電子図書館の普及状況(2020年)

◎2020年における電子図書館サービスの普及状況を『電子図書館・電子書籍貸出サービス 調査報告2020』およびその他公開資料からみていこう。

まず確認しておかないといけないのはここで記述されるのはB2Bサービスであること。B2B以外にB2Cでの電子図書館サービスもあるがここでは対象外。

さてそのうえで、大学図書館はこのサービスを導入しうる施設へはほぼ導入が完了した状態。今後はコンテンツ(電子書籍)の増強やサービス内容の拡充が課題の段階。

他方公共図書館は2020年のコロナ禍を背景とした追い風(補正予算や休館への対応)で導入事例が増えたものの未だ導入初期の段階から出ていない。米国の公共図書館で当たり前(9割以上の普及率)の電子図書館サービスが日本ではマイナー(1割程度)な位置づけにとどまっている。


・新型コロナ: 図書館も新常態 電子書籍貸し出しなどで脱「来館」 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60766210V20C20A6MM0000/
・電子図書館 九州でも導入加速 コロナ禍が後押し 福岡、長崎市 https://www.sankei.com/region/news/201215/rgn2012150006-n1.html


 

学校図書館へはB2BよりB2C(運営主体:ベネッセ、学研他)での利用実態が優勢と想定されるが、まとまった計数を把握した資料が手元にはない。つまり以下の記述から小中高等学校の生徒が電子図書館サービスの体験がないと判断するのは早計だろう。

 

1.主要な電子図書館サービス:タイトル数およびユーザー数

大雑把に言って、大学図書館市場は丸善雄松堂の「MEL」が席巻しておりそのあとを紀伊國屋書店の「Kinoden」が追いかけている。他方公共図書館市場は図書館流通センター(TRC)の独壇場だ。

・主要な電子図書館サービス:タイトル数およびユーザー数

主要な電子図書館サービス:タイトル数およびユーザー数

 

2.大学図書館市場への普及状況

普及率の捉え方は難しい。日本における大学の数を「本館」ベースで捉えると770。ただし本館以外に分館や学部等の専門図書館・資料館があり、その数663(2019年 日本の図書館統計 http://www.jla.or.jp/library/statistics/tabid/94/Default.aspx )。

大学向けに電子図書館サービスを売り込む側はキャンパス単位で販売・提供したいところだが、実情はキャンパス横断が基本で関西と首都圏ほどにキャンパスが離れると別々の契約になることも。また予算の関係で本館と学部専門図書館が別々に契約するケースがないわけでもない。

そういった多少の差分はあるものの、普及率を計算する際の分母には「770」を構えるのが妥当だろう。

丸善雄松堂JEPAセミナー資料、「コロナ禍で大学電子図書館の利用急増! (https://bit.ly/2YOUXr0 )」で「MEL」の普及度を「国公立大学の77%、私立大学の69%(2020年8月末)」と表現している。

ただしこのMEL資料や『電子図書館・電子書籍貸出サービス 調査報告2020』から抜け落ちているポイントがあるのを忘れてはいけない。

大学図書館市場の場合、海外勢がいる。

普及率はわからないが、サービス対象の電子書籍の数が文科省の『学術情報基盤実態調査』に記録されている。ここで国内の電子図書館サービスが提供している電子書籍の数と、海外の電子図書館サービスが提供している電子書籍の数がわかる。

2019年度末(2020年3月)時点での電子書籍のコンテンツ数は国内勢対海外勢で「1:9」の関係。2015年からの増減値でみても「2:8」で海外勢が圧倒している。

・大学における電子書籍の点数

大学における電子書籍の点数

いずれにせよ、大学キャンパスの中で電子図書館サービスは当たり前のものになりつつあるのは確か。特に2020年コロナ禍でオンライン授業が実践される中、開架図書室に入れない学生たちは盛んにこのサービスを活用した。

 

3.公共図書館市場への普及状況

大学で当たり前の電子図書館システムはしかし、公共図書館では決して当たり前ではない。

(『電子図書館・電子書籍貸出サービス 調査報告2020』の記述はアンケートに答えた、つまりなんらか電子書籍に関心を有する図書館からの声が中心になっており、ある種のバイアスがかかっていることを念頭に読み進めた方がよい。

公共図書館市場の「中の人」の意見の大勢は肌感覚でまだまだ「電子」に対する嫌悪感が強いと感じる(あくまで筆者周辺の意見だが)。)

さて普及率だが『電子図書館・電子書籍貸出サービス 調査報告2020』の回答者の中で算出された数値は導入済み12.6%、導入検討中が33.5%となっている。

他方図書館を有する自治体数1,385の分母に対し電子図書館サービス導入済114自治体であり、その普及率は8.2%。全自治体数1,794を分母にすると6.4%となる(『電子図書館・電子書籍貸出サービス 調査報告2020』 P196)。

たとえば東京都は62区市町村を抱えるが、その中で電子図書館サービスを導入しているのは東京都自身を含めわずか8。

(導入年次順)
千代田区
東京都
中野区
豊島区
渋谷区
八王子市
狛江市
昭島市


[追記:2021年1月1日時点の公共図書館導入状況 2021年2月14日]

発行元の電子出版制作・流通協議会では本書刊行後も情報収集を続けており、2021年01月01日時点の電子図書館サービスの導入数が自治体数で143となっている。

(前回2020年10月01日との比較)
・実施自治体 143自治体(+29)

これによれば東京都でも世田谷区、小金井市の2自治体、増加している。

・電子図書館(電子貸出サービス)実施図書館(2021年01月01日) 電流協 https://aebs.or.jp/Electronic_library_introduction_record.html