実質賃金であり、また為替レート変動の影響を除去したもの。
※為替レートは、長期的には輸出産業の生産性を反映し、短期的には良く分からない理由で大きく変動する。国民の生活水準を示すのは一人当たりの購買力平価GDPである。自由に輸出入される財の価格はドル建てでは世界のどこでも同じ数字になるように動く。しかし、自由には輸出入されない財やサービスの価格は世界各国で異なる。人々は、自由に輸入される財だけでなく自由に輸入されない財やサービスも用いて生活する。後者の価格が高ければ為替レートで測ったドルでの所得が高くても、実質の生活水準は低くなってしまう。生活水準の国際比較において重要なのは実質購買力平価GDPである。(原田泰 https://wedge.ismedia.jp/articles/-/22692?page=2

 

●なぜ、日本は韓国よりも貧しくなったのか 原田泰 https://wedge.ismedia.jp/articles/-/22692
世界で広く使われている豊かさの指標は一人当たり実質購買力平価GDPである。日本は、この豊かさの指標で、韓国よりも貧しくなった。
・一人あたりGDPの推移(アメリカを1とする/実質購買力平価 1980~2020年)

日本が遅れた理由は「日本はキャッチアップを終えて先進国になったのだから、もはやキャッチアップ型の成長はできない」という言説にある。

必要なのは他国の優れたものを学ぶこと。日本はキャッチアップどころか、キャッチダウンしている。コロナ禍でもそれが露呈した。世界は感染者をスマホの位置情報などで把握しているのに、日本は電話で感染経路を洗い出そうとしていた。結局、人手不足とプライバシーの壁に阻まれ、それもできなくなった。

 

●なぜ日本人の賃金は30年間増えなかったか。7割が会社を辞める時代にすべきこと https://www.businessinsider.jp/post-222323
雇用が流動化すると、個人単位で労働条件について企業とすりあわせる必要性が高まる。にもかかわらず、賃上げを求める個人、日本3割、海外7割、という実態。
・入社時の賃金交渉とその結果

日本ではそもそも賃金の決定メカニズムを理解していない人が3割いる。そのため日本は、賃金決定における労働者の当事者性が低い国。
・賃金の決定要因

 

●働き方研究の第一人者が語る「企業と個人の関係づくり」 2020年の総括と2021年の展望(ウェビナーレポート) https://media.unipos.me/recruitworksinstitute_20201217
日本はアメリカやフランス、デンマーク、中国と比較して、「給与の満足度」や「経営理念への共感」「人間関係の満足度」「仕事にのめりこんでいるか」といった項目の数値がすべて低い。しかもエンゲージメント人材(会社の経営理念に共感し、かつ仕事にのめりこんでいる人)の割合も日本はわずか10%。

より深刻なのは、不満があるのに『会社を辞めたい』というスコアも低い」という点。つまり辞めても今よりも良い環境に移れる労働市場や仕組みがないということ。加えて会社側からすると、労働者に寄りかかられているだけの状態といえる。これでは会社と個人がlose-lose。
・会社と個人がlose-loseな状態なのが日本企業社会の特徴

●個人と企業の関係性 5カ国の比較調査からわかった、働き方改革の”次"のステップ リクルートワークス研究所 https://logmi.jp/business/articles/322716
働く個人の多様化から、「人のつながり」の多様化へ。マルチリレーション社会への提言。企業の生産性向上も、マルチな人間関係に育てられたエンゲージメント人材がいればこそ。

日本人が得手な人間関係:家族/親戚/会社の同僚/社会人になる前の友人
海外で盛んな人間関係:一緒に学んだ仲間/趣味やスポーツの仲間/社会やボランティアの仲間/勤務先の上司・経営者/社外の仕事関係者
・人間関係の特徴 日本人は社会に出てからの人間関係の広がりが狭い

「「一緒に過ごすと活力がわく」「仕事がうまくいくよう助言や支援してくれる」といった、質をともなう人間関係であることが重要で、むやみに関わる人を増やしても、かえって悪影響をもたらします。人とのつながりを増やすには、目の前の人を大切にして関係性を見直すことや、しばらく疎遠だった旧友との関わりをもう一度深めるようなアプローチからはじめることが効果的」。

 


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