シリーズ:電子出版半世紀を日本語書物史千年との交錯点で読み解く
Ⅰ. 【記録する/保存する】── 写本から符号へ、和紙からパルプそしてサーバーへ
Ⅱ. 【調べる/扱いやすさ】── 類聚(分類)の情熱と「EPWING」から「URL」へ
Ⅲ. 【伝える/楽しむ】── 貸本屋から「サブスクリプション」、絵巻物から「Webtoon」へ
Ⅳ. 【学ぶ】── 福沢諭吉の『学問のすゝめ』から「デジタル教科書」へ
本を所有せず、アクセス権(読書権)を一時的に買って楽しむ
書物は知識を厳密に保管するための箱であると同時に、物語を広く「伝え」、人々がそれを「楽しむ」ためのエンターテインメントの舞台でもある。このエンターテインメントとしての書物文化の広がりを支えたのは、日本独自のユニークな流通インフラと、視覚的な表現への類稀なる感性である。
江戸時代、日本の都市部は世界的に見ても驚異的な識字率を誇っていたが、それを底辺で支えたのは、人々が本を買い占めるのではなく、少額で回し読みをする「貸本屋(かしほんや)」というインフラであった。江戸中期から明治にかけて、背負い箱に最新の草双紙や読本を詰めた貸本屋が町中を歩き回り、庶民に娯楽を届けた。一冊の本が何十人、何百人もの読者にシェアされ、コミュニティ内で次々と物語が消費されていく。この「本を所有せず、アクセス権(読書権)を一時的に買って楽しむ」というスタイルは、当時の大衆娯楽の基盤であった。
また、日本人が物語を「視覚的に楽しむ」技術の源流は、平安時代の『源氏物語絵巻』や『信貴山縁起絵巻』、あるいは『鳥獣人物戯画』といった「絵巻物」にまで遡る。右から左へと画面を少しずつ巻き替えながら、時間経過とともに絵と詞書(テキスト)がダイナミックに融け合う独自の視覚表現。これは、のちに日本が世界に誇ることになる「マンガ」のコマ割りや演出の直接的なルーツである。
・鳥獣人物戯画

(鳥獣人物戯画│世界遺産 栂尾山 高山寺)
この、江戸の「貸本屋」という共有モデルと、平安の「絵巻物」という視覚表現が、ここ半世紀の日本語デジタル化と交錯したとき、現代の電子出版は驚くべき「幸福な先祖返り」を果たす。
サブスクリプション(読み放題)
2000年代、日本独自の進化を遂げた携帯電話(ガラケー)の登場により、日本電子出版協会(JEPA)の会員各社は、画面解像度の低いモバイル端末でも快適に文芸やマンガを楽しめる「XMDF」や「ドットブック」といった独自フォーマットを開発・普及させた。キャリア決済という手軽な集金システムと結びついたこの技術は、若者の間で「ケータイ小説」のブームを巻き起こし、のちの電子コミック市場の巨大な土壌を耕すこととなった。
そして2010年代のスマートフォンへの移行、およびKindleなどの国際プラットフォームの上陸を経て、日本のデジタルエンターテインメント出版は最盛期を迎える。ここで登場したのが、月額固定で無数の本やマンガが読める「定額サブスクリプション(読み放題)」や、デジタル上のライセンス配信である。これは、インターネットという網の目を媒介にして、江戸時代の「貸本屋」の仕組みがデジタル空間に再現された姿に他ならない。読者は本という物理的な塊を所有することなく、知と娯楽のクラウドへとアクセスし、物語を縦横無尽に消費する。
さらに、現代のスマートフォン環境において爆発的な成長を遂げている縦スクロールコミック、韓国出自の「Webtoon(ウェブトゥーン)」の台頭は、表現形態における決定的な先祖返りだ。西洋式の両面印刷(冊子体)が完成させた「左右へのページめくり」というフレームを解体し、スマホの画面を上から下へと「スクロール」しながら、絵と文字が流れるように融け合う視覚表現を楽しむ。これは、千年前の先人たちが『絵巻物』を開き、右から左へと視線を走らせながら物語の時を刻んでいったあの高揚感と、構造的に全く同じものである。
・「Webtoon(ウェブトゥーン)

(Webtoonで漫画家デビューを目指そう! )







