電子書籍が順調に売れ始めた理由【セミナー備忘録】 

(個人用のメモです。議事録ではありません。記事中の図画はjepaサイト公開資料を使用しています)

2015年6月5日 境 祐司:電子書籍が順調に売れ始めた理由
JEPA|一般社団法人日本電子出版協会  http://www.jepa.or.jp/sem/20150605/

境祐司氏はインストラクショナル・デザイナー

インストラクショナル・デザインという概念はまだまだ日本で市民権を得ているとは言い難い。

元来は米軍の新兵教育手法の研究成果の産物。米国ではその後、経営学や教育工学、システム工学など学際的分野で研究が進んだ。さまざまな分野、そして多様な環境の中で、最も効果的かつ効率的な教育を設計・開発するための方法論。それがインストラクショナル・デザイン。中心で活躍するのがインストラクショナル・デザイナー。

その境祐司氏が「一人出版社」を作った。2014年のこと。コンテンツの企画、制作からストアの運用まで、一人で作業しており、リリースしたコンテンツは6ヵ月で販売終了、2ヵ月の準備期間を経て、無料公開していく「オープンエデュケーション」の場づくりを実行中。

会社名はCreative Edge School Books(クリエイティブエッジ・スクール・ブックス)。電子書籍とオンライン学習、ワークショップを連動した、新しいデジタルパブリッシングを推進している一人出版社。

 

三層構造のセミナータイトル

「デジタル本専門の、一人出版社」のお話。タネも仕掛けもあるセミナーでした。ミステリー小説でのっけからトリックにかかっていく感じ。

まずこのセミナーのタイトル。

電子書籍が順調に売れ始めた理由
プロモーションの方法と今後重要になる電子出版マーケティングの提案
~「一人出版社、構想から立ち上げ、運用まで、苦難の道のり」

この三層構造のタイトルはセミナーの核心である、「(本をいかにして)知ってもらう」かの実践ひな形と言える。

三層構造の最初が「電子書籍が順調に売れ始めた理由」。見事なキャッチコピー。この表現は電子書籍に携わっている人の心に刺さる。

そして、「プロモーションの方法と今後重要になる電子出版マーケティングの提案」。これが主題。このセミナーのメインテーマは「(本をいかにして)知ってもらう」か、「(いかにして)買ってもらう」か、ですよと表記している。

最後に副題。「一人出版社、構想から立ち上げ、運用まで、苦難の道のり」。生の話、リアルで実践的なことが聴ける。「あ、これ、いかなくっちゃあ」。ほら、こんな風に誘導するのがポイントですよ、ということがまずセミナーのタイトルで学習できる構図になっている。

次にプレゼン資料。

 

縦型、縦書きのプレゼン資料?

JEPAのセミナーは毎回、原則事前にプレゼン資料がJEPAのサイトに掲げられ、そのURLが参加者のメールアドレスに送られる。参加者は事前にこれをダウンロードし目を通していくなり、プリントアウトしていく(最近は会場でPC等で見る人が3割くらいでしょうか)。

今回も、あるURLが知らされた。

参加者各位      JEPA事務局

明日、飯田橋の研究社 英語センターでお待ちしています。
資料は以下に講演前後にURLを置き、公開させていただきます。

http://www.jepa.or.jp/sem/20150605/

ところがこれ(JEPAからのURLの先にあった資料 下記)は外売り(リアルな場でのプロモーション活動)の際に使う、パンフレットであることが、セミナー後半で明かにされる。つまり、セミナーそのもののプレゼン資料は事前公開はされておらず、だから聴衆は聞き漏らすまいと集中することになる。
境 祐司:魂 ミッション  2

結果、後から出てくる、「ワークショップ」、「学びの場」はこうやって演出するんですよ、という学びの空間がJEPAセミナー会場に気づかないうちに構築されていくことになる。セミナーの「内容」が、JEPAセミナーの形を借りて実践され、それを見ることで、「(いかにして)買ってもらう」かの方法論が具体的に伝えられることとなった。

 

とりあえずの「解」

・口コミはリアルから始まる。
・「4media」。

このふたつが「(本をいかにして)知ってもらう」か、のとりあえずの「解」。

・学びの場と出版(本をつくる)と本屋(本を売る)を循環させる(=「ツーサイドプラットフォーマーとなる」)。

これが「(いかにして)買ってもらう」か、のとりあえずの「解」。

とりあえず、と但し書きがはいるのは、対象とする分野、ジャンル、領域でおのずと方法論は違ってくるから。境さんであれば、実用書でWeb関連、電子書籍関連が分野、ジャンル。料理本であれば、旅の本であれば、はたまた専門書であれば当然、上述方法論は変わってくる。

