神との直接契約関係と部族社会

ムスリムの義務であるザカートと呼ばれる喜捨(第5章第5節 024 喜捨(ザカート)の義務)は、表面上目の前の他者に対して行われているとしても究極的原理的には神に対して行われているのだ。イスラームはキリスト教の教会や仏教の寺のような、神と一般信徒との間を仲介する宗教的権威を持たない。個々の信徒は直接に神へ贈与し神から贈与を受けるのだ。

この結果贈与が人々の間に互酬関係を発生させない、見返りや負い目の感覚を生まない社会基盤が創造され、部族社会を超え出ていくことを可能にしたのである。

参考文献:
イスラーム文化―その根柢にあるもの (岩波文庫)』  井筒俊彦(岩波書店、1991年)
文明としてのイスラム―多元的社会叙述の試み』  加藤博(東京大学出版会、1995年)
イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」Vol.1 イスラーム経済社会の構造(理論編)』第3章第1節:森羅万象は唯一神アッラーの被造物  加藤博(詩想舎、2020年)

□関連知識カード:
 喜捨(ザカート)の義務
 イスラーム教徒は「神の僕」である
 神の正義としてのアドル

 


★この記事はiCardbook、『資本主義の未来と現代イスラーム経済(下) 金融資本主義からの脱却と「利他利己」の超克』を構成している「知識カード」の一枚です。



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