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トリクルダウン|ピケティ用語集

「富める者が富めば、それは社会全体の富の増大につながる。そうすれば、富は貧困層にもこぼれ落ち、経済全体が良い方向に進む」とする考え方。

trickle down(トリクルダウン)は滴り落ちる、の意味。そこから浸透を意味する単語として使われる。20世紀中、経済議論の中でトリクルダウン理論、トリクルダウン効果といった使い方がされることがあったが、当時から疑問視されてもおり、むしろトリクルダウン仮説が正しく、現実的裏付けや社会科学的な立証はなされていない、というのが現在では通説。最近、OECDも同様の否定の論評を出している。


1714年に刊行されたイギリスの精神科医・思想家であるバーナード・デ・マンデヴィルの主著『The Fables of the Bees: or, Private Vices, Public Benefits』(邦題『蜂の寓話―私悪すなわち公益』)がこの考え方を示した最初のものとされ、アダム・スミスの「見えざる手」概念にも影響を与えた、とされている。

実は2014年、ユーキャン新語・流行語大賞の候補にノミネートされた。

これは、アベノミクスでは、緩やかなインフレを促そうとするリフレ政策が基調。この中で進められる金融緩和や消費税増税と大企業の法人税抑制、所得税の累進緩和などが、トリクルダウン仮説に基づいている、時代錯誤だと批判されていたため。

また米国でも共和党右派の新自由主義者がこれをいまでも主張。富裕層への増税に反対し、生活保護、医療保険をはじめとする社会福祉政策に対しても消極的な立場をとっている。

ピケティは資本主義を野放図に活動させると、国全体のパイである所得の伸びより、資産の増殖の伸長の方が勝ってしまう。だから政治は、「社会」問題に対し施策を講じるべきで、成長を基軸にした経済活性化に主眼を置くべきでない、という立場から、このトリクルダウンの考え方には否定的だ。


 

(毎日新聞記者とのインタビュー)
−−経済成長で高所得者が豊かになれば、低所得者層にも富がしたたり落ちていく「トリクルダウン」をアベノミクスに期待する声もあります。

◆私はその効果が機能するとは考えていない。1980〜2000年代の米国では、上位10%の富裕層がけん引する形で経済成長が続いた。だが、残りの90%の人たちへの恩恵は小さかった。そもそも日本は(けん引力となる)成長そのものが低い水準で、したたり落ちる富も限られる。格差の拡大は単に経済的な要因だけで起きているわけではないので、経済成長は万能薬ではない。教育や労働、財政政策など多くの要因についての課題を解決しなければならない。

(●「21世紀の資本」:トマ・ピケティ氏に聞く 格差拡大、日本も深刻 脱デフレ、賃上げ唯一の道 http://mainichi.jp/shimen/news/20150131ddm010020024000c.html )

 

(東京都内の日本記者クラブで記者会見)
──アベノミクスは、高所得者層が豊かになれば、低所得者層にも富がしたたり落ちる「トリクルダウン」の理論だ

「トリクルダウンは理論としてはおもしろいが、実効面で機能するのか。過去10年で(世界的に)格差は大きくなっている。経済成長率は、格差が小さかった1950~70年代の方が現代より高かった。『いずれ富が万人に行き渡る』という保証はない。それよりも、若者に利する累進課税にすべきだ。有期契約労働者やパートタイム労働者の待遇を手厚くするのが、日本の格差是正には重要」

(●中国経済「税の使い道ははっきりしていない」 ピケティ氏会見 http://www.zakzak.co.jp/economy/ecn-news/news/20150201/ecn1502011059005-n1.htm

 


◆関連書籍


◎ピケティ用語集・一覧 http://society-zero.com/chienotane/archives/3385
◎データ集 トマ・ピケティ『21 世紀の資本』 http://society-zero.com/chienotane/archives/3427


◇関連クリップ

●OECDが「トリクルダウン」効果を否定する報告書を発表した http://d.hatena.ne.jp/kojitaken/20141222/1419206606
経済問題と社会問題。社会が安定していないと経済もうまく回っていかない。他方、経済が順調でないと不満がたまり社会が安定しない原因のひとつになる。20世紀、経済成長さえうまくいけば、社会問題が解消し、社会の安定が得られる時期があった。しかしあれは、つまり1950年代から70年代にかけては、極めて特殊な条件がたまたま出そろった「僥倖」のうよう時期であって、人為での再現は困難と、21世紀、総括されていたが、それを追認するレポートをOECDが出した。
●金持ちはなぜずっと金持ちなのか?–話題の経済学者トマ・ピケティ氏が、富の格差が起きるホントの理由を解説 | 詩想舎の情報note  所収)

●新語・流行語大賞 2014 ノミネート語 http://singo.jiyu.co.jp/nominate/nominate2014.html