またとりあえず、と但し書きがはいるのには、もうひとつ理由がある。境さんの能力、経歴、知見の範囲と、聞き手のそれは異なる。異なればやれることに違いが出てくる。上述方法論はあくまで、境さん固有の能力、経歴、知見が前提になっている。なにしろ、「一人出版社」の話をしているのだから。

 

レーベルと表紙画像

ちなみに、境さんの「一人出版社」は、自社の守備範囲をレーベルとレーベルごとの表紙画像で表現している。

具体的には「ウェブとクリエイティブ」「教育とテクノロジー」「キッズ」の 3 つのレーベル(2015 年に入って、新しいレーベル「フリーダム」を追加しているが「フリーダムは「自分史」のレーベル)。
境 祐司:レーベル  13

一般的には「表紙カバーこそ、ネット上で、<知ってもらい><買ってもらう>ための重要な要素」、という意見が強い。つまり、「本の内容を体現するような、表紙カバーであるべき」、といわれる。この点でしかし境さんの「一人出版社」は、「色だけの差別化」という対応をしている。

これは「あえてやっている」、との説明だった。

CREATIVE EDGE SCHOOL BOOKS(クリエイティブエッジスクールブックス http://design-zero.tv/school/booklist/ 略称CESB社)。これが境さんが立ち上げた会社だが、まずはこの会社名の認知、ブランド構築を優先した。表紙デザインを観て、「あ、これはCESB社の本ね」と思ってもらうようにするための作戦なのだった。

注意を要するのは、自前のストア(ただしそれは個別の「ページ」=後述)で売ることが前提になる方法論だということ。

KindleやKoboなどの外部のストアで売る場合は他社の本と混ざるので、逆効果になるおそれもある。

 

 

口コミはリアルから始まる。

これは繰り返し語られたポイント。

テーマは「一人出版社」。そうだとすると、過去の有名人の事例、大会社がやって成功した事例。いずれもその真似をしたのではうまくいかない。

有名人なら、大企業ならネット上で口コミを起こすことができるかもしれない。しかし知名度も媒体力もない、個人が起業し、出版を営むとすると、リアルから始まる口コミに頼るしかないし、案外実際やってみるとかなりの確率で、どこかで(毎回ではない=いくつも手を打っていくことが肝要)で口コミが起きてくる。

リアルの場でまず、「ん!」と思うようなパンフレットを配ってみる(たとえば今回のURLの先にある資料のような)。

境さんの場合はそれが「学びの場」、訪問ワークショップだった。出向いて悩みを聞き解決してあげる。その過程で本の紹介をすると、悩み解消の満足とともに本が口コミされていく。

逆に、ワークショップの場で思いがけない問題の原因を発見する。するとそれが次の本の題材になる。しかもそれはある意味、予約注文のついた本だということになる。
境 祐司:相互交流 18

有償世界と無償世界の橋渡し

このツーサイドプラットフォーム、本と読者と学習者のエコシステムをブーストするエンジンが、「6か月有料」のルールだ。

境さんは作った本を「6か月」だけ有料本として販売した後、販売をクローズする。クローズして2か月間Web上にない状態にしたうえで、9か月目から「無料本」として公開する。

無料本は「学び」を求める人のニーズを満足させ、学習者を次の本の読者へ育てることになる。
境 祐司:オープンエデュケーション  17

また実用書は「今」解決したい悩みにこたえる本。ところが一定期間Web上にないことになるので、有料販売終了間際に販売が増えることもあるし、そうやってキャンペーンをかけることもできる。

そのうえで、無料公開によりユーザーのコンテンツに対する、さらには著者に対する周知が進む。よくある、「立ち読み」機能で一部を見せるのでは、実用書の場合、著者と著書の「質」を表現しきれない。「質」に納得すると、「次の本」の購入への敷居がぐんと下がる。だから「売上」消滅に涙しつつ、有料ページからの削除を敢行するすることには意味があるのだ。次の「売上」を作るための、仕掛けなのだ。

この循環を加速するため、「改訂版」ではなく、「関連本」、「追加版」、「オーディオ版」を執筆、制作するのも戦略のひとつ。(たとえば、ウェブ時代の「一人出版社」論 フリーダムパブリッシング 実践編 http://admn.heteml.jp/zero/school/freedom/

「4media」

最後にネット戦略。

4media」とはネット上で、

敷居の低い順に、
段階的に、
詳細化していく

手法のこと。

1.ランディング・ページ(LP) 15秒
・インパクト重視  1回みてもらえればいい。

2.コミック  1分
・印象を引くためにコミックを使う。
・下へ下へスクロールしていくタイプ。

3.動画   2分
音なし、小さな画面で伝える。
共感、そのためのストーリーテリングが大事。

4.ebook  15~20分
詳細な内容や魅力を伝え、これで世界観を理解してもらう。
境 祐司:4media 10

売り場は一枚の「ページ」

自社の自前販売サイトはない、というのも大きな特徴。

本ごとに、さらには複数の想定読者属性ごとに、ランディング・ページが作られ、ひとつのドメインの下にぶら下がっている。

売り場は一枚の「ページ」で完結し、決済は「paypal」が使われている。コンテンツにより、DLmarketが使われることもある( http://www.dlmarket.jp/user_data/beginner.php )。
境 祐司: 5

ここまでが、著者が電子出版する「自己出版」者としてのノウハウの開陳だったが、実はいわゆる「出版社」、他者(著者)との共同、連携で本を出していくステージがすでに視野にはいっている。

CREATIVE EDGE SCHOOL HEALTH、ロボットと医療が融合する分野の開拓を目指すアイデア、またそのための業務フローの考案作業が始まっているとのことだった。

段階を踏んで、最終、東京オリンピック・パラリンピックまでには集大成本をデジタル本でリリース予定。乞うご期待!!


◇関連クリップ
●クリエイティブエッジ・スクール・ブックス  http://design-zero.tv/

●「一人出版社は、本の編集者 + エンジニアでうまくいく。」 http://society-zero.com/chienotane/archives/267
「最大の課題は、媒体力で、どうやって「本」の存在を知ってもらい、詳しい情報にアクセスしてもらうか、ここだけは技術では解決できない部分で、最も難易度の高いプロセスだといえます。ですから、一人出版社は、長期戦で出版計画を考えていく必要があります」。

●「「一人出版社」スキームとファンに支持されること」 http://society-zero.com/chienotane/archives/619

●フリーランスWEBデザイナーという職業も無くなる4つの理由 http://blog.btrax.com/jp/2015/02/22/freelance-web-designers/

一人出版社のエンジニアが知らなくてはいけなことがある。ネットの普及が進めば進む程、実はビジネスにおけるサイト自体の重要性が下がって来ていること。「モバイルやウェアラブルなどの複数のデバイスに対しの状況提供において、最も最適な利用体験を与える事がデザイナーの仕事となるだろう」。

●日本独立作家連盟がNPO法人に http://rashita.net/blog/?p=15525

自己出版の3パターン:商業出版に乗りにくい企画を世に問う/作家による流通の中抜き/「売れるとか売れないとか気にしない」というもの。とりあえず「本を書きたい」という意欲を満たせばOKで、それを(趣味・興味が)近しい人が読んでくれればそれで満足なタイプ。

★E-Book of Malcolm X Autobiography Expected by May http://www.nytimes.com/aponline/2015/02/20/arts/ap-us-books-malcolm-x.html
50年前に暗殺された公民権運動家マルコムX、その自伝が遺族の手により出版社を通さない、一種の自己出版で電子書籍化。また自筆ノートなどもデジタル化の計画が。

●伊藤穰一: 革新的なことをしたいなら「ナウイスト」になろう http://www.ted.com/talks/joi_ito_want_to_innovate_become_a_now_ist?language=ja
「Googleにせよ Facebookにせよ Yahooにせよ 学生達が許可なく イノベーションを 進めた結果です。誰の許可も得ず プレゼンもせず まず何かを作ってから 資金を集め その後 ビジネスプランを考えて 必要になったら MBA取得者を雇うのです。つまり 少なくとも ソフトとサービスの分野では インターネットによって MBA主導の イノベーションモデルから デザイナーと技術者主導の モデルへと移行したのです」。イノベーションは、いま身の回りで起きていることに心を開き注意を払うことから始まる。フューチャリストであってはいけない、「ナウイスト」になるべきなのだ。

●「gacco」で専門学校等が提供する実務・資格講座の無料開講が決定 http://nttks.co.jp/news/news_20150303.html

JMOOC公認プラットフォーム「gacco(ガッコ)」において。

●根付くか、日本版MOOC 無料のオンライン講座 http://digital.asahi.com/articles/DA3S11624916.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_DA3S11624916
「今春からは企業や公的研究機関なども、認証を受ければ講座提供ができるようにする。これまでは大学教授・准教授が講義するか監修することが原則だった」。

●動画学習のスクー、国内10大学と連携して30本以上の授業を無料配信 http://jp.techcrunch.com/2015/03/05/jp150305schoo/

「いい授業があること、そしてどんな先生がいるかということを伝えることで、志願者の不安感を払拭できる。キャンパスや学科など、大学を選ぶときにはいろんな訴求点があるが、『どんな先生がどんな授業をしている』ということは今までブラックボックスになっていた」。

●マナビ開発者サイト https://mananda.jp/developer/index.html

「マナビとは、学習者の経験、行動についての情報を収集する仕組みです。マナビ開発者サイトでは、マナビの機能を持つアプリケーション(マナビ・アプリケーション)を誰もが自由に開発し、Manandaに登録できる仕組みを提供します」。 

 

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